新聞記事から 「グローバル時代は終わった」 (エドワード・ルトワック氏 産経新聞 令和2年5月9日朝刊)
世界史大きな出来事として記憶されることになるであろう、今回のコロナ危機について、ルトワック氏の見解です。今後何度も参考とさせてもらうことになるかもしれません。
『◆EUは役割見失う
―――新型コロナが世界に与えた地政学上の影響は
「第一は、欧州における(政治的な流れの)断絶だ。欧州連合(EU)は欧州諸国間の戦争を予防するために設立されたが、EUが直面した初の戦争並みの不慮の事態である新型コロナへの対応に失敗した。共有された医療情報や共通の医療戦略は存在せず、(加盟国間の)相互支援もあまりなかった」
「EUの連携した外交政策も皆無だった。例えばイタリアは中国からの支援を喜んで受け入れた。他方、ドイツやスウェーデン、オランダなど他の欧州諸国は中国の支援を拒絶した。融合を目指したEUは役割を見失った。今後は英国に続き、多くの加盟国が静かに脱退していくはずだ」
「米中関係は悪化の一途をたどり続けるという意味で一貫している。わずか十数年前、米国は媚中派に席巻されていた。風潮は変わりつつあるが、新型コロナが人々の対中意識の変化を加速させる。誰もがウィルスは中国由来であり、中国当局が対応を誤ったことを知っているからだ」
―――米中による「大国間競争」とどうなる
「トランプ米政権に有利に働くだろう。これは、米国の(自由民主主義的な)政治制度と中国を統治する(共産党独裁)体制とのせめぎ合いだが、中国の同盟国はパキスタンとイランの2カ国だけ。イタリアも中国に征服された。イタリアは歴史上、間違った側について、後から態度を変えることで有名だ」
「一方、他の国々は中国に背を向け、米国に付いている。ラーブ英外相が4月16日、『対中関係を全面的に見直すべきだ』と語っているのが良い例だ。中国の習近平国家主席は、ウィルスなど全ての事態への対処には独裁性が適していると主張して強権手法を正当化する。さらには世界を率いる指導者になる用意があるとの立場を示すが、世界各地で拒絶されている」
◆国に国民守る責任
―――国際機関や多国間枠組みなどの役割はどうなる
「新型コロナは『真実を暴くウィルス』だ。EUが機能しないことを暴き、他州の死者を出したイタリアの無秩序ぶりを暴いた。中国は虚言の国であることも白日の下にさらした。日本については『日本は中国と違うから安全』といった意識が間違っていたことを思い知らせた」
「新型コロナ危機を受けて起きているのは、グローバル化の揺り戻しとしての『脱グローバル化』だ。グローバル化は国際機関の台頭と連動してきた。EUや世界保健機関(WHO)などの機能不全が明白となったことで、世界はグローバル化や多国間枠組みから後退し、国民国家が責任をもって自国民を守る方向に回帰するだろう」
―――東欧諸国などでも権威主義体制が台頭している
「新たな独裁諸国の台頭こそが、人々が称揚するグローバル化の産物だ。インテリ層は、グローバル化を『世界民主主義』であるかのように主張したが、現実には民主体制からプーチン独裁体制に変容したロシアや、集団指導体制から習体制に移った中国など、多くの国が独裁制に傾いていくのを促進した」
「グローバル化が独裁制と親和性が高いのは、国際機関が非民主的だからでもある。EUとは選挙で選ばれた各国政府の権原を欧州委員会に移管するもの。欧州諸国の民主体制が弱体化したのは、各国の権力が非民主的な体制に移されたせいだ。グローバル化が民主主義に何ら寄与しなかった以上、脱グローバル化により民主主義が損なわれることはない」』