« 奇蹟を呼ぶ! 無敵のスポーツメンタル (加藤史子著 ごきげんビジネス出版) | トップページ | 健康長寿の“賢食”術 (家森幸男著 NHKテキスト) »

2021年5月20日 (木)

自衛隊最高幹部が語る令和の国防 (岩田清文 武居智久 尾上定正 兼原信克著 新潮新書)

前国家安全保障局次長の兼原信克氏と、陸海空自衛隊の元将軍の方々の対談集です。兼原氏は、次長を退任後、精力的に活動をされていて、おかげで安全保障の議論も活発になっていると感じます。本著の内容は極めて重要ですが、なかなか動き出すことは容易ではなく、しかし動かさなければ我が国の存続に極めて重大な危機が迫る可能性が残るものでばかりでした。

『・・・国際法には限界があることも確かである・・政治必要と認めたならば、国際法によって禁止された兵器であっても、また未完成で倫理上の問題が未解決の兵器であっても、使う可能性を否定できない。ならず者政権は、いざとなったら条約なんて気にしません。

・・・防衛省と防装工、防衛産業の間には緊急時にも通用できる機能的な連携が存在していない。それが今回の新型コロナウィルスで明らかになりました。2003年度から第二次安倍政権まで10年間連続で防衛費が前年度割れする予算状況が続いた中で、正面装備の維持を優先してきた「しわ寄せ」が後方分野に来て、後方分野が何年にもわたって機能不十分のままにおかれている。

・・・今回の危機は、国民の命と生活を守るのはWHOでも企業でもなく国家しかないということを明確にしました。

・・・トランプ政権以降も、アメリカが米軍の駐留経費負担を求めたくなるような現実は変わらず、むしろ一層厳しくなる。自衛隊はこれまで、防衛大綱や中期防に基づいて防衛力整備を進めてきましたが、そういう厳しい状況が続くと予想される中では、無人化やリモート化を含めて大胆な発想の転換が必要になってきていると思います。

・・・旧友のイスラエルの戦略家が、こう言っていました。「イスラエルは、日本と同様に米国の後ろ盾がなくては生きていけないが、いざ有事となったら米国の介入前に敵を破砕するだけの軍事力を整備しておくことを国策にしている」と。

・・・我々が絶対に守るべきものは、南シナ海での高校の自由、海洋利用の自由、上空飛行に自由です。・・実効的に支配されないように中国が出て来る度にそれを押し戻す。粘り強くこれを続けていくしかありません。

・・・国際法学者の坂元茂樹先生は、「島の価値をその面積で量る時代はとっくに過ぎ去り、その島の周辺の豊かな水産資源や海洋資源で量る時代であるのに、その認識が日本国民に大きく欠けているように思える」と警鐘を鳴らしています。

・・・インド海軍には東アジアのカウンターバランスとして頑張ってほしいと考えるのは当然ですが、インド海軍が日米海軍と完全に一致した対応を中国に対して取ってくれると期待するのは無理ではないかと思います。・・インドにはインド洋の海洋安全保障を主導してもらう。日本はそれに協力していく。それ以上のものではないと考えるべきです。・・以前、インド海軍の元参謀長に「インドはなぜ同盟国を作らないのだ」と聞いたことがあります。彼の答えは「仮にパキスタンや中国との間で紛争があった時、君たちは兵を送ってくれるのか?」でした。

・・・ロシアと中国を取り巻く国政的な構図を劇画調に述べれば、悪漢二人が背中合わせに立っていて、その周りを警官が幾重にも取り囲んでいる。ロシアは西を向いて立ち、中国は東を向いている。両者とも一人で警官たちに立ち向かう自信はなく、背中を離せば相手が裏切るかもしれないとお互いに思っている。だから離れられない。困るのは、この二人が自分たちのやっていることが正しいと信じていることです。

・・・宇宙・サイバー、電磁波などの新しい戦争領域やハイブリッド戦に対する日本の対応能力はまだまだ十分とは言えない

・・・台湾危機はいつ起こるか。個人的にはここ数年、特に2024年までが危ないのではないかと思います。

・・・台湾は2019年9月の国防報告で新しい軍事戦略を明示しました。侵攻してくる敵は海岸線で必ず撃滅する、という総合防衛構想(ODC)です。台湾の軍人と話をすると、基本的に「3か月もつように頑張る」と言います。自分たちだけでは無理だが、アメリカが介入してくれるまでは自分たちで何とかもちこたえる、と。

・・・AIのような新興技術は台湾はすごく進んでいます。そちらの面で自衛隊はだいぶ遅れていますので、台湾と一緒になってレベルアップを図る。

・・・朝鮮戦争当時を調べたら、難民だけでなく朝鮮半島から日本に来る人すべてで毎年5000人弱でした。・・その実態は戦争難民というよりは経済難民で、出稼ぎなんです。

・・・そもそも北朝鮮のディーゼル潜水艦と言えども水中目標の探知は海上自衛隊にも困難です。・・北朝鮮が一隻でも二隻でも持ったならば、それが即ち日本に対しても大きな脅威になると思います。

・・・朝鮮半島有事の準備としては、日米は作戦計画の中で「北朝鮮のどこを狙うべきなのだ」という攻撃目標を一致させておかなければいけない。しかし、日本が要求しても、アメリカはなかなか動かない。それはなぜかというと、アメリカから見て日本は全然頼りにならないからです。逆に、「日本は何をするのか、出来るのか?」と聞かれても自衛隊は何もできないのですから。

・・・韓国のことわざに「クジラが喧嘩してエビが死ぬ」というものがあります。・・クジラの喧嘩は自分たちにはコントロールできない。しかも、自分はクジラに食べられちゃうかもしれない。これが、韓国の人たちが感じてきた絶対的、絶望的な無力感なんです。中国やロシアに隣接する大陸国家の宿命です。韓国は千数百年の間、ずっとそうだったんです。自分たちは必ず蹂躙される小国だと思い込んでいる。この感覚は日本人には想像することが難しい。

・・・核の抑止力だけでは通常戦争を抑止できなくなっている。核を単体で扱うのは、言うなれば時代遅れになっているんだと思います。・・ロー・イールド(爆発力の低い)核兵器は使えるのではないか、という議論がヨーロッパで起きています。・・それと同じことが、北東アジアでも起きるのではないかと思っています。中国が台湾侵攻するに際してロー・イールドの核兵器をどこかの小さな島で使って見せ、台湾政府を脅し、アメリカや日本に介入をためらわせるといった事態です。

・・・今アメリカはF-16戦闘機をDCAとしています。Dual Capability Aircraft、つまり「二重の能力を持つ戦闘機」という意味ですが、何が二重化というと、核兵器も通常兵器もどちらでも搭載できる、ということです。それをシェアリングの手段にしているんですね。・・F-35が次のDCAになるということは、NATOの中ではほぼ同時されている。

・・・自衛隊にとっても外務省にとっても、この「仮想敵国を持たない、置かない、言わない」は、足枷になっているんじゃないでしょうか。これを直さないと、これからどんどん進化していくエマージング・テクノロジー(新たに登場してきた技術)をどうするかという話も現実味をもって議論できないし、ましてや核抑止なんて話し合えないと思うんですよ。・・514防衛大綱までの防衛力整備は脅威対抗型で所要量を分析しました。やはり防衛力整備は対象国を設定して具体性のある脅威対抗型にしないと効果的で効率的にできません。

・・・軍事戦略と外交戦略は分けて考えて、外交戦略では友好的な関係を維持する方策を考えつつ、同時に、外交が崩れた時の紛争抑止のために、軍事戦略において全ての状況に対処し得るよう検討しておく、というごく普通のやり方を日本も取ればいいんです。

・・・新しい技術に追いついていかないと日本が負ける、戦争になったら自衛官が死んでしまうというような切迫した危機意識が希薄です。

・・・今イノベーションが起らないのは、予算が根源となる問題の一つですね。米軍を見ていると、潤沢な防衛予算を基に、防衛産業と連携して大胆かつ創造的な研究ができるのですが、我が国ではそうはいかない。日本の軍事研究予算は、イギリスの半分以下、韓国の三分の一以下でしかない。

・・・作戦遂行時に、国内に技術、整備基盤がなければ戦闘に勝利し得ないため、主要な装備は国策として国産を前提とすべきであると強調されています。・・この能力は「技術的抑止力」として各国が注目するところですが、日本にはそのポテンシャルが充分にあるにもかかわらず、「安い」ことにこだわり過ぎ、自ら減衰させているようにも思えます。

・・・なぜ科学技術と防衛の間に問題が起きているかということですが、まず第一に「今ある制度を十分に使っていない」ということがあります。・・二つ目が、ドラスティックに防衛力整備の変更ができない自衛隊の体質の問題です。・・ゲームチェンジャーとなる新しい技術を導入するには、まず相手がどのような装備を持ち、どのような作戦をしようとしているか、想定される作戦空間はどこかなどを総合的に分析する必要があります。それに対抗できる技術ならば積極的に投入する。場合によっては組織編成や作戦概念までも変えるというような、演繹的な思考が不可欠です。我々の世代には、こうした体質を作ってしまった大きな責任があり、現役世代に改革を押し付けることはできませんでしたが、今の体質のままではぐんぐん変わっていく軍事技術を取り入れるための軍事技術イノベーションは難しい。・・三つめは、防衛力整備に関する計画体系についての制度上の問題があります。・。技術見積もりと情報見積もりを行い、これを踏まえて防衛上の事態と様相を明らかにして、次に統合運用構想を定めるとされています。順序が逆ですね。・・運用構想が先に立たない技術開発はないというのが私の持論です。・・彼我が互いの戦略や作戦をぶつけ合って行う動的な分析(ネット・アセスメント)をし、それに基づいて必要な防衛力を整備するプロセスが抜けている、これが四つ目です。

・・・三木内閣の51防衛大綱で、正攻法の脅威対抗の基本を捨てて、基盤的防衛力というような考え方をするようになったことが諸悪の根源です。周囲の脅威に眼をつむり、自分で勝手に自衛隊のサイズを決める基盤的防衛力という考え方は、それを越える強い相手なら負けても仕方がない、という無責任な議論です。

・・・なぜゲームチェンジャー技術が出てこないのか。それは、ニーズとシーズをマッチングする仕組みがうまく機能していないからだと思う

・・・一番大きな問題は、・・民間企業の人たちがセキュリティ・クリアランスを持つという制度が日本にはないことです。セキュリティ・クリアランスがないとアメリカのサイバーセキュリティの標準に合致しないので、早晩、日本の防衛産業がアメリカの下請け契約を取れなくなる可能性があります。

・・・現行の調達規則や手続きはものすごく鈍重で、なぜもう少し早くできないのかと思いますが、アメリカも同じ問題で悩んでいます。

・・・韓国の防衛事業庁は2006年にできましたが、当時、韓国が輸出する武器や装備品の総額は2.5億ドルにすぎませんでした。これが2016年に25億ドルになっています。10年で10倍です。官民学が一緒になって、外向けに対してやっていけば、大きく成長できることを韓国は実証している。

・・・私は国家安全保障局にいたとき、統合軍事戦略を作って総理のところに持ってきてくれと言っていましたが、結局、最後まで上がってこなかった。総理の決断すべき事項を整理してペーパー数枚にまとめるだけなのに、これが作れない。ただし、それは防衛省、自衛隊のせいだけではない。戦後の長い間、総理官邸と自衛隊の距離が非常に遠かったことが原因でしょう。

・・・統幕長がいちいち部下に「あれどうなってるんだ?」と聞くようでは駄目で、総理の質問に常に答えられる準備ができていなければならない。ただ、実際の行動や判断の部分では、いろいろと迷うケースは出て来ると思います。

・・・一般論で言うと、私たち文民の役人も全く一緒なんです。政治家には私たち役人の法制、予算上の細かい制約なんかわからない。だから、自分たちの政治的な都合で無理なことを言ってくることはあります。その時に、トップである事務次官に求められる判断基準は一つだけ。政治指導部の要請であれば、できることはぎりぎりまでやる。しかし、絶対できないこと、してはならないことはクビになってもやらない。

・・・統幕長がやるべきは、今ある装備と隊員の状況から判断して、総理に「いくつか可能なオプションがあります。人は何人死にます。こっちのオプションでは人は死にませんが、オペレーションが長くなります。さて総理、どれに致しますか?」とオプションを示すところまでです。総理が決断したら、「判りました」と言って従う。

・・・「戦いで人が死ぬ」という状況を一度も目にしておらず、「もう二度と戦争は嫌だ」と思う国民が大多数を占める中で、そうした状況も踏まえて、我々になにができるのか。そこを突き詰めて考えきれているのか、と。正直、出来ていない、と思います。

・・・ハーバード大学ケネディスクールでは、新しく国会議員、議会議員になった人たちを集めて、安全保障だけでなく、経済や技術の基礎的に部分を教えています。

・・・安全保障は頭だけではなく、肚で考えるものです。生存本能に直結したガットフィーリング(gut feeling)が要る。・・日本では、55年体制下のイデオロギー論争で、この根っこにある軍事に関する常識や国家としての生存本能が、政治・経済エリートから蒸発してしまっている。リアルに考えているのはおそらく自衛隊だけです。

・・・トップが変わってもどういう人が来ても、支え抜けるような事務的な体制が要る。統幕長も、どんなリーダーが来ても、ずしんと肚に落ちるような案を常に携えておく必要がありますね。

・・・ポジリストだと我々自衛官の頭が、明記された任務のことしか考えなくなってしまうということです。法律に書かれていることだけをやっていればいい。あとは政治がダメだと言っているんだから余計なことはするな、という話になってしまう。どの国でも、軍は国の主権を守る行為の担い手ですから、国際法違反でなければ何をしても構わない。政治判断でやってはいけないことだけ、「これはダメ」と政治から示されます。もちろん、予め行動準則や交戦規則として決めておくものです。

・・・私は、自衛隊の指揮命令系統の最上層は、最高指揮官である総理から見て、すっきりと分かり易くて動かし易い組織にしなければいけないと思うのです。ここで三つ問題があります。一つ目が、統合司令官の不在です。・・第二に統幕で軍事作戦を担当するJ3(運用部)が余りに華奢なことです。・・最後に軍令系の将のランクが低いことです。

・・・日本の国として本当に必要なら、財源がなくてもポストは出来ますよ。2014年に新設された国家安全保障局長のポストは、内閣官房副長官に次ぐ高位ですが、どこも財源なんて出していません。』

« 奇蹟を呼ぶ! 無敵のスポーツメンタル (加藤史子著 ごきげんビジネス出版) | トップページ | 健康長寿の“賢食”術 (家森幸男著 NHKテキスト) »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 奇蹟を呼ぶ! 無敵のスポーツメンタル (加藤史子著 ごきげんビジネス出版) | トップページ | 健康長寿の“賢食”術 (家森幸男著 NHKテキスト) »