9割の会社が人事評価制度で失敗する理由 (森中謙介著 あさ出版)
人事評価制度について、「成果主義が合理的でよいかもしれないが、年寄りには厳しいかな」程度の知識でしたが、人事評価制度の奥の深さを知り、深く考えさせられました。
『・・・人事評価制度とは、結局のところ経営者の心を映す鏡のようなものであり、
・・・制度の導入で成功する企業の経営者は、必ず正しいリーダーシップを備え、優れた幹部や管理職に支えられていました。優れた人事評価制度とは、彼らの本来の資質や能力を引き出して、会社が目指すべき理念や理想を言語化した、従業員が生き生きと働くための道しるべなのです。
・・・理念や、思想などを社長や幹部から聞き取り、理解することだった。それによって、人事評価の基準も変わるからだ。
・・・人事評価制度の要諦は、自社が目指すゴールを示し、そこに向かうために社員に求める資質や行動がいかなるものであるかを明示したうえで、そこから現状がどれほどの距離にあるかを、本人に分かりやすく説明することなのだ。
・・・社長と社員との間にしっかりとした信頼関係とコミュニケーションが成立していなければ、そもそも組織として機能しない。
・・・人事評価制度は、リーダーの資格がある人が、部下との信頼関係の下で正しく運用してこそ、社員が正しく伸び、結果として会社の業績も述べていく。そんなツールなのです。
・・・売り上げのような”正解”がないために客観評価がしにくく、評価制度がなじみにくい業種もじつはあります。そうした職場で制度をきちんと機能させていくためには、時間をかけて現場に浸透させ、うまく機能しないところは少しずつ修正していくような、長い目で見た取り組みも必要です。
・・・感覚としては、“制度3割、運用7割”と申し上げています。制度ができた段階では、まだ完成にはほど遠く、それからの運用を通して改善していく過程でこそ、会社としての業績や社風の醸成といった効果がじわじわと出ていくのが人事評価制度というわけです。
・・・経営者の仕事はそうして各部門から出た意見や提案を高いところから見て、総合的な判断を下すこと。リーダーシップとは、いかに部下の能力を引き出し、使いこなすかにある。
・・・人事評価制度とは、業務を羅列して「できる」「できない」を判定する通信簿ではない。会社の理念や理想を社員のだれもがわかるように明示し、それに照らして個々の働きが正しい方向に向けて、的確な成果をあげているかを評価する。評価の結果は等級などの形で示すことで、社内における自身の立ち位置を見せたうえで、今後はどちらに、どのような努力をすべきなのかを示す。
・・・人事評価制度の設計は、・・プロであっても最初から完璧なものができることはない。・・それをいかに改善し、誰もが納得のいく評価項目や評価基準に落とし込んでいくかこそがコンサルタントの手腕なのだ。
・・・マネジメント職の評価に関しては、専門スキルによる昇格基準の者は設けない一方、業務管理者としてのパフォーマンスを求める。
・・・人事評価制度とは、そうした”大人の事情”も呑み込んで、なるべく多くの従業員が納得できる、そして何より会社の理念や理想を明確に示し、会社がそれに向かうための力になれる人材像を示すことが求められるのだ。
・・・本当に優れた技術は評価されるべきだが、チームのリーダーは自身が活躍することよりも、部下が最大限の力を発揮できるよう気を配ることも他大事な職務だ。会社という組織で仕事をしている以上、特定の個人の技術に頼るのではなく、人格や性格、リーダーシップなど、さまざまな持ち味の社員が適材適所に配置されて力を発揮してこそ、組織の潜在能力を最大限には引き出すことができるのだ。
・・・会社の「あるべき姿」や理念、理想像を明確にし、そのために社員が発揮すべき能力や思考を、役割ごとに定義する。そして、そこへの「到達度」を評価という形で見せることで、現在の社内での自分の立ち位置を知り、会社全体を寄り高みへと向かわせるためには、何をするべきかを社員自身が考えるきっかけとする。それが本来の在り方だ。
・・・もしも、彼らの望むような技術力を重視した評価制度を構築してしまったなら、社内は個々の社員が知識や技能を競い合う競争のようになってしまい、チームとしてのパフォーマンスはかえって下がってしまうだろう。優れた知識や技術を持つ社員が現在の地位を守るために、自分のノウハウを同僚や部下・後輩に開示したがらず、社内で継承されていかない可能性もある。
・・・社長のリーダーシップや見識は大切です。この会社への制度の導入が上手くいき、効果もしっかりと現れたのは、ひとえに社長がしっかりとした人物だったから。
・・・今の時代にはそれでは通用しないのは明らかだ。その一方で、ずっとそんなやり方がまかり通ってきた社内を、一朝一夕に変えることは難しいこともまた、明らか。
・・・業種が違えば評価項目は異なるし、たとえ同業種でも、目指す目標や理念が違えば、やはり評価の項目も点数配分も違ってくる。
・・・血縁関係と年功で社内での序列が決まり、経験とスキルのある者が順送りでリーダーになる。そんな組織は老舗と呼ばれるような名門でも珍しくはない。
・・・「エクセレントカンパニーを目指すには、高い目標を掲げて、まず社員の人格を高めるところから始めなければならないのだ」と断言したのだ。その意気やよし。ただし、言うは易いが行うは難い。
・・・人事評価制度を導入しようとする多くの社長さんが間違えているのは、評価制度というルールを導入すれば社員の統率が簡単になるのではないか、人事の仕事が楽になるのではないか、と考えがちだということです。
・・それは完全に誤解です。・・会社が求める人材像、ひいては会社が目指す将来像をしっかりと示し、それに沿った働きぶりを制度の運用を通して実践することで、会社全体が少しずつ、制度が目指した方向性へと変わっていく結果としてそれが顧客満足や業績にも身を結ぶ。人事評価制度導入の狙いと成果とは、そういう地道なものです。
・・・企業が置かれた環境や状況が変わったタイミングは、さまざまな規則やルールを見直すチャンスでもある。
・・・戦前から続く老舗旅館と言えば聞こえはいいが、いわゆる一流の観光旅館ではない。3館合わせて100名の従業員を抱える規模ではあるものの、業務の手順を定めたマニュアルも存在せず、いつどのような経緯で定められたのかも分からない仕事のやり方が、歴代の従業員の間に経験則として伝承されるのみ。労務管理もどんぶり勘定なら、指揮命令系統もあいまいだった。
・・・社内だけで制度を作ろうとすると、今できることの範囲でそれらしいものを作ろうと業務の内容を深掘りした結果、Aというひとつの作業を10の手順に分けて一つひとつチェックするような、項目だけは多いがレベルアップにつながらないような評価シートになってしまう。
・・・一見、うまく回っているように見える現場にも、第三者の目で客観的に見れば、おかしなところは見つかるものだ。
・・・人事評価制度を設計することは、そのようにして企業の、そして組織が抱えている問題点をあぶり出し、正しい姿に矯正することでもある。
・・・丁寧な評価者研修資料も作り、導入前には実践的なロールプレイングも開催した。例えば評価者が面談でやってはいけないことだけでも、「正確に関する批判」「本人を抑えつける発言」「本人に迎合する言動」「目的と関係のない話」「日常と異なる言動」「制度そのものに対する批判」など、多岐にわたる。
・・・上司がきちんと自分の仕事ぶりを見ていてくれるという信頼感を上士絵師、上司は自身が部下を指導しているという自覚を持たせることで、それぞれが成長していくこと
・・・ごく一部のスター営業マンだけを厚遇するような人事評価制度では、他の社員のモチベーションは下がるし、成果だけで評価される制度は、不正の温床にもなりやすい。
・・・一握りのエリートだけが果実を得る制度は、ついに行き詰った。業界が長く慣れ親しんだやり方は、もはや時代に合わないことが明らかになっていたのだ。
・・・人事評価シートの内容だけではすべてをカバーしきれない部分もあると上野は認識していた。・・人事評価シートだけでは表現できない部分を補うことも怠らなかった。
・・・数字を残した個人が絶対勝者ではなくチームでベストを目指すという目標が明確になったことで、評価シートをツールとして使いこなすことができるようになったのだ。・・それぞれの店に、トップの売り上げを誇るプロ販売員はいる。しかし、彼女もまた、スタッフとのチームで働いていることを自覚し鄭r。・・「あんな立ち居振る舞いを身につけたい」と感じさせるお手本でもあることを、自分に課して日々精進に励んでいるのだ。
・・・営業系の企業でひところ流行した成果主義人事制度は、結局のところ「結果主義人事制度」であり、人と組織を育てる仕組みにはなりませんでした。・・「数値、結果を出すためにはどのように行動すればよいか、どういう目標を意識すればよいか」を評価制度で表現し、人材育成に役立てることが、本来あるべき手法なのだと思います。
・・・成果主義と呼ばれる人事評価制度が脚光を浴びたのです。・・短期利益に走った結果、社内がギスギスしたり、不正のきっかけにもなるという弊害もやがて見えてきました。
・・・最近では、高い業績・成果を上げている社員の行動や思考の特性を言語化して評価基準に取り入れる、コンピテンシー評価といった手法があります。しかし、もともと米国の大手企業のホワイトカラーを対象とするそれらの制度が、日本の、まして中小企業のブルーカラーの現場にそのまま適用できるはずがありません。
・・・人事が強い、評価制度が強い会社は中間管理職が強い。数多くの企業とお付き合いしてきて、これは間違いないと認識しています。経営者は評価制度で理念を語り、管理職はそれを受けて現場で熱心に評価制度を運用する。当初は苦労もあっただろうが、長い時間をかけてそれを乗り越えてきており、確かな成果を感じている。人材育成、組織開発に不可欠な仕組みとして、当たり前のように評価制度の重要性を認識している。そうした風土ができ上っているということが、成功企業の最大の強みではないでしょうか。』
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