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2021年2月

2021年2月21日 (日)

9割の会社が人事評価制度で失敗する理由 (森中謙介著 あさ出版)

人事評価制度について、「成果主義が合理的でよいかもしれないが、年寄りには厳しいかな」程度の知識でしたが、人事評価制度の奥の深さを知り、深く考えさせられました。

『・・・人事評価制度とは、結局のところ経営者の心を映す鏡のようなものであり、

・・・制度の導入で成功する企業の経営者は、必ず正しいリーダーシップを備え、優れた幹部や管理職に支えられていました。優れた人事評価制度とは、彼らの本来の資質や能力を引き出して、会社が目指すべき理念や理想を言語化した、従業員が生き生きと働くための道しるべなのです。

・・・理念や、思想などを社長や幹部から聞き取り、理解することだった。それによって、人事評価の基準も変わるからだ。

・・・人事評価制度の要諦は、自社が目指すゴールを示し、そこに向かうために社員に求める資質や行動がいかなるものであるかを明示したうえで、そこから現状がどれほどの距離にあるかを、本人に分かりやすく説明することなのだ。

・・・社長と社員との間にしっかりとした信頼関係とコミュニケーションが成立していなければ、そもそも組織として機能しない。

・・・人事評価制度は、リーダーの資格がある人が、部下との信頼関係の下で正しく運用してこそ、社員が正しく伸び、結果として会社の業績も述べていく。そんなツールなのです。

・・・売り上げのような”正解”がないために客観評価がしにくく、評価制度がなじみにくい業種もじつはあります。そうした職場で制度をきちんと機能させていくためには、時間をかけて現場に浸透させ、うまく機能しないところは少しずつ修正していくような、長い目で見た取り組みも必要です。

・・・感覚としては、“制度3割、運用7割”と申し上げています。制度ができた段階では、まだ完成にはほど遠く、それからの運用を通して改善していく過程でこそ、会社としての業績や社風の醸成といった効果がじわじわと出ていくのが人事評価制度というわけです。

・・・経営者の仕事はそうして各部門から出た意見や提案を高いところから見て、総合的な判断を下すこと。リーダーシップとは、いかに部下の能力を引き出し、使いこなすかにある。

・・・人事評価制度とは、業務を羅列して「できる」「できない」を判定する通信簿ではない。会社の理念や理想を社員のだれもがわかるように明示し、それに照らして個々の働きが正しい方向に向けて、的確な成果をあげているかを評価する。評価の結果は等級などの形で示すことで、社内における自身の立ち位置を見せたうえで、今後はどちらに、どのような努力をすべきなのかを示す。

・・・人事評価制度の設計は、・・プロであっても最初から完璧なものができることはない。・・それをいかに改善し、誰もが納得のいく評価項目や評価基準に落とし込んでいくかこそがコンサルタントの手腕なのだ。

・・・マネジメント職の評価に関しては、専門スキルによる昇格基準の者は設けない一方、業務管理者としてのパフォーマンスを求める。

・・・人事評価制度とは、そうした”大人の事情”も呑み込んで、なるべく多くの従業員が納得できる、そして何より会社の理念や理想を明確に示し、会社がそれに向かうための力になれる人材像を示すことが求められるのだ。

・・・本当に優れた技術は評価されるべきだが、チームのリーダーは自身が活躍することよりも、部下が最大限の力を発揮できるよう気を配ることも他大事な職務だ。会社という組織で仕事をしている以上、特定の個人の技術に頼るのではなく、人格や性格、リーダーシップなど、さまざまな持ち味の社員が適材適所に配置されて力を発揮してこそ、組織の潜在能力を最大限には引き出すことができるのだ。

・・・会社の「あるべき姿」や理念、理想像を明確にし、そのために社員が発揮すべき能力や思考を、役割ごとに定義する。そして、そこへの「到達度」を評価という形で見せることで、現在の社内での自分の立ち位置を知り、会社全体を寄り高みへと向かわせるためには、何をするべきかを社員自身が考えるきっかけとする。それが本来の在り方だ。

・・・もしも、彼らの望むような技術力を重視した評価制度を構築してしまったなら、社内は個々の社員が知識や技能を競い合う競争のようになってしまい、チームとしてのパフォーマンスはかえって下がってしまうだろう。優れた知識や技術を持つ社員が現在の地位を守るために、自分のノウハウを同僚や部下・後輩に開示したがらず、社内で継承されていかない可能性もある。

・・・社長のリーダーシップや見識は大切です。この会社への制度の導入が上手くいき、効果もしっかりと現れたのは、ひとえに社長がしっかりとした人物だったから。

・・・今の時代にはそれでは通用しないのは明らかだ。その一方で、ずっとそんなやり方がまかり通ってきた社内を、一朝一夕に変えることは難しいこともまた、明らか。

・・・業種が違えば評価項目は異なるし、たとえ同業種でも、目指す目標や理念が違えば、やはり評価の項目も点数配分も違ってくる。

・・・血縁関係と年功で社内での序列が決まり、経験とスキルのある者が順送りでリーダーになる。そんな組織は老舗と呼ばれるような名門でも珍しくはない。

・・・「エクセレントカンパニーを目指すには、高い目標を掲げて、まず社員の人格を高めるところから始めなければならないのだ」と断言したのだ。その意気やよし。ただし、言うは易いが行うは難い。

・・・人事評価制度を導入しようとする多くの社長さんが間違えているのは、評価制度というルールを導入すれば社員の統率が簡単になるのではないか、人事の仕事が楽になるのではないか、と考えがちだということです。

・・それは完全に誤解です。・・会社が求める人材像、ひいては会社が目指す将来像をしっかりと示し、それに沿った働きぶりを制度の運用を通して実践することで、会社全体が少しずつ、制度が目指した方向性へと変わっていく結果としてそれが顧客満足や業績にも身を結ぶ。人事評価制度導入の狙いと成果とは、そういう地道なものです。

・・・企業が置かれた環境や状況が変わったタイミングは、さまざまな規則やルールを見直すチャンスでもある。

・・・戦前から続く老舗旅館と言えば聞こえはいいが、いわゆる一流の観光旅館ではない。3館合わせて100名の従業員を抱える規模ではあるものの、業務の手順を定めたマニュアルも存在せず、いつどのような経緯で定められたのかも分からない仕事のやり方が、歴代の従業員の間に経験則として伝承されるのみ。労務管理もどんぶり勘定なら、指揮命令系統もあいまいだった。

・・・社内だけで制度を作ろうとすると、今できることの範囲でそれらしいものを作ろうと業務の内容を深掘りした結果、Aというひとつの作業を10の手順に分けて一つひとつチェックするような、項目だけは多いがレベルアップにつながらないような評価シートになってしまう。

・・・一見、うまく回っているように見える現場にも、第三者の目で客観的に見れば、おかしなところは見つかるものだ。

・・・人事評価制度を設計することは、そのようにして企業の、そして組織が抱えている問題点をあぶり出し、正しい姿に矯正することでもある。

・・・丁寧な評価者研修資料も作り、導入前には実践的なロールプレイングも開催した。例えば評価者が面談でやってはいけないことだけでも、「正確に関する批判」「本人を抑えつける発言」「本人に迎合する言動」「目的と関係のない話」「日常と異なる言動」「制度そのものに対する批判」など、多岐にわたる。

・・・上司がきちんと自分の仕事ぶりを見ていてくれるという信頼感を上士絵師、上司は自身が部下を指導しているという自覚を持たせることで、それぞれが成長していくこと

・・・ごく一部のスター営業マンだけを厚遇するような人事評価制度では、他の社員のモチベーションは下がるし、成果だけで評価される制度は、不正の温床にもなりやすい。

・・・一握りのエリートだけが果実を得る制度は、ついに行き詰った。業界が長く慣れ親しんだやり方は、もはや時代に合わないことが明らかになっていたのだ。

・・・人事評価シートの内容だけではすべてをカバーしきれない部分もあると上野は認識していた。・・人事評価シートだけでは表現できない部分を補うことも怠らなかった。

・・・数字を残した個人が絶対勝者ではなくチームでベストを目指すという目標が明確になったことで、評価シートをツールとして使いこなすことができるようになったのだ。・・それぞれの店に、トップの売り上げを誇るプロ販売員はいる。しかし、彼女もまた、スタッフとのチームで働いていることを自覚し鄭r。・・「あんな立ち居振る舞いを身につけたい」と感じさせるお手本でもあることを、自分に課して日々精進に励んでいるのだ。

・・・営業系の企業でひところ流行した成果主義人事制度は、結局のところ「結果主義人事制度」であり、人と組織を育てる仕組みにはなりませんでした。・・「数値、結果を出すためにはどのように行動すればよいか、どういう目標を意識すればよいか」を評価制度で表現し、人材育成に役立てることが、本来あるべき手法なのだと思います。

・・・成果主義と呼ばれる人事評価制度が脚光を浴びたのです。・・短期利益に走った結果、社内がギスギスしたり、不正のきっかけにもなるという弊害もやがて見えてきました。

・・・最近では、高い業績・成果を上げている社員の行動や思考の特性を言語化して評価基準に取り入れる、コンピテンシー評価といった手法があります。しかし、もともと米国の大手企業のホワイトカラーを対象とするそれらの制度が、日本の、まして中小企業のブルーカラーの現場にそのまま適用できるはずがありません。

・・・人事が強い、評価制度が強い会社は中間管理職が強い。数多くの企業とお付き合いしてきて、これは間違いないと認識しています。経営者は評価制度で理念を語り、管理職はそれを受けて現場で熱心に評価制度を運用する。当初は苦労もあっただろうが、長い時間をかけてそれを乗り越えてきており、確かな成果を感じている。人材育成、組織開発に不可欠な仕組みとして、当たり前のように評価制度の重要性を認識している。そうした風土ができ上っているということが、成功企業の最大の強みではないでしょうか。』

2021年2月 1日 (月)

風魔(下) 宮本昌孝著 祥伝社文庫

強い主人公で、どこかに安心感を持って読み進められました。そして、爽やかな読後感を得ることができました。

『・・・「もはや徳川に尽くすほか、われらの生き残る道はないのだ」 「生き残る・・・・・」小太郎の表情が悲しそうなものになる。「おぬしらがこれからやることは、生き残ることじゃない。死に時、死に場所をみずから選ぶ。それだけだ」 丹兵衛にとって、躰の中心に杭を打ち込まれたような衝撃であった。鎌切組が敬ってもいない徳川の走狗となり、屈辱にも耐え続けるのは、生き残ることばかりに汲々とするからである。おのれの死に時、死に場所を知る人間は、決して他者に縛られぬ。

・・・「・・・あんさんみたいに推し測りがたい人間がおるから、世の中は面白いのやないか。わいのあるじやったお人も、誰も考えつかんようなことばっかりやらはったから、農民から天下人にのしあがれたのや」

・・・上様という尊称は、もともと天皇・皇族を対象としたらしいが、室町時代以降は、将軍に対しても、諸侯の臣下から主君に対しても用いられるようになった。

・・・「日本国中の人集りてかけたる」北条氏の遺臣で、江戸で商人となった三浦浄心が「見聞集」にそう記した日本橋である。命名の由来は、浄心の記した通りとも、或いは後世の他書によれば、「旭日東海を出るを、親しく見るゆゑ」ともいわれ、諸説あって判然とせぬ。ただ、この橋が、二百六十余年の徳川政権の象徴であったという事実は、歴史の示すところである。架橋後、周辺地域は、日本の政庁たる江戸の城下町の中心として殷賑をきわめ、また街道整備に伴い、日本橋は諸国の里程の基準ともなった。

・・・小太郎は眩しいほど真っ直ぐな男である。それは忍びとしては危うい性格であり、だからこそ丹兵衛らは、小太郎を棟梁として仰ぐ風魔衆を見限った。逆に、小太郎を信じてついていったのは、そういう真っ直ぐさに心をうたれた者ばかりであり、それゆえにいまの風魔衆の結束は強固なのである。

・・・戦争時の起源も、推古天皇の御代にまで遡らねばならぬ。檜前浜成・竹成兄弟が隅田川で漁をしていると、網に一寸八分の観音様の仏像がひっかかった。これを、あるじの土師真中知が自邸に祀ったのが、その起こりという。家康の江戸開府より千年近く前のことである。ちなみに、現在に至っても続く有名な浅草三社祭の三社とは、檜前兄弟と土師真中知を指す。

・・・怖いのは面従腹背である。箱根の住人はまさしくそれであろう。箱根はいまだ風魔の土地。そのことに、又右衛門はもっと早く気付くべきであった。

・・・いくさは天の時、地の利、人の和という。最も大事なるは人の和とされるが、この三つがすべて揃えば無敵である。

・・・本人は関知しないが、人の心に清爽の風を吹きつける。小太郎とはそういう男と知っていた新左衛門は、だからこそ、東西の暗闘の中で、小太郎には汚れた仕事を強要しなかった。

・・・「対手(あいて)をよく見る」なんのことはない教えだが、一刀流も新陰流も、そこから闘いが始まるのであった。よく見てどうするかは、一刀流と新陰流とでは対極にある。一刀流には、二の太刀はない。・・新陰流は、対手の動きに応じて、技も身も心も千変万化、自在に転化する。新陰流の要諦「転(まろぼし)」とは、これである。

・・・「結句、予は働きづめで死ぬのか」溜息をついた家康だが、正信は同情のかけらもみせぬ。「歴史に燦然と名を遺す創業の英傑というのは皆、それが運命(さだめ)にござる」

・・・当時の東国は、先進的な西国に比して、政治・経済・文化すべてに立ち遅れ、人心も旧態依然というところを濃厚に残す。そこに幕府を開いた徳川は、新時代の到来を、形としてはっきり示す必要がある。

・・・「武士だからとて、勝つことだけが至上ではない。時には、負けを認める勇気も必要じゃ」

・・・もはや姫袋は必要ない。氏姫も小太郎も、それぞれの道を生きてゆくのだ。木は南天である。熟した赤い実が、雪をかぶった姿は、美しく気品に盈ちている。枝が揺れて、その実が幾つも姫袋の中に落ちた。

・・・まことに、人の思いというものは、誰が何としても止められぬ。だからこそ、人の世は度し難くも面白いのだ。

・・・風の起るところを、しなと、という。しなとの風は、一切の罪や穢れを吹き払う。』

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