娘のトリセツ (黒川伊保子著 小学館eBOOKS)
この著者の書にはいつも心に残るものと勉強になる部分が共存しています。第1章では、思わず涙ぐんでしまいました。娘を持つ父として必読とも感じました。
『・・・父の愛は、娘の一生を守る。けれど、娘を守るためには、その表現の仕方に、少しだけコツがいるのである。恋人同士のように、ただ仲良くしていればいいってものじゃない。「娘の父」となることには、ちょっとした覚悟と、少しの知識がいる。
・・・「母さんは、万年少女だな」が、父の口癖だった。いいときも悪いときも、それですべてを呑み込む。妻を守り抜き、少女のような無邪気さを保ってやれることが、父の誇りだったのかもしれない。私に言わせれば、父も「万年青年」であった。
・・・娘は、「父が自分にしてくれること」な中にではなく、「父が妻にしていること」の中に、「男の理想」を見るのだ。
・・・娘を持った以上、男は、妻をけっしてないがしろにしてはいけない。「未来の娘」に、男性を信じ切る力と、明るい不屈の精神を授けてやるために。
・・・昭和の父たちは、平成のパパたちのように、娘と恋人同士のようにじゃれ合うことはなかった。少し遠巻きのまま、成長していく娘を案じる気持ちをうまくことばにできずに、ときに悲しそうな顔をする。その不器用さが、娘の心を打つことも多かった。
・・・父親の悲しみが娘の自尊心をつくる。その一方で、男の子の社会性は、母親の悲しみがつくる。男子は、母を悲しませないために、きっと歯を食いしばれる。男なら、きっと誰でも、その気持ちがわかるのに違いない。
・・・世界史の誕生の現場を、父は見つめていたのだ。「戦後すぐに、世界史という学問が作られた。しかし、現場の教育学者たちは頭を抱えたのさ。西洋史と東洋史は相容れない。十字軍遠征だって、西から見たら遠征だが、東から見たら侵略だ。1つのことばにもできやしない。そこで、困った学者たちは、西洋史と東洋史をバラバラにしてつなげて、しのいだんだ。いつか何とかしようと言いながら。しかし、戦後60年を超えても、”世界史”は未完成のままだ。そんな学問を習わせてしまって、本当に申し訳ない」
・・・人間の脳とは見事なもので、水分とブドウ糖が供給されなくなると、ほどなく、”脳内麻薬”と呼ばれるホルモンが出てくる。これらは、恐怖心などの極度の緊張や痛みから、私たちを解放してくれる脳内物質だ。その最期のとき、脳は、とても気持ちよく逝くのだと思う。
・・・男たちはことばが足りずにときに真実をあの世にまで持って行ってしまう。
・・・対話には、2種類ある。「心の対話」と「問題解決の対話」である。・・この世には、もう一つの対話方式=「心の対話」があるのである。そして、それこそが、娘や妻と、うまく交信するためのプロトコルなのだ。・・心の対話は、「相手のことを尋ねる」のではなく、「こちらの話」から始める。わたしは「話の呼び水」と呼んでいる。・・「話の呼び水」には、3種類ある。「相手の変化に気づいて、ことばにする」「自分に起こった出来事を話す」「相談する」である。・・オチなんか要らない。オチてしまったら、自己完結して、「へぇ」と言われておしまいである。宙に浮いてしまう話だからこそ、相手の言葉を誘発するのだ。
・・・脳の機能性から言えば、親切にされた側の脳より、親切にした側の脳の方に充実感がより多く残る。親切にされた者より、した者のほうが幸せだし、得である。
・・・そこで、父親の出番である。母親が赤ちゃんにかかりきりなら、父親は、上の子に目を向けよう。
・・・心をつなぐテクニックの奥義は、「弱音を吐いて、なぐさめてもらう」である。
・・・男性に多く分泌するテストステロンは、やる気、好奇心、縄張り意識や独占欲、攻撃性に寄与するホルモンで、「男らしさ」の源なのだが、女性にも分泌されている。女性ホルモン・エストロゲンの起爆剤にもなっているため、思春期の女子もまた、縄張り意識や攻撃性が強く出がち。・・育て方に失敗したわけじゃない。それが、「生殖能力が成熟するとき」の、一般的な症状なのである。
・・・娘に、弱音の一つも吐かず、正しく強く生きてきたお父さんは、本当に立派だと思うけど、残念ながら、絆を一つ、結び損ねている。
・・・思春期の娘との対話について、お父さんに注意点をお教えしよう。13歳になる少し前に、脳の演算装置が、子ども脳型から大人脳型に変わる。しかし、記憶データがこれに1~2年遅れて大人脳型に変わるので、14歳くらいの脳は演算装置をデータに齟齬があって、混乱している。自分の気持ちがよくわからないのである。
・・・中学2年生のある時期、理系の科目が一気に難しくなるときがある。このとき、足りないのは、意外にも計算力ではなく、国語力だと言われている。「文脈」を理解する能力が低いと、微分・積分や、運動方程式が持つ「ものがたり」を理解できないからだ。
・・・低血糖は、「空腹時に甘いものを食べる癖」から起こることがほとんどなのである。
・・・女性脳は、自分の周囲をつぶさに観察するのが得意。男性脳は、遠くにあるものや、動くものに興味がある。これは、赤ちゃんのときから、鮮明に現れる。・・男の子は、生後8か月でおよそ3メートルの鳥瞰(上から見下ろす仮想目線)があると言われている。
・・・私はよく、新人教育で、「こうなりたい」を目標にしてはいけない、「こうしたい」を目標にしなさいとアドバイスしている。・・目指すべきはプロフェッショナリティだ。・・失敗しても、「自分の目標は高いんだなぁ。まだまだだ」と思える。誰かに叱られたら、「どうすれば正解だったのか」が気になって、落ち込んでいる暇なんてない。
・・・娘への愛は、無条件でなくては意味がない。そこに娘がいるだけで愛おしい。その気持ちを、ただ、ことばや態度にすればいい。
・・・この世に、自分よりも尊重されている人間がいると知らせること、そして、そのことを素直に喜べることが大切だ。父親が母親を大切にすることは、だから、娘の自我のリストラに大いに効果があるのである。
・・・妻が娘の愚痴を訴えたからといって、別に妻は夫に娘を叱って欲しいわけではない。ましてや、なだめるつもりで「○○(娘)も別に悪気じゃないんだから」などとも言って欲しくなんかない。あくまでも、妻の味方をしながら、優しく話を聞いてくれればいいだけなのだ。
・・・正義で裁かず、「父さんの大事な人に、そんな口を利かないで欲しい」という気持ちを告げる。どちらが正しいかは、あえて口にしない。これがコツだと思う。』
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