~身体理論から解き明かす~ バレエ力 (田中紀行著 ギャラクシーブックス)
バレエというと主に女性が行う芸術で、少し軟弱なイメージを持っていました。一方、かつて著名な空手家が、バレエダンサーは最強の格闘家になり得る旨の発言をしていましたが、この著作で、後者の方が正しいと認識しました。バレエのトレーニングには、高齢になっても、健康体を維持できるノウハウもたくさん含まれていることがわかりました。
『・・・エイジレスライフを達成するためには、健康面や体力面において30代後半や40歳ぐらいから少しずつ準備を始め、エイジレスライフに向けての助走を始める必要があります。
・・・バレエでは、姿勢をきれいにする、人間の動きに正しい筋肉を使うなどの基礎トレーニングをするために、バーを持ったレッスンを行います。また、バレエでは手の置く位置、足の置く位置も決まっており、バーにつかまり、正しい姿勢で基本の動作を身体に染み込ませます。・・バレエダンサーは、外面的に素晴らしいパフォーマンスを見せるだけでなく、内面的には人間の身体の動きの基本である、前後左右の動き、上下の動き、回転の動きが、しっかりととり入れられたトレーニングを毎日繰り返し行っているといえます。
・・・ルーティーンを用いた一連のレッスンは、身体能力を向上させるだけでなく、集中してレッスンを取り組むことを求められるため、集中力を必要とし、精神面も養われるという側面があります。
・・・自分自身がルーティーン化されていることさえ気づいていない可能性が高いです。この時の脳の神経活動は、限りなく低いといえます。・・同じパターンの繰り返しは脳の成長という点から考えると、あまりよいことであるとはいえません。・・ルーティーンにしていいことというのは、やりたくないけどやることに意味があります。・・基礎の重要性を理解している教師は、身体の正しい動きを徹底的に指導し、毎日の基礎レッスンの中で手取り足取り教えてくれます。常に正しい動きを意識して行うことで、身体に起こる小さな変化が、大きな成果となるといっても過言ではありません。
・・・生活がルーティーン化されてしまうと、身体や精神への刺激も少なくなり、あっという間に時間が過ぎて行ってしまいます。そうなってしまうと、身体は衰え、考えることを忘れてしまい、気がつけば歳を重ねてしまうということになりかねません。・・それぞれの世界で活躍する人は、多くの視点を持っており、ライフスタイルにさまざまな工夫やこだわりを持っていたりします。・・人間の脳の特性として、具体的になされた目的や目標には、力を発揮しやすいといわれています。
・・・身体は一朝一夕で作られるわけではないということです。日々の生活の積み重ねが、あなたの身体を変えていきます。
・・・自分自身をかえていくにあたり最も重要なことは、目標を定める、その目標に対する本質を理解する、本質をクリアするための具体的な戦略を立て、達成に向けてストレスなく継続できる環境と期間を設定することです。
・・・行動を変えることは、やりたくないことをうまくルーティーン化していくことです。
・・・第一に考えることは、動きの「質」であり、質の高い動きを繰り返しできることで初めて「量」が確保できます。・・基本的なこととして、先ほどの「ストレスがない」や「身体が楽である」といったセンサーを働かせて運動に取り組むことは、質を向上するうえで重要です。
・・・バレエダンサーの場合は、バーを用いた基礎レッスンを必ず行い、身体の軸、中心、重心の意識などを高めることで、高いパフォーマンスを実現しています。
・・・体幹を鍛えるはずのトレーニングであるプランクですが、実は落とし穴もあります。・・キープするというのは、剛構造の考え方と同じになります。ある一定の外力までは耐えられますが、それを越えると大きくバランスを崩してしまいます。柔構造のような本質的な体幹の強さとは、身体をがっちり固定するばかりではなく、外力に対してしなやかに受け流すことができる、脊椎の可動性も必要不可欠です。
・・・股関節は、骨盤と大腿骨で形成される球(臼)状の関節です。球状の関節の特徴は、球というだけあって、どの方向にも自由に動く構造となっています。他の関節に比べて、自由度が高い作りになっています。・・よいバレエダンサーの条件のひとつである、柔軟性が高くアンディオールしているということは、この自由度の高い股関節を使いこなしているということになります。
・・・アウターマッスルは、身体の表層部にある大きな筋肉で、大腿四頭筋の場合、使い過ぎると脚が太くなり、太ももが固くなってしまいます。つまり、効率よく身体を動かすには、アウターマッスルである大腿四頭筋を常に使うことは適していないことがわかります。・・大腿四頭筋は、前に行き過ぎないようにする重要なブレーキの役割となります。行進などで足を上げて振り出すのではなく、むしろ歩いていた推進力を止める方向に働きます。・・無駄に力を使って筋肉が鍛えられて太い足になる必要はありません。
・・・理想的な身体の軸は、脛骨直下にあることでしたから、体重が母趾球にかかり続けると足部の機能が破綻してしまいます。
・・・ある研究結果ではバレエダンサーは一般の人と比較すると、腸腰筋の断面積が2倍になるほど鍛えられ、発達しているといわれています。・・腸腰筋の一部である大腰筋は背骨の前面を通って、最終的に横隔膜と連結しています。つまり、腸腰筋は、呼吸筋である横隔膜にも影響するということです。・・腹式呼吸としてお腹を膨らませて横隔膜を最大限活用できる人は、そのつながりがある腸腰筋の活動も活発であることが予測されます。呼吸のやり方ひとつでも、インナーユニットを含めた体幹の機能を向上することができるということです。胸式の浅い呼吸に対して腹式呼吸は酸素の交換が行いやすく、細胞が活性化しやすいのでアンチエイジングに役立ちます。
・・・ちょっとやそっとでは動じない精神(こころ)を持つために大切な第一歩は、日常の生活リズムを安定させることです。・・大事なのはあなた自身が感じ、選択する力です。
・・・心身基底的な状態とは、自ら意識できている部分と予測もできず影響している部分があります。
・・・指導する立場でもっとも重要なことは、どんな場面においても、相手を尊重する気持ちを持って接することです。・・素晴らしい指導者といわれる人ほど、常にフラットでニュートラルな思考を持って、目的を遂行できるように行動されています。
・・・バレエ教室には、レッスンの際に全身を見ることが出来るほどの大きな鏡がついています。脳の予測やイメージと身体の動きのギャップを解消する一つの方法は、自分の身体の状態を目で見て、傾きを修正することです。繰り返しギャップを修正することで、脳で思った通り動きが実際にできるようになります。
・・・いつまでも動ける理由は、小さなころからの積み重ねを、いくつになっても続けていることです。
・・・バレエの先生が「お腹を使いなさい」ということは、深層にある腸腰筋、腹横筋、多裂筋などを使って姿勢を整え、お腹を引き上げるように使うことを意味します。深層筋を使うポイントは、足部からの押す力になります。特に踵の意識がとても重要になります。・・・1回に行うトレーニング時間は、両側5分くらいで大丈夫です。足の裏をほぐして、反復して踏むというシンプルなトレーニングを繰り返してみてください。これが、引き上げるための体の基本です。』
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