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2020年3月

2020年3月 5日 (木)

ルトワックの日本改造論 (エドワード・ルトワック著 飛鳥新社)

かなり以前に読み終えたのですが、引用したい部分が多すぎてアップするのに時間がかかってしまいました。

たいへん参考になる記述ばかりです。

『・・・実際のところ日本人が再び幸せを手に入れたいのであれば、再び若返らなければならないのであり、それこそが戦略の最高目的なのだ。

・・・国民は税金を納める見返りに、政府があらゆる外敵の脅威から国民の生活を守り、安心感を得る権利があるはずだ。・・本来、国民の生命財産を守る政策に制約はあってはならない。・・軍事力とそれを行使する指導者や国家の「意志」が掛け合わされることによって、軍が他国に与える効果が決定される。そうした意志がないとみなされれば、いかに最強の軍隊や装備をもっていても、相手を説得し諌止(いさめてやめさせること)する効果は全く得られない可能性がある。・・ここには国家のジレンマがある。力によって相手を説得するために、簡単に好戦的姿勢を示してはならず、一方で実際の武力行使を回避しながらも国益を守るため、「相手を止めるために暴力を用いることもある」と示さなければならないからだ。

・・・自国の安全保障に真剣に向き合わない国は、アメリカにとって同盟国とは認められない。お隣の韓国を見るといい。彼等は何かにつけて「あれができない、これができない」と言い、アメリカにすべてを託そうとしている。しかしこんな国のために、誰が彼らになり代わって動くだろうか。・・本来、日本ほどの国力がある国は、自国の安全保障だけでなく、地域の安全保障に積極的に貢献しなければならない。

・・・もう一つ、日本が国民に提供しなければならないのは、「安心して子供を産み、育てられる制度」である。

・・・イスラエルの軍事戦略家で「補給線」(中央文庫)や「戦争文化論」(原書房)などで知られるマーチン・ファン・クレフェルト(ヘブライ大学歴史学部名誉教授)は、「男は戦いに魅了され、女は闘う男に魅了される。それが守られない国家は衰退する」と述べた。

・・・フランスでは出生率は高いものの、これは主としてイスラム系女性の出産によって押し上げられているものであり、いわゆる生粋のヨーロッパ人は、子供が戦禍に見舞われる危険などないにもかかわらず、子孫を残すことよりも自身がバカンスを楽しむことを優先し、子供を産まない。

・・・かつてのヨーロッパは、クレフェルトが懸念する「多様性」によってではなく、フランス、ドイツ、イタリア、ポルトガル、イギリスなどの諸国が独自の力を持ち、互いにしのぎを削っていたために保たれていた「多様性」によって活力を生み出していた。

・・・重要なのは、フィリピン人は敬虔なカトリック教徒であり、ヨーロッパの国々をはじめとするすべての地域において、移民としての犯罪率が最も低いことだ。

・・・北朝鮮が核弾頭の小型化についに成功し、核ミサイルを完成したとみられる現実から始めたい。これで日本の危機は、後戻りできない段階に突入した。・・その一方で、われわれが認めなければならないのは、北朝鮮の核兵器は、彼らの中国からの自立と存続を保障しているということだ。

・・・朝鮮半島全体が中国の支配下に置かれたら、日本にとって大災厄になる、・・「統一朝鮮」と「非核保有」の組み合わせは、基本的に中国の影響下に置かれる可能性が高い。・・最も「マシ」なのが、現在の朝鮮半島の状況を維持することだ。

・・・オランダ人はほとんど殺されなかったにもかかわらず、ドイツ人への憎しみが解消するまで、ロシア人よりはるかに長い時間がかかった。その最大の理由は、ロシア人はドイツと戦ったが、オランダ人はそうではなかった。ドイツ人はロシア人を殺し、ロシア人もドイツ人を大勢殺した。そして戦後、お互いに「もう戦いはやめよう」となったわけだ。・・ところが、オランダ人は臆病者で、抵抗しなかったのである。・・若いオランダ人たちは、自分たちの父親たちが臆病者であったからこそ、戦後に反ドイツ的な感情を持ち続けたのである。・・ベルギー政府はドイツに「ノー」とは言わなかったが、決してドイツの望むことはしなかった。しかし、オランダはドイツに協力して逃亡者たちを逮捕し、引き渡した。彼等は強制収容所に送られ、オランダに逃れた人々はことごとく死んだ。・・戦後、例えば1953年頃になると、ヨーロッパの多くの国ではドイツをすでに許していたが、スウェーデンはオランダと同じように、超がつくほど反ドイツ感情を保持していた。戦争中、彼らはオランダ人と同じように臆病者で、ナチスに協力していた。戦後のスウェーデンは世界に道徳を説いてきたが、彼らの実際の大戦中の行為は、極めて非道徳的だった。逆説的だが、だからこそ道徳的高みに立ちたがるのである。

・・・米国が構築に努力している新たな同盟関係で、韓国の立場はASEANにおけるカンボジアのそれとよく似ている。ASEANは東南アジア諸国がまとまって中国の影響力に対抗する意味を持つが、カンボジアは中国の従僕なので、その結束を弱めるように動いている。

・・・米日からの離反と中国への従属を本当に止めたいなら、韓国人は歴史問題について、フランスがドイツに示したような態度に変わらなければならない。戦争が終わった数年後には、もう「過去を忘れて未来に生きよう」と態度を改めたことを学ぶのだ。・・「認めたくない自分の姿や立場を直視する」ことだ。これは実に苦しい作業であるが、韓国自身がこのプロセスを開始しなければ、日韓関係は何も変わらないのである。韓国は日本人に、歴史の事実と向き合うように要求してきたが、実は歴史を直視しないと問題解決できないのは、彼らなのである。

・・・国家の性格というものは、それぞれ劇的に異なる。その違いは、ある側面では計測可能だが、別の側面では計測不可能なものだ。・・本当の違いは何だろうか?それは、ロシアが世界で最も戦略的な国であるという点だ。・・彼らが上手いのは「帝国」の運営だ。・・そしてロシアの支配者は、「帝国ビジネス」がうまくなければダメなのだ。・・戦略というのは、このような国の性質や性格の違いを踏まえて考えなければならない。

・・・北朝鮮の核は日本にとって中国からの防波堤となっていると考えれば、ポジティブな要素という見方もできる。

・・・韓国というのは、イタリアと同じように、国家の「結束」(cohesion)が完全に欠落した存在だ・・もちろんどの国にも政治闘争はある。内紛と呼べるものもあるだろう。ところが韓国のそれは、イタリアと同じように、国家としての「結束」が欠けているのだ。

・・・日本がアジアで同盟関係を構築しようとして、フィリピンをまともな同盟相手として扱うことができないのと同じである。国家戦略レベルで見れば、韓国とまともに付き合うことはできない。

・・・そのような状態は終わりを告げた。原因は実に様々だが、一つにトランプ大統領の「中東には一切カネも兵士も使わない」という決断があることは明らかだ。これには米軍も同意している。・・中東で何かヤバいことが起こったら援助するのではなく、爆撃だけしてしまえという考えになっている。・・軍事ロビーはいま中国に集中し始めている。さらに、より重要なロビーがある。テクノロジーロビーだ。これが、米中対立が不可避であるⅠの理由だ。・・グーグルの中には、中国人が五百人も働いている

・・・中国が違法に米国のテクノロジーを獲得することを阻止するための活動が、FBIに幅広い影響を及ぼし始めていると聞いた。なぜなら、中国側が送りこんでいる工作員の数が多すぎるからだ。

・・・中国の「民間企業」は、英語で言えば国家の「選択されたツール」と言える。・・民間企業の形はとっているが、国家からライバル企業の情報を提供してもらったり、資金を援助してもらうことで、その存在が保証されていた。

・・・今から十数年前の時点では、外交ロビーの7、8割はパンダ・ハガーだった。日本の外務省も、半分はパンダ・ハガーだったろう。

・・・中国は、オーストラリアにあるグレート・バリア・リーフの三分の一ほどの規模のサンゴ礁を南シナ海で破壊している。これはホワイトハウス自身が発表した統計だ。・・トランプ大統領の最大の功績は、アメリカ国民全員が要求していたことであるし、民主党でさえ合意していることなのだ。・・本来、アメリカ人は蹴られても悪口を言われても我慢できるところはするが、嘘をつかれたり約束を破られることについては許せないのだ。中国の南シナ海の進出は、まさにこの「許せないこと」だった。

・・・中国はマリタイム・パワーを誤解している。マリタイム・パワーとは狭義の軍事力だけでなく、関係諸国と友好な関係を持ち、その友好国との軍事的、外交的、経済的、文化的な関係によって形作られる総合的な力のことである。・・現在、中国は、軍艦を建造するのに熱中すること、つまりシーパワーの増強によって、敵を作っている。強力な海軍を建設すれば、関係諸国が中国を恐れるのは当然だ。その結果として、中国はマリタイム・パワーを失う。これは1904年のロシア帝国と、第一次世界大戦のドイツが招いた失敗と同じだ。彼らはシーパワーを持っていたが、マリタイム・パワーを持てなかった。

・・・日本も先の大戦で、広大な領域を手中に収めたものの、それを確保するための航空機、艦船が足りなかったうえに、パイロットの十分な訓練ができなかったために戦争に敗れた。これはランド・メンタリティ、つまり陸にばかり足をとられているランドピープルの「領土」を基本にした考えによって戦略を考えていたからに他ならない。

・・・私が最も可能性が高いと考えているのは、「改革を始めたからこその崩壊」である。あまりにも複雑なシステムを改革しようとしたために崩壊してしまうということだ。

・・・アメリカの対中政策は、典型的な「アングロサクソン」式であり、それは最初にナポレオンに対してイギリスが使ったものだ。・・誰でもいいからフランスに対抗する勢力を集める、というものだ。重要なのは、国の大小ではなく「誰でも」という部分だ。

・・・これが冷戦時代のアメリカの戦略だ。つまり、ソ連に対抗する勢力は、国の大小に限らず「誰でも」集める。この戦略は外交が90%で、軍事は10%に過ぎない。

・・・中国人は、軍事力を京劇のような、象徴的なものと考えており、実効性よりもハリボテを使って周囲を威嚇することが大事だと思っている。だから、戦争に対しての真の準備ができない。

・・・反中同盟は決して中国に降伏しないだろう。紛争を戦争で終わらせることができず、しかも降伏もしないとなれば、片方の政権交代、レジーム・チェンジ(体制転換)しかありえないことになる。それは中国の政権崩壊を意味する。

・・・国際決済銀行(BIS)によると、中国の企業債務(金融機関除く)の名目GDP比率は、2018年6月末に253%まで膨張した。

・・・中国の場合、経済問題の深刻度がのっぴきならない状態に陥ると、通常の国家とは違った「異変」が生じる可能性が高まる。経済面での国民の不満が膨れ上がって対処不能となった時、解決できない経済問題から国民の目を逸らすために、あえて対外的な冒険主義を実行し始める可能性がある。

・・・われわれが注目しなければならないのは、中国の外交問題はすなわち内政

問題であり、さらに言えば習近平自身の問題であるという点だ。・・習近平への権力の集中は、李克強に対する処遇が一つのメルクマール(指標)になる。

・・・現在、世界の国防費は、歴史的に見てかなり低い水準にある。冷戦時代には12%程度を割いていたアメリカも、現在は4%程度で推移している。軍事費の増大が著しい中国でも2.5%で、インドと同程度。フランス、イギリスも2%前後である。日本の割合はその半分であり、周辺に脅威を持たないカナダと同程度である。その点で、日本には国防費の「伸び代」があるといえるだろう。

・・・現在の中国人民解放軍の軍人はそうではない。軍の指揮統制がなっておらず、「規律を守らない行動は処罰される」ことを教わっていない。むしろ、「ワイルドで危険な行動をしてもお咎めなし。それどころか、周囲から尊敬され、英雄になれる」と考えているようだ。

・・・日本はすぐにアメリカの援けを求めるべきではない。アメリカ国民から「日本は弱い国だ」と見られて、日米同盟にヒビが入ることになるだろう。ではどうするべきなのか。日本政府は尖閣に、海洋環境の保全を目的とする研究所を設立・建設して、所員を派遣し、同時に彼らの保護のために部隊を常駐させるべきだ。そうすることで、日本は尖閣を実効支配していて、守り抜く決意であると意思表明することになる。

・・・現代の抗堪性をもつ格納庫とは、地下にあって戦闘機を必要に応じて出し入れできるものだ。

・・・フィンランドは人口がわずか550万人しかいないが、彼らは「真剣」だ。ロシアと非常に長い陸上線を接しているがゆえに、ロシア軍を打ち負かすことができるという点において、フィンランド軍は100%の自信を持っている。

・・・もし日本が単なるアメリカの同盟のフォロワーからパートナー、もしくは反中多元同盟のリーダーとして進化していきたいと考えるのであれば、中国の台湾侵攻を抑止するというのも、取るべき手段の一つとして考慮してもよい。

・・・日本がミサイル防衛にシステムに本気で取り組むのであれば、いまあるイージス艦のシステムを外して陸上に設置すればいいだけだ。脅威が迫っているのに、10年計画で開発するのは論外と言える。・・10年計画は「リアリズム」の完全な欠如だ。現実を完全に忘れている。・・日本には空母など必要ない。南シナ海では潜水艦があれば十分だ。・・日本に求められているのは、アメリカが保有していない戦力を補完することである。ヘリ空母のような機能はすでにアメリカが持っている。

・・・もし近い将来、朝鮮半島の非核化がすすんで南北統一が実現したら、中国の影響力は半島全域に及ぶことになる。他方で、彼らが非核化を諦めない限り、アメリカも中国も南北統一を認めることはない。

・・・トランプ大統領は、まさに見た目通りの人間だ。クリエイティブだが、ルールや順序を守る気はさらさらない。しかし彼はダイナミックで、才能に溢れた人物であることも、間違いない。

・・・2020年に金正恩と仲良く抱擁し合ってキスすることが、トランプにとって得策となる。

・・・対北朝鮮に関して言えば、日本は、中国はもちろんアメリカも、韓国も頼ることはできない。これが現実だ。自ら動くよりほかないのである。

・・・北が核兵器を持っている以上、アメリカは何もしない。「核の傘があるのだから、やってくれるだろう」などとアメリカに期待するのが間違っているのだ。日本はそうならないように、できるだけ早く行動する必要がある。

・・・日本がその気になれば、北朝鮮のミサイル開発よりも速いスピードで、ミサイル防衛システムを改善することは可能だ。なぜなら、北朝鮮の経済は名古屋市の10分のⅠにも満たない規模であり、日本は北朝鮮に比べて経済的にも人材的にも余裕があるため、本気になりさえすれば開発のスピードを上げることができる。

・・・中国政府はアメリカに対して、次のようにはっきりと宣言している。「米国が北朝鮮の施設を爆撃しても、われわれは何もしない。しかし、米兵が鴨緑江を渡って一センチでも入ってきたら容赦しない。必ず反撃する」

・・・イスラエルは決して裕福な国ではないが、過去40年の間に、すべてのアパートに防弾・防ガス機能を備えたシェルターの設置を義務付けた。

・・・トランプと習近平が北朝鮮の石灰、鉄鉱石、水産物、アパレル品などを輸出させない経済制裁に合意をし、他国にも同じ措置を取るよう迫っている一方で、韓国の大統領自身が北朝鮮に資金を流す一種のマネーロンダリングをロシアに提案している。これが韓国という国の事態である。無責任ぶりは40年前と変わっていない。

・・・韓国には文化的にどこかに従属するという伝統があり、これは歴史的にも、両班たちが中国に対して叩頭していたことからもわかる。彼らは小中華として生きてきたのだ。・・トランプもこのような韓国の態度から学ぶものがあったからこそ、6ヵ国協議を止め、中国を使って北朝鮮に圧力をかける方策にシフトしたとみていいだろう。・・韓国がこの状況に何も貢献していないことを、トランプは極めて不快に感じている。日本は韓国を反面教師としなければならない。

・・・核は強力過ぎて使うに使えない。・・核兵器というのは、バーの中の戦車のようなものだ。・・核抑止力は、分別のある者に対してだけ働く・・日本に必要なのは、核抑止力ではなく、役に立つ防衛力だ。そのために必要なのは、繰り返すが、日本が先制攻撃能力をもつことであろう。

・・・北朝鮮は整備された防空体制を欠いている。技術的な理由で、防空には莫大なカネがかかる。

・・・重要なのは「戦時のメンタリティ」だ。平時の官僚的なメンタリティでは「防空システムを完全に破壊して安全を確保したから目標の攻撃に移る」となるだろうが、これでは失敗する。・・今日本に必要なのは、平時のメンタリティで「対地攻撃能力についての合意を図る」ことではなく、実際に使える装備を「研究のため」と称して購入し、ワシントンと北京にメッセージを送ることなのだ。

・・・日本政府がまずやるべきは、行政的な手続きを粛々と進めることだろう。部品一つ購入するだけで、明確な一つのシグナルとなる。国論を二分するのではなく、目立たないような形でワシントンや北京に「日本は本気である」と伝えることが重要だ。

・・・アメリカの対北朝鮮攻撃決断において問題になるのは、実は米軍側の官僚的な問題の存在だ。・・自国の犠牲を極力少なくしたい彼らが、軍事作戦に対する大きな抵抗勢力になっている部分がある。

・・・歴史を振り返ってみれば、今日のような繁栄したヨーロッパが近代以降に出現してきた理由は、互いに諍いを起こして競争してきたからである。言い換えれば、頻繁に戦争を繰り返して形成された「戦争の文化」を持っていたためだ。

・・・世論調査によれば、アメリカ国民の約半数も「米軍のアフガン戦争への参戦は敗北に終わった」と認識している。

・・・半世紀以上もの間、アメリカは自ら始めた戦争全てで敗北してきた・・これらの失敗の根本的な原因は、健全な戦略的思考と判断力の欠如、そして状況についての十分な知識と理解の欠如にある。

・・・アフガニスタンでの国家建設への移行とイラクでのフセイン排除の決断は・・振り返って考えてみれば、合理的思考とは程遠いものだった。同じことがヴェトナムでも当てはまった。それなのに、再び全く同じことが繰り返されようとしている。

・・・米軍は大規模な軍隊であり、特殊作戦も素晴らしい、米軍は偉大だと称賛する人々は多いが、現実は「戦争に負けている」。日本もその現実を見る必要がある。

・・・日本は自国の市民が「あなたの政府はあなた方の安全を守っていますか」と尋ねたら、「そのとおりだ」と胸を張って答えられるような体制を提供しなければならない。

・・・実戦においては、素早い決断と共に、予測不能な事態に対処できるかが問われる。

・・・この演習には陸・海・空の全軍が参加するだけでなく、政府レベルや情報機関、国民までを巻き込む形で、せめて一度は実施されなければならないのだ。

・・・より有用なのは、指揮演習であろう。・・実際の戦争で起こるような「摩擦」を発生させて、敵に予測不能な行動をとらせ、味方側に作戦の失敗や不利になるアクシデントを彦起こし、状況に対処させる演習だ。この時、何よりも重要なのは、「味方が負けること」である。・・負けた側は「なぜ負けたのか」と真剣に機材や兵器、組織構造や伝達過程などを細かく検証することができるからだ。

・・・情報機関は情報を収集するだけでなく、対敵情報活動、つまり敵の諜報活動を妨害、阻止する活動を行っている。

・・・国の対外戦略立案・遂行能力は、「どれだけ正確な情報を収集し、分析できるか」にかかっている。逆に言えば、「国の戦略の水準は、その情報収集・分析能力の水準を越えられない。

・・・情報員として必要なのは、自発的に考え行動する能力であり、新しい提案を考え出す能力である。現地の言語を習得することは言うまでもない。・・国防を担当する省庁よりも、エネルギーや通商を担当する省庁(通商産業省)のほうが上位になる世界で唯一の国が、日本だった。

・・・情報活動において最も重要なのは、現地で信頼できるエージェントになりうる人物をいかにして見つけるかだ。実は、真のエージェントは先方から自発的な形で応募してくる者である。

・・・日本も過去においては高度な情報活動をきちんと行っていた。有名な南満州鉄道(満鉄)調査部は当時世界でも最高水準の調査レポートを作成していた。彼らはハルピンやその他の場所で、ロシア人をエージェントにして情報を集めていたのだ。

・・・ロシアは何をやらせてもダメだが、戦略だけは非常に優れている。・・その背景には、長年にわたる優れた情報収集及び分析の能力が存在しているからだ。ロシアはエージェントを守るのが上手い。ロシアの組織や病院などはどれも冷酷だが、KGBはそうではない。CIAは職員が問題を起こせばすぐにクビを切るが、KGBはまるで母親のように一生面倒を見る。

・・・日本が必要としていることは、・・あくまでも生の情報を収集することなのだ。そのために、日本の情報員としてエージェントを獲得するのだ。大事なのは、人々をじっくり観察して小さな変化を見逃さないようにするとか、あるいはエージェントとしてこちらに情報を提供してくれる人物を見極め、自然に接触し、関係を構築することである。

・・・国家が提供または指導する産業への投資資本が「火力」に当たり、国家の補助金による製品開発が「武器の改良」に相当し、国家の支援による市場への参入が、外国領土における軍事基地や駐屯地または外交的な「影響力」に相当する。

・・・経済戦争の目標は、・・世界経済の中で自国企業が最も望ましい役割を獲得したり、それを保護することにある。・・経済戦争は、世界の典型的な能力主義的かつ職業的野望を最も正確に投影したものとなる。

・・・恐怖が、共通の目標を達成するため、ある程度の犠牲を可能にしたのである。

・・・アメリカでは民主党と共和党が、いわゆる「産業政策」をめぐって鍔迫り合いを演じている。産業政策とは、将来性のある産業の成長を促進させるという意味の政治用語である。

・・・現代技術のおかけで新産業分野で成功に至る道はより広くなっており、その中には大規模な生産を必要としないほど特殊化したものも含まれている・・規模が小さくても十二分に教育レベルの高い国は、ごく普通の商売と同様に、経済戦争においても有利な立場を確保する可能性が高くなる。その可能性は、かつて国際政治の舞台で常に国力の規模だけで問題とされ、ときにはそれだけが決定的な要因であった時代よりも高いのである。

・・・国家の主たる存在理由は・・いまだに歴史的な機能、つまり外敵からの(同様に国内の無法者からの)安全保障を提供することにある。

・・・戦争と貿易には基本的な違いがあり、・・参加者が極めて多い競争ならば、戦争とは違ってくる。両当事者が同時に損失を出したり、逆に利益を得ることも起こり得る。

・・・戦いのロジックにはかならず限界点があって、それを越えると、同じ行動が逆効果になる。・・これに対して、日常生活や通常の経済取引の論理は直線的であり、良いことは良いこと、悪いことは悪いことである。成功は成功を呼ぶのであり、どこかで頂点に達したあとは何をしても一方的な下り坂、というわけではない。

・・・1914年7月に第1次世界大戦が始まった当時ほど、フランスとドイツが互いに相互依存しあう経済関係にあったことはない。また、1941年6月、ドイツのソ連侵攻が始まった時も同様である。この二つのケースとも、お互いに大量の必需品を相手側から輸入しており、戦争によって計り知れない経済的破綻が発生したことも事実だ。それでも彼らはそんなことは意に介さず、そしてもっとずっと大きな損害も気にかけず、戦争に突入した。・・相互依存によっていずれかの「戦争」が抑えられるという保証など、どこにもないのである。

・・・経済戦争というものは、世界経済全体で見れば非効率だとしても、この戦争は参加しなければ、必ず負けるゲームである。

・・・それでも国家による争いと外交が世界情勢を支配している限り、従属や占領、敗北、さらに殲滅を避けるために、経済戦争ゲームへの参加が不可避となるのだ。

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