侍ジャパンを世界一にする!戦略思考 (野村克也著 竹書房)
久しぶりに野村元監督の著作を読んでみました。指揮官としての考え方に色々と学ぶところが今回もありました。
『・・・今、日本のプロ野球は何をすべきか。それは、アメリカを倒すことである。メジャーリーガーとお互いに本気で戦って、日本が勝つこと。日本のプロ野球の価値観をメジャーリーグに負けないものにしないかぎり、いまの流れは止められないのだ。
・・・勝負の世界において真の勝者とは、「なぜ勝ったのか」「なぜ負けたのか」を正しく分析し、反省して、それを踏まえて次の戦いに挑むものを言う。・・組織論として考えるべきは、どんな場合でも、トップリーダーの力量である。リーダーの力量以上に組織は伸びない。
・・・勝負の世界において、経験に勝るものは何一つない。
・・・どんなに優秀で人格者だったとしても、監督の器であるとは限らないのだ。
・・・監督になった人がどういう野球観を持っているかは、やはり自分が現役時代にどういう視点でプレーしていたかということが原点となる。
・・・短期決戦であるから、いかに相手の弱点を早く見出して対処するかが勝負を決める。
・・・毎試合ごとに想定野球、本番、反省野球の三試合を行った。1シーズン130試合の時代は毎年、そうやって390試合を重ねていたわけだ。
・・・いつでもだれでもプロ野球全球団の細かいデータを入手できるようになった。しかしそういうデータから何を読み取るかという分析力で差が付く余地はまだまだ残っている。
・・・あのアメリカとの試合は、改めて日米のパワーとスピードの差を痛感させられるものだった。そういう目に見える力の差を補って勝つためには、目に見えない力、つまり無形の力を総動員して戦わなければいけない。
・・・人間は楽をしたいという本能を持っている。・・トップが楽な方向を目指したら、組織はダメになる。・・たとえ苦しい道であっても、1対0で勝てる野球を目指していれば、そういう間違いは起こさないのだ。
・・・日本シリーズはしばしば「キャッチャー対決」などと呼ばれてきた。両チームのキャッチャーはシリーズに備えて、穴が開くほどデータを見つめて相手の各バッターの弱点や特徴をつかみ、味方ピッチャーの特徴を考えて傾向と対策を分析して攻略法を考える。みなそうやって、開幕前から頭が痛くなるような思いをしているのだ。
・・・キャッチャーが配球のコツというものをマスターするには、失敗の許されない試合でマスクをかぶってサインを出して、痛い目にあったり何とか抑えたりという経験を繰り返すことが一番の薬なのだ。
・・・野球場のベンチというのは、ただ休憩する場所ではなくて、試合の流れの中で次に起こりえることへ備えるための場所であり、監督やコーチが選手に現場教育をするための場所なのだ。
・・・「失敗」と書いて「成長」と読む。ただし、根拠なき失敗に成長はない。その失敗にも根拠さえあれば、私は一切、文句を言わない。だが、根拠のない失敗だけは容赦しなかった。
・・・大事な試合の勝負どころで自分がピッチャーにどんなサインを出すかということが冴えてくると、バッティングにもそれが活かされて好結果につながってくるのがキャッチャーという人種なのだ。
・・・観察力、洞察力、情報収集力、分析力、判断力、思考力、記憶力、感性といった目に見えない力を磨いてチーム力をアップする。
・・・人間の最大の悪は鈍感である。私は常々そう言ってきた。人間にとって、感性が優れているということは、大きな力となる。
・・・かつての監督たちには、それなりの器というものがあった。ベンチに監督が座っているだけで、選手たちがピリッとするような存在感や重みがあった。ところがいまは、みな軽量級である。いったいどうしてこんなことになってしまったのか。その理由はいくつかある。まず我々世代の監督経験者が次世代の人材育成をしっかりできていなかったことだ。・・「人間教育」や「管理」という面が次第に風化していき、そうした教育をする人も受ける人も減っていってしまい、指導者然とした監督がいなくなっていったのだ。・・そういうことをうるさく言いたがらない監督や言う術もない監督が増えてしまったから、選手たちが何も知らないまま、ただ野球だけをやっていればいいとさえ思うようになったのだ。
・・・4球団で監督を務めたが、常に念頭にあったのは「人を残す」ということ、つまり、いかに人材を育成するということだった。
・・・監督は選手がプレーをしやすいように導いてあげるのが一番大事な役目である。本来、監督は「自分は裏方だ」という自覚が必要なのだ。
・・・「人望がある」というよりも、権力を持っている人に気に入られたり、取り入ったりするのが得意で、権限のある人に自分を売り込むのが上手い。つまり処世術が優れているのだ。
・・・本来、ヘッドコーチの資質として必要なのは、細事小事に目が届くことだ。・・どのチームもおおまかなところは変わらない。敵も味方も同じようなことを考え、似たような野球をやろうとしている。では、どこで両者の差が出るかと言えば、やはり細事小事に目が行くかどうかなのだ。だからこそ細事小事に行き届くヘッドコーチは重要な戦力なのである。
・・・ピッチャーにはピッチャーにしかわからないことがたくさんある。ピッチングコーチの仕事というのは、まさにそこにある。
・・・指導者に必要なことは、正しい理論や技術を言葉で伝える能力だ。
・・・監督たるもの、選手に「話が長いなあ」と感じさせるような冗長な話ではなくて、選手に響くような的確な話ができれば、「長い」と感じさせることなどないのだ。選手の受けを狙う必要はないが、興味深くて飽きさせない話ができるようでなければいけない。
・・・私は現役時代、よく森祇晶とこんな話をした。「川上監督って、どんなミーティングをするんや?」「野球の話は、ほとんどしないよ。野球の話は牧野コーチたちに任せて、監督は人間教育の話ばかりだよ」 私はヤクルトの監督になったとき、まさにそういう川上監督の姿勢をお手本にしようと思っていた。野球以前に大切なのは、川上監督のように人間学や社会学を選手に教育することなのだ。
・・・人間は感情の生き物である。その選手の感情をどう動かすかというのが、監督の腕の見せ所なのだ。そして、選手の感情を動かすのは、言葉の力だ。
・・・そういう貴重な人材を潰してしまうことがないように、指導者としての教育を受けさせてから監督にするべきだ。
・・・「人には添うてみよ、人には会ってみよ。馬には乗ってみよ」という言葉がある。外見や印象や噂だけで判断しないで、実際に会って話してみなければ、その人の本当のことはわからない。
・・・サッカーは、指導者になるためのライセンス制度がしっかりしている。どんなにJリーグや海外のチームで活躍した選手であっても、指導者になるための講習を受け、資格を得なければ、基本的には監督やコーチになることができない。しかも、プロの選手への指導者だけでなく、下部組織のコーチや監督もそのライセンスがなければ指導することはできないのだ。
・・・どんな言葉をかけてあげれば、この選手は自信を持てるようになるのか。どういうタイミングで言葉をかけてあげれば自身がつくか。それを見極めるためには、そのときだけでなく、いつでも選手をよく観察していなければいけない。・・自信がない選手には自信を育ててやり、うぬぼれている選手は引き締める。それが監督の大事な務めなのだ。
・・・力はあるのに自信を持てない選手というのは、とても真面目な人が多い。そういう人には、褒めて自信を育ててあげることが必要なのだ。
・・・そうボヤいていたら、プレイボーイで知られている人に、こう言われた。「監督は女性を褒めないからモテないんですよ。女の人は、何でもいいから褒められたいんです。顔かたちやスタイルだけでなくても、『その髪型よく似合うね』とか『その洋服、かわいいね』と言ってあげれば喜ぶし、好かれるんですよ。男の顔なんて、たいして関係ないんです」』
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