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2019年5月

2019年5月29日 (水)

新聞記事から (王丹氏 主なやり取り 人権 天安門事件前より悪化) (産経新聞 令和元年5月29日 朝刊)

天安門事件の学生リーダーのインタビューです。彼の予測が的中するのか、興味深いというよりも、我が国にとっては切実な問題です。日本に失望しているという回答には、情けなく感じつつ、納得しました。

『天安門事件の元学生リーダー、王丹氏との主なやり取りは以下の通り。

―――事件から間もなく30年になるが・・・

 特別な感想はない。民主化運動が軍によって弾圧された日から、私にとってすべての日が記念日となった。死んだ仲間の無念さを思い出さない日はない。自分の責任はどこにあるのか、どうすれば中国を民主化に導くことができるのか、そういうことを毎日、考えている。共産党一党独裁政権が倒れ、当局によって「反革命暴動」と位置づけられた事件が見直されるまで、この気持ちは変わらないだろう。

―――習近平政権の評価は

 中国の人権状況は、天安門事件前よりはるかに悪化している。当時、私たちはある程度の言論の自由があったが、今は完全な監視社会になった。一般民衆が政府を批判することができなくなった。習近平という指導者は権力闘争の能力にたけているかもしれないが、視野が狭く、国を管理する能力も経済を発展させる能力も江沢民、胡錦涛と比べて低い。中国の経済も失速していく可能性が高い。習政権が続く限り、中国国民の生存環境はますます悪化していくと考える。

―――米中貿易戦争は中国に変化をもたらすのか

 米中貿易戦争は起こるべくして起こった。共産党政権は知的財産権を無視するなどさまざまな不正をし、国際社会をだます形で経済成長を維持してきた。それに対し、トランプ米政権はついに堪忍袋の緒が切れ、貿易戦争が起きた。しかし、彼が最優先にしているのは米国の国益だ。逆に言えば、米国に有利だと判断すれば、いつでも共産党政権と握手できる。だから私はトランプ政権に期待していない。中国の民主化はあくまでも中国人の努力で手に入れるものだと考えている。

―――共産党政権はやがて崩壊すると考えているのか

 独裁政権を維持するのに高いコストがかかる。だからいつか必ず崩壊する。私は北京大学でもハーバード大学でも歴史学を専攻し、さまざまな帝国の崩壊過程を研究した。国内の不満を外に向けさせるために対外拡張し、それが財政破綻を引き起こして崩壊のきっかけになることが多い。習近平政権がやっている一帯一路という巨大プロジェクトはまさに対外拡張で中国崩壊の兆しといってもいい。

 しかし、崩壊が1年後なのか、それとも10年後なのか、誰も予測できない。今、私たちにできるのは、中国が突然に崩壊したときにその混乱を最小限に抑えるため、速やかに法整備できる体制を作るなどさまざまない準備をすることだ。

―――日本政府に期待することはあるのか

 私は日本政府に大きく失望している。先進国の中で、日本は中国の隣国にもかかわらずチベットやウルグイ族などの人権問題、民主化問題に関して最も発言の少ない国だ。中国政府に抗議したこともない。

 日本政府は私たちを腫れ物のように扱っている。北京の独裁政権に配慮する理由が全くわからない。』

2019年5月22日 (水)

韓国壊乱 文在寅政権に何がおきているのか (櫻井よしこ ホン・ヒョン著 PHP文庫)

韓国内の動きがよくわかりました。しかし、韓国内では、保守派政権時も含めてこれまで、事実に基づかない歴史教育を行ってきたことが、今日の混乱につながっていると私は考えていますので、ある意味自業自得だと思います。我が国は助ける力もないですし、仮にあったとしても、半島に手を出してロクな目に遭ったことはないという歴史的教訓を踏まえて、我が国の国力を高めつつ静観するのがよいかと考えます。

『・・・統計を見ると、少なくとも1万6000人の労働者が不正渡航を理由に、朝鮮半島に送り返されています。それだけ日本における労働条件がよかった、ということでしょう。

・・・韓国ではいま、凄まじい言論統制が行われています。・・日本では想像もできない弾圧、左翼独裁体制が敷かれている。

・・・韓国の司法府内には、左翼裁判官たちのサークルがあります。・・裁判を革命の手段として捉える傾向があります。金命洙はこの二つのサークルの会長を務めました。「ロウソク革命」を自認し、三権分立を否定する文在寅・主思派政権としては、司法府全体を革命の道具化する適任者として、既存の序列を破壊して金命洙を選択したわけです。

・・・韓国では、司法が政治闘争の手段として利用されている実態があります。とりわけ保守勢力つぶしの常套手段の一つとしてよく採用される方法が、濫訴です。

・・・歴史学者の秦郁彦氏によれば、朝鮮半島出身の慰安婦は全体の2割ほどで、大半の女性は日本人だったわけです。彼女たちが、生活のために慰安婦として働かなくてはならなかった。

・・・文在寅たちチュサバ(主体思想派:金日成がマルクス・レーニン主義を北朝鮮に適用したとする朝鮮労働党の「主体思想」を信じる人々)の価値観の転倒、教養レベルの低さには恐るべきものがあります。彼らは高校時代以降、少しも知的に成長せず、自由民主体制の経済・社会に適応できないまま「社会改革・革命」を追い求めてきました。

・・・『トランプを当選させたPCの正体』の指摘でまず驚くのは、「PCという言葉を最初に使ったのは誰か」という問い。答えは「レーニン」です。

・・・アメリカは共産主義への警戒心を失ってしまった。自由陣営では韓国だけが共産陣営の攻勢に取り残されてしまい、あっという間に国内が左傾化した部分が大きい。

・・・旧ソ連のKGBの予算の八割は、まさに文化共産主義の諸工作に充てられている、といわれます。世界を共産化するため、KGBが壮大な戦略のもとで投じた予算の八割はポリティカル・コレクトネス策略向けのものでした。

・・・一口に韓国人と言ってもさまざまです。韓国人は遊牧民の気質があり、たとえば2017年1~8月の韓国人入国者数は前年比17.7%増の1739万5510人で、訪韓外国人の2倍。

・・・聖公会大学は、韓国の大学の中でも北の息のかかった大学として知られています。左翼学者が自己主張する一番の拠点です。

・・・何と言っても、李承晩はスターリンと毛沢東の攻勢に立ち向かい、アジア大陸で自由民主主義の砦を築いた反共の巨人です。 日本統治時代の方が韓国人の生活は豊かだった。誰もが実体験で知っていたこの事実が、韓国の政権にとって不都合だったわけですね。 日本が韓半島から撤退したことで、南韓の経済は80%が壊滅しました。 国家情報院は、アメリカに例えればCIAとFBIを合わせた機関です。日本に当てはめれば、公安調査庁と警察を兼ねたような組織と言えるでしょうか。その起源を辿ると、朴正熙軍事政権時につくられたKCIA(大韓民国中央情報局)に行き着きます。

・・・国家情報機関がなかったら、韓国は遅くてもソウルオリンピックの前に赤化されていたはずです。いま韓国で起きているのは、左翼反逆勢力による政変(クーデター)なのです。文在寅政権は、金正日の代弁人だった廬武鉉よりはるかに極左で、廬武鉉ができなかったことをすべてやろうとしている。いわば左翼の怨念が文在寅政権をつくった、といえるでしょう。

・・・日本でも先の朝鮮戦争では、日本共産党や在日朝鮮人による非合法グループ・祖国防衛隊(祖防隊)によって米軍の物資を運ぶ列車が襲われ、火炎瓶闘争が行われていました。

・・・もし私が中国の指導者なら、トランプ政権の任期である最長8年のあいだ「時間稼ぎ」を考えるでしょう。民主主義国のアメリカのように選挙に縛られない独裁体制の中国では、時がたつほど権力体制さえ保てば、軍事や経済的力が蓄えられるからです。

・・・そもそも、アメリカには「報復は正義」という考え方があります。・・アメリカの文在寅政権に対する分析は情報当局などを通じて完了しており、その評価は地に落ちています。

・・・さらに(朴大統領の)拘留延長が決まったその日に、青瓦台で晩餐会が開かれました。その席で文在寅大統領や補佐官、与党幹部はお互いを何と呼び合っていたか。「同志」です。・・文在寅は「人権派弁護士」出身と自慢してきましたが、彼の「人権擁護」は自由民主体制に敵対する勢力や犯罪者を守るだけで、その反対側の人権は守らない。文在寅革命政権の核心は主体思想派と利敵団体出身者、公安事犯とその連累者、そして廬武鉉派の残党、左翼市民団体出身者です。

・・・よく李明博と朴槿恵を保守政権と呼びますが、私に言わせれば、そもそも彼らは保守ではない。「中道左派」連立政権だった、というのが正確な見方だと思います。あくまでも中道の「左派」であって、安哲秀に至っては中道ですらありません。

・・・一般に、韓国で保守・右派と呼ばれる人々(実際には中道左派)は「左派に反対する勢力」という意味に過ぎない。左派と右派の決定的な違いは、左派の方には「左派になる過程」の蓄積があるということです。・・それに対し、従来のいわゆる右派は「左派に反対する陣営に投票する人々」が便宜上、そう呼ばれてきたにすぎない。自分は左派ではないから、という理由で「右派」と称するようになったわけです。

・・・いま韓国で40代、50代の弁護士や検事、判事はほとんどといっていいほど左翼です。司法界、マスコミなどさまざまな分野に左翼が入り込んでいる。これは日本と似ていますが、韓国の場合はもっと深刻です。

・・・民労総は侮れない組織です。中国のメディアが中国共産党の検閲を受けるように、韓国のメディアは事実上、民労総の検閲を受けています。

文在寅は有能な人間というより、権力欲の人間です。廬武鉉政権の無策を見れば、それはよくわかります。むしろ、任鍾晳が要注意人物です。

・・・北の核に加え、中国の核に対抗するためにも、日韓が戦略的に一体化して核を持つべきだ、というのが韓国の右派や国民多数の結論です。

・・・中国は人口構造、貧富の差や地域格差、民族問題、軍の反乱など致命的な弱点を抱えており、将来自滅する可能性すらあります。

・・・韓国民はいま、三つの戦争中だ。韓半島に干渉する中国との対立、南韓制服を追求する金日成王朝との南北戦争、そして韓国の内戦、つまり韓国を社会主義体制に変えようとする勢力と反共自由勢力間の内戦だ。もちろん三つの戦争は一つにつながっており、韓国の右派は三つの敵から攻撃されている。』

2019年5月20日 (月)

99%の日本人がわかっていない 国債の真実 (高橋洋一著 あさ出版)

財務省にとっては、国益よりも省益が大事であることがよくわかる書籍でした。また、経済についてもいろいろと知ることができました。

『・・・同じ「借金」でも、個人の借金は、ないほうがいい。借金があるのなら、なるべく早く返した方がいい。当たり前だ。しかし、政府の借金はそうではない。むしろ政府の借金は「あったほうがいい」といっても過言ではないのだ。

・・・世の中には「無借金経営」だと胸を張る企業もあるようだが、先祖代々の莫大な資産でもなければ、自己資金だけで企業などできない。だから、たいていの企業は銀行から金を借りる。起業したあとも、ずっと金を借りるのが普通だ。・・要はお金が多くやりとりされ、経済が活性化する。

・・・「政府の借金」を「個人の借金」と混同して「悪」とすれば、本質を大きく見誤ることになる。

・・・「国債は借金だからダメ」というのは、「緊縮財政になって景気が悪くなってもいい」、あるいは「増税されてもいい」といっているのと同じなのだ。

・・・政府は「誰」から借金するのか。基本的には銀行や信用金庫、証券会社など民間の金融機関である。

・・・国債は多数の金融機関によって行われるが、入札は一度きりで、その入札額によって買えるかどうかが決定する。

・・・日銀が直接政府から国債を買うことも、なくはない。これがいわゆる日銀引き受けである。マスコミでは禁じ手と識者が語るが、毎年行われている。しかし限定的である。では日銀が何をするかというと、民間金融機関が持っている国債を時価で買うのである。・・この売買は、日銀が金融緩和政策の一環として行い、いわゆる「買いオペレーション」「量的緩和」と呼ばれる。・・日銀が民間金融機関から国債を買うと、その「代金」は民間金融機関が日銀に持っている「日銀当座預金」に振り込まれる。・・民間金融機関は、お金を「利子収入を生むお金」に変えるために、企業などに積極的に貸そうとする。すると金利が下がる。

・・・物価は「モノの量」と「お金の量」のバランスで決まる。

・・・日銀には政策の独立性があるが、政府がとる大きな方針に従って金融政策を行う。また、国民が使う通貨を発行したり、国債の入札や発行にかかる手続きをしたりなど、政府の財務処理の「事務方」としての役割もある。

・・・日銀からすれば、国債を買い通貨を発行することで利子収入ができる。そのため、日銀が得る国債の利子収入を「通貨発行益」と呼ぶ。国債の利子収入は、通貨を発行することで生じる利益と言えるからだ。日銀はその通貨発行益を丸々国に納める。これを「国庫納付金」と呼ぶ。政府から見れば、これは税収以外の収入だから「税外収入」と呼ぶ。・・利子収入をもたらす国債は、日銀にとっては「資産」である。一方、日銀が発行する通貨(日銀券)は、日銀にとっては「負債」だ。

・・・日銀券は、今も日銀が発行する「債務証書」のようなものなのだ。だから、日銀券は日銀の「負債」として計上されるのである。・・日銀券には本来利子はつかない。

・・・為替が決まるメカニズムは何かというと、「2つの通貨の交換比率」だ。つまり、通貨の「量」の比率で決まるのである。

・・・経済学には「合成の誤謬」という言葉がある。簡単に言えば、個人レベルで見れば正しいことでも、同じことをみんながやったら困る、という話だ。

・・・例えば、経営難に陥った会社があるとする。負債が何百億にも膨れ上がっていると、そこにばかり目が行き批判しがちだが、本当の問題は「莫大な借金があること」そのものではない。「借金を返せるだけの資産がなかったこと」だ。つまり、借金に見合うだけの資産がある限り、じつはどれほど借金が積み重なってもかまわないといっても過言ではない。

・・・国債は政府の借金だが、同時に金融市場になくてはならない「商品」でもあるのだ。金融市場では、国債以外にも株や社債といった金融商品が取引されているが、基本は「国債と何か」という取引だ。つまり、国債と株、国債と社債を交換するという取引が基本である。

・・・国債は、金融市場において「お金」、あるいはかつての「コメ」のような役割を果たしている。これが「政府の借金・国際」のもう一つの顔だ。とにかく、すぐに他の商品と交換できる、非常に使い勝手のいい金融商品なのである。

・・・お金はお金として持っている限り、利益を生まない。でも、国債は国の借金であり、利子が付く。金融市場は、利払いのやり取りを通じて経済を動かしているといえる。・・国債がなくなっては、金融機関は商売ができない。

・・・金融資本主義が発展している他の国の金融市場でも、国債を介した取引が一番多い。国債の発行額は国によって違うが、国債が無くては金融市場が成り立たないという点では変わらない。唯一、先進国の中で、あまり国債を発行していない国はドイツだ。

・・・(日本の)国債の金利は低いまま取引されている。言い換えれば、これは民間金融機関が国債をまだまだ欲しがっているということだ。つまり、国債は「発行されすぎ」ではないのである。

・・・「政府から日銀への国債の利子が支払われるが、それは納付金として戻ってくるから、財政上の負担にはならない」・・借金の利払いも返済も、政府に「支払い義務がない」のではなく、「支払い義務はあるが、財政負担にはならない」

・・・建設国債も特例国債(赤字国債)も、その年の予算のうち、税収で賄いきれない分を補うために発行される、という点において、何も違いはないと考えていい。・・金融市場の現場では、建設国債と赤字国債は同じ国債として扱われており、区別されていない。・・建設国債と赤字国債を区分しているのは、政府の予算の中だけである。それも、先進国で予算において国債を建設国債と赤字国債とに区別しているのは、基本的に日本だけだ。

・・・外国人保有率とデフォルトとの間には、何の相関もない

・・・実は増税すると財務省の予算権限が増えて、各省に対して恩が売れて

はては各省所管の法人への役人の天下り先の確保につながる・・こうした思惑があるからこそ、財務省は「いつだってスキあらば増税したい人たち」なのである。

・・・個人の国債購入を仲介しても、銀行や証券会社には何のうまみもない。だから、銀行は、国債は自分たちで保有しておきたい。

・・・国債の金利は基本的にインフレ率に比例する。単純にいえば、インフレになれば金利は上がる。すると国債の相場価格は下がる。

・・・国債暴落は財務破綻とセットで起こる。「日本という国が倒産しそうだ」となれば当然、日本の国債は叩き売られ価格はまさに暴落する。

・・・市場ほど明確に、世の中の実相を映し出すものはない。都合のいいことも悪いことも、すべて明らかにしてしまう。そういう意味では非常ともいえるが、うがった見方や忖度など働く余地もない、正直な世界なのである。

・・・政府と中央銀行のバランスシートを合体させたものを、「統合政府バランスシート」と呼ぶ。するとどうなったか。・・資産が負債を上回ることが見て取れるだろう。・・それで、財政再建はとっくにできてしまっているのだ。

・・・国の場合も全く同じで、大事なのがグロスではなくネット、つまり負債の総額ではなく、負債と資産の差引額だ。・・たしかに政府の債務残高1000兆円はGDPの2倍だ。ただ一方で、政府には豊富な金融資産がある。さらに政府の「子会社」である日銀の負債と資産を合体させれば、政府の負債は相殺されてしまう。・・だからやっぱり日本に財政問題はない。

・・・一国の財務状態を「統合政府バランスシート」で考えるのは、海外では当たり前なのである。

・・・日銀と政府は、子会社と親会社であるかのように一体である。そして資産と負債は背中合わせである。したがって、日銀の「資産」である国債の「評価損」は、政府の「負債」である国債の「評価益」になるため、政府と日銀のバランスシートを合算すれば問題ない。サマーズ氏もバーナンキ氏も、こういうことが言いたかったのだ。彼らにとっては常識中の常識だった

・・・日本政府の資産の大半は、金融資産だ。そのため、海外では「日本政府は、売ろうと思えば売れる資産が沢山あるのに、ぜんぜん売ろうとしないのだから、財政破綻するはずがない」と見られている。「売ろうとしない」のは、もちろん日本に財政問題がないからだが、実は「売りたくない」という事情もある。・・日本政府の金融資産は、実は天下り先への出資金、貸付金が非常に多いのだ。

・・・日銀は国債の利子収入を国庫納付金として政府に納めている・・これが政府にとっては「税外収入」となる。さらに政府の資産は・・金融資産が多くを占めているからその利子収入も政府に入る。じつはこの二つの利子収入で、国債の利払いはまかなえてしまうのだ。

・・・国債は民間金融機関としても「買い続けたい金融商品」だから、余計に問題ないと言える。なぜなら、既に説明したように、民間金融機関はお金をお金のままでは持っておきたくないからだ。国債の利子収入はわずかだが、かといって、買うのが民間企業の株や社債ばかりではこころもとない。破たんリスクという意味では、民間企業より国の方が、はるかに信用できる。

・・・個人レベルで考えれば「借金を重ねるのは悪いこと」となるが、国レベルでは、借金を返すために借金をするのは当然だし、何も悪いことはないのだ。

・・・「日銀引受」・・借換債の一部を日銀に買ってもらうのだ。これは、財政法によって原則的に禁じられている。・・インフレになりすぎる危険があるからだ。そのため多くの識者が禁じ手としているのだが、私が大蔵省にいたころにも行われていたし、今も行われている。原則は原則であり、必要なら行っていいものなのだ。

・・・政府は、民間金融機関から新たにお金を借りるか、日銀からお金を借りるかで、国債の償還に充てればいいのである。しかも、日銀保有分の国債は、スティグリッツ氏のいうように国債発行残高と「総裁」されるので、この部分はまったく財政問題を生じさせないのだ。

・・・個人の真面目さ、道徳心につけこむのは、財務省のもっとも得意とするところなのだ。・・つねにミクロではなく、マクロで考えるクセをつければ、どういう政策なら経済が上向くかも、自分の頭でわかるようになる。マクロ経済学では、とかく個人レベルの道徳心は邪魔になる。

・・・今のような超低金利の世の中では、日銀の金融政策の効果は、限定的にならざるを得ない。・・国が国債を増発し、政府需要を高めるという財政政策と、日銀が民間金融機関から国債を買うという金融政策の「合わせ技」が必要なのだ。政府はせっせと国債を発行し、日銀はせっせと民間金融機関から国債を買えばいいのである。・・財政政策では、この両方を秤にかけて、より社会貢献度が高い選択肢をとっていくべきなのである。

・・・倹約するか、借金をするか、どちらがいいかは、そのときどきの経済の状況による。

・・・前に、現在の国債発行残高はGDPの200%くらいといった。しかし、そのうち半分ほどは日銀が保有しており、金融市場に出ているのは、GDPの50~60%程度だ、これでは実は足りないくらいなのだ。

・・・銀行は、個々人から預金を集めて、それを貸し出すことで利ザヤを稼ぐ。しかし、預金のすべてを貸し出しに回すことはできない。・・銀行は預金の引き出しに備えて、いつでも換金できる資産を持っておく必要がある。・・ただし、お金をお金のままでもっていても利子は生まれない。そこで少しでも収益性を高めるために国債を持つことが多いのだ。そのうえ、国債は金融取引にも欠かせないから、銀行はつねに大量の国債をもっておきたい。

・・・国債を毛嫌いすると、「財源が必要なら増税すべし」というロジックに簡単にはまってしまう。・・東北の人たちを助けたい、そのための増税なのだから、甘んじて受け入れるべき、という空気が日本中を覆っていた。しかしこれは、個人の道徳や良心につけこむという、財務省お得意の手段といわざるをえない。なぜなら、本当に災害復興を目指すなら、国債を発行するのが、もっとも効果的だからだ。災害時に増税するほどバカな話はないのである。・・災害時に税制をいじるなら、むしろ経済を活性化させるために減税するのが普通だ。

・・・なぜ日本だけが公的なB/Cが飛びぬけて大きいかと言えば、単純である。他の先進国に比べて、日本は高等教育における公的負担が圧倒的に少ないからだ。国を挙げた高等教育の推進で、日本は大きく後れをとっているともいえる。・・じつは「基礎研究と教育の財源は国債」と、財務省では言い伝えられてきた。財務法では認められていないが、財務省内では長くこのような考え方が受け継がれてきたのだ。・・基礎研究や教育は、実際に成果が出るまでに時間がかかる。このように、長期的、なおかつ大規模で広範囲に行う必要のある投資は、役所が主導すべきだ。ではその財源はどうするか。将来に大きく花開き、見返りがあると考えれば、教育への財源は税金ではなく国債が適切だ、というわけである。

・・・生産的な目的で発行される国債であれば将来的に自然と返済されていくから、発行額が増えても国の信用は傷つかない(財務負担にならない)というわけで、教育国債の考え方にも相通じるものがある。

・・・教育を無償化するのはいいだろう。しかしその財源は、消費税でもなく、保険でもない。やはり国債がもっとも適切なのである。

・・・財務省は、要するに「政府の負債が大きいから増税が必要」と言いたいだけなのである。これが、見解や考え方の相違などではなく、彼らが天下り先を確保するために、ひたすら自分たちの権限を保ち、さらに増やしたいがゆえである

・・・国債を償還するための基金とは、「減債基金」という。・・減債基金に毎年繰り入れるのは、国債残高の1.6%と決められている。なぜ1.6%かというと、60分の1、つまり、60年で償還するという「60年ルール」があるからだ。・・しかし先進国では「減債基金」は今や存在していない。「減債基金」が存在しないので、もちろん「60年償還ルール」もない。そして、「減債基金」がなくても先進国ではまったく困っていない。日本だけが例外としてあるのだが、その理由は国際償還のためでなく、・・予算のカサ増しのために他ならない。・・実際には、「債務償還費」と「利払い費等」を合わせた23.6兆円のうち、およそ10兆円は、計上する必要すらないのだ。

・・・補正予算まで見越して、財源を確保するために、財務省は最初に成立する本予算の時点で「歳出」を多く見積もる。それが、「国債費」の「利払い費等」や「債務償還費」に化けているのだ。・・補正予算が成立したときに国債を増発すればいいのに、前もって余計に国債を発行することで、余計な利払いが生じているのである。

・・・国債の金利は、じつは「最低でも0.05%」と決められている。』

2019年5月 3日 (金)

もっと言ってはいけない (橘玲著 新潮社)

前作に比べると読了時の満足感は低かった気がします。おそらく、事実よりも著者の意見が多く含まれており、それに自分としては納得できないものが多かったからだと推察します。まあそれでも初めて知ることや、書きとめておきたいことも多くありましたので、読んでよかったとは思っています。

『行動遺伝学は、遺伝の影響が身体的な特徴だけでなく、「こころ」にも及んでいることを明らかにした。すべてが遺伝で決まるわけではないものの、私たちが漠然と思っているよりその影響はずっと大きく、精神疾患の場合は症状が重いほど遺伝率は高くなる。

・・・日本ではまだあまり理解されていないが、英語圏では一般書でも根拠を示さない主張は議論に値しないとみなされている

・・・AI(人工知能)に東大の入学試験を受けさせる「東ロボくん」で知られる新井紀子氏は、全国2万5000人の中高生の「基礎的読解力」を調査し、3人に1人がかんたんな問題文が読めないことを示して日本社会に衝撃を与えた。・・日本人の3割は、むかしから「教科書が読めない子供たち」だった。そんな中高生が長じて「日本語が読めない大人」になるのは当然なのだ。・・①日本人のおよそ3分の1は日本語が読めない。 ②日本人の3分の1以上が小学校3~4年生の数的思考力しかない。 ③パソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は1割以下しかいない。 ④65歳以下の日本の労働力人口のうち、3人に1人がそもそもパソコンを使えない。・・これはOECDの依頼を受けた公的機関が実施した調査結果で、それを疑わしいと感じるのはあなたが知能が高い人たちの集団の中で生活しているからにすぎない。・・OECDの平均をもとに、PIAACの結果を要約してみよう。 ①先進国の成人の約半分(48.8%)はかんたんな文章が読めない。 ②先進国の成人の半分以上(52%)は小学校3~4年生の数的思考力しかない。 ③先進国の成人のうち、パソコンを使った基本的な仕事ができるのは20人に1人(5.8%)しかいない。PIAACの衝撃的な結果はなにを意味しているのだろうか。それは、「ずっとむかしからこんなものだった」ということだ。・・先進国に膨大な数の「文章の読めないひと」がいるという不都合な事実は、じつは1970年代のアメリカですでに指摘されている。・・先進国ですら、大半の労働者は知的作業が要求するスキルを満たしてない。―――これが、私たちが生きている世界の「ファクト(事実)」だ。・・ジョナサン・コゾルは「リベラル」な態度をこう批判する。・・もし悲劇を本当になくしたいのであれば、事実を事実として直視しよう。

・・・ヒトの脳は、直感的には因果律しか理解できないように作られているため、あらゆる出来事に無意識のうちに原因と結果の関係を探す。これが、自分にとって不愉快な統計的事実を定義と混同し、それを否定するために経験的事実を「ブラックスワン」として持ちだす一番の理由だろう。

・・・「アカウンタビリティ(証拠によって合理的に説明できること)」で判断するのが、“世界標準”のリベラルの原則だ

・・・男性の脳の機能が細分化されていて言語を使う際に右脳をほとんど利用しないのに対し、女性の脳では機能が広範囲に分布しており、言語のために脳の両方の半球を使っている・・男女の権利が平等なのは当然だが、脳の機能のちがいが仕事の好き嫌いや適性に反映されている―――。この主張が「差別」でないのは、反証可能な形で提示されているからだ。

・・・行動遺伝学が発見した「不都合な事実」とは、知能や性格、精神疾患などの遺伝率が一般に思われているよりもずっと高いことではなく(これは多くのひとが気づいていた)、ほとんどの領域で共有環境(子育て)の影響が計測できないほど小さいことだ。

・・・キワーニは、なぜ「ゲイ遺伝子」があるのかをきわめて明快に説明した。それは(男に対する)性的魅力をつくる役割を担っているのだ。だからこそ、ゲイ遺伝子を持つ男性は同性愛者になり、同じ遺伝子をもつ女性は周囲の男性にもてることでたくさんの子どもを産む。これを差し引きすれば、平均的な(たいしもてない)男女よりも効率的に遺伝子を複製できるのだ。―――ここから芸能人(大衆から魅力的だと思われる人)にゲイが多い理由を説明できるかもしれない。

・・・この研究が示すのは、「リベラルな社会ほど遺伝率が上がる」という単純な事実だ。

・・・ミネソタ大学の心理学者サンドラ・スカーとリチャード・ワインバーグは1976年に、黒人などマイノリティの子どもを養子にした白人家庭の大規模な調査を行い、裕福な養親に育てられた黒人の子どもの平均的なIQが白人の子どもと変わらないことを示した。

・・・いまでは、遺伝の影響は年齢によって変わることが分かってきているのだ。・・「知能に及ぼす遺伝の影響は発達とともに増加する」・・大半のひとは、赤ちゃんの時に遺伝の影響がもっとも大きく、成長するにつれて家庭や学校などで多様な刺激を受けるのだから、環境要因が強まって遺伝の影響は小さくなっていくと思うだろう。だが発達行動遺伝学の研究は、これを真っ向から否定する。

・・・もっとも教育効果が高いのは養育費で、次いで労働所得、生活保護の順になった。同じ不労所得なのに、生活保護の効果が際立って低いのは(ひいては子供の)自尊心を低下させるからのようだ。・・教育効果をもたらすのは所得そのものではなく、所得を増やすなんらかの要因(母親の能力や勤勉さなど)が関わっている

・・・オーストラリア、デンマーク、ノルウェー、イギリスなどの調査で、21世紀に入ってから知能の平均水準が低下しはじめていることが確認されている。

・・・これはあまり指摘されないが、標準偏差が大きいということは、「極端に知能の低い」人数も男の方がずっと多いということだ。

・・・ヒトはごく普通に呼吸をコントロールできるが、近縁炷であるチンパンジーは意識的に息を止めたり吐いたりすることがうまくできず、これが「しゃべれない」大きな理由になっている。

・・・日常的に「ヒト」と「人類」を区別することはないが、人類学では両者は異なる意味で使われる。「ヒト」は現生人類(ホモ・サピエンス)のことで、「人類」はヒト属のみならず化石人類(アウストラロピテクス属など)を含むより広義の分類だ。

・・・進化を「遺伝的な偏り(遺伝子頻度の変動)」とするならば、それが生じる原因は突然変異だけではない。それ以外に、主要なものとして移住、遺伝的浮動、自然選択、社会選択があり、近年ではエピジェネティクス(遺伝子発言の後天的変化)に注目が集まっている。

・・・赤血球は血液の粘度を上げるので、EPO(エリスロポエチン)の分泌が過剰だと血栓が生じる危険性が高くなってしまう。

・・・ヒトの種内の遺伝子的多様性は、チンパンジーやゴリラ、オランウータンより圧倒的に小さいこともわかっている。

・・・ヒトの進化が「加速」しているのは、遺伝と文化(社会)が共進化するかだ。文化によって社会環境が変わると、それに適応した遺伝子が選択され、その効果はポリジェニックに増幅される。数千年どころか数百年あれば、これだけで他の集団とは異なる遺伝的傾向をもつグループが生まれる可能性がある。

・・・遺伝学者のグループが就学年数に関する情報だけを抽出した。その後、家庭の経済状況などのさまざまなちがいを調整したうえで、ゲノム解析によって、就学年数の少ない個人より多い個人の方に圧倒的によく見られる74の遺伝的変異が特定された。

・・・伝統的社会に暮らすひとたちのIQを測ると、それが生得的なものか文化のちがいによるものかは別として、かなり低いことが知られている。・・空間記憶能力を測るこのテストで、アボリジニの子どもは同い年の白人の子どもをはるかに上回る成績を上げた。・・アボリジニの高い空間記憶能力は、IQが知識社会への適応度を測っているに過ぎないことを明確に示している。知識社会(文明社会)とは別の環境であれば、伝統的社会のひとたちのほうがずっと“賢い”のだ。

・・・いずれの説も、「パレスティナ人とはイスラームに改宗したユダヤ人」ということを示している。アラブ系ユダヤ人とパレスティナ人が遺伝的にきわめて近いことはDNA解析によってすでに明らかになっており、シーア派系の少数派でレバノンなどに住むベドウィン(バニ・ハリド)も同様にユダヤ人と遺伝的に近接している。だがこれも、彼らはもともと同じ民族で、ユダヤ教にとどまっていたか、イスラームに改宗したかのちがいだと考えれば当然だ。

・・・DNA分析では、今日のアシュケナージ系ユダヤ人は中東の遺伝子をいまだに50%ちかく保有している。これは過去2000年間における混血率が1世代あたり1%未満であったことを示しており、ここまで同族痕が極端だと、有利な遺伝的変異は散失することなく集団内に蓄積される。・・アシュケナージのIQはヨーロッパで110、アメリカで115とされている。アインシュタインやフォン・ノイマンなど現代史に名を残すユダヤ系の「天才」のほとんどがアシュケナージだ。・・ここで興味深いのは、アメリカのアシュケナージのIQ(115)が、ヨーロッパのアシュケナージ(110)より5ポイント高いことだ。その理由をリチャード・リンは、ナチスの迫害に気付いてアメリカに逃れることのできたユダヤ人は、ヨーロッパに残されたユダヤ人より裕福で知能が高かったからだとする。わずか80年ほど前の出来事で、集団のIQは5ポイントの変わるのだ。

・・・インド人の遺伝子を調べると、アーリアに由来する北インド系と、インド亜大陸の内部に隔離されていた南インド系にはっきり分かれ、バラモンなど高位カーストは北インド系で、低位カーストや不可触民は南インド系だ。・・y染色体(父系)とミトコンドリア染色体(母系)の解析から、北インド系の少数の男が南インド系の多くの女と子を作っていることも分かった。・・ヴァイシャ(商人/庶民)階級では、2000~3000年のあいだ族内婚を厳格に守って、自分たちのグループに他のグループの遺伝子を一切受け入れていないことが示された。ジャーティと呼ばれるカースト内の職業集団にもはっきりした遺伝的な違いがあり、インドは多数の小さな集団で構成された「多人種国家」であることが明らかになった。・・西ヨーロッパ人と北インドのアーリア、イラン人は同じ起源をもつ同祖集団で、だからこそ、同系統のインド=ヨーロッパ語を話す。

・・・認知心理学では、政治的にリベラルなひとは保守的な人に比べて知能が高いことが繰り返し確認されている。・・リベラルと保守を分けるのは言語的知能と新奇なものへの好みになる。言語的知能が低いと(いわゆる口下手だ)と、世界を脅威として感じるようになる。なんらかのトラブルに巻き込まれたときに、自分の行動を相手にうまく説明できないからだ。

・・・華僑は、知能の優位性のある地域でしか財閥をつくることができない。東アジア系の国はIQが同じなので、経済的成功のための条件がない。だから、日本には華僑財閥が存在しないのだ。

・・・近年のDNA解析によれば、ヤマト人(現代日本人)は大陸由来の弥生人と土着の縄文人の混血であることが分かっている(二重構造説)。地域によって異なるが、縄文人のDNAの割合は平均して14~20%程度で、アイヌ人とオキナワ(琉球)人は弥生系との混血の度合いが少ない。

・・・体質的にアルコールをまったく受け付けないタイプは「下戸」と呼ばれ、日本では珍しくないが、じつはヨーロッパやアフリカ、アメリカ大陸にはほとんどいない。・・これを「下戸遺伝子」と呼ぶなら、中国南部に多く、そこから離れるにつれて保有率が下がっていく。・・下戸遺伝子の保有率は中国南部の23.1%に対し、北部では15.1%と大きく下がる。ところが日本人の保有比率は23.9%と中国南部と並んで最も高い。さらに日本国内でも保有率に顕著な地域差があり、近畿地方を中心とした本州中部に多く、東北と南九州、四国の太平洋側で少ない。これは弥生人の中に中国南部を起源とする下戸遺伝子をもつ者が多く、それが縄文人と混血したからだろう。

・・・ヒトはオオカミを飼いならし、18世紀以降の品種改良によってわずか数百年でセントバーナードからチワワまで、(イヌの本性を維持しつつも)外見も気質も大きく異なるさまざまな犬種をつくりだした。ある特殊な条件の下では、進化はきわめて短期間で起きるのだ。

・・・近年の脳科学では・・他人の道徳的な罪を罰すると、セックスやギャンブル、ドラッグなどと同様に快楽物質のドーパミンが放出されることを明らかにした。ヒトにとって「正義」は最大の娯楽の一つなのだ。

・・・農業という技能イノベーションでカロリー生産量が急激に高まったことで、紀元前1万年から西暦1年までのあいだに世界人口は100倍に増加した。(推定値は40~170倍)。農業が現生人類に与えた最大の変化は、食糧を求めて少人数で広大な大陸を移動する狩猟採集生活から、土地に縛り付けられた人口密度の高い集団生活に移行したことだ。これによって人類は感染症の危険にさらされることになって免疫機能を発達させ、炭水化物を大量摂取しても糖尿病になりにくい体質へと“進化”した。

・・・アジア系アメリカ人のIQは白人とほぼ同じだが、医師、科学者、会計士などの専門職についている割合が白人より高く、これがアジア系の世帯年収が白人より25%も高い理由だとされている。知能とは別に、努力、勤勉、信頼性などの要素(自己コントロール力)が付加価値になっているのだ。―――要するに、真面目に頑張れば報われるという話だ。

・・・性格はもちろん親から受け継いでいるが、訓練によって伸ばすことが(知能よりは)期待できるのだ。心理学では人格の「ビッグ・ファイブ」を開放性、真面目さ、外交性、協調性、精神的安定性としているが、これらの性格と仕事の成果(業績)の関係をみると、すべての仕事においてもっとも影響が大きいのは真面目さで、次いで外向性、精神的安定性となっている。

・・・アメリカでは協調性がない=個性的な方が高い所得を得られるが、日本の会社は個性を押し殺して滅私奉公しなければ出世できず、しかもこの努力が報われるのは男だけで、女性社員がいくら組織に協調(奉公)してもムダ、ということになる。

・・・日本人のあいだでうつ病が多いことは広く知られており、「うつは日本の風土病」という精神科医もいる。・・日本人の典型的な性格は、ドイツの精神医学者テレンバッハが提唱したうつの病前性格「メランコリー親和型」そのものなのだ。しかしなぜ、日本人は「メランコリー親和型」なのか。そのもっとも説得力のある仮説は「脳内のセロトニン濃度が生得的に低いから」だ。

・・・意志力や自制心にはさまざまな心理的要因があるだろうが、たしかなのは、不安感が強い人間は将来を心配し、そのため現在の快楽を先延ばししようとすることだ。東アジア系は遺伝的・生得的に脳来のセロトニンが少ないことで不安を抱きやすく、強いストレスにさらされるとうつ病を発症するが、その代償として必死に勉強し、真面目に働いて倹約にいそしむことで、アメリカ社会で経済的な成功を手に入れたのだ。

・・・進化論では、睾丸の大きさは性淘汰で説明される。ゴリラのオスは身体の大きいものの睾丸はきわめて小さい。それはゴリラが一夫多妻だからで、競争に勝ち残ったオスはメスを独占できるため、大きな睾丸を持つ必要がない。それに対して、乱婚のチンパンジーやボノボは、身体に比してきわめて大きな睾丸をもっている。これは複数のオスが同じメスと性交するため、子孫を残す競争が膣内で行われるからだ。ヒトの睾丸はこの中間で、ゴリラより競争が激しいがチンパンジーほどではない「一夫多妻に近い一夫一妻」だと説明される。

・・・タンポポはストレスのある環境でもたくましく育つが、その花は小さく目立たない。その一方でランは、ストレスを加えられるとすぐに枯れてしまうものの、最適な環境では大輪の花を咲かせる。・・日本人は遺伝的に、特定の環境では大きな幸福感を得ることができるものの、それ以外の環境ではあっさり枯れてしまう「ひ弱な乱」なのだ。』

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