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2019年1月15日 (火)

誰も教えてくれない 田舎暮らしの教科書  (清泉亮著 東洋経済新聞社)

私も田舎出身ですが、いくつか当てはまるところも確かにあるなと感じました。

・・・永住を視野に入れた「根差した移住」を前提にした瞬間に、小さな集落、日本中の地方は、都会人に対してガッチリと、かたくなに心の扉を閉ざしている・・本質は、住めば地獄、であることさえ少なくない。むしろそのほうが多いだろう。日本列島はどこまで行っても、ムラ社会であるからだ。

・・・ムラ意識とは、究極には無条件に習慣を踏襲し、全体に一切抗わない生き方であり、それは地方や過疎地だけにあるものではなく、何よりも移住を希望する都会の人間の内側にも、潜むものとも言える

・・・「同じ長野の人間でも感じるのは、村人は、決して自分のことはしゃべらない。特に人前では絶対にしゃべらない。だけれども、村の人ひとりが知ったことは、それこそ瞬時に村をめぐっている。・・」・・元駐在さんは、「自分のことは絶対に語らない」、それが小さな集落での和を保つ秘訣なのだろうと、そう教えるのだった。

・・・「村の人たちも、自分のところで採れた野菜やキノコなんかをよくもてきてくれるのですが、もらったら必ず返さないといろいろ言われます。・・」

・・・国民健康保険は、自治体ごとの収益で運営されていて、当然、人口の少ない自治体ではプールされる額が少ないので、一人当たりの負担が超高額・高率にならざるをえないんです」

・・・「実は、過疎地域の健康保険料は地獄の出費だと、先に移住した友人から聞いていて、・・退職したあとも2年間は会社の社会保険を利用できる制度を利用して、緩衝期間にしています。翌々年になって年金の収入での算定になれば、ほぼただ同然ですから」

・・・「・・俺なんかもね、村に帰ってきてすぐこう言われたんだ。おい、お前さんざん東京でいい思いしてきて、年とったからって戻ってきて、俺たちのカネで暮らすのかって。結局は、カネの話ばっかり。もう、息が詰まりますよ。・・」

・・地方の自治体が移住者に期待するのは、決して人口増ではなく、村への実入り、つまり税収増への期待なのだ。だがその期待の一方で、年金生活者や就農希望者など、地方に来る人たちは、大きな納税余力を持っていないという現実がある。そこに、地方のいら立ちが見える。

・・・固定費が都会よりも高くつくとなれば、限られた収入しかない年金生活者にとって負担は重い。

・・・田舎暮らしとはそれすなわち、こちらから異なる世界に飛び込む行為にほかならないのだから、相手もこちらに譲歩してくれる、妥協してくれる、理解してくれる、と考えることは大きなつまずきの原因となりかねない。・・考えられない振る舞いが地方では常識である。・・理由が判然としないまま、何度挨拶しても、何度会釈をしても、まるでそこに人などいないかのように無視されることなど、日常茶飯事である。もちろん、これも究極は個々人によるが、地方は個人では行動しないが作法である。集団で行動し、集団で意思を統べるので、個人の振る舞いは都会の比ではないほどに、地域全体に通じていると見た方が無難である。

・・・「新住民」は、地元組織にとってはあくまでも新入りにしかすぎず、住民となってから初めて、まるで新入社員のように集落の仕事を覚え、雑巾がけさながらの修行が始まるのだ。

・・・都会の高度経済成長から取り残されてきた地方は、もとよりそうして互助会同様の作法を徹底し、集落全体で共倒れを防いできた伝統がある。それゆえに、集落全体で収入を得る共同事業は数多いのだ。・・「とにかく、無償奉仕の仕事ばかりがやたらと多いのが地方で、それを無視すると暮らしていけない」

・・・自給自足はカネも人手もかかり、決して安くはない。しまいには生活に必要な最低限度の支払いさえ滞り、生活保護を申請するケースまで生まれている。都会の公営住宅は一度引き払ってしまえば再入居はまず不可能なので、結局、地方に流れたかたちで、都会に戻ることさえままならないのだ。

・・・本当に肝心なものは何か。周辺の地図、である。縮尺が異なるものから、歴史の舞台や遺跡、あるいは樹木の植生など、テーマごとに分かれた周辺の地図をとにかくたくさん集めるのがポイントだ。

・・・旧街道が抜けている土地はやはり、歴史的に往来があったため、人間や地域が新しいものに慣れており、意識が開けていることが少なくない。

・・・山であれ、海辺であれ、高原であれ島であれ、どんな場所にも、四季の中でもっとも住みづらい季節がある。それが冬。

・・・何の摂理か、田舎暮らしというのは、男女ペアでの分業生活があって初めて成り立っているかのようでさえある。

・・・還暦をまわって田舎暮らしをする知人男性の生活スタイルは、ひと月のうち10日間は必ず横浜に戻り、その間に病院通いや銀行での出納管理などを集中して行い、残る20日は地方に戻ってくるパターンである。

・・・一歩、市町村を越えて隣の自治体に行けば事情は異なる。自分の土地と人間のことを決して語らないのは一貫しているが、一方で、よそのことは饒舌に話すのである。

・・・地方は古老を頂点に、そこを仰ぎ、職を預かる市町村長など首長、その下に、青年会、婦人会、消防団と完全なるヒエラルキーが形成されている。・・その中において唯一、その地域性の中でヒエラルキーを超越した存在がある。それが、住職と駐在さんに他ならない。最長老、最有力者をもってしても、菩提寺の住職と、完全なるよそ者でありながら警察権力という圧倒性の前に手も足も出ない駐在さんだけには頭が上がらないからだ。

・・・住んでみたことで覚える住みづらさにかなう情報ありえないのだ。だからこそ、移住を決めたら、まず賃貸がいい。

・・・シダやクルミ、クリなど大量の水分を必要とする樹木がある場所は土中に水気が多い。

・・・日本全国、あらゆる地方に共通するのは、移住者が求める物件として人気なのが別荘利用されていたもの、という点。移住者が求める永住にも向いた物件は、都会の者が利用してきた別荘物件こそがニーズにマッチしていることが多い。

・・・個人的には、いい加減なものの方が圧倒的に多いように見受けるのがバブル期に建てられた物件の数々である。・・バブル期の建築ブームの折り、そうして未熟な職人を現場に投入したことの影響が大きかった。とりわけ海外からの出稼ぎ職人と日本人の親方とは、身振り手振りがしょせんで、コミュニケーションさえままならないのだから当然であろう。

・・・人気の別荘地周辺では、それこそ山のようにある。不動産会社のホームページに載っている物件だけが売り物件でないという視点で眺めていくといい。

・・・物件探しでは、最初に点検口の有無を確認するくらいの気持ちでいた方がいい。住めば必ず必要になるのが点検口だからだ。

・・・LPガスは都市ガスに比べて極めて割高であり、値引き交渉も容易ではない。

・・・ウッドデッキは屋内にある家屋の設備以上に経済的にもメンテナンスが厄介で重荷になりうるのだ。

・・・値下げ交渉で有利なシーズンでまず間違いないのは、やはり冬場。それも、誰もが部屋の中に籠りがちな真冬である。11月下旬から1月、くらいまでであろうか。・・値引きには根拠と説得力が不可欠なのだ。それも、オーナーが納得するような。本来はオーナー側の代理人であるかに見える不動産会社だが、しかし、オーナー側も見立てが甘い場合がほとんどだ。

・・・戸建てであれ、マンションであれ、都会に資産があるものは絶対に売ってはならない。戻る瞬間が必ず訪れる。戻りたいときが必ず、戻らなければならないときが必ず訪れる。それが移住生活の最後の瞬間である。・・目先の負担で、戻るべき場所を失ってはいけないのだ。

・・・住民税を含めた税金は都会の方が安く、人口の少ない地方では高くなるのが基本的な前提だ。・・都会では年収1000万円あればこの程度、という課税額が、人口1000人の村では、年収が200万円程度で課税されてしまうこともある。・・年収がほとんどない者にとっては、田舎暮らしは課税額も少なく理想郷。一方、多少でも副業や何らかのまとまった収入がある者にとっては都会とは比べものにならない額を課税される恐れがある。

・・・降雪地域で走っていた車は、融雪剤の塩化カルシウムを車体の奥に巻き上げている。その字のごとく、山にも塩害はあるのだ。

・・・中古車に馴染みのないあ素人が購入するに当たってまず間違いないのは、大阪や東京などの国道沿いで買う、ということだ。・・多くは都会で車庫に眠っていた車である。都会の車庫に眠っていた車の方が、本質的な傷みは少ない。

・・・地域の業者はパイを奪い合って生きているわけではない。共存共栄で、限られたパイを共有し合って生きているので、仕事とりたさの突出した行為は、それこそ、業者のなかで村八分ものの非難を受けることになる。

・・・集落絶対、一糸乱れぬ協調精神こそが集落の掟のなかで、自主性を主張していると思われればアウト、なのだ。だからこそ、返礼は高くつく。人情は高くつくのだ。気が付く人ならばすぐに思い至るだろう。返礼は倍返しにしておかなければ、必ず恨み節が囁かれる。

・・・地方行政の最大の難所は、行政の指導が及び得ない領域があり、それが地域を取りまとめる、区であり、組でありといった集落にほかならない。行政がその方針を徹底させるにしても、そうした区や組の最有力者である長老組が納得しなければ物事は動かないのだ。

・・・地方は今でも厳然とした長幼の序が徹底している。表に立っている者の背後にある、揺るぎない序列と権力を把握することが大事だ。・・移住して見極めるのは、表に立たされている藻のではなく、裏に潜む実力者なのだ。

・・・そんなやり取りをどれだけ積み重ねても、いったん、不作法だと思い込まれれば、即、掌を返されるのが集落の掟でもある。

・・・ただ一つ、間違いないと思えることがある。彼等もまた、そうして露骨な無視の文化のなかで育ち、そして今日までなおその無視をし、され、の文化圏に生きているということだ。・・無視が文化、という地域が確かに存在するのだ。さらっと無視し、さらっと無視される。・・とにかく、無視されても深いことは考えずに、形通りのあいさつを繰り返しておくのが最善である。

・・・集落では、移住者の全てを知りたがる。もちろん、それに抗う術はない。都会と異なり、遠慮の作法はそこにはない。聞きたいことを直接に、聞きたいだけ、聞かれるのだ。・・安全なのは、訊ねられたことでも、5割引きの半分くらい話しておけばいいのだ。さらに訊ねてくれば残りを話す。相手の気がそこで済めば止めておく。

・・・孫の話は、集落における生意気な自慢話でしかない、ということを肝に銘じたい。・・どこまでいっても、地元民は移住者を決して快く思っていないか、快く思いつつあっても、心中どこかに、楽に生活しやがって、といったそねみの種のようのものを抱いていると思った方がいい。・・孫の話は、地元民の身内話としてだけ許されるものであり、移住者がそんな話を繰り出せば、すべてが自慢話にとられ、それはいずれ、集落のヒエラルキーに下克上を諮ろうものかという油断ならない危険思想であるやの、恐るべき話にさえなりかねないのだ。

・・・地方に生きる人間にとっては、都会暮らしをしてきた人間に対するまなざしは唯一つ、「持てる者か持たざる者か」に尽きると言ってもいい。地方の集落が認める「持てる者」の条件とは何か。それは東京や大阪といった都市圏に戸建てやマンションを持っているか、に尽きる。・・とにかく、大阪や東京に、その郊外に家をもっている者は、自分よりも上、それ以外は都会からの脱落者であり下、という意識だと心得ておけば間違いはない。・・持てる者には弱く、持たざる者には強い、これが地方集落の一面の人間心理である。あくまでも一面の、だが、かなり決定的な意味を持ってくる。

・・・不遇を囲うのも一緒でなければとにかく罵詈雑言、なのが田舎暮らしの日常の空気なのだ。

・・・かつても今も、この登記簿だけは住所も含めて個人情報が誰でも閲覧できるようになっている。

・・・もっとも気を付けるべきは「せんせい」と呼ばれる商売の人々。移住先で最も難儀な隣人は上から目線の「せんせい」と、指摘意識が強い「元記者」である。

・・・得てして移住希望者が誤解しがちなのが、移住地人気ランキングだ。ランキングには一定程度の説得力があり、またそれぞれの裏付けもある。しかしそれはあくまでも、移住するまでの人気ランキングであり、定住してからの人気ランキングとは異なる。・・移住すれども定住せず。それが今日までの一つの大きな流れとなりつつある。もちろん、「定住」の評価基準をどう定めるかにもよってくるが、私のみるところ、10年が一つの区切りである。移住しても、10年居れば大成功と言えるだろう。だが、ほとんどの場合は、10年どころか、4、5年さえ居着かない。

・・・手抜き工事。新築の場合、これがもっとも問題となる部分にほかならない。その手抜きが極めて、ごく当たり前に行われるのが残念ながら地方の実態である。・・地方における大工仕事は、農家の農閑期の仕事だ、くらいに構えておいた方がいい。

・・・最初の挨拶の順序が、集落移住ではとにかく決定的だ。

・・・灯油にLPガス、ガソリンに、田畑のない移住者は競争力の乏しい地方の割高な食材購入と、とにかく都会生活以上に生活費がかかるのだ。1円でも2円でも必要に感じる瞬間がやってくる。さらに家屋の老朽化や補修、手入れにもコストはかかる。

・・・年齢を増してもスキルとして重宝される翻訳家やデザイナーといった職種の人々は田舎暮らしも成功しているケースが多い。

・・・現在、外国語教育は、都会並みに地方でも熱心である。いずれは東京や大阪に出て就職をさせなければ生きていけないという逼迫感の強い地方の教育熱と危機感は、都会とはまた違った教養への枯渇感を生んでいるからだ。

・・・地方の人間は決して都会の人間を尊敬もしていないし、快くも思っていない。ここが出発点であり、大前提である。

・・・持てる者から多くを得ることは当然であり、そうでなければ地方の集落はこれまで存続できなかったのだから、そこに敬いや感謝といった感情は生まれようもない。

・・・移住は不都合と不条理の宝庫である。自分が想定するメリットよりもデメリットが必ず上回るのが都会に対する地方であり、田舎である。・・山間部であれ海沿いであれ、共通するのは、開拓の苦労である。田舎はことごとく開拓、開墾の地である。どこまで行っても山岳地帯しかないこの日本列島に田園風景、畑が広がるのは、彼らが戦前から戦後もく、開墾し続けてきたからである。』

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