新聞記事から(【日曜経済講座】誰のための消費税増税⁉ デフレで余るカネ...中国に 田村秀男氏 産経新聞(平成30年10月28日朝刊))
安全保障とは本来、軍事や外交だけでなく、経済も含めて考えるものでした。この記事のような観点も含めた安全保障を考える人物が政府、政治家、あるいは経済界に少ないことはさみしく、情けないことです。
いきなりだがグラフを見よう。ことし6月末の邦銀の対外融資残高などをアベノミクスが始まる前の2016年6月末と比べた増減額である。その額は1兆1167億ドル(約125兆円)で、国際金融を総攬する国際決済銀行(BIS)加盟国の銀行融資の合計増額1兆1161億ドルとほぼ一致する。米銀の対外融資増額は2681億ドル増、英国の銀行は6182億ドル減。邦銀が国際金融市場を全面的に支えてきた。
同期間の大半は、異次元金融緩和の日銀が373兆円の資金を国内金融機関に流しこんだが、実にその3分の1相当額がニューヨーク、ロンドンなどの主要国際金融市場に流れ込んだ。
米連邦準備制度理事会(FRB)はドル資金を大量発行する量的緩和政策を14年秋に打ち止めたあと利上げに転じている。ドル金利上昇は新興国や発展途上国から米国への資金還流を促す。FRBの金融引き締めに伴う世界への衝撃を和らげるのが日銀緩和で、有志を担うのが邦銀だ。
融資は債務と表裏一体である。国際金融市場からの最大の借り手は中国であり、中国側統計によればその対外債務増加額は1兆848億ドルに上る。邦銀の対中直接融資増加額は300億ドルにとどまるが、カネに色はない。中国は国際市場経由で日本発の資金を十分に調達してきた。
それにしても、なぜ日本の金融機関はこうも外向きなのか。日銀統計によれば、同じ期間の国内銀行の国内向け貸出増加額は61兆円、BIS統計が示す対外融資増の半分にとどまる。メガバンクの融資担当は「国内の資金需要がない」と口をそろえるが、需要がないのは、国内経済がデフレ圧力にさらされているからだ。
デフレの主因は緊縮財政にあり、緊縮の最たるものが消費税増税である。アベノミクスは当初こそ、財政支出を増やして金融緩和と連動させて内需を喚起したが、政府は14年度には消費税率を5%から一挙に8%に引き上げた。3%分の増税は毎年の家計消費の8徴円に相当する。
安倍晋三政権はさらに財政支出も大幅に消滅した。増税後もこの緊縮財政路線を堅持しているので、家計消費水準は停滞を続けている。その結果、日本のインフレ率はゼロ%前後で推移し、いまだにデフレから抜け出せない。
消費税増税がもたらすデフレ圧力と、日銀の異次元金融緩和策が組み合わされる結果カネが回らないので、金融機関は国内ではもうけられない。海外融資に重点を置くしかないわけだが、それは国内の中小企業設備投資を抑えつけ、賃上げの抑制、デフレという悪循環をもたらす。せっかくの異次元緩和は国内のためになっているとは言い難いのだ。
そんな中、米中貿易戦争の余波で国際金融市場が荒れている。中でも、流入するドル資金をベースにした異形の金融システムによって成り立つ中国経済の不安は高まるばかりだ。トランプ米政権の対中制裁関税は中国の主力外貨源である対米貿易黒字を大幅に減らすことが確実なので、金融制度の根幹が危うくなる。
上海株式市場は一本調子で下落し、外国為替市場では大量の人民元売りが続く。トランプ大統領は対米貿易制裁をさらに強め、対中輸入品全てに高関税をかける準備を指示しているから、中国の習近平国家主席はますます窮地に追い込まれる。
習氏が熱望してきたのが、日本の対中金融強力だ。安倍首相は今回の訪中で、3兆円規模の通貨スワップ協定に応じた。通貨スワップは通貨危機時に2国間で自国通貨を融通し合うという建前で、中国は韓国とも結んでいる。しかし、韓国ウォン、人民元ともローカル通貨にすぎず、中韓協定の実効性は限られる。その点、円はいつでもどこでもドルに換えられる正真正銘の国際通貨だ。外貨難に苦しむ中国が「日中友好」の甘い言葉をささやき続け、通貨スワップ協定に日本を誘い込んだ。
政官ばかりではない。経団連は技術とカネ両面の対中協力に前のめりで、野村證券などの金融機関大手も中国と共同での投資ファンドに走る。安倍政権のほうは来年10月からの消費税増税実施を約束している。デフレ圧力は強まり、国内資金需要低迷は確実、余ったカネは中国へと流れる。いったい、増税はだれのためなのか。』