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2018年3月12日 (月)

戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊 (川島博之著 講談社+α新書)

中国を何度も訪問した著者による鋭い考察で、たいへん参考になりました。

『・・・中国の親戚の結束は固いのです。
・・・中国の歴史とは、多くの農民を統治する歴史、と言い換えてもよいのです。
・・・集客が見込めない観光地に空港を造っていることや、冬で町が閑散としている時期でもマオタイ村全体を照明で煌煌と照らしていることに納得がいきます。そう、そのすべてがGDP増大につながるからです。・・中国では、短期間の実績だけが重要なのです。それが、長期的には負債の増加につながり地方経済に悪影響を及ぼすとしても、陳敏爾には関係がありませんでした。・・現在、中国のGDPは、このような施策によって嵩上げされているのです。・・現在、李克強の実績作りは営口市にとっては重い足かせになっているようです。それは、各種の施設の維持に費用がかかるためです。・・地方に派遣された官僚は、実績作りのため、無駄な公共投資を行っています。
・・・中国は、都市戸籍を持つ4億人と、農民戸籍を持つ9億人からなる国、戸籍アパルトヘイト国家です。・・都市戸籍を農民戸籍---それは日本の江戸時代の身分制度のようなものです。武士のこどもとして生まれれば武士、農民の子供として生まれれば農民になります。「おぎゃー」と生まれ落ちたときに、身分が決まるのです。このような、とても21世紀とは思えない制度が、中国には厳然として存在します。
・・・農民戸籍を有している成人は、国からの内の配分を受けることができます。ただ、・・平均すれば一人当たり0.16ヘクタール程度しかありません。・・農民は、健康なら、いつまでも働くことができます。つまり定年がありません。そのため中国では、農民には十分な年金制度がありません。また、農民戸籍の医療保険は都市戸籍とは別であり、都市戸籍の人の方が有利になっています。・・中国の都市には、都市戸籍を持つ4億人と、農村から移り住んだ3億人、合わせて7億人が住んでいます。
・・・農民相手のツアーは、貧しい人でも参加できるよう激安に設定されているとのこと。その結果、旅行会社はツアーだけでは利益を上げることができません。よって、このようなツアーでは、必ず客をツアー会社と組んだ量販店に連れていきます。そこで、日本土産を買わせるのですが、それは決して安くはないそうです。しかし、田舎から出てきた農民は知識に乏しく、添乗員にいわれるまま、高価な土産を買う・・・・・・旅行会社は量販店からキックバックを貰って、それによって何とか利益を出しているのです。日本にあるその量販店は、中国人が経営しています。そう、中国人(都市住民)が中国人(農民)を騙しているのです。・・中国では、大きな社会問題になっています。
・・・先進国型の消費社会に住んでいるのは、4億人だけなのです。
・・・なぜ中国に団塊の世代が存在するのでしょうか。その理由は、大躍進政策です。・・大躍進は毛沢東の夢想が生み出した荒唐無稽な政策でした。その結果、未だに明確な数字は明らかになっていませんが、約3000万人が餓死したといわれています。食料が極端に不足したことによって、1959~61年の出生数も激減しました。その責任を問われ、毛沢東は、1959年に国家主席を自任しています。なお、中国は1962年にインドとのあいだで国境紛争を起こしていますが、これは、失政に対する国民の不満を外に逸らすため、共産党政府が仕掛けたと考えてよいでしょう。尖閣諸島や南シナ海問題を考える際に、大いに参考になる事例です。
・・・中国の大都市「城市」には高い教育を受けた者が多く、そこではサービス産業を発展させることが可能でしょうが、農村部ではサービス産業を興すことは不可能といってもよいでしょう。そのため、中国の経済発展は大きな壁に直面しています。都市部の人口は4億人でしかない。農村部にある小都市たる鎮の3億人を含めても7億人。そして高い教育を受けた人はほとんどいない農村に、6億人もの人が住んでいます。
・・・中国は都市と農村を分けた統計を堂々と発表しています。そしてそれをみな当然と思っている・・・・・そう、まさに戸籍アパルトヘイト国家なのです。
・・・冷静に振り返ってみると、「ジュリアナ東京」はバブルの象徴ではありません。なぜなら、1991年に開設されたからです。つまり、バブル崩壊が始まったあとに開設された。そして、それから3年間にわたって営業を続け、1994年に閉店しています。現在の中国は、この「ジュリアナ東京」があった時代に似ています。2015年に株価が暴落したことや、一部の都市で不動産価格が下落し始めたことから、金融当局は危機感を募らせています。そのため金融・財政政策をフル稼働させ、必死になってバブル崩壊を食い止めようとしています。・・中国からの観光客の一人当たり消費量が減少したことは、バブルの崩壊が近いことを示しています。すべての中国人がバブルの崩壊を実感すれば、日本に来る観光客の数も激減することになるでしょう。
・・・黄河流域が小麦作地帯なのに対して、長江流域がコメ作地帯だからです。一つの文明に小麦を作る地域とコメを作る地域が同時に存在したのです。コメと小麦では、そこに育つ文明のあり方が、大きく異なります。その最大の原因は、灌漑の有無にあります。
・・・コメは、小麦に比べ、同じ面積の農地からたくさん収穫することができます。そしてコメは、同じ農地で毎年作ることができます。・・小麦は、連作障害(毎年作り続けると、土壌中の栄養分が減少したり、菌類が繁殖したりして、収穫ができなくなる現象)にも見舞われやすい。それをふせぐためには休耕が必要となりますが、休耕すれば当然のことながら、小麦を収穫することはできません。
・・・中国の黄河流域は小麦地帯です。そして、長江流域はコメ地帯です。そのため、中国文明を構成する人々は南北でその気質が大きく異なっていました。
・・・北部の乾いた大陸に成立した政権は、城壁をもって首都や主要都市を守りました。中国の都市は、城壁で守られています。国という漢字は、旧字(國)では、囲いの中に戈があることを示しています。囲いの中で兵士が守りを固めている、という姿です。そんな中国です。囲いの外にいる人々は、敵が攻めて来たときに守られることはありません。自分で逃げる必要があります。そして、その多くは農民・・・・・支配者が農民を守ることはありませんでした。このような意識下では、国民とは、都市の城壁の中に住む人だけ。これが農民を二流国民と考える意識を生む原因になっていると思います。
・・・現代になっても科挙は、中国人の者の考え方に決定的な影響を及ぼしています。現在でも中国は、徹底的な学歴社会です。その原因は、科挙が作ったといってよいでしょう。・・科挙は、地方の豪族が力を蓄え、中央に反旗を翻すことを防ぐためにつくられたシステムなのです。ただし、この制度は、汚職を生む原因にもなりました。・・科挙の合格者は、見ず知らずの任地に派遣されます。そして三年程度で次の任地に異動しなければなりません。そして、地位は世襲されないのです。ただ、その権力は絶大です。何しろ皇帝の代理人なのですから。そのような条件が重なれば、誰だって旅の恥は搔き捨てとばかりに、派手に汚職するでしょう。・・科挙は、朝鮮半島でも、約1000年の歴史があるのです。韓国の大統領の多くが汚職で捕まる理由も、じつはここにあります。
・・・中国人は貧困を自己責任と考えます。ということは、農民でいることも自己責任・・・・・日本のように「地方再生」ですべての国民を豊かにしよう、などとは考えません。このように中国は、弱者に対して思いやりのない社会です。それは科挙という極めて公正なシステムを、約1300年も前に作りあげてしまった結果と言えるでしょう。
・・・中世のヨーロッパにおいて、国境はあいまいでした。それは、喋る言葉は異なっても、協会の公式用語であるラテン語が存在していたためです。中世ヨーロッパのインテリは、ラテン語の読み書きができましたから、どこに行っても困らなかったのです。そんな時代、国境の概念は稀薄でした。しかし、16世紀、マルチン・ルターが聖書をドイツ語に翻訳した頃から、書物は各国の言葉で書かれるようになりました。そうなると、言葉の違いが国境になります。・・上海語や広東語は、その地方に住む人間にしかわからない言葉です。しかし、漢字が表意文字であるために、しゃべる言葉が異なっていても、意志の疎通が可能です。そう、日本人と中国人が、筆談である程度理解しあえるように。・・この漢字という表意文字を使っていたからこそ、巨大な人口が分裂することなく、一つの国であり続けた。もし簡易ではなく、表音文字が使われていれば、現在の中国大利には、ヨーロッパのように小国が分立することになっていたでしょう。
・・・中国では、約1000年前の宋の時代、科挙の合格者である文人が社会の中核を占めるようになりました。こうして、武力で成り上がった軍人は、社会では中心的な地位を占めることができなくなったのです。よって多くの軍人は、二流国民とされる農民出身です。そして彼らは、社会的地位が低いために、国家や国民に尽くそうとする意識は希薄です。・・中国には「よい鉄は釘にならない、よい人間は軍人にならない」という諺があります。人間のクズしか軍人にならないという意味です。日本で自衛隊のみなさんが聞いたら気を悪くすることでしょうが、これは中国においては事実なのです。・・実際いまでも、都市住民は、絶対といってよいほど兵士にはなりません。二級国民である農民だけが兵士になるのです。
・・・武装警察官は人民解放軍から分かれた組織であり、警察というよりも、軍隊の一部と考えた方がよい組織です。人民解放軍は外に向けた武力、武装警察は内に向けた武力、といえばいいでしょう。・・田舎の高校で、昨今、クラスで上から数番目ぐらいの生徒が、人民解放軍や武装警察を目指すそうです。これは、中国の歴史の中では異例のことだそうです。というのも、中国では、シャバで食べていけない人間ばかりが軍隊に入る伝統があるからです。・・農村部でもかつての一人っ子政策の結果、多くは一人っ子です。一人っ子で、成績はクラスで数番程度・・・・・そんな子が軍人や武装警察官になっている。・・中国政府が武装警察官や人民解放軍の兵士に与えてくれる最大の恩恵は、天下り先です。それがあるがゆえに、人民解放軍や武装警察の統制が保たれています。内部でそれなりの出世をすると、かなり有利な天下り先が用意されます。これが、人民解放軍や武装警察官の忠誠心を保つ源泉になっています。
・・・一般の兵士は、30代半ばまでには除隊しなければなりません。その際、北京に勤務した者には、条件のよい天下り先が待っています。だからこそ、北京勤務は、あこがれの的なのです。
・・・2016年、退役した軍人たちが生活苦を訴え、北京の中心部で集会を開きました。これは、日本も含めた外国のメディアで報じられましたが実は人民解放軍のなかで、重大な変化が起きていることを示す予兆になっています。・・このような写真が外国メディアに掲載されるのは、治安当局が黙認しているからに他なりません。
・・・科挙では・・実学にはほど遠いものです。ではなぜ、それでも役人として通用したのか?科挙合格者が実際の業務を行うことなどなかったからです。実務は、科挙に合格しなかった下級官僚が行いました。
・・・常に命を懸けて戦う軍人にとって、約束は大事です。違約は命の問題に直結しますから、裏切りを最も嫌います。・・軍人がリードする社会では、約束は絶対なのです。・・このあたりの感覚が、中国では、大きく異なっています。科挙制度を採り入れたために、高官のほとんどが文官だったからです。一方の武人は、社会で枢要な地位を占めることができませんでした。その結果として、中国では、武士道や騎士道が発展することはありませんでした。・・司馬遷が記した「史記」は紀元前の中国。そして「三国志」は、3世紀の話です。その時代は封建制でした。地方に豪族が陣取り、その首領が国の皇帝になったのです。だからこそ中国にも、武士道や騎士道に似た感覚が存在したのだと思います。しかし約1000年前、宋朝になって科挙システムが出来上がると、試験に合格した文人が地方長官になり、武力をもって成り上がった人々が社会の中枢を占めることがなくなってしまいました。その結果、中国人のメンタリティは、それ以前とは大きく異なってしまったのです。・・中国の外務大臣や報道官の言い草が、なんとなくヒステリックで言い訳がましく、かつ高圧的であるのは、心のどこにも武士道や騎士道がないためです。言い訳が上手な官僚の成れの果て、なのです。・・科挙制度を作ってしまったがために、中国には、武士道も騎士道もありません。その結果、中国の軍人には、忠誠心などありません。国のために戦う、などということは、これっぽっちも考えていません。そんな軍隊が強いわけはないでしょう。
・・・天下りがあるため、農村で軍隊はそれなりに人気のある職場になっています。そのため、親が試験管に賄賂を贈って子を入隊させることが常態化しています。また、昇進するためには上司に対する賄賂が必須とされています。
・・・中国人民解放軍は、異なる意味でも腐敗しています。それは、軍隊が事業を行っていることに関係しています。・・こうして軍隊が稼ぐお金は、公式の軍事費には入っていないと考えられます。そのため、これを加えれば、中国の軍事費は公表されている数字よりずっと多くなると思います。・・人民解放軍は、ホテルなどを経営しています。これは本来、軍人が出張する際に利用する施設だったのですが、いつの間にか民間人にも開放され、軍が利益をあげる道具になっています。私も一度宿泊したことがありますが、ごく普通のホテルでした。北京には、軍が経営する有名な飲食店もあります。それは、北京に出張してきた軍人が利用するためのものでしたが、いつしか民間人にも開放され、お金さえ払えば誰でも利用できる施設になりました。そこのサービスが凄い、そんな噂がありました。ここでいうサービスとは、性的な接待を意味します。・・人民解放軍が経営しているのは、ホテルやレストランだけではありません。軍服を作る工場では、軍服だけでなく、じつは民生用の服も作って販売しています。・・利潤はすべて、幹部の闇手当てに消えていると思われます。そんな人民解放軍です。中国政府から支給された国防費の多くが汚職に使われているとの噂が絶えません。
・・・農家の子供にとって人民解放軍はよい職場であると先述しましたが、春節(旧暦の正月)などで帰省する際、軍は特別手当として、日本製の電気釜を持たせてくれるのだそうです。これは、演習用の費用を流用して買ったものと思われます。・・間近に見ている人々にとって、人民解放軍は汚職の巣窟に見えるようです。
・・・靖康の変---これは、中国人の深層心理に深く刻み込まれています。この変を理解することなしに、中国の対外政策を理解することはできないと思います。・・彼らは400年ほど前に明を滅ぼし、満州人の国である清を建国しました。ただ、その後、満州族は中国文化に取り込まれてしまいます。満州族のアイデンティティを失ったのです。満州語は死語になり、また、自分は満州族だと考える人もいなくなりました。その結果、現在、旧満州で中国からの独立運動がおこることはありません。この点が、チベットや新疆、あるいは内モンゴルなどとは異なります。
・・・中国人は最初、頭を低くして教えを乞うのに、いったん技術を習得すると、手のひらを返したように冷淡な態度をとり、恩を仇で返すようなことを平気でする。---日本企業のみなさんからよく伺う話ですが、そのような態度は今に始まったことではありません。それは文人政治家が、約1000年前の宋の時代に始めたことです。・・金と宋は休戦条約を結びます。宋は金に領土の割譲や賠償金の支払いを約束するのですが、金軍が北方へ戻ると、またしても、その約束を実行しませんでした。これは中国外交の典型的なパターン。それは中華思想がなせる業といってよいでしょう。しかし一方、これは文治政治の弱点ともいえます。
・・・靖康の変のような目に遭えば、「文治政治は間違いであった。武人が政権の中心を占めるべきである。科挙は止めよう」と普通の国だったら考えるでしょう。しかし中国の歴史は、そのようには動きませんでした。それは、やはり中国が巨大な国だからです。・・中国では外敵より内部の敵の方が怖いのです。
・・・朱子学の学説の一つに名分論があります。これは、名称と実質の一致を求め、国家社会を確立しようとする儒家の思想。・・かなりヒステリックな教義といってよいでしょう。そこには、武力において金に敵わなかった宋の怒りが反映されている、そう考えるのは邪推でしょうか。・・近年の尖閣諸島や南シナ海への進出、そして歴史認識に関する中国政府の言動には、朱子学の影響を強く受けていると思うところが多々あります。そう、現状認識が主観的なのです。そして一度、自分が正しいと思うと、周囲の状況を見てその考えを改めることはありません。負け犬の遠吠えではありませんが、かなりヒステリック。聞く耳など持ちません。名分論と中華思想が混ざり合ってしまうと、実態に即して現実的な交渉を行うことは極めて困難になります。中国には、マキャベリズムに基づく合理的な外交などありません。このとは、尖閣諸島や南シナ海の問題を勧化る際の、重要な鍵の一つだと思います。・・この朱子学は、南宋以降の中国人の物の考え方に対し、決定的な影響を及ぼしました。それは、江戸時代の日本の比ではなかったのです。なぜなら、科挙の問題は、朱子学に基づいて出題されたからです。
・・・実は、中国人が最も恐れるのは、呉三桂のような行動をする中国人です。中国は、内部に敵に内通する者が現れたときに亡びるからです。そして、そのような人物を漢奸(かんかん)(中国を裏切った中国人)と呼び、毛嫌いします。
・・・中国の王朝は、財政基盤が弱く、大きな常備軍を抱えることはありませんでした。そのため、反乱や外敵の侵入などがあると、地方の親分にお金を渡してゴロツキを集めさせます。それを兵士として雇うのです。そんな軍隊ですから士気も低く、統制もとれません。彼らはすぐに強盗の集団に変わります。
・・・第二次世界大戦における学徒出陣は、日本では悲劇として語られていますが、これは明治時代に中国の科挙を真似て東京帝国大学や高等文官試験を作った結果と考えられます。もし江戸時代が続いていれば、エリートたる旗本や各藩の武士たちは、第二次世界大戦においても真っ先に戦に飛び込んでいったことでしょう。イギリスでもアメリカでも、エリートである大学生は、真っ先に軍隊にいきました。ノブレス・オブりージュというやつです。・・より視野を広げてみると、明治時代に中国の科挙制度を取り入れて事こそが、悲劇を生んだとも言えます。アメリカやイギリスには、学徒出陣はありませんでした。より正確にいえば、大学生は真っ先に戦場に行き、最も危険な任務を請け負ったのです。科挙は日本のエリートの在り方にも、大きな影響を与えています。
・・・中国では、農業振興によって農民を豊かにすることなどできません。それは、中国の農民が絶望的な状況に直面していることを意味しています。
・・・アメリカ人は一年間に100キロ以上の肉を食べています。それに対して日本人の消費量は約40キロ、中国とベトナムでは消費量が急増していますが、それでも日本の水準を少し超えた付近で飽和しそうです。
・・・1998年から2003年まで朱鎔基が首相を務めました。朱鎔基は剛腕で鳴らした政治家であり、親方「五星紅旗」気質に染まっていた国営企業の改革に尽力しました。彼の改革があったからこそ、その後、中国は経済成長を遂げることができたのです。
・・・中国のデータの信頼性がよく話題になります。首相の李克強でさえ、「電力消費、鉄道輸送量、金融機関の貸出額以外のデータは信用できない」と言っているほどです。この三つは李克強指数と呼ばれています。
・・・知人の中国人は日本の会社にも務めたことがあるのですが、日本の方がはるかに楽だといっていました。というのも、日本では、腹を割って話し合うという関係が構築しやすいのですが、中国ではそれは不可能だというのです。中国3000年の歴史とは、官僚や宦官が讒言によってライバルを蹴落とす歴史と言い換えてもよいくらいです。
・・・戦争末期から1950年頃まで、農家は都市住民の憧れの存在だったのです。そんな状況は10年ほどで大きく変わります。日本は1955年以降の昭和30年代に入ると、あれほど足りなかったコメが余る時代を迎えます。そうなると農家は、逆に、都市住民に比べて貧しくなっていきました。
・・・農業生産が順調に増加すると、農民は貧しくなってしまうのです。この現象は戦後の日本でも生じましたが、まったく同じことが、現在の中国でも進行しています。
・・・長い人類の歴史は、すなわち飢餓との戦いでした。そんな時代、農業の研究は大いに必要だった・・・・・が、そのような状況は、20世紀になって空気中の窒素を工業的に固定して化学肥料を作る技術が開発されると、一変してしまいました。化学肥料を投入すると、単位面積当たりの収穫量が急増したからです。その結果、20世紀の中頃になると、あれほど人類を苦しめていた食糧不足は、急速に解消に向かったのです。・・しかし、穀物をあまりに簡単に増産できたがために、食料価格は低迷し、その結果として農民が貧しくなってしまった・・・・・中国の農村は、いま、万年豊作貧乏のような状態になっています。
・・・現在、アメリカでは、一戸の農家が有する農地は100から200ヘクタール、ヨーロッパでも数十ヘクタールですが、日本では規模拡大が叫ばれながら、未だ北海道で10ヘクタール、本州では数ヘクタール程度です。中国には、日本よりもはるかに多くの農民がいるので、農家が所有する農地面積は非常に少なくなっており、0.5ヘクタールから1ヘクタール程度です。
・・・日本列島改造論を人々が支持したのは、多くの日本人が地方の経済状況や出稼ぎ労働者の状況に同情したからです。しかし、戸籍アパルトヘイトを是認し、心の中で農民を馬鹿にしている中国では、農民に対する同情は、大きな動きになりませんでした。
・・・革命や大きな変革は、都市に住む学生やインテリが起爆剤になります。共産党は、自らが革命によって政権を手に入れたので、このような事情をよく理解しています。現在、都市戸籍を持つ4億人は、中国社会の中核を形成しています。彼らは中産階級をも形成しており、その中にはインテリも多く含まれます。そして、共産党の最大の支持基盤こそ、こうした都市戸籍を持つ人々、都市の多数派たる中産階級の支持がある限り、共産党政権は、永遠に不滅なのです。そのため共産党は、中産階級の支持を失うことを非常に恐れています。逆に、農民の支持など重視していません。・・その結果、共産党は、都市の中産階級の意向に沿った政策だけを採り続けています。・・今後、時間が経過しても、中国の農民が急速に豊かになることはないでしょう。これからも農民戸籍を有する9億人は、中国社会の底辺で生きていくことになります。
1980年代初頭、中国では「万元戸」という言葉が流行語になりました。これは年収が1万元以上の農家をいいます。現在なら一万元は富裕層にとって一晩の宴会の費用にも足りないでしょうが、当時は見たこともない大金だったのです。
・・・どの地方政府でも、土地開発に伴って、極めて大きなお金が流れています。地方の共産党書記は、それを独占的に管理できるのです。そしてもちろん、情報は非公開・・・・・。・・土地開発公社は、農民から独占的に農地の使用権を買い上げます。その際には、有無をいわせません。そこが独裁政権の強みです。・・農民は土地収用そのものには反対していないのです。多くのケースでは、中国共産党にも従順です。それではなぜ暴動が起こるのでしょうか?それは、土地開発公社からまとめて受け取ったお金を、村の幹部が公平に配ることなく、その多くを着服してしまうからです。・・広い中国では、法の支配が地方の末端まで行き届かない。現在でも、地方にはウラの番長ともいうべき人が存在します。そこで土地開発公社は、農民の取りまとめを、村のボスに依頼します。村のボスが共産党の末端組織である村民委員会の書記を兼ねているケースも多いのです。すると多くの場合、村の悪徳書記は、土地開発公社からもらったお金を公平に村人に配ることなく、自分や親戚の財布にガッポリ入れてしまうのです。
・・・中国の企業は、すべてブラック企業です。それは、都市に出てきた農民を劣悪な条件下において、低賃金でこき使っているからです。・・中国では、会社が成長する過程で賃金が上昇したのは、ホワイトカラーである都市住民だけだった・・・・・ブルーカラーである「農民工」の賃金がホワイトカラーのように上昇することはありませんでした。
・・・グローバル化が進展するなかで、日本企業は、中国企業と戦わざるを得なくなりました。その影響を真っ先に受けたのは製造業です。・・中国企業に対抗するため、日本企業も「農民工」を作ったのです。・・「日本は格差社会であり、その改善努力は不十分だ」---そのような指摘があることは、もちろん十分に理解しているつもりです。しかし、それでも中国の農村を見てきた者としては、日本の格差社会など、甘っちょろいものに見えてしまいます。・・2010年代に入って、三洋電機、シャープ、パナソニック、東芝と、日本を代表する製造業が相次いで危機に陥りましたが、危機に陥った最大の原因は、中国の「農民工」にあるといっても過言ではないでしょう。
・・・中国社会では、これまで「農民工」を低賃金でこき使ってきましたが、それでも最近は「農民工」の給与が上昇しています。10年ほど前までは月額600元程度(約1万円)でしたが、現在は3000元程度(約5万円)になっています。しかし、ボーナスは年間で給与の1か月分程度なので、現在の水準でも、日本の労働者より遥かに低賃金です。「農民工」の賃金の上昇は、社会の安定を目的にして、共産党主導で行われます。ただ、共産党は真に「農民工」の立場に立って、賃金の上昇を図ったわけではありません。まず、彼らの不満を和らげて、暴動などの芽を摘む必要があります。そして、もっと重要なことは、「農民工」の賃金を引き上げることによって、内需の振興を図ったのです。これが賃金改善の真の目的です。しかし、沿岸部の「農民工」の賃金が3000元になると、それまで中国に進出していた外国企業がコスト上昇を嫌い、中国以外に工場を移転させるようになりました。これが、いわゆる「China + 1」です。輸出が経済成長の生命線であった中国経済には大打撃でした。
・・・天安門事件を起こした人々は、現在、50歳から60歳になっています。分別ある世代といえましょう。そして、インテリである彼らは、「農民工」を奴隷のようにしてこき使う社会があったからこそ、自分たちが豊かになることができたという事実を、十分に認識しています。・・約30年前に天安門事件を起こした大学生たちは、いま中国の保守層を代表する存在になっています。そして現在、彼らの息子・娘である中国版の団塊ジュニアが、どんどん大学生になっています。団塊ジュニアたちは、一人っ子政策のもと、甘やかされて育ちました。そして、その多くは、親の資力によって大学に通っています。親の資力がなければ現在の生活を維持できないということは、彼らは超保守的な人々だということです。そんな彼らが、新たな政治運動の原動力になることはあり得ません。このような状況にあるため、都市のインテリや中産階級が、政治的な自由を求めて第二の天安門事件を引き起こすなど、夢のまた夢です。
・・・鄧小平のいった「先富論」、つまり豊かになれるものが先に豊かになり、その後、豊かになった者が貧しいものを助ける、とした理論はただのきれいごとだったのです。豊かになった者(都市戸籍所有者)は、豊かになれなかった者(農民戸籍所有者)を踏み台にして豊かになった。その踏み台を外すわけにはいきません。その踏み台は、永遠に必要なのです。それを外せば、自分たちの方も貧しくなってしまいます。中国の農民は、絶望的な状況に置かれています。9億人にも及び中国の農民戸籍所有者は、これからもずっと貧しくあり続けるのです。
・・・日本や中国では、大豆は食料です。枝豆としてビールのおつまみにしたり、節分の豆まきに使ったりすることもあります。豆腐や納豆の原料にもなります。しかし、世界を見渡したとき、大豆を食べている国は、それほど多くありません。多くに国では、大豆は油を搾るためのものなのです。
・・・中国がトウモロコシの大量輸入国になるとする予測は外れましたが、代わりに大豆を大量に輸入するようになりました。家畜飼料の輸入量が増えるという点において、彼(レスター・ブラウン)の予測は当たっていたのです。・・中国が大量の大豆を輸入するようになると、ブラジルとアルゼンチンが、争って生産量を増やしました。
・・・中国は孫子を産んだ国であり、戦略的思考が得意と見る向きもありますが、それは完全な間違いだと思います。・・私は、中国が特定の野望のもと着々と世界戦略を練っているとは思いません。中国人は戦略の策定がとても下手だと断言します。こんなことを書くと意外に思われるかもしれませんが、中国人は戦略を立てることが苦手だったからこそ、約3000年にわたり大国だったにもかかわらず、一度も世界を制覇したことがないのです。「孫氏」「戦国策」など、中国の戦略書は、中国人同士の争いに関する書物。・・中国人の中国人に対する戦略でしかありません。外国に対する戦略を書いたものではないのです。この中国の戦略は、騎馬民族たるモンゴル族や満州族には無力でした。
・・・なぜ中国の対外戦略は稚拙なのでしょうか?その最大の原因は、海外に関する情報の不足にあります。なぜ中国は、海外の情報を収集しないのでしょうか?それは、海外に興味がないからです。・・海外の文化や国情を詳しく知らなければ、世界戦略を作ることなどできません。つまり、海外に興味がないということは、世界戦略を立てるうえで、致命的な欠陥なのです。
・・・習近平は、「和諧社会」を取り下げて、「中国の夢」を国家目標にします。国内問題の解決よりも、対外膨張政策や国威発揚に舵を切ったのです。・・それは中国経済を破壊して、経済の低迷が長く続く時代を作り出す可能性が高いといえます。・・彼は誰の指名でもなく、仲間のコンセンサスによって選ばれました。江沢民の影響力が強かったのですが、江沢民は習近平を凡庸で御しやすい男と考えて押したようです。・・教養に欠ける二流の人物がトップになった・・・・・本来は地方の市長や省の書記などが似合う人物だったと思います。そんな彼が強運に恵まれて大出世を遂げた---中国で出世するには第一に能力、二番目が人望、そしてなにより運が大切だそうです。・・現在、権力の座にいる習近平と王岐山に表立って逆らう人はいません。だから2017年の秋の党人事でも、習近平は自分の子分を昇進させる。しかし、彼の味方は少ない。なぜなら習近平が作りあげている派閥とは、彼が党内で出世していく過程で身近に仕えた部下だけによって構成されているからです。その人数は、それほど多くありません。・・共産党内の一部の子分を除けば、全員が面従腹背の輩・・・・・そして、薄熙来や周永康という大物を逮捕したため、党内に多くの遺恨を作りだしてしまい。つまり、習近平はちょっと油断すると、批判の矢面に立たされるわけです。・・習近平は総書記になると「中国の夢」を掲げて、国威発揚と対外膨張政策に打って出ますが、その最大の目的は、実は、党内の求心力を保持することです。
・・・覇権国家であったイギリスやアメリカと、それに挑戦したドイツ、日本、ソ連との違いは、その経済力とともに、内政の安定でした。世界制覇を唱えることができたイギリスとアメリカには民主主義が定着しており、広く国内の意見を集約することが可能だった。一方、両国の支配に挑戦して失敗した三国には、民主主義は存在しませんでした。いずれも独裁政権が国を支配しており、その独裁政権が子供じみた野望を振りかざして、失敗したのです。・・独裁政権はメンツを大切にするため、そのメンツを守るためだけに国家戦略を間違えてしまうのです。どうでしょう。いまの中国にそっくりではありませんか?
・・・第二次世界大戦後にアメリカの覇権に挑戦した国は、ソ連と日本でした。アメリカはそのどちらとも熱い戦争はしなかった。それにもかかわらず、アメリカはソ連と日本に勝利し、世界の覇権を維持しています。・・空母を造り、海上打撃群と呼ばれる軍備を維持するには、いかに多額の費用が必要になるかわかると思います。本格的に空母の建造に打って出たソ連の経済は、そのせいで崩壊してしまいました。
・・・マクロな視点から見たとき、武力を持たない日本は、その貿易や為替の交渉において、アメリカの言いなりにならざるを得ませんでした。結果、その経済はガタガタにされてしまいました。日本はアメリカに対し、軍事面では何も逆らわなかったのに、酷い目にあったのです。このように派遣国は、第二位にのし上がった国を必ず叩きます。陰謀論の肩を持つわけではありませんが、22世紀の歴史家は、「アメリカがあらゆる手段を講じて、日本経済の弱体化を図った」と書くことになるでしょう。
・・・13億もの人口を擁するこうとから、中国は、アメリカにとって容易ならざる挑戦者です。しかし、その争いは案外あっさりと片が付くと考えています。結果はアメリカの勝利、中国の負けです。その最大の理由は何か?・・それは中国には国家戦略が皆無だからです。そして、どの国でも、外交は内政の延長ですが、中国では特にその傾向が著しい。戸籍アパルトヘイトのような低劣な内政を取り続ける中国は、当然、ひどい外交音痴なのです。・・中国の外交当局は、海外に敵を作ることこそが仕事だと考えているようです。ただ、その理由は明白です。外交を行う者の視線が、国内に向いているためです。中華思想に染まった保守派を満足させるためには、子供っぽい外交を繰り返すしかないのです。
・・・現在、中国は、1980年代後半の日本と同じように不動産バブルに踊っています。アメリカは、必ず、そこを突いてきます。そしてその手段は、日本に対して行ったのと同じようなものになりそうです。第一には、為替レートをアメリカに有利なように動かすこと。・・アメリカは、基軸通貨たるドルの為替レートを、自国が最も有利になるよう動かす権利を持っています。・・次に、中国の貿易黒字を減少させます。・・それは、数年のスパンで中国経済に影響を及ぼすでしょう。
・・・不動産バブルと、それに伴う金融システムの脆弱化は、中国経済に新たな難題を突き付けています。中国は、日本がこれまで経験した「失われた20年」以上の経済停滞に落ち込む可能性が高いと思います。
・・・これから中国はどうなるのでしょうか?それはやはり、歴史が教えてくれます。---中国で政権が倒れる最大の理由は、政権の内紛。農民一揆はきっかけに過ぎず、多くの場合、権力構造内での闘争が、政権崩壊の原因となる。
・・・なぜ中国政府は、「法輪功」に危険な臭いを感じたのでしょうか。中国では、宗教団体が、容易に反政府団体に変身するからです。中国の民衆は集団ヒステリーに陥りやすいという傾向があります。その理由は、約1000年前の宋朝期に封建制から中央集権に移行したため、地方の紐帯が弱くなっているためでしょう。・・強いて言えば、中国人は「拝金教」の信徒ではあります。つまり、現世利益を願います。そんな中国では、新興宗教が爆発的に広がることがあります。そして、現世利益の願いが強いため、すぐに政治化します。・・中国政府は「法輪功」にそれらと同じような臭いを感じ取った。だからこそ弾圧したのです。このように中国政府は、農民や市民が横につながることを警戒し、強く禁止しています。そのため経済が不調になったくらいでは、農民や市民の反乱は起きない。中国政府が崩壊することもありません。中国政府が怖いのは、むしろ、都市戸籍を有し経済成長を謳歌してきた、いわば共産党の身内ともいうべき人々による、静かな反乱でしょう。
・・・「中進国の罠」・・現在、日本や欧米先進国の一人当たりのGDPは約4万ドルですが、中進国は1万ドル前後にとどまります。中進国の罠にはまった国としては、メキシコ、ブラジル、トルコなどをあげることができます。・・なぜ、一人当たりのGDPが1万ドル程度になると経済が成長しなくなるのでしょうか?それは、経済成長の意味するところが、インフラの整備から格差の是正などへと、質的な成長に変わるからです。・・中進国と呼ばれる水準に達すると、成長の波に乗って豊かになった者と、乗り遅れた者とのあいだに格差が広がります。そのため中進国には、発展に取り残された者がたくさんいます。・・中進国が先進国になるためには、底辺でうごめく人々の経済状況を改善する必要があります。・・しかし、多くの国において、これはなかなか難しい課題です。それを達成するには、成熟した民主主義が不可欠になるからです。・・次の30年ほどのあいだ、インド経済は順調に発展すると考えられます。その最大の理由は、未だに一人当たりのGDPが2000ドルに満たないからです。政治が機能するようになれば、一人当たりのGDPが1万ドル付近にまで成長することは、それほど難しくないのです。
・・・空母を実戦配備するためには、最低、三隻が必要・・つまり、三隻体制にするのは、実戦で空母を使うつもりだ、ということです。このとき日本として重要なことは、中国に隙を見せないことです。アメリカと密接に連携するとともに、特に航空自衛隊や海上自衛隊の装備を充実させる必要があります。もしもの場合に備え、緒戦で十分な戦果をあげることができるよう、準備しておくことが重要なのです。・・緒戦で大きく敗れれば、習近平は失脚する可能性が高い。そして中国では、失脚とは、政治生命だけでなく一切を失うことを意味します。』

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