最貧困女子 (鈴木大介 幻冬舎新書)
自分の知らない世界について、かなり知ることができました。悲しいものでしたが、事実を知っておかなければならないと思いました。
『・・・僕なりの考察では、人は低所得に加えて「三つの無縁」「三つの障害」から貧困に陥ると考えている。三つの無縁とは、「家族の無縁・地域の無縁・制度の無縁」だ。・・三つの障害については、「精神障害・発達障害・知的障害」と考える。・・これらの障害は「三つの無縁」の原因ともなっている。
・・・頑張ると言っていた翌日に頑張れなくなるのが貧困だ。
・・・「地元を捨てたら負け」「上京したら負け」という感覚もある。永崎さんが強調するのは、上京による「婚期逃し」のリスクだ。・・せっかく上京しても、余計貧乏になったみたいな子も多いし、特に女の場合、上京したら100%婚期逃しますよね。
・・・永崎さんのような層が拡大すればするほど、同じ所得層にあるにもかかわらず貧困状態にある小島さんのようなじょせは、無理解と批判のターゲットになってしまうのだ。「同じ月収10万円で、きちんとやれている人がいるのに、やれない人間には努力や工夫が足りないのではないか」・・年越し派遣村などを率いた湯浅誠さんが「貧困と貧乏は違う」と発言していたことがある。貧乏とは、単に低所得であること。低所得であっても、家族や地域との関係性が良好で、助け合いつつワイワイとやっていれば、決して不幸せではない。一方で貧困とは、低所得は当然のこととして、家族・地域・友人などあらゆる人間関係を失い、もう一歩も踏み出せないほど精神的に困窮している状態。貧乏で幸せな人間はいても、貧困で幸せな人はいない。貧乏と貧困は別物である。そんな言葉だったと思う。
・・・彼女らは女性の集団が苦手で、実際、女性集団から排除されがちなパーソナリティだたのだ。当然女友達も少なく、子供の頃から地域や学校生活の中で孤立してきたエピソードをもつ者が多かった。第4の共通点は、非常に強い恋愛依存体質だ。
・・・「出会い系のシングルマザーたち」の中で、僕は彼女らの陥っている状態を「隠れ破綻」と表現した。彼女らはすでに経済的にも精神的にも破綻してしまっているのだが、わずかばかりの金を出会い系サイトを介した売春で稼ぐことで、必死のその破たんを隠している状態にあった。・・結果的に彼女たちは自らの手で自らの窮状や苦しみを覆い隠し、不可視にしてしまっていたのだ。
・・・「夕食を作る美味しそうな匂いのする住宅街を一人ぼっちで歩いて、寂しくてつらかった」こんな昭和の漫画や映画みたいなエピソードは、ぼくの取材してきた虐待歴のある少年少女らに共通するいわゆる「あるある」体験だ。
・・・「大人」は頼れない。「大人」は何もしてくれない。この感情が実は、その後の人生をも左右するものになってしまう。
・・・彼女らが共有するのは、貧しさよりも「寂しさ」ということだった。ひとり親世帯がこれほどまでに増え、共稼ぎ世帯が当たり前となった昨今では、「家に帰ったも誰もいないし、食事の用意ができていない」という状況は、もはや一般的なものとなってきた。子供たちにとって、寂しさはもう当たり前のものだ。
・・・少女本人はどんな学童保育だったらよかったのかを聞くと、回答は明快だった。「小学校終わるじゃん?そうしたら放課後に友達と遊んで、それで夕方が夜になって腹が減ったら学童に行って食事して、ゲームしたりテレビ見たりして、その後にでも親が迎えに来てくれればよかったと思う。あと親が切れてる(虐待する)とき、夜遅くとかでも行ったら入れてくれて、泊めてくれるんだったら最高だった。実際(小学)3年の時とか、親に家から追い出されて、学童行ったのね。閉まってるでしょ?開いていたら良かったって、いまでも思う。」
・・・彼女たちもまた貧困状態から脱出できているとは言えない。それどころか、一度は抜けたはずの売春ワークに再び舞い戻ってきてしまう事例があまりにも多いのだ。その理由が、彼女らの異様に高い「恋愛自爆率」だ。彼女らは恋愛に救いを求め、恋愛でつまずき、恋愛でひとたび抜け出した貧困の中に舞い戻る。
・・・いわゆる「試し行動」。少女からすれば、初めて我がままを言える相手に出会えたので、我がままを爆発させたい!という感情もあるが、それ以上に裏切られ続けてきた人生の中で「この人は本当に自分を救える人なのか、偽善じゃないのか、どこまで私のわがままに耐えられるのか」という気持ちもある。・・語りつくされた感のある「試し行動」だが、彼女たちのそれは猛烈に安っぽく、衝動的で、面倒くさい。・・理解者を加害者に変えるほど、彼女らの抱えた痛みは大きく、長引く。
・・・これも書くことは躊躇われるが、僕が取材してきた子供時代に虐待や育児放棄などを経験してきたセックスワーカーのもつ傾向のひとつに「二股恋愛」「浮気恋愛」があった。もちろんすべてがそうではないし、愛した男一筋一直線な取材対象者もいたが、一般と比較してその傾向は顕著だったように思う。』
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