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2016年9月

2016年9月 6日 (火)

新聞記事から(【正論】ボルトを驚かせた日本の底力)(28年9月5日 産経新聞朝刊)

昨日の産経新聞朝刊からの切り抜きです。私にとっては示唆に富んだ内容でした。


 『今回のリオデジャネイロ五輪で日本選手たちは過去最多のメダルを獲得し、心を打つ場面をいくつも見せてくれた。

 その中で、もっとも感動したものを一つ挙げるとすれば、銀メダルに輝いた陸上男子400メートルリレーだと思う。そこには肉体的に不利な立場を、努力と工夫によって克服する日本人の魂が見事なまでに凝縮されていたからだ(ケンブリッジ飛鳥選手は、父はジャマイカ出身だが、自身は日本人であると明言している)。

 ≪免疫力と関係するスポーツ能力≫

 陸上のトラック競技に限るなら、日本人をはじめとするモンゴロイド(アジア系)は明らかにニグロイド(アフリカ系)よりも身体能力が低い傾向にあるといえる。といってもそれは優劣の問題ではなく、それぞれの集団が過去にどんな淘汰(とうた)を受けたかの歴史に違いがあるからだ。

 アフリカは気温が高く、人々はバクテリア、ウイルス、寄生虫などのパラサイト(寄生者)の脅威にさらされ続け、現在もそうである。よってアフリカ人、またはアフリカにルーツを持つ人々にとっては、どれほどパラサイトに強いか、つまり免疫力が高いかが常に最大の問題となってきた。そこで主に女が、高い免疫力を持っている男を繁殖の相手として選び続ける必要があったのだ。

 しかし、どうやって相手の免疫力の高さを見抜くのだろう?

 手掛かりはいくつかあるのだが、その一つがスポーツの能力、身体能力である。

 中学生の頃、クラスで一番、女の子にモテる男の子といえば、まず間違いなくスポーツのできる子だったのではないだろうか。それは、女の子はどんな男の子が高い免疫力を持っているかを本能的に知っているからなのだ。

 ともあれ、パラサイトの脅威に最もさらされ続けたニグロイドの人々は、主に女がスポーツ能力を手掛かりに免疫力の高い男を選んだ結果、スポーツの能力がどんどん向上した。そして今日、非常に高いレベルに達しているのではないだろうか。

 ≪筋肉が得意種目を決める≫

 一方、モンゴロイドは、ここ数万年を遡(さかのぼ)ってみるなら、一部の勢力は最後の氷河期に地球上で最も冷えこんだシベリアの地に暮らすという状況にあった。パラサイトを恐れる必要はあまりなく、女は男にさほど免疫力の高さを求めることはなかった。つまり男のスポーツの能力、身体能力をチェックし、選ぶという過程がそれほどは厳しく行われなかった。

 そのようなわけでスポーツの能力、特に陸上のトラック競技のように、もろに身体能力が問われる種目では、おおむねモンゴロイドはニグロイドにはかなわないということになるのである。

 今回の陸上男子400メートルリレーについてはもう一つ注目すべき問題があった。筋肉の種類、つまり白筋と赤筋である。

 白筋は瞬発力に関係し、本当に白い。魚でいえばヒラメの身が白いのと同じで、彼らが長距離を泳がず、一瞬のうちに捕食するという行動に対応している。

 一方、赤筋は持久力に関係し、本当に赤い。赤いのはミオグロビンという酸素を運ぶタンパク質が含まれているからだ。ミオグロビンのおかげで筋肉に酸素を補給しつつ体を動かすことができる。魚でいえばマグロの身が赤いのと同じで、彼らが長距離を泳ぎ続けるという行動に対応する。

 ニグロイドでも東アフリカのケニアやエチオピアの選手が長距離走に、西アフリカや同地域にルーツがあるジャマイカやトリニダード・トバゴなどの選手が短距離走にと、それぞれ得意分野が違うのは、筋肉の中に含まれる白筋と赤筋の割合が異なるからである。

 ≪五輪のハイライトの瞬間≫

 その意味では、われらモンゴロイドといえば赤筋の方の割合が多いため、本来は長距離走のほうを得意とするはずだ。

 そう考えれば、4人のサムライたちが短距離走でジャマイカに次ぐ2位でゴールしたということが、いかに驚異であるか!

 確かに、彼らは日本人としてはスポーツ能力がずば抜けており、短距離走を得意とするわけだが、それでも相手はジャマイカなど横綱級の国々の選手たちだ。

 互角に渡り合うためには何が必要かを徹底して追求し、バトンパスの際のペースダウンをできるだけ抑える方法を工夫した。そしてアンダーパスという他の国のチームなら実行することのない高度な技術を習得するために、数カ月も前から練習を重ねた。

 3走の桐生祥秀選手が100メートル走の際の悔しさを晴らすかのような見事な走りを見せ、4走のケンブリッジ飛鳥選手にバトンを渡したとき、チームはトップに躍り出ていた。隣のレーンのボルトの表情が一瞬、曇った。

 私はこのときこそが、今回の五輪の日本のハイライトだと思っている。日本人のすごさを世界に知らしめた瞬間だったのではないだろうか。肉体の差を技術と努力でカバーした力は半端ではない。(動物行動学研究家・エッセイスト・竹内久美子)』

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