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2016年8月11日 (木)

総理 (山口敬之著 幻冬舎)

著者は元TBSの記者ですが、バランスのとれた見方をしていると感じました。消費税増税延期の際の、安倍総理と麻生副総理の関係を特に知りたかったのですが、詳しく書かれていて腑に落ちました。また、現在進行形の政治の様々な動きのヒントも散見されました。

『事実に基づかない論評は、批判も称賛も説得力を持たない。
「・・確かに自民党でやる調査は甘めに出ることが多いんだよね。特に参議院だと、衆議院ほど詰めた調査ができないし」・・「・・僕たちがこの手の調査で重視するのは、個別の選挙区の積み上げもさることながら、「全体の傾向」なんだよね。矢印が上向きか下向きか」
・・麻生は平素、同僚や後輩の政治家に敬語は使わず、親しみを込めて砕けたべらんめぇ口調で話す。しかし安倍が総理・総裁になった瞬間、麻生は安倍にきちんとした敬語を使うようになった。首相という孤独な仕事に携わる安倍への、麻生流の敬意の表現だった。
・・2008年9月に自らも総理となった麻生は、総理大臣とは「どす黒い孤独」を背負わなければならない職業だと証言する。本当に大切なことを誰にも相談できず、ひとたび決断したら全責任を一人で負わなければならないからだという。
・・宰相とは、たとえ民衆に糾弾されようとも、国家のために正しい判断をしなければならないということを、吉田茂は小学生の麻生太郎に切々と語ったのである。
・・この頃自民党内では、複数の派閥領袖クラスから中堅若手議員まで辞任論がくすぶり続けていた。なかでも安倍下ろしで中心的な役割を担っていたのが、森や中川秀直といった安倍の出身派閥である清話会の幹部クラスだったのである。
「簡単なんだよ。親分を絶対に裏切らない奴だけを選ぶ。そうでなければ、ねじれという難局を乗り切れるはずはない。ここに書いた名前は、ボスを裏切らない奴ばかりだ。最初の組閣で派閥の論理に妥協してしまったことを、安倍さんは今とても後悔しているはずだ」
・・一口に政治記者といっても、大きく二つのタイプに分かれる。「政局記者」と「政策記者」である。特定の政治家や情報ソースと強い信頼関係を結び、独自の情報をいち早くつかむタイプが政策記者と呼ばれるのに対して、政策記者は安全保障、社会保障、税制といった個別の政策課題を足掛かりに、これにかかわる政治家・官僚・学者などを幅広く取材し知識と人脈を広げていく。
・・私なりの取材作法を理解してくれる政治家もいないわけではなかった。そうした政治家は、折に触れて先方から電話をかけてきてくれる。そして政治家が連結をしてくれるタイミングや形式そのものが、彼らの狙いや置かれた状況を如実に移していて、それが貴重な情報となることもあった。
・・2002年に官邸が現在の新しい建物に移ると、官邸と記者クラブの間での取り決めが変わった。総理が一日に2回、記者のぶら下がり取材に応じる代わりに、官邸内を移動する総理への「声かけ」が原則禁止となったのである。
・・菅の人事は大鉈を振るうばかりではない。場合によっては俊敏に先回りして役人の抵抗を未然に防ぐ。典型的な例は2015年の政策投資銀行の社長人事だ。
・・「官庁の中の官庁」といわれる財務省の情報収集能力は、永田町の老練な政治家ですら震え上がらせる。実際、旧大蔵省と対立して最終的に失脚していった政治家は枚挙に暇がない。その財務省をねじ伏せるために、菅は自ら構築したネットワークを利用して事前に情報を集め、周到に準備をして機先を制したのである。
・・第1次安倍政権になくて第2次安倍政権にあるのは、安倍を本気で支えようというベテラン議員たちの存在だ。中でも、重要な役割を果たしているのが、麻生と高村である。
・・私はこの二人の緊張が最高潮に達した瞬間を、2014年の衆議院解散直前、オーストラリアのブリスベンで目撃した。それは別の見方をすれば、消費税増税見送りをめぐる安倍官邸を財務省の全面対決であった。
・・財務省は平素から、主要紙の経済部記者や経済評論家と頻繁に接触し、意見交換と称して情報提供を行っている。記者サイドは財務省のラインに沿った記事を書くことで、情報を一手に握る財務省幹部の「覚え」がめでたくなり、その後の仕事がやりやすくなる。こうして財務省の立場を補強する言論が巷に出回りやすくなっているのである。財務省にとって経済系メディアのコントロールは、世論を誘導する重要なツールである。
・・私は20年以上中央省庁を取材しているが、霞が関には恐ろしく頭のいい官僚や奇想天外なアイディアマンがたくさんいる。国益を守るために人知れず命を削って必死に交渉をしている外交官も、数は多くないが確かにいるのである。
・・一拍おいた麻生は、様々な思いを飲み込んで安倍にこう伝えた。「いろいろ言いたいことはありますが、総理が決めたというのならこれ以上私から申し上げることはありません」財務大臣としての立場を超えて、首相の決断を尊重してくれた麻生に対し、安倍は深々と頭を下げた。・・仁義とマナーをモットーとする麻生ならではの潔さだった。
・・意見が食い違っているからこそ一回の直接会談ですべてを決めたい。安倍の勝負勘であり、麻生に対するマナーだった。
「安倍さんは心身ともに本当に強くなったね。健康を回復したんじゃなくて、別人に生まれ変わったみたいだよ」
「憲法改正、教育基本法改正、拉致問題、人権擁護法案、自民党にはあなたの力が必要なのです。それに比べたら、郵政民営化など小さな問題ではありませんか」安倍にとってこの言い回しは、国家観を共有し、本当に信頼している政治家への最大の敬いの表現であるとともに、NOと言わせない殺し文句でもあった。
・・その関係は、「お友達」でも「不協和音」でもない、永田町の陳腐な形容詞が全く当てはまらないものだった。そして二人の政治家が意見の相違を乗り越えていく際に不可欠なのが、「国家観」であることを痛感した。
・・麻生はこう証言する「安保改定をしたいという岸の申し出に対して、吉田は即座に「あれは当時はしょうがなかったが、変えなければならない代物だ」と言っていた。はたから見ると、二人の関係は、政敵というよりは盟友に近かったと思う」
・・私は当時、アメリカ政府の複数の担当者が鳩山のことを「Loopy(頭がおかしい)」「Idiot(間抜け)」と吐き捨てるように言うのを何度も聞いた。
・・岸は引退後この訪米について、次のように語っている。「友好親善の日米関係を築くためには、占領時代の滓(かす)みたいなものが両国間に残っていてはいかん。これを一切なくして日米を対等の地位に置く必要がある」 岸は訪米に先立ってアジア各国を歴訪し、太平洋戦争の戦禍を乗り越えアジアの盟主として歩んでいく決意を内外に示した。
・・いくつかのオバマの個人的エピソードを分析した結果、オバマの性格について「打算的」「自己中心的」「ドライ(冷たい)」「ディフェンシブ(身構えている)」という結論が導き出されたという。あらゆることに論理的説明を求め、自分が不利になりかねない情報開示を避けるあまり、打ち解けた雑談や人間的なやり取りも避ける傾向がある。こうした「とっつきにくい」オバマの個性が、長く日米関係に影を落とすことになる。
・・アメリカ政府は、通信を根こそぎ収集してデータセンターに保管し、後から検索できるようにしていることも明らかになった。暗号化されていない電話やメールはすべて傍受されている前提で行動しなければならない時代が来たのだ。
・・この共同声明の署名欄には、日米に加えて英豪韓など11カ国が名前を連ねているが、ドイツは含まれていない。後になって日本側のある外交関係者は、アメリカ側から「ドイツにも開示していない情報を、秘密保護の法整備が不完全な日本に開示した」と恩を着せられたという。「こちらがいくら依頼しても、客観的な証拠を示すまで日本は信じてくれなかった」というアメリカ側の失望の表現ともいえた。実際この後一定の間、日米関係はぎくしゃくした。その最たるものが安倍の靖国参拝をめぐるアメリカの反応だった。
・・安倍が2013年12月26日に靖国神社を参拝すると、アメリカ側は「あれだけ行くなと忠告したのに無視された」と受け止めた。それがアメリカ国務省がコメントの中の「disappointed(失望)」という言葉につながっていく。
・・肩書をまとった表向きの交渉とは別に、日頃の個人的な付き合いが外交の舞台では重要なカギを握ることが多い。
・・もっとも安倍の心をとらえたのは、岸の次のフレーズだったという。「日本が、世界の自由主義国と連携しているのも、民主主義の原則と理想を確信しているからであります。このフレーズには、「アメリカとの対等な関係を構築する」という岸の強い決意が込められていた。
・・宏池会は、岸田と古賀という新旧領袖の全面対決といっていい展開になっていった。岸田はそれまで毛並みのよさかっらパワーゲームから縁遠い印象を持たれがちだったが、この経緯を通じて自民党内では「岸田はリーダーとして一皮むけた」と評価する者が少なからずいた。
・・「小沢も亀井も政局観が衰えた」と揶揄する声もあった。しかし、それだけだろうか。「耳障りのいい政策で国民を釣る」という旧来の日本政治家の迎合手法が、有権者に通じなくなったのではないか。逆に言えば、「たとえ国民に不人気な法案でも必要と判断すれば果敢に実行する」という姿勢が、大衆迎合の言説を凌駕したのではないか。・・2009年の政権交代前夜から、民主党政権時代に受けた国民の落胆は、耳障りの言い政策そのものへの懐疑心へと変質した。日本の有権者は度重なる失望から学習したのだ。
・・支持率という観点から、安倍の政権運営を理解するキーワードとして、「ポリティカル・アセット」という表現がある。これはアメリカの政治学で使われる用語で、直訳すれば「政治的資産」、わかりやすくいうなら「総理の貯金」とでも表現すべきものだ。政権発足直後で支持率の高いうちは「政治的資産」が大きいから、思い切った政策を打ち出せる。逆に支持率が低迷している内閣は「政治的資産」が乏しいから、議論の分かれる法案を通すことはできないといわれる。
・・北岡伸一は、2015年11月に訪米した際、昨今の国民意識の変化について、次のように語っていた。「安倍は自らの祖父岸伸介以来めったに見られなくなった「媚びない政治」を再興しようとしているのではないか。これは安倍独りの力で達成されるものではない。これまで裏切りを続けてきた、「媚びる政治家」への国民の本質的な嫌悪が安倍への静かな追い風となっていることは間違いない」
・・「総理大臣になることや総理大臣であり続けることが重要なのではなく、総理大臣になって何をなすかが重要なんです」
・・「Yes or No」ではなく、「How」を問われる局面が急増しつつある。
・・「アベ政治を許さない」と主張する人の話を聞いてみても、アベもアベ政治も知らないケースが多い。イデオロギーや好悪に基づいて感情的にアベを嫌い、印象論でレッテルを張り戦略的にアベを貶めようとする人がほとんどだ。
・・政治家と直に接触する政治記者には、有権者に対して政治家の人格・品性・能力に関する客観的情報を提供することが期待される。
・・現代では、インターネットが記者をかつての特権的地位から引きずり降ろそうとしている。・・もはや、生の政治家に触れられるという点こそ、政治記者が有する最後の特権と言っても過言ではない。それでも政治家に肉薄しない政治記者は、震災現場に行かずに震災の記事を書く社会部記者と変わらない。
・・ジャーナリズムの一線を越えてしまいそうな局面で、本当のジャーナリストが自らの支えとするのは、「事実に殉ずる」という内なる覚悟だ。だからこそ、記者という仕事には矜持が求められる。』

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