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2016年6月29日 (水)

大人もぞっとする 初版「グリム童話」 (由良弥生著 三笠書房)

少し懐かしく思いつつも、まったく違う結末に、生きることが難しかった時代の雰囲気と、価値観の変遷を感じます。

『こんなことは、昔は誰でもやってたのさ。特に飢饉のときにはね。お前らが生まれる前にも、この国では大きな飢饉があった。飢えた大人たちは、自分らの子供を交換し合って、夜中にこっそり煮て食べたものさ。そのおかげでこの国は滅びずに済んだんだ・・・。
・・実の母が子どもたちを森に捨てようと画策する初期の物語のほうが、より現実に即しているのではないでしょうか。そもそも、ヘンデルとグレーテルが森へ捨てられたのはどうしてか。それは飢饉のためです。かつて、飢饉は、私たち現代人が想像する以上に、人々の心を凍らせる災害でした。一家そろって飢え死にするぐらいなら、食い扶持を減らしたほうがいい。それも、働きのない者から始末数rのが常套手段でした。日本でも、間引き、姥捨て、子捨て伝説は、枚挙に暇がありません。
・・ヨーロッパ中世は、キリスト教道徳が人々の生活すべてを規制する世界でした。社会生活は教会を中心に形成され、教育から性道徳まで、教会の意向を無視して成立するものはありませんでした。性道徳においては、上流階級では、かなりおおらかといってもいいほどの性的放埓が大目に見られた半面、庶民生活は厳しい戒律に縛られていました。
・・別に、何かがほしいというわけではなかった。だが、死ぬときすら、親父は自分のことを顧みてはくれなかったのだという思いが、きりきりと青年の心を苛んだ。・・まるで、今までは遠い存在だった父親を取り戻そうとするかのように、青年は、ベッドの脇にぺたりと座り込むと、父親の冷たい手を取って、自分の頬に押し付けた。
・・猫は袋の上から野兎の首のありかを探る。「かわいそうな野兎ちゃん。世間の掟を、何もご存じないね。」そう歌うようにつぶやくと、猫はうっすらと微笑みを浮かべながら一思いにその手をひねった。「ギャ・・・・・・」野兎の断末魔を満足げに聞き届けた猫は、しなやかなしぐさで、次の野兎へと手を滑らせた。
・・古来フランスでは、猫は邪悪の象徴であり、性的魅力でもって男性を惑わす女性の象徴でもありました。・・魔法使いが最後に姿を変えるネズミは、猫を女性の性的魅力と解した場合、男子の性的魅力の象徴として並び称されます。
・・「聖書にも「鞭を加えざる者は、その子を憎むなり」と記されている。息子を真に愛しているなら、鞭で打ってやらねばならない。それがあの子のためなのだ。」
・・「親に背き、神に背いた生き方をしたこの子が救われるためには、お前たち両親が子供に鞭をもって、正しい道に導くしかないのじゃ。それには、その腹を痛め、この子を産んだ母の力が必要なのだ。子供がかわいいのなら、やるのだ。」
・・「自分の両親を打つ者の手は、死後、土の中からでてくる」という古くからの伝承は、実はドイツ固有のものではなく、スイス、オランダ、フランス、スペインなど、広くヨーロッパ各地にあったといわれています。墓から伸びた手が切断されて協会などに保存されているという言い伝えすらあるそうです。
・・親の愛に基づく厳しいしつけによってこそ子供は正しい道に導かれる、という考え方が、こ物語のテーマなのです。
・・グリム物語の「シンデレラ(灰かぶり)」が怖いとされるのは、継母や義理の姉たちにいじめられながらも必死で耐えていた、あれほど健気に見えたシンデレラ(灰かぶり)が最後に見せる冷酷さでしょう。・・邪眼を持つものは、その視線一つで相手に災いを与えることができると言います。「灰かぶり」では、老婆とはおよそかけはなれた若い末娘が、この邪眼の持ち主として登場しています。
・・中世のころには、貴族も庶民も、眠るときはみんな裸になる習慣があったと言いますから、キリスト教においてタブーとされる近親相姦も起こりやすい環境ではあったようです。
・・「赤ずきん」の話は、幼い女の子の話のように描かれがちですが、実は思春期前後の揺れ動く少女の話と捉えることもできるのです。
・・しかし、理不尽とはいえ、青空の下で誓ったことなので、姫は誰にも自分と侍女のことを語ることができなかった。
・・血が霊力を持つという信仰は、バビロニアやアッシリアといった太古の昔から脈々と伝わってきています。血は「生命の川」ともいわれ、魂とすら同一視されました。・・「3」という数にも意味があります。バビロニアでは、「誕生、生命、死」の象徴であり、ユダヤ教では「3」という数字自体が、完全無碍と久遠の叡智を表すとされました。こうした信仰から「3」という数は神聖な数とされ、呪術などでも霊験あらたかな数として重視されたのです。
・・ヨーロッパには「秘密をストーブに話す」とか、「ストーブに何かを頼む」という慣用句があります。つまり、人に言えないようなことはストーブに話してしまおう、という考え方があるのです。
「ヘンゼルとグレーテル」に見られるように、昔の森は人々にとって恐ろしい場所でした。昼なお薄暗い森には、盗賊や狼、そして魔女が住んでいると思われていました。そのため、森への子捨ては、子殺しに匹敵するものだったのです。
・・魔女になってしまう危険性は、告発する側とされる側、両方にありました。それに、魔女は醜い老婆だけではなく、グリム童話でも、「白雪姫」のお妃のように、美貌の女性として描かれることもあります。』

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