仏教の「無価値」論 (アルポムッレ・スマナサーラ著 日本レーラワーダ仏教協会編)
『宝物として家族、仕事、財産などのが謡的なことを話しました。これらは生きるためには欠かせないものです。でも、「これらに執着すると、幸福を得る代わりに苦しいを味わうことになるのだ」と理解していただきたいのです。財産、家族などにあまりにも執着しすぎると、これらはより早く自分から離れて逃げていくのです。
中道的に、執着しないで、また理性を失わないように、慈愛にもとづいて、生きる上で欠かせないものとつきあうべきです。
なぜ、思考を捨てられないのですか?宝物だからです。価値があるからです。「自分そのものだ」と思っているからです。
望んだ結果が一時的で、瞬時に消えるもので、なにも残らないという意味です。・・若い時にはお金を貯めて遊ぼうと思っても、歳をとると遊ぶことがつまらなくなるのです。
「価値」とは実際にあるものではなく、われわれの概念から出てくるもう一つの概念です。価値の世界は、具体性はほとんどない、頭の中に生まれる抽象的な概念なのです。わかりやすく言えば妄想です。
仏教は、人間の限りのない苦しみの原因は、この価値観にあると説いています。価値観はこころにあるもので、ものにあるのではないのです。価値観からこころが解放されたら、それが覚りの境地です。
お釈迦さまも弟子たちも、出家して家族から離れたのですが、その責任からも逃げてしまったということにはならなかったのです。たとえ、出家しても、親の面倒を見る人がいなくて自分一人で生活できなくなった場合、托鉢して親に食べさせた一人の比丘のエピソードもあります。「親孝行は素晴らしいことだ」とお釈迦様はこのことを誉めたのです。ですから、捨てるのは執着であって、人間としてあるべき慈しみの人間関係を捨てるのではないのです。責任から逃げるのではないのです。
出家の食べ物にたいする見方は全く違います。人間のからだは、どんどん壊れていくのです。食べないと死んでしまいます。これは、どうしようもないことです。それで仏教の世界では、「ただあなたは材料を入れているだけです」「部品交換をしているだけです」と言われるのです。・・尊いありがたい食事をいただくとすると、価値観の世界です。仏教の道ではないのです。・・生きている間も腐っていくのですが、こころという意識があるから腐ったものを洗い流すのです。お風呂にも入らない動物はそれほど臭くないのです。もし人間が体を洗わなかったら、世の中で一番悪臭を放つ生き物になるでしょう。
・・焦らないで落ち着いて行動する。それ以外はすべて集中実践の時間だから、できるだけその時の気持ちに合わせてスローモーションをしてみる。ときどき、超スローモーションをやってみたほうが良いと思います。こころを落ち着かせるために、スローモーションをなさってみること。 それから二番目。瞑想を始めてから(合宿を)解散するときまで、ずっと実況中継を忘れないことも大切です。・・もっと厳しく言えば、「いらないことはなにも考えないでください」と頼みたいのです。
一瞬しか、現象は残らないのです。すべての減少にあるのは、ほんの一瞬です。それを感じ取ってみてください。
・・仏教ではこう考えます。「生きることは大変だ」と。その苦しみは、何かに「価値がある」と思うところから生まれてくるのです。では本当に「価値」というものがあるのかと調べてみたところ、無価値を発見するのです。それを「覚り」と言っています。一切のものに価値がないとわかると、あの苦しみの炎が全部消えてしまうのです。
ブッダは「価値を入れてはいけない」とおっしゃっているわけではありません。ただ、何物にも価値はないという真理を語られたのです。解釈は何もなし。
精神的な病気の人は、狭い範囲に絞って徹底的に価値を入れています。普通の人は、あれやこれや、いろんなものごとに幅広く価値を入れています。価値を入れる幅が狭くなると精神的にかなりきつい状態になるのです。世間ではその状態だけを「病気だ」と言っています。
どうせ因果法則だから、悩んでも悩まなくても、次にするべきことは決まっているのです。こころは動揺しません。動揺しない人は成功します。どんなことがあってもリラックスして、穏やかに楽しく生きていられることこそ、「幸福」ということなのです。』
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