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2015年6月27日 (土)

「アジアインフラ投資銀行」の凄惨な末路 中国の野望はかくて潰える (宮崎正弘著 PHP研究所)

著者の豊富な知識に脱帽です。

『ベトナム沖合の海底油田の油井リグはベトナムがロシア、インドなどとの合弁で進めている現場が多い。他方、ベトナムは米軍との共同軍事訓練も実施している。国交回復20周年として、ダナン港に米海軍の駆逐艦などが入った。そのうえでグエン・フー・チョン共産党書記長は北京を訪問したのだ。

2003年の都知事選挙で東京都が新銀行をつくることを公約とした石原慎太郎知事は、2005年に「新銀行東京」を発足させた。資本金1187億円で、うち1000億円を東京都が出資し、わずか3年後、累積赤字1000億円を出して事実上、破たんした。・・その記憶が鮮明によみがえってくるのである。いうまでもなく「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)と、もう一つ、中国が主導する「BRICS銀行」の行く末である。

中国の4大銀行の不良債権率が1%台というのは信じられない。少なくとも、一桁ちがっているのではないか。中国の国有銀行は潜在的な不良債権を隠ぺいしているとしか考えられない低い数字が並び、首をかしげたくなる。いや、米国のアーンスト・アンド・ヤングとの優良な会社監査法人が中国にも信州つぃて詳細を調べ上げているが、あまりのことに公表を差し控えているのである。

周知のように、3億8400億ドルあるとされる中国の外貨準備は空っぽ。虎の子の米ドルは、高級幹部や国有企業の経営者等によって海外へあらかたが持ち出されている。加えて無謀な海外投資、プロジェクトへの出資やら外国企業の買収などで外貨準備が底をついた。かろうじて保有する米国債券は、ドルと人民元交換の担保であり、全国的に引き上げるわけにはいかない。

ビットコインの80%は中国人、庶民は金買いに走り、人民元を手元におかないように心掛けている。猛烈インフレに悩んだアルゼンチンや、崩壊直後のロシア経済と酷似してきた。

世界が幻惑された中国の外貨準備が世界一という数字は、一種のトリック。中国の外貨準備は3兆8430億ドル(2014年末)とされるが、ちょっと待った。CIA系シンクタンクの調査ではすでに「不正に外国へ持ち出された外貨」が少なく見積もっても、1兆800億ドル、最悪のケースでは3兆7800億ドルあるという。つまり、表向き「あることになっている」はずの「外貨準備」がじつは底をついているのである。その証拠に中国は米国債の保有額を減らしており、2015年2月末統計で日本は世界一の座を復活させた。

金融インテリジェンス戦争をけん引しているのは英国のシティである。したがって英国にとってAIIBに加盟を表明しないことには情報が得られない。その高度の情報を同盟国である米国に提供できる。そもそも、世界金融を取引量や指標などで差配しているのはウォール街であり、そのウォール街の論理は規制を徹底的に緩和し国境の壁を取り払うグローバリズムであるが、そのルールを決めているのは絵一国のシティという原則的視点を忘れがちである。英国は、もし中国がシティルールを破壊するような行為に走れば、いつまでも協力的態度を続けるとは考えられない。

・・中国が英国を引き込んだことは、シティルールを呑まないかぎり、AIIBの円滑なスタートはないという陥穽に落ちたのである。

加えて同行の本店ビルは北京の金融街で建設が始まったばかりで、どう最速に見積もっても本店の建物の完成は2017年ごろである。・・多くの誤解があるようだが、資本金は1000億ドル集まろうが、これは使えない原資である。貸し付けは、設立以後に起債されるAIIB債権で集められる資金でなされる。株式会社にたとえると、増資して株主への配当を約束しながら経営するスタイルであり、銀行という特殊法人は不良債権を抑えるためにも自己資本比率が厳しく査定される。AIIBポンドは債権である以上、金利をつけて拠金者(つまり株主)から集めるが、そこで最大の問題は格付けである。S&P社やムーディーズがAAAなどと「信用力最高」のランキングにするとは考えにくく、もしBBB(投資不適格)などという低い格付けになった場合、高い金利をつけなければ市場で消化できない。

さらにややこしい問題は、ロシアが期待する「BRICS銀行」だ。ブラジル、インドよりロシアのGDP成長は遅れており、そもそもロシアとブラJるは原資負担にも追い付けない状況になってしまった。

たしかに貿易では「中国が重要な相手国」と回答したアメリカ人が43%となって対日重要度(36%)を抜いた。しかし、中国を信頼できる国かとの設問には過半が懐疑的で、25%が「まったく中国を信用していない」と答えている。公平かどうか、という調査では「中国が公平」としたのは36%、対比的に日本への信頼度は55%という高い数字だった。

問題は「成長の速度」ではなく、成長の要因が重要である。過去の中国の急激な成長は地方政治の債務による投資に依拠した。国有企業のがむしゃらな設備投資に支えられたが、そのような成長は長続きしない。そしてボールソンはこう続けた。「金融システムの調整が必要だが、習近平は党内に物議を醸しだし、日本との関係を悪化させ、メディアの統制どころかインターネットも監視している。経済が今後も安定的持続を志向するのであれば言論の自由、流通の自由を認める改革が必要であるにもかかわらず習近平は、そのことに背を向けている。」

習近平が唱える「愛国主義による中華民族の復興が中国の夢である」という虚ろなスローガンを無邪気に受け入れ、信奉する人々はもはや存在しない。追従組がいくら宣伝しても、本気で宣伝しているわけではなく、聞く側もまったく白けている。シャンボー教授はこうした状況下の習近平を「裸の王様」と揶揄した。というのもシャンポーは、北京の中央党校校内の書店で山積みになっていた習近平の「大衆路線」を宣伝する無料の冊子を誰も持ち帰らない風景を目撃したからだ。

他方、習が自派閥を持たず、権力基盤を強固としていない段階で、守旧派、最大利権集団の上海派を標的としたことは無謀ともいえる。江沢民に習近平が挑むのは危険を増大させる(シャンボー教授は明言していないが、軍クーデター、暗殺というシナリオがある。)

地政学上もニカラグアは米国の安全保障にとって重大な位置にある。ともかくニカラグアという「米国の中庭」で中国は、米国の大きな権益があるパナマ運河に対抗するため膨大な建設費を投じてニカラグアの東西を貫通させる運河を建設し、数年で完成させると息巻いている。

シャンポーの結論は「いったん、この体制が崩れ始めると中国は長期的かつ複雑に停滞し、より暴力的な社会となるだろう」というものである。その直前にも、対中ハト派の代表格、ジョン・アイケンベリーが「フォーリン・アフェアーズ」に寄稿して「中国に失望した」と書いた。

世界を見渡して、いま中国の味方は誰もいない。中国は四面楚歌の状態である。最後の有報だった北朝鮮ともいまや犬猿の仲であり、中国には援助と引き換えに応援を言うのはラオスとカンボジアだけ。かの華僑国家であるシンガポールも、中国の軍事力に対応するため米空母の寄港を認めている。

・・このうえに無謀な海外投資で流れ出た外資もある。GIF(グローバル・ファイナンシャル・インテクリティはワシントンのシンクタンク)のホームページを見れば、衝撃的な詳細レポートが無料で閲覧できる。

英国は総選挙を控え、経済政策の突破口をキャメロン政権は探していた。しかも英国政権ンは連立であり、保守党と自由党が連立を組んでいるのだから、ちょうど公明党を口説いて自民党の政策決定に影響力を行使しているように、中国は英国自由党にテコ入れして与党連立に亀裂を生じさせ、この隙間をついて中国は英国正解を分断した。そのうえで英国の財務省と外務省との亀裂が生じたすきに、穏健派のオズボーンその財務大臣がキャメロン首相を口説いた。

しかしユドヨノ政権からジョコ政権になると、インフラ建設投資、港湾設備に熱狂的となって、日本と同様な位置づけを中国に対してもとるようになった。貿易相手国も日本を抜いて中国が筆頭となった。

在日華人らの中国語新聞は54種も出そろっているが、最近は日本批判の記事に混ざって自省の色彩を帯びてきた。なかでも「中国のGDPは日本の2倍だが、実質の経済実力で中国は日本に40年遅れている。一人あたりのGDPは中国が7000ドル弱なのに、日本は4万ドルである」(華風新聞 2015年4月10日号)

第一は、為替レートによる通貨競争で中国は負けが込んできた、という意外な事実だ。人民元のドルペック制が裏目にでているのである。

いま、米ドル高にひきつられて人民元も独歩高、1人民元は12円から今や20円から21円である。だから日本に旅行に来ても中国が割安感を感じるという、奇妙な景観が出現したのだ。

・・中国の債務総額はGDPの282%(マッキンゼー報告)で、日本より悪いのだ。

第6にこれほどの金満国家となっているのに社会福祉、生活保護、医療制度は問題だらけ。特権階級のみが社会福祉制度の恩恵にあずかれるが、庶民は蚊帳の外である。したがって民衆の党幹部への恨みは深く、こうした所得格差を少しでも縮小させていかない限り、庶民、農民の一揆、暴力的抗議運動が収まることはないだろう。

中国は新幹線に関して「安全」を最重要視した。その「安全」は運行の安全ではなく、テロリスト対策だった。日本とまるで異なり、乗客サービスや車両の安全はおざなり。日本の新幹線のような乗り心地や乗務員の優しいサービスなど、ソフトに関することは劣悪である。安全性に関して不安で危険な個所は、山とトンネル部が多い区間、とりわけ山間部の数十メートルの高架と、長い河川にかけられた橋梁の強度、耐久度への疑問である。

2014年夏以来、マカオの賭場は暗黒なムードに覆われている。ギャング等の犯罪のせいではなく、肝心の中国大陸からの客が激減したのだ。

共産党では不文律として、引退した幹部は外遊どころか国内でも公の場には登場しないことになっているのだが、江沢民は2014年、上海に現れてプーチンと握手し、夏の北載河では海水浴の様子を意図的に写真を撮らせた。

恨みを買ったことを強く認識した習近平は、せっかくハーバード大学へ留学させていた娘の習明澤を、誘拐や暗殺から守るために急きょ、帰国させる措置をとった。ほかの幹部連中も一斉に子女を一時帰国させた。

・・王外相の発言が中国国内の政治において、どれほどの重みをもつのか。王は党内序列が低く、先輩格の楊潔●前外相(現在国務委員)にはるかに及ばず、しかも次の党大会で国務委員になれないだろうといわれる。つまり、彼がなにを言おうと、報道する価値は低いのである。王発言は党内上位に向けてのゴマすり発言でしかないからだ。

王が日本駐在大使の折、右腕として仕え、日本のマスコミが中国報道をウォッチしていた馬継生は、夫人とともに「重大な規律違反」で拘束された。馬は日本勤務のあと外交部報道副部長からアイスランド大使に転任していたが「スパイ容疑」を問われたという。

福澤諭吉は130年前に警告した。悪友とのつきあいを止めようと提唱した「脱亜論」の動機は、朝鮮独立運動を支援する過程で、背後にいる清の抜きがたい華夷秩序という障害、そのい時代錯誤を目撃し、絶望したからだ。

西村氏によれば、「脱亜論」は日本史の中で4回あった。聖徳太子、菅原道真、荻生徂徠、そして福澤諭吉という列になる。聖徳太子は遣隋使を使わして隋の煬帝へ送った書「日出ところの天使」云々。二番目は菅原道真の遣唐使廃止という英断。そして三番目は江戸国学の台頭と朱子学への訣別、つまり「中世政界からの脱亜」だったという。たしかに歴史をひもとけば、危機に直面すると日本に現れるのが脱亜論である。

しからば征韓論と日清戦争はなぜかと問えば、「征韓論は韓国を独立させるための方法についての日本政府内部の議論であって、韓国を侵略してわが国土に加える目的ではなかった。」「日清戦争も韓国の独立を容認しない清と闘ったもので清国を領有する目的はなかった」と馬渕睦夫・元ウクライナ大使は続ける。

宗族制度とは、一族の中に優秀な子どもがいれば、皆で金を出し合って学校へ送り出し、科挙の試験を受けさせ、一族の名誉とした。科挙選抜の原動力となり、官僚を引退すると「郷紳」と呼ばれ、その土地の統治者でもあった。こうした中国古来の伝統が崩れた。破壊したのは毛沢東の共産主義で、「革命」と称して、農村へ行くと、地主と郷紳を人民裁判にかけて処刑した。これで農村に知識人は不在となった。家族主義を壊したのは密告制度だった。

将来のポーランド支配にこうしたリーダーの卵たちは邪魔だったため、捕虜の扱いを無視した蛮行だった。しかも長くソ連は「ヒトラーがやったこと」などと平然とうそぶいていた。英米は「カチンの森の虐殺」の真犯人を知っていながら、ソ連の主張に加担していた。この構造は「南京大虐殺」と似ている。「南京大虐殺」という政治宣伝は中国がねつ造したフェイクだと英米は知っていながらも、戦後70年、中国の主張を黙認している。

ポーランドはロシアとドイツに挟まれて侵略を繰り返され、その歴史の教訓からEUとNATOに加わったものの「ユーロ」には決して加盟しようとはしなかった。「主権」を棚に上げて金利も債務上限も独自に決められないことに国民はNOをつきつけ、もしユーロに加わるとなると憲法改正が必要という措置をとっている。

日本の伝統的な智恵に解決策がある。戦国武将から豪商、そして名もなき一介の庶民から特攻隊の遺書までを一瞥すると、一貫して底に流れるテーマがあることに気づく。「自己に克ち、国家に忠誠を、人生を有意義に、そして決して浮利を追うな」という訓戒である。』

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