中国最大の弱点、それは水だ! 水ビジネスに賭ける日本の戦略 (浜田和幸著 角川SSC新書)
少し古く、同意できない部分もありましたが、参考になりました。
『「水ビジネス」の市場規模は、2025年には現在の約1.7倍にあたる100兆円規模になると試算されている。
日本は、企業がモツ水処理技術と、行政が持つ水道施設運営ノウハウを一体化させれば、世界の水ビジネス市場で十分に戦っていけるのだ。
2025年には、安全な飲用水と基本的な公衆衛生サービスを持たない人々が世界人口の3分の2に上がると見込まれている。・・地球上には水が約14億立方キロメートルあるという。しかしそのうちの97.5%は海水であり、淡水はたったの2.5%。しかもその大半は氷や地下水なので、人間が容易に使える水は全体のわずか0.01%にしかすぎない。
国連では、1993年から3月22日を「国連水の日」に定め、そのつど、各機関が調査レポートを発表して世界に警鐘を鳴らしてきた。こうしたレポートによると、現在、世界人口の3分の1以上が、水不足に直面しているという。そして、2020年までにわれわれ人類が使う水の使用量は、現在より40%以上も増大するという。さらに2025年までには、世界人口の3分の2が、必要な水が十分利用できないウォーターストレス状況に陥っているという。
中国は世界総人口の20%の人口を擁しているが、その淡水資源は世界全体のわずか6%にすぎず、これを補うために地下水資源が大量にくみ上げられている。これが、地下水の危機を引き起こしている。地下水を含めた水危機は中国にだけ存在するものではないが中国は世界のどの国・地域に比べてもきわめて深刻な状況にある。
中国政府は、この南水北調計画を進めるに当たり、一切の懐疑的意見を聞こうとしてこなかった。共産党一党独裁体制の国では上からの指示がすべてである。計画通りに事態が進めば、これほど効率の良い国家運営もないだろう。しかし、大きな落とし穴はチェック・アンド・バランスの機能がないことである。
・・「気候変動の影響で2050年までにアジア地域の小麦と米の生産はそれぞれ21%と16%減少する」と伝えている。・・いずれにせよ、大量の水がなければ、欧米式の食生活は続けられない。とくに、肉類の確保は難しくなるに違いない。
・・近年は生産高を増すために遺伝子組み換え作物が普及するようになってきた。こうしたハイブリッド種から育つ作物は、伝統的な地場の作物と比べ、大量の水を必要としている。そのため、世界各地で地下水を大量にくみ上げ、灌漑用に使うケースが増えてきた。
ボトル水が世界の流行として広く普及した結果、一般の水道水に対する関心やインフラ整備に投入できる資金が先細ってしまった。最も深刻な被害を受けているのが、低所得者層と途上国の貧困層である。・・たとえば、オレンジジュースをコップ一杯飲むことを想像してみればいい。たった一杯のオレンジジュースをつくるために、じつは850リットルもの水が必要とされるのである。また、工業用の半導体1キロを生産するためには、洗浄用の水が1600リットルも必要とされる。
・・毎日4500人の子供の命が、不衛生な水が原因とみなされる病気によって奪われているのである。
「水道統計」(厚生労働省)によれば、1人が1日に使う水道水の量は、1年で平均すると364リットル、夏のいちばん暑い時期には443リットルとなっている。これは、10リットルのバケツで約30杯分(夏の暑い時期は約43杯分)ということになる。ところが、そのなかで引用に使っているのは3リットル程度と言われている。つまり、家庭で使っている全体量の100分の1にも満たない。
超純水とは、イオン類、有機物、生菌、微粒子などを含まない純度の高い水のことであり、不純物の量が10億分の1といったレベルの限りなくH2Oに近い水だ。半導体生産ばかりか、医療品、バイオ製品の生産などにも使われている。
家康はまず、小石川附近の湧水を江戸市中に引いた。これが最初の江戸上水で、小石川上水と称された。続いて、井の頭池や善福寺川の流れを取り入れ、神田上水へと発展したが、3代将軍家光の時代になると江戸は大きく発展し、新たな上水が求められるようになった。そこで4大将軍家綱の時代になって多摩川から上水を引く計画がたてられ、庄右衛門、清右衛門兄弟によって開削されたのが多摩川上水である。
緩速濾過は、原水中の懸濁物質、細菌、アンモニア性窒素、臭気、鉄、マンガン、陰イオン界面活性剤、フェノール類刀を浄化する能力がある。しかし、この方式は1950年代半ばから始まった水道の普及拡大の時代にどんどん消えていき、急速濾過方式にとって代わられた。なぜならば、緩速濾過は広い用地を必要にするため、急激な水道の需要に対応するには、効率の良い急速濾過に切り替えていかざるを得なかったからだ。また、緩速濾過は微生物の働きで水を処理するため、きれいな原水を得るところが望ましく、急激に高い濁質が流れ込んでくるところや、汚濁が進んだ河川には適応できなかった。・・緩速濾過との大きな違いは、急速濾過では薬品をもちいて水を浄化するということ。薬品と言うのは凝集剤のことである。・・急速濾過の濾過速度は、1日に120~150メートル。なんと、緩速濾過の40倍であり、同じ水量を得ようとすると、緩速濾過の用地の40分の1ですむ。・・しかし、メリットがあればデメリットもある。それは臭気、合成洗剤、農薬、藻類などの除去能力が弱く、それらの影響が水道水に残りやすいという点だ。
・・今の日本の水道ビジネスは、浄水施設の設備刷新と水道管の取り換えを進めつつ、日本がこれまでに培ってきた世界でも有数の須藤技術をもって世界に進出していくということを、同時に進めて行く必要があるのだ。
水メジャーは、上下水道事業を含むあらゆる水処理事業に参入しているが、とくに技術的優位性があるわけではない。優位性があるのはその規模と実績であり、設計・調達・建設から運営・管理までのj行を一貫して元請け可能なマネジメント力、長期にわたる事業の理クス管理能力、さらには大規模案件に自らリスクマネーを投資する資本力を有することは、日本企業の比ではない。
現在、淡水化のプロセスには多くの電力が必要とされ、また、塩分を除去する過程で大量の廃棄物がうまれるので、コスト的には淡水化は見合わないという見方がある。しかし、これらの欠点を補う新技術が加われば、日本の淡水化技術は未来を切り開くパワーを秘めている。・・海水を淡水化する技術は豊かな資源を持つ中東産油国にとっては欠かせない技術である。中東にとどまらず、オーストラリアやスペイン、中国、インド、そしてアメリカといった国々でも近年、海水の淡水化プラントが相次いで建設され稼働し始めている。』
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