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2014年6月16日 (月)

幻の翼 (逢坂剛著 集英社e文庫)

百舌シリーズの第2作目だそうです。大へん面白く引き込まれました。また、これが書かれたのは、昭和63年ころで、北朝鮮の不審船事件が発生する前で、もちろん拉致問題が明らかになる前でしたが、筆者は独自の調査でそれらを明らかにしてこの作品に書いていました。とても驚くべきことです。しかし、一方でこのシリーズで警察権力の独占を狙う政治家を悪玉として登場させ、その危険性を指摘していることには、やや筆者の考えの浅さを感じます。警察権力の独占は確かに危険ですが、そのようなことが起こりようのない日本で、このように警察権力を過度に牽制するような風潮が、まさに北朝鮮の拉致、不審船事案を助長し、また日本とは比較にならない警察権力の独占をしている中国での人権問題に、日本が口を出せないような状況を作り出したのです。筆者がそういったことに気付いてないのならば浅はかですし、気づいていてあえてやっているのならば、私にとっては相いれない人でしょう。

『「たとえばウスターソース。あれはイングランドの、ウスターというところで生まれたソースなんです。イギリスはそういう良質のソースをもったために、いわゆるイギリス料理なるものを持てなかったといわれています」

かなりの乗客が降りる。李春元は宗田の5メートルほど後ろから改札口を出た。人が多いときはなるべく離れないのが尾行の鉄則だ。手提げかばんの中には、簡易着脱式のネクタイやメガネ、マフラーなど外見を変えるのに必要な小道具がいくつか入っている。人間の印象はちょっとしたことで、ひどく違って見えるものなのだ。

大杉は首を振った。「あそこまで危ない橋を渡りながら、おれたちは何を手に入れたんだ。何も手にいれてないじゃないか。森原が死んで世の中が変わったかね。だれかがどこかへ吹っ飛ばされて、べつのだれかが新しいポストに就いただけだ。何も変わっちゃいない」話しているうちに、情けなくなる。実際変わったことといえば何もない』

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