日本経済は、中国がなくてもまったく心配ない (三橋貴明著 WACBOOK)
多くの人が懸念している事項について、明快に書いてありました。
『日本の輸出総額はGDPの14%強でしかなく、OECD諸国の中でも下から数えたほうが早いレベルです。
日本の高度成長は主に、旺盛な個人消費と公共投資、それに伴って拡大を続けた企業の設備投資によるものです。日本は、健全な内需の拡大によって着実に成長してきたのです。
日本から資本財を輸入し、中国で製造した製品を中国が他国に輸出する、というわけで、最終的な消費者すなわち「エンド・ユーザー」は中国人ではありません。そのように考えると、日本の「中国への依存度」はさらに低い、ということになります。
そもそも経済とは何のためにあるのでしょうか。それはもちろん、国民の豊かで幸福な暮らしを実現するためです。GDPの額だけを見て「経済成長した」などと言っても、国民が豊かにならなければ意味がありません。そして国民の豊かさを測る物差しは「いくら消費できたか」、もっとストレートに表現すれば「どれだけの消費を楽しめたか」の一点に尽きます。
日本の国民一人当たりのGDPは約390万円、国民一人当たりの個人消費224万8000円に対し、中国はそれぞれ約46万円、18万1619円になっています。一人当たりのGDPでは日中の開きが約8倍しかないのに対し、一人当たりの個人消費は12倍の開きがあります。一人当たりのGDPが少ない上に、経済規模に見合った消費が行われていないわけです。
マスコミはなぜ、そこまでして「中国依存」を主張したがるのでしょうか。これは、はっきり言えば中国共産党の印象操作です。中国に依存していると日本国民に信じさせ、「日中友好は欠かせない」という空気を蔓延させることで、自国に有利な外交を進めようという戦略です。
あまり知られていないことですが、1964年に「日中記者交換協定」というものが両国の間で交わされています。協定によって日本側は、以下の三つの厳守を約束させられました。一、日本政府は中国を敵視してはならない。 二、米国に追随して「二つの中国」をつくる陰謀を弄しない。 三、中日両国関係が正常化の方向に発展するのを妨げない。 要するに「中国の悪口を書いてはいけない」という取り決めであり、記者を交換することによってチェックし、「親中国的」な記事づくりを意図的に行ってきたわけです。
・・そうした企業をさらなるチャイナリスクが襲います。それが「中国民事訴訟法231条」です。まだ日本ではほとんど知られていませんが、これが、まさに中国でしかあり得ない「最悪のチャイナリスク」なのです。内容を簡単に説明すれば、外国人であっても「法律文書に定めた義務を履行しない」ことを理由に、中国政府が出国制限することができる、というものです。
先進国の多くは、日本とほぼ同じ60%が個人消費で占められており、アメリカは70%に達しています。つまり日本は、高度成長が始まる時点で、すでに「先進国型消費中心」の経済構造になっていたわけです。
中国の場合、グラフを見れば明らかなように「総固定資本形成」の拡大が非常に目立っており、しかも年々、GDPに占める割合も増え続けています。「総固定資本形成」とは「民間住宅」「民間企業設備」「公的資本形成」の三項目をひとまとめにしたものです。要するに「投資」です。中国の投資はこの10年間で4倍以上に増えています。2009年の投資の増大は特に凄まじく、GDP比で5%近く一気に増えました。中国の経済成長は「投資」によって牽引されてきたと言えます。
中国の輸出が「驚異的に増加」できたのは、アメリカの経常収支赤字の「驚異的な増加」があったからに他なりません。中国経済は、途轍もないアメリカ依存だったのです。
・・中国の企業からすれば、いくら銀行からお金を借りても、実需が伸びないのであれば、積極的に設備投資をするわけにはいきません。必然的に、株式や不動産にお金が流れていくことになります。投資と言うより「投機」です。2009年、銀行から企業に貸し出された新規融資130兆円のうち、約半分が投機に流れ込みました。その末に発生したのが、前代未聞の不動産バブルです。
外貨準備高とは「自国通貨の為替レートの急変動を防ぎ、貿易などの国際取引を円滑にする」ために当局が保有するものです。
国の「金持ち度」を計るなら、海外に対して持っている資産の「対外純資産」を見なければならないはずです。グラフで日本と比較してみれば、どちらが本当の「金持ち」なのかは言わずもがなです。対外資産の一部に過ぎない政府保有の外貨準備が世界一になったところで、まったく意味はありません。
中国も輸出を増やし続けて他国の雇用を奪っているわけですから、摩擦を回避するには、生産拠点を海外に移し、直接投資すればよいはずです。ところが中国は、日本と同じ対応策を取ることができません。なぜならば、世界に売りさばいている中国製品の大半は自分たちの力で作り出しているものではないからです。信じがたいことに、中国の輸出額に占める外資系の割合は2001年以降、50%を超えています。中国の輸出を担っているのは、半分以上が外資系企業なのです。
民間の場合、銀行がお金を貸し出しただけでは、単なるお金の移動に過ぎず、GDPは増えません。企業が設備投資に回すなどして借りたお金を使うことで、初めてGDPが増えることになります。
たとえばスーダンでは、中国国営石油公司が現地拠点を設立して石油を輸入し、スーダン政府は中国から得た代金で武器を購入しています。死者20万人とも40万人とも言われているダルフールの虐殺は、中国の支援によって起きたものです。
・・中国経済は、もはや不動産バブルなしでは成り立たない体質になってしまいました。ロシアの知識人がロシア経済を揶揄して「原油こそわれらが命」と呼んだことにならって、中国人は「不動産こそわれらが命」と言うようになっています。
現在、中国では住宅ローンに苦しむ人々が「房奴」(住宅の奴隷)と呼ばれ、大きな問題になっています。可処分所得の大半が住宅ローンを占め、他の消費がほとんどできなくなっている人々が無数にいるのです。実質的に彼らの生活レベルは下がる一方です。
・・中国の株式市場が金融仲介のための公正な取引市場などではない、ということです。はっきり言えば「中国政府の資金調達の場」でしかありません。
グローバル・インバランスの拡大が続いた原因は主に三つあります。一つ目はアメリカの不動産バブルです。・・二つ目はユーロの存在です。ユーロは共通通貨で、一刻の収支によって直接影響されるわけではないため、赤字国でも通貨安になることはありませんでした。・・そしてもうひとつが、すでにご承知の通り、中国政府の為替介入です。中国がやったことは、為替レートというスタビライザーの機能を意図的に取り払ったようなもので、自国の都合でひたすら貿易黒字を積み上げ、グローバル・インバランスの拡大を加速させたのです。
アメリカは米中二国間の問題から「中国対国際社会」という構図にシフトさせることで中国への圧力を強め、人民元切り上げを強硬に要求していく気配をさらに高めています。中国もいずれ人民元を切り上げるよりほかになくなるのは確かでしょう。そして経常収支黒字に縮小していくことになります。経済成長の要であった中国の輸出業は、すでに「詰んでいる」と言わざるを得ないでしょう。
安い人件費については、低い可処分所得と所得格差の拡大或いは不動産バブルによる「房奴」の増加などが個人消費拡大のボトルネックとなっているため、政府は所得増と消費拡大を狙って人件費を高騰させる方向にシフトしています。人民元安も、グローバル・インバランスの縮小傾向と、それを加速させるアメリカからの圧力によって、ジリジリとですが是正されつつあります。そして、今後はさらに通貨高が進むはずです。つまり、中国製品の「安さ」をささえてきた二大要因が、見事に消え去ろうとしているわけです。これは事実上、中国の輸出産業を壊滅させることになるでしょう。
中国の場合は、単純に富裕層と貧困層の二極分化が進んでいるというだけでなく、三つの格差が混在していると考えられています。「富裕地と貧困地」、「都市部と農村」、「富裕層と貧困層」の三つです。
消費を拡大させるには、この「中間層」をどれだけ増やせるかが重要です。富裕層がいくらお金を持っていても、消費には限界があるため、所得のほとんどは貯蓄としてストックされてしまいますし、貧困層はギリギリの消費しかできません。
0から1までの数値で表すもので、数値が高いほど社会不安が高く、0.5を超えると「慢性的な暴動が起こる」とされています。中国の代表的メディアである新華社通信の報道によると、同国のジニ係数は、鄧小平んおかいかく開放初期から2007までの間に0.28から0.48まで上がり、その後も上昇を続けて、2009年には、ついに0.5を超えたということです。・・中国社会学院発表の「社会青書」、西南財経大学の調査などを見ると、2010年のジニ係数は0.61という驚くべき数値が出てきます。正直に言って、背筋が凍るような高さだと思います。
毛沢東時代の大躍進政策(農工業の大増産政策)では、中央政府には豊作の報告が上がっていながら、実際には農民が次々と餓死するという事態になっていました。餓死者は推計で2000万~5000万人とも言われているほどの大規模な飢饉でした。
2012年7月、アメリカのヒラリー・クリントン国務長官は、ハーバード大学での講演の中で「20年後、中国は世界で最も貧しい国になる」と述べました。その根拠として「中国富裕層の国外逃亡」を挙げ、移民申請の状況から官僚家族の9割と富豪の8割がすでに移民申請をだしたか、またはその意向があると説明しています。
共産党中央政府が強力な権力を一手に握っているようなイメージをもっている人もいるでしょうが、実質的には、各地方がバラバラの無統制国家という色合いが濃いのです。このような社会構造を根本から改革しない限り、中国の格差は永遠になくならないでしょう。そして途方もない格差が解消されない限り、消費拡大による健全な経済成長もまた夢でしかありません。
つまり中国は、50以上もの民族と言語が入り乱れている混沌とした社会なのです。多民族国家と言えばアメリカですが、「人種のるつぼ」と呼ばれながらも、自由と言う理念のもとにアメリカ国民としての忠誠を誓い、一応はみな同じ国民国家の一員としてのアイデンティティを保っています。しかし、中国人にはそうした共通の理念などというものは存在しません。
OECDの予測では、中国の65歳以上の人口比率は、2030年時点で日本を抜いて世界一になるだろうとの見通しです。』
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