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2014年3月22日 (土)

卜伝最後の旅 (池波正太郎著 角川-e文庫)

標題のものを含めた短編集でした。

『当時の剣法というものは、まだ原始的なもので、戦場での活用を主眼としているから後年のような複雑な太刀筋がまだ生まれてはいない。卜伝は、ただ一撃の打ち込みにこもる気力と、この気力に伴う肉体の自由自在な活動が、いざというとき充分に発揮されるべく鍛錬を重ねてきた。これを義輝に伝えるのである。それともう一つは---いかな場合にあっても、燃え上がる闘志を押さえる冷静な心と、立合いの駆け引きである。 「勝負というものは負くるものではございません。必ず勝つという見込みがない勝負は、するものではございません」と、卜伝は義輝に言った。 「勝てぬと思う時は逃げるのです。恥ではありません。よろしゅうございますか、私は、あなたさまが自らをお守りになる為に剣をお教えしたのでございますぞ」

慢心の芽吹きは、五十男の分別をも狂わせるものだ。そして少年のころから周囲に甘やかされては、たまったものではない。

「人というものはな、男女の区別なく、大切に扱えば、大切なるものとなる。わかるか?」

「泣くな」 八右衛門の微笑は絶えない。 「人の一生は、何をしたかにある。長い短いではないということが、わしの死んだ後に、多津にも権蔵にも、きっとわかると思う」 翌日の朝となった。るりしきる雪の、ふりつもる気配の中に、塩川八右衛門は、多津と権蔵の見守る仏間で、切腹をした。八右衛門ときに、39歳であった。

「おはる。よくおぼえておけ。人間、いざ死ぬ時が近づいてくると、あんまり苦しくないもンだよ。30年生きても、百年いきても、同じことなんだなあ」・・「・・強いものは、弱いものを馬鹿にしちゃアいけないのだ。偉そうな奴は、弱そうな奴をみくびっちゃアいけないのだよなあ。とても手が届かないと思った侍の腹を、おれは・・・・刀をにぎったこともないこのおれが、見事に突き刺したンだものねえ。・・」』

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