武田勝頼(三) 空の巻 (新田次郎著 講談社電子文庫)
終に武田家が亡びました。直接的な原因は、穴山信君でしょうが、元をたどっていけば、武田信玄にあるような気がします。戦上手で、最高といえる武将の一人で、私も尊敬していますが、子孫、家を存続させるという観点からは、色々と抜けがあったような気がします。
『家康は、忍耐する以外に生き方はなかった。心の中では、何時の日にかという思いがあったにしても、今は怒りを、こらえるより仕方がなかった。家康が高天神城奪還作戦に力を入れるようになったのは、信康の処刑が確定的になって以来であった。悲しみを忘れるための出陣だった。
「・・武田はわが北条氏の盾でもあるのです。武田は痛めてやっても、決して滅ぼしてはなりません」 憲秀は氏政に決断を求めるような視線を向けた。
先方衆はいざというときは本隊が来て助けてくれるから戦うのであった。武田家の御都合次第で見殺しにされると分かっていたら、戦う気持ちなど起きよう筈がない。
「・・城ができても、民心が城から離れた場合は、城を持ちこたえることはできない。民心の離反こそもっともおそろしいことだ」昌幸は民心という言葉に力を入れて云った。
「・・そこもとは木曽家の老職であるからなにかとむずかしいこともあるだろう。家老は主家の生命を握っている医師のようなものだ。目先の小康に心を奪われることなく主家の将来まで考えてことを運ばれよ」 良利は、その言葉を聞いて平伏した。穴山梅雪の利に誘われてはならない。木曽義仲以来の名誉ある家に疵をつけてはならないと昌幸は云っているのだと良利は理解していた。
「・・拙者は今、城を作ることだけを考えている。しっかりした城を作れば、そこに入った人間の心もしっかりするし、それを遠くから眺める人の心も変わるということだ。拙者は鎮の城を一日も早く作り上げたいのだ」 昌幸は、そう云いながら絵図面を片づけ、・・・
信玄の時代にもっとも活躍した諸国御使者衆と呼ばれていた武田諜報機関も、すべてこの金によって賄われていた。他国の情報を探って通報する仕事には金がかかった。信玄はこれに惜しみなく金を使った。信玄一代で、強大な国を形成したのは、黒川金山から算出する金の力によるものが多かった。武田は黒川金山のほか、富士金山や安倍金山などをもっていたが、これらの金山は勝頼の時代になると、ほとんど掘り尽くされてしまった。
「お前たちを集めて、この書状を見せ、いかにすべきか答えを出せと申しつけたとすれば、なんだかんだと意見が分かれ、答えが出るのに、二日か三日はかかるであろう。そして得られた答えは、およそつまらないものと決まっている。人がおおくなればなるほど結果はよくない。こんなことで、余はいちいち人を呼んで意見を訊こうとは思わない。即刻返事を書く」 信長は半ばひとりごとのように云った。
・・武田家臣団というのは、その体質は信玄個人の統率と、その権力構造のなかでは、いきいきと活躍できたが、本来の気質や性格は、現実主義にとらわれやすい。非常に脆弱な武士団気質のあつまりであったとしか云いようがない』
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