たそがれ清兵衛 (藤沢周平著 新潮社)
やはり私にはとっての藤沢周平作品は、武家ものがあうようです。どれも爽やかな読後感を得られました。
『ひとは他人の美を見たがらず、むしろ好んでその醜を見たがるものだからでもあろう。
美根の葬儀が終わったころから、弥助は少しずつ寡黙になった。自分を罰するといった強い意味があったわけではない。ただ胸の中に世の中から一歩身を引く気分が巣くった。すると言葉はおのずから少なくなったのである。弥助の胸の中で、悔恨と無口が次第に釣り合って行った。その証拠に、無口のために人に無視されたり変わり者扱いされると、弥助は人知れず気持ちが安らぐのを感じた。これでいいのだと思った。
いきなり横から襲いかかって提灯を叩き落とした。声を挙げる間もない供の下男を峰打ちで打倒し、返す刀で淵上の肩を存分に切り下げた。燃える提灯の火を踏み消して、暗い街を走った。与次郎どの、と織尾が言ったように思った。今夜はずいぶんと手ぎわのよろしいこと、お見事ですよ。見たのはわたくし一人・・・・・、二人だけの秘密にしましょうね・・・・・。与次郎は歯を喰いしばって、寝静まった町を走り続けた。父があるときを境にみるみる老けたように、いま自分の若さが終わったのを感じていた。
「伝えた技は、わが身を守るときの」ほかは、秘匿して使うな。人に自慢したりすると、のちのち災厄を招くことになるぞ」 亡父のその言葉を思えば、人前で軽軽しく使った技で、うつくしい嫁を購うことになる結末は、助八には受け入れがたいものだった。きっぱりと固辞した。』
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