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2013年6月 1日 (土)

長門守の陰謀 (藤沢周平著 文春ウェブ文庫)

藤沢周平氏の作品では、私自身は、町人ものよりも武士もののほうが好きです。町人ものには何か哀愁が漂っているように感じられて辛くなるからです。しかし、好きではなくてもその中には人生の一面を鋭く描写している部分があり、心に残ります。

『・・ひと月ほど前、作次郎は突然橋本をやめた。そしてそのあと、亀戸のほうにある賭場で、作次郎を見かけたという者がいた。作次郎は酒気を帯び、それがはじめてではない手つきで金をかけていたという。作次郎がそんな風になったのは、自分のせいばかりではないかもしれないという気がしたが、茂太とのことがなければ、少なくとも作次郎は、まだ橋本で働いていたはずだった。

おぶってやろう、と言ってしゃがむと、幸助は素直に背に乗ってきた。--夢みたいなことを考えても、しようがないものね。幸助を背負って、夕映えに照らされた田圃道を歩きながら、おりんはそう思った。子供の身体は軽かった。母親が見てやらなければ、どうしようもない軽さだった。

脇目もふらずに歩いてきた一本の道がある。鶴蔵はその道からはみ出したことがなかった。女遊びも知らず、酒も飲まなかった。女房のおなみが鶴蔵の触れた最初の女だったのである。それだから一軒の店を持てたのだが、それとは違う別の道を歩きたかったと、はっきり思うわけではなかった。悔恨は、かりにいま、そういうことを考えても、もはややり直しがきかない場所にきてしまったという思いから生まれた。その気持ちは、なぜか年々強まるようであった。時にはその思いのために、以前はかがやくようにみえた自分の歩いてきた道が、日がかげったように色あせて見えることさえあった。

「だが、貴公のように激昂してばかりいても、振りかかってきた火の粉は払えんぞ」』

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