八日目の蝉 (角田光代著 中央公論社)
書評を読んで、興味をもち読んでみました。母と子の描写が素晴らしく、自分に子供がいるからかもしれませんが、子が小さかったころの情景が頭に浮かんできました。自分は父親ですが、一人の母親の気持ちを少し理解できた気がします。
『女たちって、うまくいっているときは本当におだやかにうまくいくけどさ、何かあるとばらばらになったりもするでしょ。
「前に、死ねなかった蝉の話をしたの、あんた覚えてる?七日で死ぬよりも、八日目に生き残った蝉のほうがかなしいといって、あんたは言ったよね。私もずっとそう思ってたけど」千草は静かに言葉をつなぐ。「それは違うかもね。八日目の蝉は、ほかの蝉には見られなかったものを見られるんだから。見たくないって思うかもしれないけど、でも、ぎゅっと目を閉じてなくちゃいけないほどにひどいものばかりでもないと、私は思うよ」
その姿に、希和子は十八年前の自分たちを重ねる。素麺店から歩いた夏の日、ここにとどまろうと決心させた海と陽射し。にぎやかなお祭り、綿菓子を分けてくれた薫。いくつものちいさな祠と、海から吹くひんやりした風。希和子はいつの間にか記憶の中に立ち尽くしている。
年齢を重ねるにつれ、そこから一歩ずつ前進した気はしています。人が嘘をつくのは、守りたいものがあるから。嘘という悪の大もとには絶対的な善がある。そう考えるようになりました。』
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