毛利元就 鬼神をも欺く智謀をもった中国の覇者(童門冬二著 PHP文庫)
私の実家近くの武将について、読んでみました。個人的にはこの著者の筆致はあまり好きではありませんが、とりあえず心に残ったところを書きおきます。
『元就はまた、「水はよく船を浮かべる。しかしまたよく覆す」という中国の古い言葉を口にした。水というのは部下だ。船というのは主人である。だから、この言葉は、「部下は船を浮かべてはくれる。しかし波を立ててひっくり返すこともある」ということである。
毛利元就は、生涯酒を一滴も飲まない。かれは、「酒は魔の水だ。人を狂わせる。ろくなことはない」と本気で信じていた。父の弘元も大酒で死んだ。兄の興元も大酒で死んだ。
興元の知っている吉田地域の地侍の傘連判状は、そういう責任回避を目的にしたものではなかった。むしろ、「地侍(国人衆)の、地域自治を認め合う」ということが主眼だ。主従関係でなく、同盟関係によって地域の問題を処理しようというのである。
毛利元就は、自分でも口にしていたように、「武人にとって大事なのは、武略、計略、調略である。これ以外ない」といっている。
元就は常に、「手続き」を重んずる。同時に、「行動の大義名分をたてる」ということにも意を用いる。いってみれば、「世論」を常に大事にする。
(そうでなくても西の大内、北東の尼子に挟まれた毛利家は弱小だ。生き抜くためには、家中が結束しなければ駄目だ。特に、宿老たちがバラバラではどうにもならない)と思っていた。
元就は、文芸方面にも幅広い関心を示し、またかれ自身も和歌を作っている。したがって、いまでいえば、「仕事一方ではない、教養の深い人間」といっていいだろう。しかしかれ自身、武人として生き抜いた信条は、「武略・調略・計略を重んぜよ」と言い続けたように、あくまでも戦略を重視した。
中国地方の戦国大名にとって、石見銀山は垂涎の的だった。この銀山をおさえれば一挙に財力が高まる。したがって、中国方面の戦国大名の間では、石見銀山を制するものが、中国地方を制する」とまでいわれていた。
「人の和を確実にし、さらに拡大して行ければ、自然の地の利も得られる」とかれは考えた。
天文二十年九月一日のことで、こうして中国に覇を成し遂げていた名門大内家の最後の投手は滅びた。大内義隆は、四十五歳であった。
元就は、「合言葉は?と聞かれたら、勝つ、といえ」と笑った。宿将がさらに、「で、それに対する応答の合言葉は?」と聞いた。元就は、「応答も、勝つ、だ」といったので、全員笑い出した。しかし、この、「勝つといえば、勝つと答える」という、共に「勝つ」という合言葉の設定は全軍の士気を大いに高めた。』
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