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2012年7月25日 (水)

濹東綺譚(永井荷風著 )

昭和初期頃の東京の風俗などを知ることが出来、興味深い書でした。

『・・お雪の性質の如何に係らず、窓の外の人通りと、窓の内のお雪との間には、互いに融和すべき一縷の糸の繋がれていることである。・・窓の外は大衆である。窓の内は一個人である。そしてこの両者の間には著しく相反目している何物もない。

紅茶も珈琲も共に洋人の持ち来ったもので、洋人は今日と雖もその冷却せられたものを飲まない。これを以て見れば紅茶珈琲の本来の特性は暖かきにあるや明らかである。

鴻雁は空を行く時列をつくっておのれを護ることに努めているが鶯は幽谷を出でて喬木に遷らんとする時、群をもなさず列をもつくらない。然も猶鴻雁は猟者の放火を逃るることができないではないか。

東京音頭は郡部の地が市内に合併し、東京市が広くなったのを祝するために行われたようにいわれていたが、内情は日比谷の過度にある百貨店の広告にすぎず、・・・

・・東京市内の公園で若い男女の舞踏をなすことは、これまで一たびも許可せられた前例がない。地方農村の盆踊りさえたしか明治の末頃には県知事の命令で禁止せられたこともあった。東京では江戸のむかし山の手の屋敷町に限って、田舎から出てきた奉公人が盆踊りをすることを許されていたが、町民一般は氏神の祭礼に狂奔するばかりで盆に踊る習慣はなかったのである。

然し今の女は洋装をよしたからと云って、日本服を着こなすようにはならないと思いますよ。一度崩れてしまったら、二度とよくなることはないですからね。芝居でも遊芸でもそうでしょう。文章だってそうじゃないですか。勝手次第にくずしてしまったら、直そうと思ったって、もう直りはしないですよ。』

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