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2012年7月23日 (月)

三屋清左衛門残日録(藤沢周平著 文春ウェブ文庫)

年をとってからの気持ちを感じることができました。さわやかな読後感を得られる書でした。

『若いころはさほど気にもかけなかったことが、老境に入ると身も世もないほどに心を責めてくることがある。

・・・もとは同列だったものが、三十年会わずにいる間にその違いが生じた。若い間は功名心も激しくまだ先があるとも思うから、多少の優劣などということでは決着がついたとも思わぬものだが、年取るとそうはいかぬ。優劣はもはや動かしがたいものとなり、おのがことだけではなく、ひとの姿もよく見えてくるのだ。

・・・政権を争うということになれば、単純な理屈の言い合いでことが決まるわけではなく、藩内にどれだけの支持勢力をまとめることが出来るかが、勝敗をわける鍵になってくる。

・・・ひとが知れば、・・・。さぞ親馬鹿と謗ることだろうと思ったが、清左衛門の気分を重くしているものは、もうひとつその奥にあった。親は死ぬまで子の心配からのがれ得ぬものらしいという感慨がそれである。

・・・日ごろ生まじめな嫁があんなおどけを口にするのは、それだけ三屋の家にもひとにも馴れてきたということである。めでたいことだと思った。清左衛門の年齢になると、そういうささいなことにも、ふと幸福感をくすぐられることがあった。珍重すべきことのように思われてくる。

・・・人間はそうあるべきなのだろう。衰えて死がおとずれるそのときは、おのれをそれまで生かしめたすべてのものに感謝をささげて生を終わればよい。しかしいよいよ死ぬるそのときまでは、人間はあたえられた命をいとおしみ、力を尽くして生き抜かねばならぬ、そのことを平八に教えてもらったと清左衛門は思っていた。』

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