護持院原の敵討 (青空文庫 森鴎外著)
山本九郎右衛門の見事さに大いに感動しました。しかし一方で、現代人である私は、この境遇に陥れば、山本宇平のようになるのではないかと思い、寂しさも感じました。
『九郎右衛門は倅の家があっても、本意を遂げるまでは立ち寄らぬのである。・・・・本意を遂げるまでは飽くまでも旅中の心得でいて、倅の宅には帰らぬのである。
「そうか。そう思うのか。よく聴けよ。それは武運が拙くて、神にも仏にも見放されたら、お前の云うとおりだろう。人間はそうしたものではない。腰が起てば歩いて探す。病気になれば寝ていて待つ。神仏の加護があれば敵にはいつか逢われる。歩いて行き会うかも知れぬが、寝ている所へ来るかも知れぬ。」宇平の口角には微かな嘲るような微笑が閃いた。「おじさん。あなたは神や仏が本当に助けてくれるものだとおもっていますか」九郎右衛門は物に動ぜぬ男なのに、これを聞いたときには一種の気味悪さを感じた。「うん。それは分からん。分からんのが神仏だ」・・・宇平は軽く微笑んだ。おこったことのないおじをおこらせたのに満足したらしい。「そうじゃありません。亀蔵は憎い奴ですから、若し出合ったら、ひどい目に逢わせてやります。だが捜すのも待つのも駄目ですから、出合うまではあいつの事なんか考えずにいます。わたしは晴れがましい敵討ちをしようとは思いませんから、助太刀もいりません。敵が知れれば知れるとき知れるのですから、見識人もいりません。文吉はこれからあなたの家来にしてお使いくださいまし。わたしは近いうちにお暇をいたす積りです。」』
« 静かな木 (新潮社 藤沢周平著) | トップページ | 新聞記事から(平成24年5月31日付 産経新聞 リチャード・ハロラン氏、ジェームズ・アワー氏) »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略 (廣瀬陽子著 講談社現代新書)(2022.07.09)
- 賢者の書 (喜多川泰著 ディスカバー・トゥエンティワン)(2022.05.30)
- ウクライナ人だから気づいた 日本の危機 ロシアと共産主義者が企む侵略のシナリオ (グレンコ・アンドリー著 育鵬社)(2022.05.29)
- 防衛事務次官 冷や汗日記 失敗だらけの役人人生 (黒江哲郎著 朝日新書)(2022.05.16)
- 古の武術から学ぶ 老境との向き合い方 (甲野善紀著 山と渓谷社)(2022.05.08)
« 静かな木 (新潮社 藤沢周平著) | トップページ | 新聞記事から(平成24年5月31日付 産経新聞 リチャード・ハロラン氏、ジェームズ・アワー氏) »
コメント