電子書籍を購入しました。なかなか便利です。この本は、韓国、北朝鮮についていろいろ知ることができました。
『韓国では基本的に「北は怖い国ではない」という印象が、金大中政権下でしっかりと根付いてしまったのである。
北朝鮮の統治思想も、政治制度も、その過酷な政治支配のあり方も、みな李朝を「手本」としている。李朝の専制主義から、小中華思想、事大主義中央集権主義、攘夷思想、侮日観、父系血縁主義、美意識などに至るまで、見事なほどにその伝統を継承している。なおかつ、李朝の弱点を巧みに補強している。
今日のように北朝鮮経済が一気に破綻状態に陥ったのは、ソ連・東欧圏の崩壊によって、ソ連による援助貿易、東欧諸国との外貨不要の物々交換貿易が不可能となり、対外貿易の70%を占めていた「社会主義市場」をほぼ全面的に失ったためである。・・・北朝鮮は、ソ連を失ったことにより、世界的に最貧国のレベルにまで落ちてしまったのである。それほどソ連は、北朝鮮にとって偉大な存在としてあり続けた。それは李朝にとっての中華帝国も同様であった。
李朝がその末期に国家的な疲弊に陥った主な原因の一つは、国民の自由な経済活動、生産活動、社会活動を極端に制限し続けてきたところにある。北朝鮮もそれと全く同じことをやって疲弊に陥った。ただ根本的に異なるところが二つある。一つは、李朝が軍事的な弱体化をきたしていて飢餓状態が広がる中で農民暴動が頻発していたのに対して、北朝鮮は巨大な軍事力をもって国内の不満を押さえ込んできたことである。そして二つには、李朝では欧米列強の進出に対して日本のように大きく民族意識が勃興することなく、国内勢力がバラバラな不統一状態にあったが、北朝鮮は強固な民族主義の浸透によって国内のまとまりを形作ってきたことである。
北朝鮮は人口が韓国の二分の一であるのに、兵力も装備も韓国の二倍という強大な軍事力をもっている。その軍事力がなければ、北朝鮮はとっくに民衆の反乱によって崩壊している。またあれだけの強固な民族主義の浸透がなければ、国内を一つにまとめることはできない。
北朝鮮が、自国をことさらに偉大な国であると、また強固な主体性、自主性をもった国であると強調するのは、かつての事大主義の裏返しだといってよい。
自らはより文明の中心である中華に近く文化的であり、隣国の日本はより遠く野蛮である。この日本との文化的・地理的な距離の差異によって、朝鮮半島諸国は伝統的に日本に対する優位性の意識を保持し続け、したがって日本蔑視の観点を持ち続けてきた。そのために朝鮮半島では、日本を侵略的で野蛮な、文化的に遅れた国として蔑視する華夷秩序の世界観が、延々と近・現代に至るまで続いたのである。それはけっして日本の植民地統治への反発に始まるものではない。現在の韓国と北朝鮮をめぐる世界情勢では、私はとくにここのところが最大のネックになっていると思う。韓国と北朝鮮がこの歴史的な侮日観を克服して日本に胸襟を開かない限り、北朝鮮問題がソフトランディングの結末を迎える可能性は少ない。
客観的には分裂の根拠をもたない韓国の集団間の争いは、えてして、潜在的な多数派を敗北させて少数派に転落させてしまうのである。
歴史にはさまざまな観点があり得る--ということは、長い間私の意識の中にはなかった。歴史には一つの見方しかないと思っていた。少なくとも日本にくるまではそうだった。・・・つまり、「歴史についての一つの観点」を学ぶことが、韓国では歴史を学ぶことである。そしてその観点から歴史的なさまざまな物事を理解していくことができなければならない。・・このようにして歴史を学んでいくと、他の観点で歴史を見ていくことは歴史を踏み外すことにほかならなくなる。
李朝ではハングルを排斥して漢字だけを正字として用い、韓国・北朝鮮は漢字を排斥してハングルだけを正字として用いた。そこに共通しているのは、朝鮮半島には外来の漢字に加えてすべての朝鮮語音を表現できるハングルがあるという現実を認めず、破壊して、これこそが正当だというかたくなな理念に基づいた一元的な統一性志向なのである。
(今の韓国人が)心底恐れているのは、北朝鮮が崩壊してしまうことである。崩壊した後、2000万人を越える北の一大貧困集団を丸ごと抱え込んでいかなくてはならないということ、これが韓国人にとっての最大の脅威なのである。
金大中政権以後の韓国は大きなジレンマを抱えることとなった。崩壊しようとしている北の体制を支えて崩壊させないようにするという、まったく展望の開かれようのない状況に陥ったのだ。
韓国がやるべきことは、北朝鮮崩壊を前提とした市場経済化のシミュレーションを緻密にやってみることである。韓国はこれまでに、そうしたとうぜんやるべきことをまったく怠ってきた。』