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2011年11月 6日 (日)

決断できない日本 (ケビン・メア著 文春新書)

前からうすうす感じてはいましたが、この本を読んで痛感したのは、わが国の対米依存心の強さです。それも自覚していないのですから性質が悪いと思います。まわりの水の温度が上がっているのに気づかず、茹で上がって死んでしまう蛙、「ゆで蛙」のたとえ話のように、日本もこの対米依存性ゆえに気づかないうちに、国家の体をなさない状態になってしまうのではないか、へたすれば、本当に滅んでしまうのではないかと危機感を感じました。

『戦争は悲惨であり、可能であれば避けるべきです。その点では、平和活動家たちも私も一致している。彼らと私との違いは、「戦争をいかにして避けるか」についての考え方です。もし戦争を避けたいのなら、「戦争抑止力を維持せねばならない」とわれわれは信じています。多くの平和運動家たちは、「軍事力を放棄することで戦争は避けられる」と信じていいる。この考え方は、私から言わせればナイーブで危険な考え方だと思います。

・・・私が直接目にしたのは、この由々しき危機(東日本大震災等のこと)に際して、日本のリーダーには決断力や即効性のある対応をする能力がないことでした。

"All Heads on Deck"という慣用句があります。元々は海軍用語で、「総員、甲板に集合せよ」という意味です。いざ海戦の火蓋が切られようという時には、米海軍水兵たるものは私情や私利私欲を捨て、目の前に立ちはだかる敵を打倒するために一丸とならねばならない。

タスクフォースの勤務体制は三交代のシフト制が敷かれました。国務次官補のキャンベルは、スタッフに長時間勤務を強いると疲労が蓄積し、判断ミスがおきやすくなるリスクがあると考えていました。・・非常時にこそ、人員にゆとりを持たせようとするのは、米国の変わらぬ発想法です。米政府は長年の危機管理の経験から、疲労した現場の要員が大きなミスを起こしやすいことを肌身で知っているのです。

ヤツコ(原子力規制委員会)委員長は反原発派で、そのことがいささか広い避難指示範囲の設定につながったと思います。・・原発の安全確保ににらみをきかせる監督省庁のNRCのトップが、反原発派の物理学者であることは、経産省からの保安院の独立など、原子力行政の再編を公約している日本にとってある程度参考になるのではないでしょうか。

・・オバマ政権は、菅政権が原発事故対応を東電任せにし、効果的に援護していないと見ていたのです。自衛隊のヘリ一機が・・ようやく3号機に散水しましたが、この光景を見た米政府のショックは大きかった。・・大津波襲来による電源喪失から一週間が経過したその日、日本という大きな国家がなしえることがヘリ一機による放水に過ぎなかったことに米政府は絶望的な気分さえ味わったのです。

1979年に起きた米スリーマイル島原発事故の教訓は、危機に際しては通常のやり方ではだめで、平時の組織は役に立たないということでした。当時はカーター政権でしたが、大統領は事項処理に当たる責任者を指名し、大きな権限を委ね、意思決定をスピーディにした。全米の原発関連企業もそれこそ「手弁当」で事故処理のために結集し、オール・アメリカンといっていいチームが結成されました。

歯に衣着せぬ言い方をすれば、日本は危機管理に弱くなっていると思います。その病巣はおそらく「平和ボケ」が直っていないことではないかと推測しています。

化学生物事態対処部隊(CBIRF)は、化学・生物兵器による負傷者やダーティ・ボムの放射能に汚染された負傷者たちを救助する役割を担い、そのための訓練を受けています。あくまで汚染地帯における負傷者救助のための専門部隊なのであって、暴走する原子炉と格闘する技術をもった部隊ではないのです。

ホワイトハウスの当局者は、日本の原発警備の手薄さに驚き、銃で武装した警備要員の配置が必要であると力説しました。これに対する日本政府当局者の答えが振るっていた。「日本の原発に、銃で武装した警備要員は必要ではありません。なぜなら、銃の所持は法律違反になるからです。」ホワイトハウス当局者は小声で傍らの私に尋ねた。「これって、ジョークだよね?だったら笑ったほうがいいかな」私は彼の耳元にささやいた。「たぶん、ジョークじゃない。笑わない方がいい」ホワイトハウス当局者は神妙な表情でうなづき、日本政府当局者の発言をメモに取るふりをしていました。

原発事故後、米国側は日本側に提供できる品目のリストを送った。ところが、日本からはどの支援品目が必要といった回答ではなく、長々とした質問が返されてきたことがありました。たとえば、支援リストには無人ヘリも記載されていましたが、日本側はその性能や特徴に関する事細かな質問や、放射能で汚染された場合の補償はどうなるのかといった暢気な問い合わせを返信してきたのです。米国には、無人ヘリを提供する用意があるのだから、日本はまず、そのオフォーを受けとって試してみるという態度が必要だったのではないかと思います。無人ヘリが放射能に汚染された場合の補償などは、そのときに相談すればいいことで、くどくどと議論している場合ではないのです。とにかく、震災・津波・原発事故処理という、”戦争”に勝たねばならないのに、この期に及んでなお、「石橋を叩いてわたらない」かのような平時のお役所仕事がまかり通っていました。・・・米国側の支援リストに長々とした質問を寄せ、時間の浪費を恥じない日本当局者にも、(「坂の上の雲」で児玉大将が砲術専門家の高級軍人に言ったのと)同じことを言ってやりたかった。「そんな問い合わせは、この戦争が終わってからにしてほしい」と。つまらない問い合わせの最中も、放射能は漏れ続け、陸も水も空も汚し、大地震と大津波を生き残った被災者たちは避難所で寒さと飢えに苦しんでいたのです。国務省や国防省の仲間たちは、"Not deciding is deciding" (決断しないことが決断になる)といって、コンセンサスばかりを重視し、決断しない日本の指導者たちを批判することが少なくありません。残念ながら、日本側の決断の鈍さは今回もまた目立っていました。

(1985年のJAL墜落事故で)横田基地には夜間行動をとることのできるヘリと創作救助部隊があります。・・そこで米軍から日本政府に「捜索部隊をすぐに出発させられる」と伝えました。しかし、信じがたいことに断られてしまったのです。・・日本政府に電話してすぐに断られた米軍の担当者は本当に怒っていました。なぜこうした政治の決断ができないのか。要は誰も責任を取りたくないからです。緊急事態でも決断できる人がいないのです。

時々、日本人から「日本が第三国の攻撃を受けた場合、安全保障条約を結ぶ米国は本当に日本を助けてくれるのか」という質問を受けることがありますが、そんな質問を耳にすると本当に驚いてしまいます。「米国が日本を助けるのは当たり前」というのが私の変わらぬ答えです。いや、私ばかりではなく、それはアメリカ合衆国の答えです。

米軍の歴史を振り返ると、米軍の優位性は最新鋭の兵器を保有しているためだけでなく、ロジスティクスの強さによってもたらされています。・・日本が攻撃を受けたとき、米国は本当に日本を助ける用意があるのかという疑念を持っている人にはこう答えたい。米国にって、日本はかけがえのない存在なのだと。そして、日本は米国にとって戦略的に重要な国であり、日本が大地震と津波によって壊滅的な打撃を受けた現実は米国にとって大きな戦略問題になっているのだと。

米国が恐れているのは、日本が軍事的、経済的に弱体化することです。日本が弱体化すると、そこに中国が付け入り、尖閣諸島などへの領土的野心を露骨にすることは火を見るより明らかです。

アメリカの外交官は、大学を卒業して直ちに入省するケースはまれで、何か他の仕事をしてから外交官試験にパスして国務省に入ってくるのが一般的です。・・外交官試験合格者の平均年齢は三十歳を少し越えたあたりと割合、高いのですが、それは今も昔も変わらない傾向です。

ゼネラリストでも、ある国の事情を知識として要領よく、手早く学習することは可能です。しかし、その国のメンタリティを深く知るには相応の時間がかかることも確かです。

シーファー大使を見ていて思ったのは、日本のような重要な同盟国との外交を切り盛りするためには、やはり大統領とのパイプがものを言うということでした。駐日大使はいくら知日派でも、大統領のサポート、あるいはハワード・ベイカーのように議会との太いパイプがなければ難しいポストなのです。

駐日大使は、日本の記者たちともっといい関係を築くべきです。否定すべきことをきちんと否定しないと取り返しのつかないことになる。否定すれば、いつまでも嵐が収まらないという発想で私に沈黙を強いるやり方はとても受け入れられない。

「政治は政治である」がシーファー氏の口癖でした。国柄や地域が異なっていても、政治の本質はいずれもそれほど変わらない、政治とは何かを理論的にしっかりと把握していれば、まず適切に政治を観察し、流れを予測することは十分可能だという意味でした。

マンスフィールド大使は、来客に手ずからインスタント・コーヒーをいれて給仕するのが常でした。来客があると、大使は執務室に通じる小さなキッチンでコーヒーを作り、自分でテーブルまで運ぶのです。来客をもてなす極意でした。お客さんはこれには感動し、いっぺんに大使を好きになるのです。

国務省の東アジア外交を切り盛りする高官が実は日本にさほど関心を持っていないという、いささか信じがたいケースについて述べたいと思います。その場合、ぎりぎりの局面では日本に厳しい政策が選択されてしまいます。その実例がブッシュ前政権の末期に採用された北朝鮮政策だったでしょう。・・アメリカが最終的に北朝鮮のテロ支援国家指定解除に踏み切ったのは、当時、対北朝鮮外交を取り仕切っていたクリストファー・ヒル国務次官補が実は、対日関係にさほど関心が高くなかったからだと私は睨んでいます。

米国にとって海外に前方展開している海兵遠征軍は、この第3遠征軍だけです。海兵遠征軍は、・・3個しかなく、その虎の子の部隊の一つを日本においているのです。しかも、海兵隊唯一のジャングル戦闘訓練センターも沖縄にしかありません。

アメリカは、東アジアの厳しい安全保障情勢を踏まえ、日本に前方展開しなければ、地域の安定を確保できないし、日本を守れないと判断しています。最新鋭の原子力空母「ジョージ・ワシントン」は横須賀が母港です。米海軍が海外に空母の母港を置いているのは日本だけであり、こうしたことからも、日本列島がいかにアメリカにとって死活的な空間であるかがわかります。

海兵隊は陸上部隊と支援部隊、航空部隊が一緒に展開する統合部隊です。したがって、常に一緒に訓練する必要があるのです。その訓練を続けていないと機動力が失われてしまう。訓練していないと海兵隊は機動力という部隊の命をなくすのです。

米軍の前方展開によって、中国の海洋膨張を抑えようとしなければ、中国は台湾にせよ、ベトナムにせよ、そして尖閣諸島・沖縄にせよ、侵略的行動をためらわなくなるでしょう。・・在日米軍のプレゼンスはいわば紛争予防のためにも不可欠になっているのです。

どうも、脅威である相手をあまり刺激しないほうがよいという発想はどこの国にもあるようです。尖閣諸島をめぐっては、米政府部内にすら、中国を刺激しないようにする「事なかれ主義」が見られました。・・中国という脅威に向き合うためには、日米安保体制が磐石の強さを持っていることを常に見せていなければなりません。それは言葉だけではなく、実際の能力もきちんと準備しておく必要があります。

相手のラフプレーにきっちり反応する上で、言葉だけではなく実力も保持することが大切だといいましたが、この観点から言うと日本の防衛予算は少なすぎる。日本政府は防衛費をGDPの1パーセントに制限しています。私はこの制限こそが防衛政策の最大の問題だと思っています。・・アメリカの防衛予算はGDPの5%に近い水準です。アフガン、イラクでの戦争のために高くなっていますが、平時でも3%くらいです。

アメリカ海軍の軍人から聞いた意話ですが、横須賀に配備されている空母「ジョージ・ワシントン」の訓練は他の空母とまったく異なるのだそうです。なぜなら、GWは海外で常時前方展開している唯一の米空母であって、有事を想定した臨戦態勢の訓練が続けられている。

「平和を希求する」といっているだけでは平和は到来しません。平和の到来を実現し、平和を維持するためには力が必要なのです。それは歴史の教訓です。

06年秋、(PAC3の)搬入に反対するデモ隊がミサイルの輸送ルートを塞いだのですが、地元警察は動きませんでした。結局私が、地位協定に基づいた米軍施設・港湾・空港などからの出入りの権利を行使できるようにしてほしいという要請書をファックスで沖縄県警に送り、それでデモ隊が警察によって排除されたのですが、これはあきらかにおかしな話でした。沖縄の占領統治は終わっているのです。それなのに、アメリカ人総領事の要請がないと排除へ動かないという日本側の姿勢は主権国家として考えられないことでした。

普天間基地は特別に危険な航空基地ではない。飛行場の危険度は周辺の人口密度と航空機の発着回数で測られます。日本の民間空港を見ると、福岡空港は普天間基地周辺よりも人口密度の高い地域に作られ、2,3分おきに大きな旅客機が発着している。兵庫県の伊丹空港も似たような状況で、発着回数を比較すると、普天間基地はこれら日本の民間空港と比べてみても危険度は少ない。

沖縄の人々が本土の人間に不信感を持つと同時に米国も憎み、それでいて米国に親しみも覚えているというじつにアンビバレントな感情(相反する感情・・

(かつてアメリカにも自信を喪失して時代があった)そこで登場したのがレーガン大統領でした。レーガン大統領にはカリスマ性があり、未来派きっとよくなると国民を鼓舞し続けました。その結果、国民は自身を回復し、景気もよくなりました。しかし、日本の政治家は暗い話ばかりしている。未来は大丈夫だから、前進しようといって国民の背を押すような政治家はいない。希望の力で国民を引っ張っていく、たくましい指導者のいない現状が日本の最大の不幸になっているのは間違いありません。

日本政府と仕事をしていてうんざりしたのは、こういう官僚機構のお役所仕事に巻き込まれたときでした。「百十億ドルもの巨額資金をプレゼントしておきながら相手をカンカンに怒らせる。そんなお役所は日本の役所だけだね。」私は腹立ち紛れに同僚によくそういっていました・・

小沢氏は、自分に有利になると見れば、日米安保体制でさえ平然と犠牲にするように見えます。彼が重視しているのは、自分の政治勢力を強化することだけです。そのためには選挙が有利になることしか考えていない。自分の選挙に勝ち、自分の派閥を強化するために役に立つことしか考えていない。だから小沢氏は信頼されていないのです。

1970年代、日本政府は核兵器保有の是非を研究し、核を保有しても有利に働かないとの結論を出したという話があります。核武装は国家防衛の役に立たないと判断した理由は、仮に保有したところで使用できないという点が一つ。核開発には巨額の予算が必要であり、核兵器に依存した防衛戦略を構築するとなると、ただでさえ乏しい防衛予算の大半を使えない兵器である核に投入しなければならなくなる。自衛隊は、新鋭機や艦船、要員の増強など、優先して取り組まなければならない事項が山積しているのに、保有しても使えないアクセサリーのような核兵器のために、すぐにも必要な通常兵器調達を犠牲にすることはできないと判断したそうです。

アメリカの国防総省では、日本が「普通の国」になるべきだという声は多い。自衛隊が「日本軍」に衣替えし、朝鮮半島有事の際に日米が共同で戦闘行動を遂行できなければならないという意見です。・・朝鮮半島危機が勃発した場合、米軍は日本の支援がなければ韓国を守れないということを韓国もよく認識する必要があります。

イラクに派遣され、帰国した陸上自衛官の話です。イラク駐留自衛隊が、直接、武装勢力によって攻撃されたら自衛のための戦闘ができる。しかし、500メートル離れた地点に駐屯しているオランダ軍部隊が攻撃を受けた場合、自衛隊はオランダ軍に加勢できない。・・「しかし」と自衛官は私に告白しました。「近くのオランダ軍部隊が攻撃されたら、黙って傍観するつもりはありませんでした。その場合、若干の自衛隊員をオランダ軍に合流させ、自衛隊もまた攻撃をうけたと説明できる状況を作った上でオランダ軍の援護に駆けつけるつもりでした。仲間のオランダ軍を見殺しにはできません」日本にはまだサムライの心が息づいている。そして、こんな自衛官が現れるほど、自衛隊も日本も変わったのです。変わっていないのは政治家だけです。

私は、沖縄・普天間基地の移設問題は、それができるかどうかではなく、日本政府に本当に実行に移す意思があるかどうかだといってきました。やり抜こうという日本政府の意思が問題なのです。行き過ぎたコンセンサス社会は、危機の時代にその恐るべき弱点をさらけ出します。危機を解決できないばかりか、危機を増幅させ、国家を存亡の瀬戸際に追い詰めることもあり得ます。

現代の日本では「一度失敗すると終わり」という恐れが強すぎると思います。・・失敗に対する考え方はアメリカ人は違います。一度失敗しても、それを教訓にもう一度チャレンジできる。アメリカ人は普通そう考えます。ですから、危機に直面したアメリカ人はとにかく、いろんな手を打ってみます。失敗してもいいのでいいのです。次のまたチャンスがありますから。間違ったらそこから教訓を得て、作戦を修正してまたトライすればいいのです。本当に単純明快なアメリカのプラグマティズムです。』

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