「うつ」は食べ物が原因だった! (溝口徹著 青春出版社)
今回も健康物です。うつ病は「心の風邪」ともいわれ、私の周りにも悩まされている人が多く、まさに社会的な問題となっています。食事に気をつけて、心身ともに風邪をひかぬよう気をつけたいと思います。
『オーソモレキュラー療法(栄養療法)という、日本ではなじみのない治療法。わかりやすく言うと、食事を見直し、サプリメントを用いて、うつ病や不安障害などを治療。・・基本になるのは「心(精神)のトラブルは、脳内に存在する物質のバランスが乱れたことによって生じる」という理論。
医学的に見ると、私たちの身体は常に”たったいまの状態”を維持しようとしている。・・私たちが生きるということは、今の状態を保つということ・・どうも心は、一定の状態を保つことが身体に比べて難しいように思える。
(現在のうつ病などの治療は)投薬を主体にした治療が圧倒的に主流・・理由はカウンセリングのトレーニングを積んだ医師やカウンセラーの不足にある。
たとえば「やる気がない」といううつ病症状を訴えているケース・・その原因のひとつとされるのは、脳のなかでセロトニンという神経伝達物質が不足していること・・セロトニンが不足していると、・やる気の起こらない状態が続く。そこで一般の治療ではSSRIという薬を使って・信号伝達をスムーズに行わせようとする・結果として「やる気がない」といううつ症状は改善されるのだが、セロトニンが再吸収されないからシナプス小胞のセロトニンの量はどんどん減っていくことになる。SSRIを使っているうちに、効きが悪くなり、量を増やしたり、種類を変えたりしなければならなくなるのはそのため。 栄養療法の考え方はまったく違う。セロトニンの材料となる栄養素、たとえばアミノ酸や鉄、亜鉛、ビタミンB6などを身体に取り入れることにって、セロトニンそのものを増やすのである。
心や感情が安定している状態では、興奮系の神経細胞と抑制系の神経細胞、調整系の神経細胞から分泌される神経伝達物質がそれぞれ適量でバランスが取れている。・・ところが脳の中で神経伝達物質のバランスが崩れると、心や感情に変化が起きる。
3つのうちもっとも種類が多いのは、興奮系の神経伝達物質。ノルアドレナリン、ドーパミン、アセチルコリン、グルタミン酸など。不足すると元気がなくなり、気分が落ち込む。 抑制系神経伝達物質の代表が、GABA(γ-アミノ酪酸)。脳が興奮した際のブレーキ役。不足すれば興奮が鎮まらず、時に痙攣を起こしたりすることもある。 調整系の神経伝達物質の代表的な物質はセロトニン。セロトニンは通常、興奮系の神経物質に分類されるのだが、行動に対しては、それを抑え鎮めるなど抑制的に働く。セロトニンの不足は、抑うつ感情をもたらす。
脳に送られたアミノ酸は、L-グルタミン、L-フェニルアラニン、L-トリプトファンの形で脳内に入り、その後、いくつかの反応を経て神経伝達物質に合成される。注目すべきは、興奮系のグルタミン酸から抑制系の神経伝達物質GABAが合成されること。つまり興奮系のグルタミンが増えれば、自動的に抑制系のGABAが増えるという仕組みがきちんと出来上がっている。
神経伝達物質の合成がうまくいかなくなるのは、ビタミンB6が十分にない場合。たんぱく質とビタミンB6は神経伝達物質の二大重要アイテムといってよい。
セロトニンの材料となるトリプトファンは、動物性たんぱく質に多く含まれているアミノ酸の代表格。大豆などの植物性たんぱく質に含まれているトリプトファンは動物性に比べて少ない。
脳の毛細血管にだけ、特殊なシステムが備わっている。「血液脳関門」がそれ。脳の毛細血管はその壁を作っている細胞の間が狭くなっていて、脳の中に入ってくる物質を制限している。・・それぞれの関門には選択性があり、ある関門からは入れる物質が別の関門からは入れないという風になっている。また関門を通過できる量も決まっている。ある物質をたくさん脳のなかに入れたい場合は、脳内に入れる他の物質の量を減らして、入れたい物質の比率を高めればよい。したがってたとえば、うつ病症状を改善するために、セロトニンの材料であるトリプトファンを増やしたい場合には、トリプトファンの比率をあげるような食べ方が必要になる。
「やる気がないときに甘いものを食べるとやる気が出る」のは、糖質をとることで血糖値があがり、インスリンがでて、インスリンがセロトニンを増やすことに一役買うため。インスリンには身体のたんぱく質を作る働きがあり、このためにアミノ酸が使用され、結果的にトリプトファンの比率が高まり、脳内のセロトニンが増える。これが甘いものでやる気がおきるメカニズムのひとつ。しかし、トリプトファンの量が増えているわけではないので、一時しのぎにはなっても継続性や、うつ症状の改善にはつながらない。
GABA入り食べ物をとっても、GABAは血液脳関門でストップをかけられてしまうので、脳には届かない。脳で作用する物質は脳内で作るというメカニズムがあるから。
たんぱく質をドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン、GABAなどの神経伝達物質に作り変えるのになくてはならない働きをするのが、ビタミン。なかでも超一流の働き者がビタミンB6。・・ビタミンB6がなくては、酵素は何の働きもできない。・・興奮系の神経伝達物資であるドーパミン、ノルアドレナリンには、ビタミンCの存在が欠かせない。・・ビタミンCはストレスを跳ね返したり、ストレスに耐えたりする決め手といっていい。・・変化の上流ではナイシアンが活躍している。ナイシアンはかつてはビタミンB3と呼ばれたビタミンの仲間。もうひとつ、ビタミンBの仲間である葉酸も初期段階の反応で補酵素の役割を果たしている。・・実際、葉酸をたくさん飲むとうつ症状が改善するという報告もあり・・・。ミネラルも見てみよう。変化の初期段階で働いているのが鉄である。・・鉄が不足することによって減少するセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が欠乏することにって、うつ症状が生じる。
ミネラルで忘れてはならないのが、カルシウムだ。・・神経伝達物質が神経細胞から放出されるためにはカルシウムが絶対に必要なのだ。・・カルシウムイオンの濃度差によるカルシウム・チャンネルという「扉」が必要に応じて開きいろいろな酵素が活性化される。カルシウムが不足するとこの濃度差を保てなくなる。・・カルシウムが存分にその機能を発揮するためにはマグネシウムがなくてはならない。
あらゆる栄養素について、「だけ摂取」は意味がない。栄養素は単独で働くのではなく、いろいろなパートナーシップの元で機能を発揮している。
食べた物がそのままの形で身体のなかに入るわけではない。大事なのは、食べた物がどう体内に吸収されるか、にある。吸収のされ方は食べ物によって違う。・・でんぷんなどがゆっくりと分解され、緩やかに吸収されるが、身体にとってはこの方がはるかに有益である。・・栄養は、その食べ物に含まれている量よりも、それを体内でどれだけ吸収できるかという点を意識しなければならない。
食べ物は「食べる」のが基本。つまり固形を口に入れてよく噛み、よく飲み込んで、消化させるというプロセスを経るのが、最良の食べ方。咀嚼は、次に行われる胃や小腸の働きを刺激し、消化酵素を分泌する準備をさせる。また、一度に大量の食材が胃に流れることを防いでいる。
すばやく吸収されたほうが身体にいいようなイメージがある。しかし、吸収が早いということは本来、私たちが持っている機能を正しく使わずにバイパスしているということ。血糖値がどのくらいのスピードで上がるかが分かる指標に「GI」がある。ブドウ糖を100として場合のそのぞれの数値を示したもの。精製の度合いが進んだ食品ほど数値が高い。・・血糖値が速いスピードで上がると、それを下げるためにインスリンがどんどん分泌され、たんぱく質を作るためにアミノ酸を使うとともに、ほかにも脂肪酸をつくって肥満を促し、交感神経を刺激してイライラ感や緊張感をもたらすことにもなる。うつ症状をじょちょうするといってもいい。 主な食品のGI値。餅85、精白米84、胚芽米70、玄米(5分)58、食パン91、ライ麦パン58、全粒粉パン50、うどん80、そうめん68、スパゲティ65、そば59、肉類45~49、魚介類40前後、豆腐42、納豆33、チーズ35、卵30、牛乳24、プレーンヨーグルト25、ジャガイモ90、サツマイモ55、とうもろこし70、バナナ55、トマト30、きゅうり23、キャンディ108、チョコレート91、アーモンド30、ピーナッツ28、コーヒー16、緑茶10、紅茶10、白砂糖110、黒砂糖99、蜂蜜88、みりん15
食生活を見直すというと、肉類を控える方向に行きやすいが、これはまったく誤った方向。心身ともに健康に保つにはたんぱく質が欠かせない。
カロリー=栄養ではない。低カロリーでも脂肪は作られる。その一番の原因は糖質の種類ととり方。高GI値の糖質をたくさん取ればカロリーは低くてもインスリンが過剰に分泌されて脂肪が合成される。・・カロリーを考えるときのポイントは、摂取したカロリーをエネルギーとして消費できるか、燃やして使えるかという点。燃やすにはどうしたらよいか。鍵を握っているのは筋肉の量。最大のエネルギー燃焼工場である筋肉の量が多ければカロリーはどんどん燃える。筋肉が増えるということは、そのまま基礎代謝(寝ていても消費されるカロリー)が上がるということ、つまり、太りにくくやせやすいということ。その筋肉はたんぱく質で作られる。
うつにならない、心も脳も健康でいるために必要な栄養素の量は、一概に言えない。年齢、性別、体格、栄養状態、食事傾向、ライフスタイルで違ってくるから。
栄養療法の基本は、食事を変えること。現代人の食生活はあきらかに危険ゾーン。ある中学校では給食の白米を玄米に変えただけで暴れる生徒の数が減り平穏な空気に変わっていった。栄養療法の二本柱は、食事とサプリメント。サプリメントも患者一人ひとりの状況によって変えている。
低血糖症:チェックリスト ①甘いもの、スナック菓子、清涼飲料水をほぼ毎日取る。②空腹感を感じおやつを食べることが多い。③夜中に眼が覚めて何かを食べることがある。④夕方につよい眠気を感じたり集中力が落ちる。⑤体重の増減が激しい。⑥体重が増えてきた、またはやせにくくなった。⑦イライラや不安感が甘いものを摂ることでよくなったことがある。⑧頭痛、動悸、しびれなどが甘いものを摂ることでよくなったことがある。⑨安定剤や抗うつ剤を服用してもあきらかな症状の改善がない。⑩血縁者に糖尿病の人がいる。 3つ以上にチェックがついた人は低血糖症の危険性が高い。じつはこの低血糖症こそ、一番うつに間違えられやすい栄養のトラブル。
血糖値が安定して脳に十分なブドウ糖が供給されていると、精神状態はとても安定したものとなる。この状態を維持するには、食事をした後、血糖値が緩やかに上がって、空腹のレベルから下がりすぎないことが前提となる。血糖値が緩やかなカーブを描くようにするにはインスリンの分泌が少なくてすむような食生活を考えればよい。GI値の低い食品をとることが血糖値をコントロールする最適な手段。
コレステロールは神経伝達をすばやく行うのにも使われている。コレステロールが脳内に少なくなると、セロトニンの機能が異常になる。・・低コレステロールとうつの関係を示したデータは数多い。
低血糖症になりやすい人:栄養摂取が乱れていることが多い。ダイエットをしてたんぱく質をシャットアウトしていたり、インスタント食品やスナック菓子を多く食べる人。また、腸の粘膜が弱い人。副腎が疲労していることも低血糖症を引き起こす要因のひとつ。
鉄欠乏チェックリスト:①立ちくらみ、めまい、耳鳴りがする。②肩こり、背部通、関節痛、筋肉痛がある。③頭痛、頭重になりやすい。④力が弱くなった。⑤よくあざができる。⑥のどに不快感(つかえ感)がある。⑦階段を登ると疲れる。⑧夕方に疲れて横になることがある。⑨生理前に不調になる。⑩生理の出血量が多い。
レバーなどの動物性のたんぱく質に含まれているヘム鉄は吸収率が高い。供給源にするならヘム鉄がお勧め。
亜鉛欠乏チェックリスト:①風邪をひきやすい。②洗髪時、毛が抜けやすい。③食欲不振になりやすい。④肌が乾燥しやすい。⑤傷の直りが悪い、傷が残りやすい。⑥爪に白い斑点がある。⑦味覚や嗅覚が鈍い。⑧性欲が落ちた。⑨ネックレスなどで皮膚炎が起こる。⑩傷や虫刺されが膿みやすい。
ビタミンB群欠乏チェックリスト:①アルコールをよく飲む。②音に敏感だ。③イライラしやすい。④集中力が続かない。⑤記憶力が衰えている。⑥よく悪夢を見る。⑦テレビがわずらわしい。⑧本を読んでも頭に入らない、興味がなくなった。⑨寝ても疲れがとれない。とにかく疲れる。⑩口内炎がよくできる。
たんぱく質欠乏チェックリスト:①肉や卵などはあまり食べない。②野菜中心、あるいは和食中心である。③豆腐、納豆などの大豆食品をよく食べる。④ご飯やパン、麺などで食事をすましてしまう。⑤成長期である。⑥妊娠、授乳中である。⑦ステロイド剤を使用している。⑧スポーツをする、あるいは肉体労働である。⑨胃薬をよく使う。⑩腕や太ももが細くなった。
健康に気をつけた食事をしている人ほどたんぱく質が不足してしまう。・・チェックリストの「腕や太ももが細くなった」というのは、自分の筋肉をたん白源として利用してしまった結果を示す。
加工食品やスナック菓子の問題点は、非常に糖質の割合が多いこと。糖質の摂取が多くなると人間の身体はインスリンというホルモンをせっせと出して血糖値を安定させようとする。このときに使われてしまう栄養素が亜鉛。同様にビタミンB群も必要以上に消費されてしまう。食品添加物のリン酸もミネラル類の吸収を阻害する働きをもつ。
ストレスに対抗するべく朝一番に活発に働き出す臓器が副腎。副腎からは盛んにホルモンが分泌される。それがコルチゾール。このホルモンの原材料がコレステロール。また、コルチゾールが働く際にはビタミンB6が欠かせない。したがってストレスが増えると、ビタミンB6の消費量が増える。副腎の髄質ではアドレナリン、ノルアドレナリンも作られるが、この産生にもっとも重要なのがビタミンC。ビタミンCを与えられなかった動物の副腎はどんどん萎縮することが実験で確かめられている。・・ビタミンCは水溶性のために多くとっても排出されると考えている人は多いが、ビタミンCは体内の臓器によっては高濃度に含まれており、必要量が増えたときのために貯蔵されている。その機能を担っている臓器のひとつが副腎。
筋肉を落とすダイエットではやせ方はスピーディになる。しかし、基礎代謝が落ちた身体になり、こうしておこるのがリバウンド現象。
脳にいい食事のあり方のキーワードは「スロー」。GI値は野菜も含めて70以下のものがベター。
脳を正常に働かせているのは、安定した血糖値。食材の中に含まれている糖質をゆっくりと消化・吸収することによってのみ、その安定は得られる。
カレーライスとキャベツを、先にどちらを食べたかで血糖値の上がり方を比べた実験がある。キャベツ4分の1個を先に食べてからカレーライスを食べたときと、カレーライスを先に食べてキャベツをその後に食べたときとでは、圧倒的に先にキャベツを食べたほうが血糖値の上がり方が緩やかだった。この結果は、血糖値を緩やかにあげていくには野菜を先にとるのがいいということを示している。
もうひとつ大切なのは早食いはしないこと。よくかんで、ゆっくり食べること。
必要なたんぱく質の量は、体重1KGあたり、1~1.5グラム。
うつを遠ざける3つの生活習慣(食事以外にうつを遠ざける生活習慣として著者が指導しているもの):①運動、とくにお勧めは食後の散歩。②季節や天候に注意すること。自分で傾向をつかみ、食事内容、取り方、睡眠のとり方、生活リズム等に工夫して予防策を講じる。③とにかく外に出ること 』
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