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2011年7月 9日 (土)

失敗学 実践講義 (畑村洋太郎著 講談社)

かなり以前に新聞記事の抜粋で紹介した、畑村洋太郎氏の著作です。大変参考になることが書かれていました。

『実際には、原因があっても必ずしも結果は起こらない。逆に言うと、原因を取り除くことが失敗防止につながらないこともある。・・すべての失敗は、ヒューマンエラー(人的要因が主因となる失敗)から起こるといっても過言ではない。

(緑園こどもクリニック院長の山中龍宏さんによれば)日本では1960年から子供の死亡原因の第1位は病気ではなく「不慮の事故」だということ。こうした事故の多くは子供の強い好奇心から引き起こされる。

昔に比べると日本ははるかに安全な社会になった。しかし、その一方で安全に慣らされ過ぎたせいなのか、人間の危機感知の領域が狭くなったことで起こる事故が増えてきているように感じる。

(ベビーカーはもともと電車の乗降時に使うことを想定していないことから)「電車への乗り降りが安全にできるようにベビーカーの仕様を変更する必要はない」という主張は確かに正論でしょう。しかし、正論を主張することで一歩間違えばたいへんな事故になりかねない恐ろしい構造がそのまま放置されるのですから、むしろその方に危機感を覚えます。現実には多くの人が、メーカーが認めていない誤った方法でベビーカーを使用している以上、そして実際に事故まで起こっている以上、「間違った方法で使っているのが悪い」という主張には無理があります。 その後、この人気メーカーも見直しを行い、改良を加えて同種の事故が発生しないように対処したそうです。

30年の法則:過去に経験した事故や失敗とほぼ同じものが、30年後に再び繰り返されるというのが現実によくある

事故の数をゼロにすることは現実にはほぼ不可能。しかし、事故を起こさないための努力は続けながら、それでも事故が起こることを前提にして、「最悪の事態」だけは「絶対に」避ける備えをする、それが「本質安全」という考え方。「制御安全」という考えも大切だがあくまでも補助的なものでなければいけない。

六本木ヒルズの事故の根本原因は、技術思想が伝えられる過程で「衝突力低減のためには軽量化しなければならない」という重要な知識が忘れられてしまったことにある。なぜそのようになったかは、製品を設計・開発するものが「技術の来歴」の調査をまったく行わなかったことにあると私は見る。

思いつきにくいが考えれば思いつくというパターンの事故にしても、いずれ必ず起こる。この主の事故の発生を防ぐには、どのようなシナリオで事故が起こるかをしっかりと想定し、それに対する備えをきちんと行う必要がある。

人が注意しなければならないことには階層性がある。階層の一番上は、何をおいても注意しなければならない「絶対に必要なこと」。次はそこまで重要でないものの「普通に必要なこと」がくる。一番下には、必要ではあるものの「できればあるほうがいい」程度のこと。

人間の注意力や集中力には限界がある。一番大切なことから細かいところまですべてに同じように注意力と集中力を注ぐのは、現実にはほぼ不可能。・・・注意されたことに全力で取り組まず、本当に大事なことをおろそかにしないように気をつけながら「要求されたことに適度に対応する」のが正しい対処の方法。

マニュアルの問題点:マニュアルに含まれている「試行錯誤を行いながら得られて知見」の本来の意味が次第に失われ、一部のことしか反映していない非常にやせ細った知識を基にした作業が行われるようになる。

たいていのマニュアルでは一項目ずつチェックすることになっているが、・・・全部の作業が終わってから一気にチェックの印をつけるようになり、建前と実態が乖離し、最後にチェック漏れが起こる。

マニュアルは守るためにあるものだが、されどマニュアルは変えるためにあるという考えを徹底させるべき

真に意味のあるマニュアルにするための一番のお奨めは、マニュアルを使う人自身が自分で考えてマニュアルを作っていくこと・・マニュアルを作った人はその分だけ賢くなる。その積み重ねが全体のレベルアップにもつながる。

組織が大きくなり成熟すると、・・・次第に縦割りになりそれぞれの役割分担をはっきりさせるようになる。ところがそうなるとそれぞれの役割の間にできる隙間領域に関しては誰もが遠慮するようになり、「本当に大切なことなのに誰も手をつけない」ということが起こってしまう。

予兆が見られたときにすぐに対処すれば大きな事故の発生は簡単に防ぐことができるように見える。しかし、多くの場合、失敗の当事者には予兆が予兆に見えない。

安全というのは、一ヶ月やそこらの取り組みで作ることはできない。企業文化から変えるとなるとそれこそ何年もかかる。

「付加設計」とは条件などが変化して新たな要求が生じた際、設計全体を一から見直すのではなく、小出しに新たな機能を付け足していくことで対処する方法。付加設計は絶対に失敗する。・・状況が大きく変化した時には、新しく要求される機能や新しい制約条件、安全性などをトータルで見ながらまったくゼロから全体を組み立てなおすしかない。これが「トータル設計」の考え方。・・・一番簡単な方法は一度すべて捨ててしまうこと。その上で本当に使うものだけを拾いなおしてみると、自分が固執していたものの大半は、本当は使うはずのないガラクタだったことが分かる。

システムは全体で動かして見なければ、きちんとした検証作業ができない。

システムや製品などで本当に使えるものかどうかを検証作業するときに大変有効なのが「仮想演習」と「逆演算」。「仮想演習」とは想定されるさまざまな状況を考えながら頭の中で行うシミュレーションのこと。「逆演算」とは従来と正反対の方向から見ていくことで問題点をあぶりだす手法。眼に見える結果、予想される結果からスタートの反対方向に遡って考えることで重量見えていなかった失敗の原因を探ることができる。

世の中には「バカと専門家は細かいことを言いたがる」という大法則がある。その後ろには、「バカと専門家は細かいことが気になる」という法則がある。そして、こうしたものが背景になって、細かい議論や低次元なテーマの議論ほど長引くことになる。

10倍規模の大きさのタンクを作る場合、タンクの表面積は二乗の100倍になるものの、一方で容積は三乗の1000倍になる。・・これが「相似則」の落とし穴。設計者はよく小さなもので成功したことをそのまま大きなものに応用することがあるが、これは大きな間違い。小さなもので成功したことをそのまま大きなものの応用すると、そう自足の落とし穴によって必ず問題が起こる。

一見S塗ると完璧に対策したように見えても・・抜けはかならず発見される。それは、事前に考えていることと事後の対処法の間に「考えの壁」があるから。火災の例では、火事を起こさないようにするにはどうするかについてはみながよく考えるが、起こってしまった火事にどう対処するかについてはみなが考えたらず、とかく考え落ちになってしまうこと。失敗や事故というのはその考えの抜けを突くようにして起こり、予想している以上に被害が拡大してしまうもの。

「何か事が起こったらそのときに考えよう」という「直列思考」ではいざ事が起こると目の前で進行する事態に何とか対応しようとするばかりでどんどん傷口を広げることが非常に多い。一方「起こった後にどのように対応するか」をきちんと考えておけば、Aの場合はaパターンで対応、Bの場合はbパターンで対応という風に「並列思考」で対応することができ、結局は事故や失敗を未然に防ぐことにつながる。

「できないこと」は「できない」とはっきりいうこと。立場は悪くなるかもしれないが、それでも要求を呑んだために無理がたたって致命的な失敗を起こし、会社自体が存続できなくなる自体を招くよりもはるかにまし

「失敗と真正面から向き合う」と口で言うのは簡単だが、実際に改革するためには、結局は組織文化にまでメスを入れる必要が出てくるから、たいへん。それでも改革を進めようと思ってら、決定権を持つトップが強いリーダーシップを発揮することが求められる。

日本のロケット事故が特に多いという見方は間違い。アメリカは千数百回、ロシアはソ連時代を含めその倍のロケットの打ち上げを過去に行っている。日本の場合、・・・わずか数十回程度で世界のトップレベルの技術に押し上げたことは、客観的に見れば十分評価に値すること

「三現」で行動しなければ真実は見えない。「三現」とは、「現地」「現物」「現人」。意欲を持って現場に足を運び、直接現物を見たり、現場にいる人の話に真摯に耳を傾けること。・・・「見ない」「考えない」「歩かない」で行動しても多くのことを吸収することはできる。時間も手間もかからず一見効率よさそうだが、大きな落とし穴がある。伝言ゲームと同じで誰かを通した情報というのは、・・過ちや抜けに気づくことができない。

事故を起こした企業は、犠牲者の死を「無駄死に」にするようなことをしてはならない。どんな状況でも批判は批判として甘んじて受けなければならない。そしてその一方で、事故という失敗から学んでそこからより安全な機械やシステム、さらにより安全な社会システムを作り出していくことが「遺族の思い」を昇華するための唯一の道であり、事故を起こした者の社会的な責任の果たし方ではないか。』

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