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2011年6月 5日 (日)

同盟国としての米国 (太田文雄著 芙蓉書房出版)

以前に紹介した、太田文雄氏の最新の(といっても2年前に出された)著作です。米国に関するあらゆる安全保障のトピックが網羅されており、今後も読み直してみたい書だと思います。

『冷戦後も日米同盟が継続、強化されている理由:①冷戦構造が依然として残っている東アジアを安定化するため、②弾道ミサイル防衛等で日米の相互依存が離反不可能なほど深化しているため、③世界のグローバル化によって国際テロ組織のような非国家主体が脅威となってくるので、日米協力はグローバルな文脈で役割が拡大していくため

距離の概念:①地図上の距離、②時間的な距離、③輸送力上の距離、④インターネットといった情報通信のツールを考慮に入れた距離

日本の有史以来の歴史には、海洋を通じた交易によって繁栄を享受していた時代と、大陸に進出していった時代があり、明らかに前者の時代の方が日本にとって幸せな時代であった。

日英同盟の破棄が示してくれる教訓:①同盟は、不十分な貢献によって破棄され得る冷厳な「生き物」であること、②相互の信頼関係が同盟の締結・維持に不可欠であること

いかなる同盟も冷厳なギブ・アンド・テイクによって成り立っている。日本がアメリカに与えているのは、戦略的な位置における基地と、それを支援するホスト・ネーション・サポートということになる。したがって、「米軍は日本に必要か?」「ホスト・ネーション・サポートの削減」などと主張するのは、同盟のギブ・アンド・テイクを分かっていない身勝手な主張といわざるを得ない。

日米同盟を米側から見ると、日本に米軍基地があることで、兵力の展開・振り回しが容易になる。米国の海外基地のカテゴリーは、①主要作戦基地(Main Operating Base MOB)、②前方作戦基地(Forwad Operating Site FOS)、③協同安全保障施設(Cooperative Security Location  CSL)、④統合保管施設(Joint Proposition Site  JPS)、⑤途上インフラストラクチャー(En Route Infrastructure ERI)の五つであるが、日本の基地はほとんどがMOB

2004年7月時の米海軍情報部長の見解では、米海軍の脅威は、、一つは海上におけるテロ、もう一つは中国海軍の拡張

海兵隊は、兵力を運搬する揚陸艦艇や航空機の基地が近郊に存在することが必要で、沖縄の場合それは、艦艇基地としての佐世保と回転よく航空機基地としての普天間。さらに近接航空支援を行う戦闘機の基地は岩国で、揚陸艦艇に打撃力を提供する空母部隊は横須賀にある。これらがパッケージとなって初めて海軍、海兵隊戦力が機能するので、海兵隊のみをオーストラリアに移転しても、全てのパッケージを移設するには膨大なインフラがオーストラリアに必要となり簡単に移転するわけに行かない。

2008年4月にBBSワールドサービスが委託して行った世界への貢献度についての調査によると、日本はドイツと並び同率1位で56%が主に肯定的な影響を与えている国とされている。

冷戦中、米海軍はソ連の潜水艦に対応するため、主として深海での対潜水艦戦に焦点を当てていたのに対し、日本は周辺海域の特性から浅海での対潜水艦戦に関する技術能力が高かった。冷戦後の対潜水艦戦は米軍もほとんど浅海で行われるようになったことから、米海軍は日本の浅海域音響技術を欲しがった。また、日本の得意分野である先進鋼技術は、・・米海軍の最新鋭潜水艦などに使用されている。また、弾道ミサイル防衛に関しても日本の4項目の技術が使用されており、軍事技術に関しても日本は米国からもらうだけでなく、提供もしている。

一般論として、同盟関係の底辺の絆を支えているのは、インテリジェンス関係。米国は東アジアの地域特性に根ざす日本の分析能力を当てにしており、日本はグローバルな米国のインテリジェンス能力に頼っている。米国の情報はわが国の安全保障にとって不可欠。

米インテリジェンス・コミュニティの総人口は、約10万人と言われている。予算は、2007年で435億ドルと公表されており、日本の国防費程度の予算が使われている。

米国当局者の認識では積極的な技術スパイ国家は、中国、イラン、ロシア。最も人気のあったのが、情報システムに関する技術、航空技術、センサー、レーダー・光学の順。

米国でシンク・タンクが安全保障の政策決定上大切な役割を担っている理由:①政治指名と呼ばれる人たちは政権交代があるとごっそり入れ替わり、政権から離れた人たちはシンクタンクで次の機会まで充電するとともに、研究成果を主要紙に発表して世論形成を行う。②米国は日本のように官僚組織が専門化かつ強力ではないので、シンクタンクが官僚機構を補う人材のプールになっている。③シンクタンクの約3分の1が1970年代以降に設立されていることからも分かるとおり、1970年代以降、内政・外交をめぐる米国の世論が多元化し、政府の公式見解を追っているだけでは、米国の政策の方向を予見することが難しくなってきている。

共和党系:ヘリテージ財団、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)、ハドソン研究所、スタンフォード大学内のフーバー研究所

民主党系:ブルッキングス研究所、新アメリカ安全保障研究所、進歩政策研究所(PPI)

超党派:戦略・国際問題研究所(CSIS)、大西洋評議会、カーネギー国際平和財団、平和研究所、外交問題評議会、スタンフォード大学内の国際安全保障・協力研究所(CISAC)、スティムソン・センター

2009年のシンポジウムに参加した印象では、すでに「非正規戦」が「正規戦」なっている、すなわち非国家主体との戦いがすでに常態化している、といった各国有識者の認識であった。

英国のルパート・スミス退役陸軍大将は、将来の戦争は、「これまでの国家間の産業戦争から、民衆の中での戦い(War amongst the People) に移行する」と喝破し、将来戦の特徴として、6つの特徴を挙げている。その一つが「時間を超越した果てしない戦い」とといている。同盟の重要性について、変わらない重要性を強調しつつ、新たな戦略環境に対応するための重点の変化の例の一つとして、「静的な同盟からダイナミックなパートナーシップへ」を挙げ、今後は必ずしも固定的な同盟関係にこだわらない考えを示している。

ジョンズ・ホプキンズ高等国際問題研究大学院の第3代学長ロバート・オズグッドによると、「マハンは、侵略的国家エゴに動かされ帝国主義ドクトリンを伝道したリアリストである。彼は英国、日本、ドイツでは崇敬されているが、アメリカ人は一般的に彼とは異質である。」

アメリカのアジア政策は一貫した原則に基づいているように思われる。それは、東アジアに強大な覇権国家を作らず、複数の国家で互いに牽制させ合うこと。

キャンベル氏によると、米国内のアジア政策には主として5つの学派がある。①中国重視派(キッシンジャー、ベーカー、ぜーリックなど)、②日本、韓国、オーストラリアといった同盟・協力関係を軸に捉えるグループ(アーミテージ、ナイ、ペリーなど)、③中国を脅威あるいは戦略的懸念材料と見るグループ(チェイニー、ラムズフェルド、武器の調達に関心がある海・空軍等)、④インドネシアとの関係を通してアジアを語っていた、あるいは北朝鮮問題を中心にアジアを見ていたグループ(スタンリー・ロス、クリストファー・ヒル等)、⑤グローバルな課題である気性変動や疫病、エネルギー問題への取り組みを重視するグループ(若手の民主党関係者)。オバマ大統領は、どちらかといえば、⑤のグループに近いのではないか。

「米国は中国によってニューヨークやシカゴを攻撃されることを覚悟しても日本に対して核の傘を提供してくれるのか」という問いに対し、ペリー元国防長官は2006年に「イエスともノーともいえない」と答えた。

英国は自ら核兵器を保有し、これを取引材料として米英核戦略の一体化を目指した。フランスは独自の核兵器を持った。ドイツは核兵器に依存することなく敵となるソ連との間の対立点の減少を目指す独自の対ソ戦略を展開し、同時に米国の核を自国領土に持ち込ませ、米国と核発射のボタンを共有化した。日本もどのモデルをとるのか、そろそろ国民的な議論がなされてしかるべき。

米中間には俗に言う5つのTという問題が存在。①天安門事件に代表される人権問題。②Trade(貿易)、③Technoligy(技術・産業スパイ)、④台湾、⑤チベット

中国の海上民兵は、地方ごとに漁民をもって構成され、海軍が実施する演習に定期的に参加。海上作戦上の一定の機能・役割が与えられている。・・・軍服を脱ぎ捨てただけの便意兵殺害を「多数の民間人が殺害された」とされた南京大虐殺の海軍版が演出されてしまう。

2008年、在日米軍司令官が、「米軍では現在空軍少将がトップで担当しているサイバー空間での戦いを中将が指揮する統合の組織に昇格しようとしている。」と米軍の熱心な取り組みを説いた。

2008年、米海軍元少将の話「米海軍の空母機動部隊にとって、キロ級潜水艦から発射されるSS-N-27Bとソブレメンヌイ級駆逐艦に搭載されているSS-N-22といった超音速巡航ミサイル、そして大気圏に突入してから終末段階で機動する再突入弾頭を搭載したDF-21が最大の脅威であり、立場が逆ならばこれを米空母に対して使用するであろう。」

同じ米陸軍の一個師団でも、湾岸戦争のときの師団とイラク戦争の時の第4師団(ディジタル師団、実際にはイラク戦争には投入されず)とでは、半分の時間で倍の敵を撃破し、3倍の戦闘空間をカバーするほど能力が上がっているといわれている。

今日の「新しい」統合は陸・海・空・海兵隊といった群主の統合のみならず、他省庁との省庁間協力や諸外国との共同にも広がっている。

(在日米空軍基地について)平時にただ単に使用頻度が低く広大なスペースを有して無駄であるといった理由だけで民間との共用空港にすべきだといった論議は、有事の拡張性をまったく無視したものと言わざるを得ない。・・平時、横田の軍民共用を要求するなら、周辺事態時、「成田や羽田に軍用機を乗り入れさせる」としてこそフェアーな要求になるのではないか。

弾道ミサイル探知機能を持ったXバンドレーダーやイージス艦、レーザー兵器搭載航空機の前方展開が、米国本土を弾道ミサイルの脅威から防衛する上で死活的な役割を果たすことになれば、弾道ミサイル防衛は前方展開基地の戦略的価値低下を逆転させるほどの重要性を持つことになる。・・・青森県車力に配備しているXバンドレーダーや横須賀を母港とするイージス艦のような迎撃システムがいかに米国の安全保障にとって大切かがわかる

将来の日米同盟を強固にできるか否かは、ほとんど日本次第であるといえる。』

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