« 2011年5月 | トップページ | 2011年7月 »

2011年6月

2011年6月25日 (土)

世界の経済が一目でわかる地図帳 (ライフサイエンス著 三笠書房 知的生きかた文庫)

経済に関する基本的な知識を身につけるのにはよいかと思い、読んでみました。

『シリコンバレーでIT産業が盛んになった理由:①気候条件、②交通の便のよさ、③スタンフォード大学の存在

サンベルト:広大な土地と石油・天然ガスなどの資源に恵まれていたことから、軍事技術と密接な関係を持つ航空宇宙産業も軍事関連企業や研究所も南部に次々と建設された。

デトロイトで重工業が発展した理由:五大湖沿岸に位置し、鉄鉱石や石炭などの豊富な資源が水運によって安価に運搬されたこと

北欧の携帯電話が強かった理由:産学官の共同による研究開発を実施したこと

インド経済を牽引するIT以外の産業は製薬業。ジェネリック製薬の製造で躍進

カナダ:オイルサンドを含めると一気に世界第2位の石油埋蔵国に躍り出た

海外に移住した中国人とその子孫・・・華僑、移住先で国籍を取得した場合・・・華人

中国系移民多い順(2002年) 1位 インドネシア 726万人、2位 タイ 699万人、3位 マレーシア 592万人、4位 アメリカ 313万人、5位 シンガポール 259万人、  日本 38万人、ヨーロッパ 98万人

インド人の定住労働者の多い順(2001年):1位 ミャンマー 290万人、2位 アメリカ 168万人、3位 マレーシア 167万人、 4位 サウジアラビア 150万人、5位 イギリス 120万人

中国の経済は、実は「ウイグル」が握っている!?  ウイグルでは石炭、石油、天然ガスなどのエネルギー資源のほか鉄鉱石や銅などの鉱物資源が豊富に取れる。また、中央アジアやイランなどから供給される原油や天然ガスの通行路に当たる。つまり新彊ウイグルは資源と貿易の玄関口であり、中国の今後の経済発展のためには重要な土地

日本の都市鉱山(世界埋蔵量に対する比率 %):金 16.4%、銀 22.4%、銅 8.1%、プラチナ 4.7%、鉛 9.9%、インジウム 61.1%

IMF:短期の融資が中心、 世界銀行:主に低い利息での長期融資を担う

AU(アフリカ連合):本部はエチオピアのアディスアベバ。域内で戦争犯罪が起こった場合には、平和・安全保障理事会からAU独自の平和維持部隊を派遣できる。モロッコは、西サハラの領有問題で他のアフリカ諸国と対立しているため、未加入

原油価格の決定権を握っているのは、アメリカの市場。有力市場はニューヨーク市場、東京を中心としたアジア市場、ロンドン市場などのヨーロッパ市場であるが、国際的な指標は取引量の多い、ニューヨーク市場のWTI(テキサス州算出のウエスト・テキサス・インターミィエートという銘柄)そのためWTI価格がじょうしょうすれば他の市場の原油価格も上昇。

金融工学:高度な数学やコンピュータープログラムを用いて「金融の動き」を解明する学問で、今後の金融業界を活性化させるものとして期待されている。

いまや政府レベルで資産運用がなされる時代。政府主導で立ち上げられた投資機関は、政府系ファンドと呼ばれる。政府系ファンドの推定運用残高は世界全体で、ヘッジファンドも上回る300兆円。・・2つのタイプがある。コモディティ型と非コモディティ形。前者は石油などの資源を元手にした資金で設立されたもの。勢いのあるのは産油国の政府系ファンド。日本でもドルの値上がりのため、政府系ファンドの設立要請が一部から上がっている。

イスラム教では利子の受け払いを不公平な行為として禁じているため、イスラム金融では割賦販売を応用して、利子という形を使っていない。

世界の株式市場の時価総額ベスト10(2008):1位 ニューヨーク証券取引所 9兆2089億ドル、2位 東京証券取引所 3兆1158億ドル、3位 ナスダック 2兆3963億ドル、4位 ユーロネクスト 2兆1017億ドル、5位 ロンドン証券取引所 1兆8682億ドル、6位 上海証券取引所 1兆4254億ドル、7位 香港証券取引所 1兆3288億ドル、8位 ドイツ証券取引所 1兆1106億ドル、9位 トロント証券取引所 1兆344億ドル、10位 マドリード証券取引所 9484億ドル』

2011年6月24日 (金)

新聞記事から (23.6.23 産経新聞 【石平のChina Watch】強まる「軍国化」傾向)

第2次大戦前、ドイツの横暴に対し、イギリスなどが宥和政策をとろうとしたため、結果的にナチスドイツのヨーロッパ各地への侵攻を引き起こしてしまいました。同じようなことが、現在のアジアに起ころうとしています。にもかかわらず、わが国の政治はまったく無頓着です。国境をに接した県では、お気楽にも「平和」を叫んで米軍を追い出そうとしています。本当にこのままでは今回の震災以上の被害、悲劇が日本を襲うことでしょう。

今月10日、共産党機関紙人民日報は、中国国防大学の教育活動に関する注目記事を掲載した。解放軍の「最高学府」である国防大学が現在、外部向けの「国防研究コーナー」を開設して、中央官庁や各地方政府の幹部などを順番に集め研修をさせているという。国有大企業の経営陣までがその対象に含まれているようである。

 幹部たちはここで、軍の指揮官になりきって戦争の模擬演習に没頭したり「国防戦略」の策定に熱中したりしていると報じられている。彼らの「国防意識と能力」を強化させることがその目的であるらしいが、記事の中で、たとえば中国人民対外友好協会の会長を務める陳昊蘇氏が研修を受けた感想として「軍事闘争に勝つ自信を深めた」と述懐しているのがとりわけ印象的である。

 2001年に中国で「国防教育法」が制定されて以来、全国の小、中学校、高校、大学の学生、生徒も何らかの形で「国防教育」を受けることになっている。当局が公表した資料によると、この法律が制定されてから2010年末までの間、全国で2万校以上の小、中学校で「少年軍事学校」が開設されるようになり、高校と大学で実施されている軍事訓練の参加者は毎年2千万人に達しているという。

 軍事訓練は時々、小学生以下の子供にも及んでいる。去る5月31日、地方紙の「広州日報」は6月1日の「児童節(こどもの日)」を記念して幼児園(幼稚園)児に関する記事を掲載したが、それによると、広州市内の龍華富通天駿幼児園の子供たちは5月30日、近所の解放軍駐屯地を訪問して見学した後に、解放軍兵士による1時間弱の軍事訓練を受けたという。この記事はまた、広州市内の多くの幼児園も6月1日を前後にして類似するような活動を展開していると報じている。

 このように今の中国では普段なら「国防」の仕事とは直接に関係のない中央官庁や地方政府の幹部たちが順番に軍事研修に参加したり、全国の小、中学生が「少年軍事学校」に通わせられたり、年間2千万人以上の高校生や大学生が軍事訓練を受けたりしてまさに「老弱男女軍事一色」の国民的「軍国化」体制づくりが進められている。

 その中では、本来なら外国との友好親善の増進を仕事とするはずの対外友好協会の会長までが「軍事闘争に勝つ自信」うんぬんを語ったり、幼児園児までが軍事訓練の対象になったりするような恐ろしい光景が繰り広げられている。この国は一体、何をしようと考えているのであろう。

 こうした「軍国化」体制づくりの傾向は実は、近年になって強まってきている節がある。冒頭の人民日報記事によると、共産党が「党中央公文書」と称する正式文章を伝達して、「各級幹部の国防教育の強化及び国防大学の『国防研究コーナー』の開設の継続」を指示したのが今年の4月11日のことであるという。

 また「国防教育法」制定11年目の今年の6月から、法律実施の状況を検分するためのキャンペーンが教育部と中央軍事委員会の連携で始まっている。もちろん、法律の実施に関する今までの成果を確認した上で、「国防教育のよりいっそうの強化」をはかることがキャンペーン展開の目的である。

 ちょうどこの6月に西太平洋や南シナ海で中国海軍の危うい動きも再び見られるようになっている。それと連結して考えてみれば、中国国内の「軍国化」傾向の持つ意味はよく分かってくるのであろうが、このような中国にどう対処すべきなのかは、まさに日本にとっての最重要課題である。』

2011年6月19日 (日)

新聞記事から (23.6.19 産経新聞 【緯度経度】古森義久氏 「中国の「互恵」は一方的 」)

昨日の産経新聞でワシントン支局の古森義久氏が中国について書いていました。アメリカ人の多くが中国をアジアにおける重要なパートナーと考えているようですが、中国についてよく知っている人はその性質の悪さを痛感しつつあります。その隣の同盟国日本がしっかりしなければ、今まで以上に強圧的に日本に何かを要求してくるか、日本をはずして頭越しにいろいろされるようになるか、いずれかでしょう。とにかく、しっかりすることです。

『中国の南シナ海や東シナ海での軍事がらみの攻勢的な動きが関係各国の神経をぴりぴりとさせている。南シナ海では中国の艦艇がベトナムの探査船のケーブルを切断したとか、フィリピンの資源調査船の活動を妨害したという報道が流れる。なにしろ中国は国内法を拡大して、南シナ海の全域を自国の領海扱いしているのだから、他国との摩擦は避けられない。

 しかし当の中国は、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議で梁光烈国防相が自国の行動はあくまで「相互の尊重」や「互恵」の原則に沿う平和的発展にすぎないと、宣言した。「相互の理解や信頼の増進」も原則なのだともいう。なかなか響きのよい言葉の羅列である。

 だが中国がよく使うこの種の標語は誤解してはならないと、中国の軍事研究では全米でも屈指のラリー・ウォーツェル氏が語った。同氏は米国議会の超党派の諮問機関「米中経済安保調査委員会」の10年来の委員であり、委員長も務めてきた。米陸軍の軍人出身で北京の駐在武官でもあった。

 1989年6月の天安門事件では、現地にあって人民解放軍部隊が民主活動家たちの弾圧に動員されていったプロセスを細かく視察していたという。

 そのウォーツェル氏はこの5月に中国軍の陳炳徳総参謀長が米国を訪れた際の展開を比較としてあげた。同総参謀長は米軍のマイケル・マレン統合参謀本部議長との会談や共同会見ではまず米中両国間の「相互の尊重」「互恵」そして「相互の理解と信頼」と、まさに梁国防相が東南アジア各国にアピールしたのとまったく同じ言葉を放った。

 だが陳総参謀長はその後すぐ言葉を続け、米国の台湾への武器売却を非難した。米軍が中国のEEZ(排他的経済水域)内部で中国への偵察活動を実施していることも糾弾した。

 「互恵」などとは夢にも思えない厳しい語調だったため、米側は戸惑った。だがウォーツェル氏は、米側の当惑は中国式修辞を誤解した結果だという。

 同氏によると、中国側にとって「相互の尊重」や「互恵」は、米国が台湾への武器売却や中国への偵察など中国側が反対する行動を停止するという意味である。一方、米側が中国に台湾への武力行使宣言の撤回や、国際的に認められたEEZ内での軍事偵察の許容を求めることは含まれないという。

 米国が台湾に武器を売るのは中国が台湾への武力行使の可能性を宣言しているからで、「相互尊重」を貫くなら米側が中国に武力不行使を求めてもよいはずだが、中国側はそれを認めない。

 ウォーツェル氏はさらに「米軍の対中偵察活動は国際的に認められたEEZ内部での動きなのに中国はそれを一方的に禁止している。米国がその禁止に従うことが中国の主張する『相互の尊重』となる」と述べ、「中国のいう相互は実は一方的なのだ」と結んだ。

 中国の主張する「相互の尊重」や「互恵」という標語の実体は相互でも互恵でもないというベテラン中国ウオッチャーの警告だった。』

2011年6月11日 (土)

石油がわかれば世界が読める (瀬川幸一編 朝日新書)

エネルギーについてしっかり考えておくことは非常に重要と認識しておりますが、とりあえず基本的な書物を読んでみました。

『松茸が超高級食材になってしまったのは、石油時代になってから日本各地(世界各地でも同様だが)で都市近郊の自然植生が大きく回復した、すなわち自然が大きく回復してきたこの証左・・・(昔は)都市近郊では、むしろ里山を中心に自然破壊は現在よりひどかった。・・・石油が環境に対して好影響を与えた典型例のひとつ

ロンドンにしても函館にしても、石炭の煤煙を石油系燃料が追放したから大気の質が飛躍的に改善された。現在、北京で同様な事態が進行中で、徐々に改善されつつある。

大型ダムは嫌気性バクテリアの働きでメタンガスを大量に発生させる。ブラジルの国立宇宙研究所のイワン・リーマ博士の07年5月リポートによると、世界に5万箇所以上ある大型ダムは年間1億トン以上のメタンガスを大気中に放出し、全温暖化ガス排出の4%を占めている

現代人は一人平均で狩猟採集時代の人間の約100倍のエネルギーを使用して生活しているといわれている

商業油田の発見率は100本の井戸に対して5本から10本と(かつてに比べて)非常に向上しているが、それでも掘削した井戸から100%確実に油田を発見するところまではほど遠い。

石油ショック時に「寿命30年」といわれた石油がまだあり続けている理由;①新たな油田が発見されたこと、②先進諸国による脱石油、省エネルギー努力が進められたこと、③石油の埋蔵量の概念に複雑なトリックがあること(埋蔵量は不変ではない)

すべての燃料は、①環境適合性(排ガスがきれいでかつ、二酸化炭素の排出が少ない)、②供給安定性、③経済性の3Eを満たす必要がある。

自動車燃料には、エネルギー密度(その燃料が容量あたり、あるいは重量あたりにどれくらいのエネルギーを持っているか)が強く求められる

ハイブリッド車について考える場合には、充電した電気がどんな電気かによって二酸化炭素が減ったかどうかが変わってくる。

天然ガスを原料として液体燃料を作り出す技術は南アフリカが最も進んでいる。これはアパルトヘイトへの制裁で石油の輸入ができなかったことが理由とされている。

今世紀は天然ガスの世紀なると予測する専門家もいる。・・・単位熱量あたりで排出する二酸化炭素量が少ないため。石炭を100とすると、石油80、天然ガス50

原油を精製して石油製品を製造するには、①原油に金をかけず精製設備に金をかける、②原油に金をかけ精製設備を安く済ませる方法があるが、日本は①をとっており、このため重たく硫黄分の多い中東産原油対応の設備となっている。

一般に天然ガスの輸送距離が3000KM以内であれば、パイプラインの方がコスト競争力に優れ、3000KMを超えるとLNGのほうが価格競争力があるといわれている。

石油の利用に当たっては近年「ノーブルユース」という考え方が主張されている。これは限りある石油を有効に利用するため、現在の人間が持っている技術では石油以外を燃料として利用できない自動車、航空機、船舶等の輸送用燃料に石油を優先的に利用しようとする考え

四国の沖合いの海底を含めた日本近海のメタンハイドレートの埋蔵量は、261兆立方フィートという膨大なものと推定されている。現代の日本における天然ガス年間消費量の109年分に相当し、天然ガスに関しては日本は22世紀まで安心して利用できるといえる

日本の常識は世界の非常識であり、米国や英国などの先進国では、エクセレントカンパニーといえば、エクソンモービルやBPといったメジャーである・・・エクソンモービルが2007年に計上した純利益は、トヨタ自動車の実に4倍近い

石油産業は、油田を堀削し、原油を生産する上流部門と、石油を精製し販売する下流部門とに分けられる。石油の世界では、メジャーの場合も利益の7割から8割程度は上流部門で稼がれており、競争の激しい下流部門における利益は小さい。・・・日本の石油企業は上流部門をほとんど持っておらず、下流部門に経営資源を集中している

原油価格が高騰しメジャーが好業績をあげているからといって、素朴なナショナリズムからメジャーを排斥することは産油国、産ガス国のためにならない。なぜならこれから開発される地域は深海部であったり気象条件が過酷であったりと、メジャーの技術力と資金力がなければ産油国、産ガス国だけの単独では開発できないから

現状では1キロワット時あたりの発電コスト;原子力6円、天然ガス7円、石油9円、風力14円、太陽光発電45円で新エネルギーは在来型エネルギーに比して価格面における競争力はない』

2011年6月 9日 (木)

新聞記事から(産経新聞 23.6.9 【石平のChina Watch】「民」が「官」に勝つとき)

前回の続きです。前回の記事ほどのインパクトを今の私は感じられませんでしたが、将来感じるかもしれませんので、引用を残しておきます。

『前回の本欄は、中国の電力会社が電力料金の引き上げを禁ずる政府の行政干渉に反抗し、「設備点検」と称して減産体制に入ったことを取り上げて論じたが、さる5月30日、この攻防に決着がつけられた。国家発展改革委員会は同日、湖南や重慶など15の省・直轄市で工業用の電力料金を引き上げることを表明した。電力会社の造反に屈服した形の意思決定である。
 それに先立つ24日、製品の値上げを政府によって一旦止められ、おまけに罰金まで科せられた英蘭系日用品大手のユニリーバはとうとう、「わが道を行く」と腹を決めて果敢なる値上げに踏み切った。一部製品の値上げ幅が10%以上となる本格的な値上げだが、今度、当局は一転して、「値上げは企業の権利」と言ってそれを認めた。

 市場の原理をテコにした民間企業の反乱はこうして完全な勝利を収めた。「民」は「官」に勝ったのである。

 実は同じ5月に、「官」に対する「民」の勝利を意味する別の事件も起きた。

 今年2月、吉林省遼源市の環境保護局で局の幹部と一般局員が受領する冬ボーナスに大きな差がついたことに対し「不公平だ」との批判が局内で巻き起こったところ、局長の郭東波氏は全局大会で逆上して、「何が不公平だ。お前らペーペーには公平なんか要るもんか。まったくの恥知らずだ」と、公平を求める局員たちを罵倒した。

 しかし思わぬことに、その時のスピーチが録音されていた。そして5月22日、その発言の内容は録音とともにネットに掲載され全国に流れた。案の定、ネットの世論空間では、「ペーペーには公平は要らぬ」という郭局長の暴言に対する批判の嵐が吹き荒れた。

 すると、2日後の24日、遼源市共産党委員会はこの問題発言の真相に対する調査に入り、さらに2日後の26日、当の郭局長は責任を取って辞職させられた。

 一時前の中国では考えられないような事態だが、民衆の反発の前で、1人の共産党幹部のクビがこうも簡単に飛んでしまった。もちろんそれは、「社会的公平の実現」を標榜(ひょうぼう)する共産党政権の「理念」を逆手にとった批判が功を奏した結果だが、今の中国では、「民意」というものはすでに、政権が無視できない力を持ち始めたようだ。

 一方、「民」の不満が無視されたことの危険性を政権に思い知らせる事件もあった。5月26日、江西省撫州市で地元政府庁舎など3カ所で連続爆破事件が発生し、少なくとも3人が死亡した。

 それは、再開発などのため地元政府に自宅を取り壊されたとして長年にわたり抗議活動を続けていた男の犯行であることが判明した。事件4日後の5月30日、胡錦濤国家主席はさっそく政治局会議を開いて「中国は今、社会的矛盾が突出する時期である」と認めた上で、安定維持のための「社会管理の創造的刷新」を訴えた。1人の男の決死の抗議行動が政権に与えた衝撃の大きさがそれでよく分かったが、その翌日、事件発生地の江西省の省長も更迭された。

 このようにして、2011年5月の1カ月間、企業の「値上げ闘争」からネットの「暴言幹部クビ切り作戦」まで、「民」は実にさまざまな形で「官」に対する堂々たる反乱を試み、そして思わぬ勝利を収めた。

 その一方、市場の原理と民意の力の前で不本意な全面敗退を余儀なくされながら、政権は今、自らの支配体制をどう維持したら良いのかと苦慮している最中のようだ。近未来における中国の激変を予感させる地殻変動は、すでに目の前で起きているのである。』

2011年6月 7日 (火)

新聞記事から(産経新聞23.6.7 夕刊 「慶派の“秘伝” 「真似できない」からこそ師から弟子へ惜しみなく」)

職人気質、弟子への技術・伝統の継承について、参考にすべきことがあると思い、書き残します。

『若き日、師から授かった技術や知識。それは、平安の世から引き継がれた“秘伝”だ。仏師はかけがえのない遺産を、次世代へと伝授するため槌(つち)を振るう。
 「彫るのはスピードが大事。速ければうまいのはすし職人と一緒です」

 仏師が集う京都市西京区の「松本工房」。工房の主、松本明慶(みょうけい)さん(65)は、大胆に仏像に刃を入れていく。

 平安時代に発祥、運慶や快慶を輩出した「慶派」に連なる。これまで、高さ18・5メートルの「大弁天坐像」(鹿児島市・最福寺)など数多くの大仏を手がけた。

 「木は、大きくなるまでずっと同じ場所にいはる。まさしく『行(ぎょう)』。御仏(みほとけ)がいらっしゃるありがたい場所なんです」とあくまで木造仏にこだわる。

 昭和20年、京都市左京区に生まれた。将来は医者か建築家と漠然と考えていた高校2年生のとき、弟が急死する。

 「仏様がいるんだったら、何で助けてくれないんや」。仏の存在に対する問いに、答えを出そうと仏像を彫り始めた。

 恩師のつてで紹介されたのが、慶派の流れをくむ野崎宗慶(そうけい)氏。

 持参した仏像を一目見るなり弟子入りを許されたが修行期間は、死別するまでの1年あまり。しかし、師匠と弟子の関係は時の長さに左右されないと確信している。

 「師匠は、濃い『知恵の水』を、バケツでザバーっとかけてくれた。僕は、タライで必死に受け止めた。本当に幸せでした」

 20歳で独立した青年仏師も、今では40人あまりの弟子を抱える師匠。

 黙々と木に向き合う弟子の様子を見ながら、「ここ、もうちょっとこうせな」と声をかけ、代わりに彫ってみせる。教える内容は、受け手の習熟度により変えるが、決して隠すことはしない。

 「勘違いしている人多いけど、秘伝は隠すもの違う。やって見せても真似できないのが秘伝なんですね」。自身の言葉、一挙手一投足が慶派の秘伝。伝授は、今この瞬間も、行われているのだ。

 工房には、木材が山のように積まれている。いつまでもつのか聞くと「千年かかっても使い切れませんわ」と笑顔を見せた。』

2011年6月 5日 (日)

同盟国としての米国 (太田文雄著 芙蓉書房出版)

以前に紹介した、太田文雄氏の最新の(といっても2年前に出された)著作です。米国に関するあらゆる安全保障のトピックが網羅されており、今後も読み直してみたい書だと思います。

『冷戦後も日米同盟が継続、強化されている理由:①冷戦構造が依然として残っている東アジアを安定化するため、②弾道ミサイル防衛等で日米の相互依存が離反不可能なほど深化しているため、③世界のグローバル化によって国際テロ組織のような非国家主体が脅威となってくるので、日米協力はグローバルな文脈で役割が拡大していくため

距離の概念:①地図上の距離、②時間的な距離、③輸送力上の距離、④インターネットといった情報通信のツールを考慮に入れた距離

日本の有史以来の歴史には、海洋を通じた交易によって繁栄を享受していた時代と、大陸に進出していった時代があり、明らかに前者の時代の方が日本にとって幸せな時代であった。

日英同盟の破棄が示してくれる教訓:①同盟は、不十分な貢献によって破棄され得る冷厳な「生き物」であること、②相互の信頼関係が同盟の締結・維持に不可欠であること

いかなる同盟も冷厳なギブ・アンド・テイクによって成り立っている。日本がアメリカに与えているのは、戦略的な位置における基地と、それを支援するホスト・ネーション・サポートということになる。したがって、「米軍は日本に必要か?」「ホスト・ネーション・サポートの削減」などと主張するのは、同盟のギブ・アンド・テイクを分かっていない身勝手な主張といわざるを得ない。

日米同盟を米側から見ると、日本に米軍基地があることで、兵力の展開・振り回しが容易になる。米国の海外基地のカテゴリーは、①主要作戦基地(Main Operating Base MOB)、②前方作戦基地(Forwad Operating Site FOS)、③協同安全保障施設(Cooperative Security Location  CSL)、④統合保管施設(Joint Proposition Site  JPS)、⑤途上インフラストラクチャー(En Route Infrastructure ERI)の五つであるが、日本の基地はほとんどがMOB

2004年7月時の米海軍情報部長の見解では、米海軍の脅威は、、一つは海上におけるテロ、もう一つは中国海軍の拡張

海兵隊は、兵力を運搬する揚陸艦艇や航空機の基地が近郊に存在することが必要で、沖縄の場合それは、艦艇基地としての佐世保と回転よく航空機基地としての普天間。さらに近接航空支援を行う戦闘機の基地は岩国で、揚陸艦艇に打撃力を提供する空母部隊は横須賀にある。これらがパッケージとなって初めて海軍、海兵隊戦力が機能するので、海兵隊のみをオーストラリアに移転しても、全てのパッケージを移設するには膨大なインフラがオーストラリアに必要となり簡単に移転するわけに行かない。

2008年4月にBBSワールドサービスが委託して行った世界への貢献度についての調査によると、日本はドイツと並び同率1位で56%が主に肯定的な影響を与えている国とされている。

冷戦中、米海軍はソ連の潜水艦に対応するため、主として深海での対潜水艦戦に焦点を当てていたのに対し、日本は周辺海域の特性から浅海での対潜水艦戦に関する技術能力が高かった。冷戦後の対潜水艦戦は米軍もほとんど浅海で行われるようになったことから、米海軍は日本の浅海域音響技術を欲しがった。また、日本の得意分野である先進鋼技術は、・・米海軍の最新鋭潜水艦などに使用されている。また、弾道ミサイル防衛に関しても日本の4項目の技術が使用されており、軍事技術に関しても日本は米国からもらうだけでなく、提供もしている。

一般論として、同盟関係の底辺の絆を支えているのは、インテリジェンス関係。米国は東アジアの地域特性に根ざす日本の分析能力を当てにしており、日本はグローバルな米国のインテリジェンス能力に頼っている。米国の情報はわが国の安全保障にとって不可欠。

米インテリジェンス・コミュニティの総人口は、約10万人と言われている。予算は、2007年で435億ドルと公表されており、日本の国防費程度の予算が使われている。

米国当局者の認識では積極的な技術スパイ国家は、中国、イラン、ロシア。最も人気のあったのが、情報システムに関する技術、航空技術、センサー、レーダー・光学の順。

米国でシンク・タンクが安全保障の政策決定上大切な役割を担っている理由:①政治指名と呼ばれる人たちは政権交代があるとごっそり入れ替わり、政権から離れた人たちはシンクタンクで次の機会まで充電するとともに、研究成果を主要紙に発表して世論形成を行う。②米国は日本のように官僚組織が専門化かつ強力ではないので、シンクタンクが官僚機構を補う人材のプールになっている。③シンクタンクの約3分の1が1970年代以降に設立されていることからも分かるとおり、1970年代以降、内政・外交をめぐる米国の世論が多元化し、政府の公式見解を追っているだけでは、米国の政策の方向を予見することが難しくなってきている。

共和党系:ヘリテージ財団、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)、ハドソン研究所、スタンフォード大学内のフーバー研究所

民主党系:ブルッキングス研究所、新アメリカ安全保障研究所、進歩政策研究所(PPI)

超党派:戦略・国際問題研究所(CSIS)、大西洋評議会、カーネギー国際平和財団、平和研究所、外交問題評議会、スタンフォード大学内の国際安全保障・協力研究所(CISAC)、スティムソン・センター

2009年のシンポジウムに参加した印象では、すでに「非正規戦」が「正規戦」なっている、すなわち非国家主体との戦いがすでに常態化している、といった各国有識者の認識であった。

英国のルパート・スミス退役陸軍大将は、将来の戦争は、「これまでの国家間の産業戦争から、民衆の中での戦い(War amongst the People) に移行する」と喝破し、将来戦の特徴として、6つの特徴を挙げている。その一つが「時間を超越した果てしない戦い」とといている。同盟の重要性について、変わらない重要性を強調しつつ、新たな戦略環境に対応するための重点の変化の例の一つとして、「静的な同盟からダイナミックなパートナーシップへ」を挙げ、今後は必ずしも固定的な同盟関係にこだわらない考えを示している。

ジョンズ・ホプキンズ高等国際問題研究大学院の第3代学長ロバート・オズグッドによると、「マハンは、侵略的国家エゴに動かされ帝国主義ドクトリンを伝道したリアリストである。彼は英国、日本、ドイツでは崇敬されているが、アメリカ人は一般的に彼とは異質である。」

アメリカのアジア政策は一貫した原則に基づいているように思われる。それは、東アジアに強大な覇権国家を作らず、複数の国家で互いに牽制させ合うこと。

キャンベル氏によると、米国内のアジア政策には主として5つの学派がある。①中国重視派(キッシンジャー、ベーカー、ぜーリックなど)、②日本、韓国、オーストラリアといった同盟・協力関係を軸に捉えるグループ(アーミテージ、ナイ、ペリーなど)、③中国を脅威あるいは戦略的懸念材料と見るグループ(チェイニー、ラムズフェルド、武器の調達に関心がある海・空軍等)、④インドネシアとの関係を通してアジアを語っていた、あるいは北朝鮮問題を中心にアジアを見ていたグループ(スタンリー・ロス、クリストファー・ヒル等)、⑤グローバルな課題である気性変動や疫病、エネルギー問題への取り組みを重視するグループ(若手の民主党関係者)。オバマ大統領は、どちらかといえば、⑤のグループに近いのではないか。

「米国は中国によってニューヨークやシカゴを攻撃されることを覚悟しても日本に対して核の傘を提供してくれるのか」という問いに対し、ペリー元国防長官は2006年に「イエスともノーともいえない」と答えた。

英国は自ら核兵器を保有し、これを取引材料として米英核戦略の一体化を目指した。フランスは独自の核兵器を持った。ドイツは核兵器に依存することなく敵となるソ連との間の対立点の減少を目指す独自の対ソ戦略を展開し、同時に米国の核を自国領土に持ち込ませ、米国と核発射のボタンを共有化した。日本もどのモデルをとるのか、そろそろ国民的な議論がなされてしかるべき。

米中間には俗に言う5つのTという問題が存在。①天安門事件に代表される人権問題。②Trade(貿易)、③Technoligy(技術・産業スパイ)、④台湾、⑤チベット

中国の海上民兵は、地方ごとに漁民をもって構成され、海軍が実施する演習に定期的に参加。海上作戦上の一定の機能・役割が与えられている。・・・軍服を脱ぎ捨てただけの便意兵殺害を「多数の民間人が殺害された」とされた南京大虐殺の海軍版が演出されてしまう。

2008年、在日米軍司令官が、「米軍では現在空軍少将がトップで担当しているサイバー空間での戦いを中将が指揮する統合の組織に昇格しようとしている。」と米軍の熱心な取り組みを説いた。

2008年、米海軍元少将の話「米海軍の空母機動部隊にとって、キロ級潜水艦から発射されるSS-N-27Bとソブレメンヌイ級駆逐艦に搭載されているSS-N-22といった超音速巡航ミサイル、そして大気圏に突入してから終末段階で機動する再突入弾頭を搭載したDF-21が最大の脅威であり、立場が逆ならばこれを米空母に対して使用するであろう。」

同じ米陸軍の一個師団でも、湾岸戦争のときの師団とイラク戦争の時の第4師団(ディジタル師団、実際にはイラク戦争には投入されず)とでは、半分の時間で倍の敵を撃破し、3倍の戦闘空間をカバーするほど能力が上がっているといわれている。

今日の「新しい」統合は陸・海・空・海兵隊といった群主の統合のみならず、他省庁との省庁間協力や諸外国との共同にも広がっている。

(在日米空軍基地について)平時にただ単に使用頻度が低く広大なスペースを有して無駄であるといった理由だけで民間との共用空港にすべきだといった論議は、有事の拡張性をまったく無視したものと言わざるを得ない。・・平時、横田の軍民共用を要求するなら、周辺事態時、「成田や羽田に軍用機を乗り入れさせる」としてこそフェアーな要求になるのではないか。

弾道ミサイル探知機能を持ったXバンドレーダーやイージス艦、レーザー兵器搭載航空機の前方展開が、米国本土を弾道ミサイルの脅威から防衛する上で死活的な役割を果たすことになれば、弾道ミサイル防衛は前方展開基地の戦略的価値低下を逆転させるほどの重要性を持つことになる。・・・青森県車力に配備しているXバンドレーダーや横須賀を母港とするイージス艦のような迎撃システムがいかに米国の安全保障にとって大切かがわかる

将来の日米同盟を強固にできるか否かは、ほとんど日本次第であるといえる。』

2011年6月 4日 (土)

長寿遺伝子をオンにする生き方 (白澤卓二著 青春出版社)

今回は、健康モノです。心と体を健康にして、充実した人生を送りたいものです。

『老化の速度は体の部位・機能によって違う。・・・どの部位から老化が早く進んでいくかは、その人の生まれつきの体質や生活習慣、環境などによって違ってくる。・・動脈硬化の原因となる血管の老化については男性の方がより注意が必要で、女性はむしろ血管よりも骨の老化に注意していかなければならない。

細胞には「テロメア」というものがあり、染色体の末端にキャップのようについて、DNAを守る役割を果たしている。これが加齢とともにどんどん短くなり、最後には消えてしまう。要するに染色体がほとんどむき出しになってしまう。このように加齢が進むとテロメアがなくなって、正常に機能できなくなる細胞がたくさんできてくる。それが様々な老化現象となって現れてくる。・・・太っている人、タバコを吸っている人、運動をしない人のテロメアが短くなるのが早い。

老化に占める遺伝要因はたったの25%に過ぎない。残りの75%は環境によって決まっていた。

「カロリー制限をすれば寿命が延びる」というのは、生物一般のルールと考えてよい。(ただし、ビタミン、ミネラルは充分に摂取する必要あり)

「操作すると、その生物の寿命が変わる遺伝子」はSir2と名づけられている。このSir2は「寿命だけでなく、実は老化のプロセスをコントロールしていた。」 この遺伝子のスイッチがオンになるか、オフになるかはすべて環境によって決まるということ。端的にいえば、この遺伝子は、細胞の中にあるおびただしい数のDNAに傷がつくのを防ぐ役割を持っている。

血管の老化が進みやすい人:①男性、②肥満、あるいは肥満気味、③ご飯はおなかいっぱいまで食べないと気がすまない、④甘いもの、あるいは脂っこいものを良く食べる、⑤お酒を結構飲む、⑥タバコをすう、⑦朝ごはんを食べる習慣がない、⑧夜遅くに食べることが多い、⑨日常的に体を動かしていない、⑩血縁者に高血圧、糖尿、高脂血症の人がいる。

血管内にコレステロールの厚い層ができている人が、60歳くらいになれば半数ぐらいはいる。・・これが血栓となって、いわゆる「血管が詰まった状態」になる。動脈の中でも、頚動脈と脳の動脈が特にこういう病変が起こりやすい部位。これは、自覚症状こそないが、本来20~30年という時間をかけて密かに進行している。・・食べすぎと運動不足が肥満を引き起こし、これが血管の老化を進めているのである。・・・受身にならず、自分の力で解決を! 運動、禁煙、ダイエットという極めて日常的な行動が、動脈硬化の予防・改善、ひいては自分の命を守ることにつながる。

ただし、コレステロールは低すぎても良くない。また、男女差があり、「女性は、プラス30mg/dLまではメタ簿の基準を超えてもOK」

脳の老化が進みやすい人:①最近、新しいことに挑戦してみようという気にならない、②人付き合いや、外に出かけることが好きではない、③裁縫や手紙を書くといった、指先を使った細かい作業をあまりしていない、④おとといの夕食が思い出せない、⑤野菜や魚、動物などの名前を20秒以内で10個言えない、⑥甘いもの、あるいは脂っこいものが大好きである、⑦お酒は結構飲むほう、⑧タバコをすう、⑨日常的に体を動かしていない

1980年になって、シナプスだけでなく、脳細胞の数そのものも増やすことが可能だと分かった。・・・脳の老化が心配な人の対策は、①脳の神経細胞を増やす(減らさない)こと、②シナプスの数やその中にある神経伝達物質の量を増やすこと

快適で、適切な刺激のある環境にいるとネズミのシナプスの神経伝達物質の量は保たれ、脳細胞の生存率も高かった。・・人間に当てはめると、「積極的に人と交流する」、「生活に変化をもたせる」、「よく体を動かす」、「指先をまめに動かす」

脳疾患の予防も重要。そのためにも血管の老化を防ぐことが重要なポイント

頚動脈が枝分かれするところに血栓があると、何かの拍子にはがれて脳まで流れていき、脳の血管が詰まってしまう危険性がある。頚動脈は、脳の外側にあるが、いわば脳のアキレス腱。

運動には、ある程度の加速度が必要。ある程度スピードのある動きを出すようなライフスタイルに変えていくことは、自分しだいでできる。日常の中で体を使う工夫が特効薬となる。

アルツハイマー病の特徴は、短期記憶、つまりその日の何時間かの記憶だけが、ひどくダメージを受けるということ。この病気では脳の側頭葉が萎縮するが、そこに短期記憶をつかさどる海馬があるから。また、脳の古い部分、「辺縁系」という、感情をつかさどる部分も侵されるので、感情がコントロールできなくなり、いきなり怒り出したり、泣き出したりする。

アルツハイマー病にかかると、老人斑といういうしみが脳の中にできてくる。発祥の原因は、「アミロイドβタンパク質」という物質が脳内に蓄積されることで、これが老人斑を作っているものの正体。このタンパク質は、脳全体に溜まっていくが、特に海馬のある側頭葉に多く溜まりやすい特徴がある。このために海馬の神経細胞がダメージを受け、短期記憶が保てなくなる。

アルツハイマー病の薬、アリセプトは、神経細胞のシナプス内でのアセチルコリンの働きを良くする薬で、症状はよくなっても神経細胞が死んでいくプロセスはとめられないので、対処療法的。・・・しかし、アミロイドβタンパク質そのものの蓄積を防ぐ薬が開発されてきており、あと15~20年で一般の人にも使える段階に入ってきている。

認知症予防に効果的な食事の摂り方:①カロリー制限をする、②高脂肪食を避ける、③地中海食(オリーブオイル、果物、野菜、豆類、穀物、魚類が多く、アルコール類は少量、肉類と乳製品はほんの少しという食事)を常食する、④野菜又は果物ジュースを週3回以上飲む (手作りのものでも、市販のジュースでも効果は変わらない様子)、⑤赤ワインを適量飲む(ネズミの実験で、脳内のアミロイドβタンパク質と老人斑の面積が減っていたため)

認知症予防のために積極的にとりたい食品:①クルクミン(多く含む食品・・ウコン)、②ドコサヘキエン酸(DHA)(多く含む食品・・さば、いわし、ぶり、さんま、うなぎなど)、③ビタミンE(多く含む食品・・ピーナッツ、アーモンド、うなぎ、西洋かぼちゃなど。サプリメントからの摂取では抑制効果なし。食べ物からとることが重要)、④エビガロカエキンガレート(EGCG)(多く含む食品・・緑茶)、⑤その他の機能性食品物質(イチョウ葉抽出液に含まれるフラボノイド、ニラ、レバー、ほうれん草などに多く含まれる含流化合物αリボ酸)、⑥抗炎症作用食材(エキストラバージンオリーブオイルのオレオカンタール、鮭・エビ・カニなどの含まれるアスタキサンチン等)

骨の老化が進みやすい人:①女性、②閉経している(女性の場合)、③ダイエットのためよく食事制限をする、④乳製品や小魚、きのこ類をあまり食べない、⑤ステロイド薬を服用、胃摘出、両側卵巣摘出のいずれかに当てはまる、⑥スナック菓子やインスタント食品、加工食品などを良く食べる、⑦日中に外に出ることが少ない、⑧日常I的に歩いたり、体を動かしたり、足腰を使うことをしていない、⑨お酒はかなり飲む方、⑩タバコをすっている

男性は、テストステロンというホルモンによって骨の形成は維持されている。女性のテストステロンの分泌はわずか。エストロゲンによって骨の吸収を抑制しているが、閉経後にこれが激減するため、骨の老化が男性よりも20~30年早く進む。

骨粗しょう症を予防するには:カルシウムの摂取不足を是正するため、乳製品、小魚、海藻類を積極的に摂る。体内のカリウムバランスを崩すリンの過剰摂取にならないように、インスタント食品、スナック菓子などの加工食品を食べ過ぎない。運動不足やビタミンDの摂取不足を防ぐため、屋外で日光に当たりながら運動する。

「動いて骨に圧力をかける」ということが骨の強度を維持するためには欠かせない。

1日6000歩以上歩いている人には骨粗しょう症がすくない。(東京都老人総合研究所の調査結果)

筋肉の老化が進みやすい人:①70歳以上、②都市部で生活している、③日常的に歩いたり、体を使うことをしていない、④毎日三食をきちんと摂っていない、⑤ほとんど肉類を食べない、⑥食事は一人でさっさとはや食いしてしまうことが多い、⑦食べ物をよくかんだり、飲み込んだりするのに不自由を感じる、⑧最近、ものにつまずくようになった、⑨お酒はかなり飲む方、、⑩タバコをすっている

筋肉の老化には、「筋肉量の減少」と「筋力の低下」の二つの側面。筋肉量というのは、自分で維持しようと努力をしない限り、加齢とともにだんだん減ってくる。そして、年齢が高くなるにつれ、サルコペニア(筋肉量減少症)を発症するリスクが増してくる。サルコペニアは、加齢とともに、筋肉量の減少や筋萎縮が進んでしまった状態で、特に70~75歳頃からこの症状になる人が増え始め、75歳頃から目だって増えてくる。

筋肉老化のプロセスの根本的な部分では、活性酸素が重要な役割を果たしている。通常は、体内にあるSODという酵素によってすぐに過酸化水素に変換され、無毒化されるが、これが追いつかなかった場合、近くにある鉄と結びついて攻撃性を持つようになる。そして、あちこちへ移動して他の細胞を攻撃してさび付かせてしまう。

上半身の筋力で老化と関係が深いのは、咀嚼、嚥下力(噛んで飲み込む力)。咀嚼力を保つには、歯のケアも重要

サルコペニアの予防には、魚と肉の比率を1:1にして食べることが大切。

心の老化が進みやすい人:①昔からよく「まじめ」「几帳面」といわれる、②最近、何かと過去を振り返って後悔することが多い、③眠りが浅くて夜中によく目が覚める、あるいは寝すぎてしまう、④家の中にいることが多く、あまり外を出歩かない、⑤今の仕事、生活は自分に向いていないと感じている、⑥親や兄弟姉妹、祖父母に、うつ病・パニック障害・強迫神経症などを患った人がいる、⑦幼少時に虐待や大事故、大災害など思い出すだけで怖くなる出来事に遭遇している、⑧食事は一人で黙々と食べることが多い、⑨人と付き合うより、一人で過ごすほうが好きである、⑩この先の人生の楽しみ、目標、夢をもっていない

心のエイジング対策においては、人間らしい豊かな心の反応や感情表現をいかに保っていくかがポイント。

心がうつ病の方向へ傾いていくのは、次の二種類の悪化要因が重なったとき。一つは慢性疾患や過労など、身体的なもの。もう一つは、孤立感、家族の死、経済状況の悪化など、心理・社会的なもの。うつ病のもっとも中核の症状は、「何をしても楽しくない」こと。そのほかの身体症状には、頭痛、倦怠感、肩こり、動悸、耳鳴り、めまい、胃の不調、腰痛、冷え、神経痛、関節痛などがある。・・伴侶がなくなるというのは一番大きなストレスで、うつ状態を作りやすいが、通常の場合は、だいたい2ヶ月で回復してくるというのが一般的な見方。

うつ病に関連する主な神経伝達物質は、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン。ドーパミンは、快楽や喜びが中核にあり、それが行動の動機付け、あるいは意欲や学習などの行動として現れてくる。ノルアドレナリンは、恐怖や不安、それに連動した覚醒、集中、記憶、積極性などに関係し、怒りのホルモンと呼ばれている。セロトニンは、ドーパミンやノルアドレナリンの働きをコントロールし、精神を安定させる作用を持つ。

うつ病は心の老化の最たるものとして話しているが、血管や骨など他の部位の老化の末期症状と違うところは、回復する病気ということ。治療すれば必ず回復する。繰り返すこともあるが、必ず良くなる。・・周囲の人は大変だが、「病院に連れて行く」「精神的に支える」「体が動きにくくなっているのをサポートする」という努力が必要。・・・心の老化を心配している人、すでにうつ傾向がある人は、運動量を増やす努力を始めるべき。本格的なうつ病になる前に早めに手を打つこと。

うつ病予防の食事:①バランスの良い食事、②朝食にも手を抜かず、良質のタンパク質を摂る、③セロトニンのもとになるトリプトファンを含む食品を摂る、④トリプトファンの働きを助けるビタミンB群を摂る、⑤食事、料理に関心を持つ、⑥体が求めている「何が食べたいか」という声に耳を傾ける。・・トリプトファンは、セロトニンの原料になる唯一つのアミノ酸。いろいろな食品に含まれているが、特に多いのが、バナナ、牛乳、乳製品、落花生その他のナッツ類、大豆、海苔、赤身の魚(マグロ、かつお)、ゴマなど。

創作、芸術、音楽などに触れることも、刺激に満ちた豊かな環境を整えることになる。

うつ病予防の心がけとしては、なるべく物事を前向きに、ポジティブに考えることが大切。100点満点ではなく80点ぐらいを目標にすることも一策。

免疫の老化が進みやすい人:①職場や家庭、親族などの人間関係に悩まされることが多い、②つねに経済的不安を抱えている、③疲れが取れないと感じることが良くある、④野菜や果物はあまり食べない、⑤日常的に歩いたり、体を使うことをしていない、⑥スナック菓子やインスタント商品、加工食品などを良く食べる、⑦タバコをすっている、⑧太りすぎである、⑨慢性的な睡眠不足である、⑩お酒を結構飲む方

一番免疫力が衰えやすい人は、心身にストレスがかかっている人。

ガン発症の要因:①喫煙、②飲酒(一定量以上の飲酒)、③感染(B、C型肝炎ウィルス、ピロリ菌等)、④運動不足、食べすぎ

がん予防効果が大きいとされる食品(デザイナーフーズ)。米国の国立ガン研究所が発表したもの。食品は全部で48種類。重要度が高いものから、次のもの: ①ニンニク、②キャベツ、③大豆、④カンゾウ、⑤ショウガ、⑥せり科植物(にんじん、セロリ、パースニップ等)、⑦玉ねぎ、茶、ターメリック、⑧全粒小麦、亜麻、玄米、⑨柑橘類(オレンジ,レモン等)、ナス科植物(トマト、なす、ピーマン等)、⑩アブラナ科植物(ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツなど)、⑪メロン、バジル、タラゴン、キウイ、イチゴ、カラス麦、ハッカ、オレガノ、きゅうり、タイムアサツキ、きのこ類、ローズマリー、セージ、ジャガイモ、大豆、ベリー

老化についての知識を持つこと、自分の老化タイプを知ること、老化の原因になっている生活習慣を少しずつ改善していくこと、この3つがそろうことで初めて適切な老化コントロールが可能になる。長寿遺伝子は、どんな人の細胞にも備わっている。大切なことはどんなことでもいいから、まず一歩を踏み出すこと』

2011年6月 1日 (水)

新聞記事から(あめりかノート ワシントン駐在編集特別委員・古森義久 中国の巨大な影) 産経新聞(23.6.1)

知り合いのアメリカ人から、10年ほど前に「日本は経済は一流だが外交政治は・・・」といわれました。「・・・」は三流なのだろうと思いました。今もわが国の周りには危機が迫っているのに政治家は何をしているのでしょう。時間の経過は彼に有利で我には不利なのですが。

『米国議会での「日本の将来」についての論議で中国がここまで話題になるとは思わなかった。だがちょっと考えれば、意外であって意外ではないのだろう。
 下院外交委員会のアジア太平洋小委員会が5月24日に開いた公聴会だった。表題どおり東日本大震災以後の日本の将来を、米国にとってどんな意味があるかという観点から論じる集いである。共和党が多数を制した今会期の下院では初めて、大震災以降も初めての日本だけに焦点をしぼった公聴会だった。藤崎一郎駐米大使も参考人の形で発言した。日本大使初の議会証言となった。

 議員や証人たちが繰り返し述べたのが「震災の被害で日本が弱くなると、中国がますます勢いを増し、米国にとって好ましくない形でアジアでの影響力を強めるのではないか」という懸念だった。

 小委員長のドナルド・マンズロ議員(共和党)が後半で議論を総括するように述べた言葉は直線的だった。

 「米国は中国が非情な独裁の勢力拡大を続けるのを防ぐためにも日本の支援には全力を尽くすべきだ。米国は中国とは価値観の核心を異にし、民主主義の日本は東アジアでの米国にとっての明かりなのだ」

 マイク・ケリー議員(同)も中国への鋭い言葉を放った。

 「いま現在、中国の攻勢的な活動で威圧を受ける地域で米国は日本という同盟国に依存しなければならない」

 両議員の発言は、証人の元国務次官補代理のランディ・シュライバー氏が日本は大震災の被害で内向きとなり、日米同盟から中国寄りへと漂流する危険もある、と指摘したことへの対応だった。同氏は、中国の尖閣諸島などでの強引な主権拡大の動きやレアアースの一方的な輸出停止宣言、日本を敵視する北朝鮮への支援などを理由にあげて、中国は日本の信頼できるパートナーにはまずなれないと証言していた。

 シュライバー氏も共和党系だが、民主党系の証人のマンスフィールド・センター所長、ゴードン・フレーク氏も、中国の最近の横暴な態度が日本と韓国とを接近させ、さらに米国傾斜を深くさせた、と述べた。中国が北朝鮮の韓国側への砲撃や哨戒艦撃沈を非難せず、尖閣や南シナ海で一方的な言動をとってきたことがその要因だと指摘していた。

 元国家安全保障会議アジア上級部長、マイケル・グリーン氏も「中国のレアアース問題などで日本の実業界も警戒を高め、インドやベトナムへの投資転換を真剣に考え始めた」と証言し、中国への批判的議論に加わった。

 マンズロ議員がさらに、イリノイ州の自分の選挙区には製造工場が2千以上あるが、中国のレアアース禁輸や知的所有権侵害はそれらの工場に重大な被害を与えていると非難するに至り、公聴会の主題が日本かどうかも不明になったほどだった。

 共和党側議員やシュライバー氏はオバマ政権について「日本を軽視して中国との折衝をあまりに重視しすぎる」とも批判した。また、すべての議員と証人がいま米国が推す環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉に日本が加わるか否かを日本の将来の基本軌道として注視している点も明白だった。

 だが全体としてこの公聴会で一貫して顕著だったのは、日米関係の背後に広がる中国の巨大な影だった。』

« 2011年5月 | トップページ | 2011年7月 »