未来兵器の科学 ((財)防衛技術協会著 日刊工業新聞社)
中国が軍事力を背景に、何らかの恫喝をしてこないよう、わが国は絶えず軍事的優位性を保っていかなければなりません。その中で、軍事技術の発展は大きな考慮要素となるはずです。興味深い記述内容(概要)には次のようなものがありました。
『ステルス: レーダーを用いても航空機の反射面が、発信したレーダの方向に向いていない場合には、反射波がレーダに戻らないので、レーダでは捕捉できないことになる。このため、ステルス機は反射方向を入射方向にしない独特な形状となっている。しかし、新たなステルス破りの技術は、レーダの反射波を別な場所にあるレーダで受信して捕捉する方法。バイスタティック・レーダと呼ばれ、発信側と受信側のレーダを複数個展開して解析。
金属よりも強い炭素繊維などの複合材料も金属同様に良伝導体であり、金属同様の電波特性のため、ステルス性は期待できない。・・特に航空機はジェットエンジンに必要な大量の空気を取り込むための空気取り入れ口の奥に圧縮機があるために、ここからの反射電波が強い。
ミサイルは、胴体に操舵翼がついており、これが大きな反射断面積になっている。これをプラスティック化すれば、相当のステルス化になる。・・・発射段階で噴射ガスの温度を低下させ赤外線の放射を低減する技術として、燃焼ガスに液体窒素を噴射して燃焼ガス温度を低減。窒素ガスは高温度になっても、赤外線を放射しない特性がある。
レーザ: ヨウ素レーダは、電気のような外部からエネルギーの注入を必要としない。波長1.3ミクロンは他の高出力レーザより波長が短いので、遠くまで伝播してもビームの広がりが小さい。 車両搭載型戦術高エネルギーレーザでは、フッ化重水素レーザが用いられる。波長3.8ミクロンのレーザビームは大気の透過率が非常に良い。近距離の高速目標を対象としているので、ビームは目標の運動に合わせて照射報告をすばやく変更。
スクラムジェット極超音速ミサイル: 推進薬の搭載量が限られていることから、大気中の空気を取り入れて燃料を燃やし推進力を得られるエンジンが注目集める。従来、射程距離と飛翔スピードはトレードオフの関係。しかし、音速を超えるとエンジンの正面に衝撃波が発生して圧力が増すため、エンジンの空気圧縮は不要になる。そこで音速以上に加速できるならば圧縮機不要のジェットエンジンも可能になるはず。この理屈を実現したのが「ラムジェット」。しかし、ラムジェットもマッハ4くらいになると急激に性能が低下する特性あり。「スクラムジェット」では極超音速流れをエンジン内で超音速流れにしている。しかし、エンジン内の流れがマッハ3程度ではそのような空気に燃料を噴射して延焼させるための技術が課題になっている。完成すれば、絶対に逃げられない必殺兵器になる。
ラムジェット砲弾:将来の火砲システムで期待されるのは、火砲の小型軽量化と射程延伸。ロケットでは発射薬と同様の推進薬が装てんされており、火砲システムとして総合火薬エネルギーが増加したことにはならない。また、命中精度も下がるケースあり。・・・ラムジェット砲弾が注目される理由。
火薬:火薬にエネルギーが凝縮できるのは、構成している炭素原子、水素原子、酸素原子それに窒素原子の組み合わせ方による。・・・ナノ技術によってNO2分子をくっつけてやることで威力ある火薬兵器が登場してくることになる。・・・さらに期待される骨格原子としてホウ素原子がある。ホウ素は酸素原子によって参加されると炭素の2倍のエネルギーを発生することが理論的にわかっている。これによってTNTの2倍以上のエネルギーの発生が可能になる。ナノテクの進展によって実用化が期待できる。
バブルシールド:爆薬を内蔵した風船の発射筒を防護対象の周辺に複数配置し、検知された敵の徹甲弾、ロケット弾、ミサイル、砲弾などに対して射出し、爆風により偏向又は誤爆させようというもの。 自動車のエアバック技術の応用も利用される余地がある。
UGV(Unmanned Ground Vehicle):市街地のビル内での戦闘、野外における戦闘及び前線での地雷探知・処理などに極めて有効と考えられる。・・UGVは単独で使用しても戦闘に有効に働くが、ほかの機種の航空無人機や水中無人機と統合して協調的に運用すればより高度な任務を遂行できる。
反応装甲:2枚の鋼板の間に挟んだ爆薬が敵弾が命中した際の圧力で爆発して敵弾のエネルギーを減殺するのがその原理。・・絶縁体で分離された2以上の電極に電荷を帯電させておき、この間を敵弾が貫通すると何万アンペアもの高電流がながれ、メタルジェットが蒸発するといった装甲が開発されている。米国と英国が開発を続けているが、コストも大きな課題のひとつ。
将来兵士システム:センサシステム、先進ヘルメットシステム、ウェアラブル・コンピュータ及び通信システム、ヘルメット一体型ガスマスク、先進戦闘服システム(気温、気圧の変化への対処機能、カメレオンのようなアクティブ迷彩機能等)、生態情報モニタシステム、先進ボディアーマー、筋力増強システム、電力供給システム。このほか、マイクロエアビークル(MAV)、超小型地上ロボット。これらをネットワーク化。
対テロ戦等に有効な「ノンリーサル兵器」:スタンガン、電磁パルス弾(敵兵器の電子機器を破壊)、ミリ波利用兵器(波長3.16ミリ 95ギガヘルツ のミリ波を人間に照射すると、皮下0.3ミリにある痛点を刺激し、数秒で焼きつくような暑さを感じさせ、倦怠感等を生じさせる)、マインドコントロール技術(人間の脳波に近い電磁波を照射して心理や考え方に影響)
燃焼促進剤によるエンジンの破壊・・・炭化カルシウムと水を含む1ポンドの手りゅう弾でアセチレンガスを発生させ、これを車両エンジンの空気取り入れ口に吸入させると激しくノッキングでピストンロッドを破損。等
ペンタマラン:細長い主船体に右舷,左舷の両側にそれぞれ2つずつの副船体(アウトリガー)を取り付けたもの。最高速度は、40ノットを超えるといわれ、悪天候の場合でも安定した航行が可能といわれている。
人口鮫肌被覆:船に限らず、ほとんどの魚や鯨にも生物は付着しているが、鮫にだけは生物の付着は見られない。この被覆を船体の喫水線下にだけ適用すれば、費用も低く抑えられ、大きな効果が得られる。
レールガン:1920年にフランスで特許を取得されたレールガンは、2本の導電性レール間の弾体内に数メガアンペアもの大パルス電流を流し、電流と磁束によるローレンツ力で弾体を加速するもので、火薬エネルギーで達成できなかった高初速がえられるというもの。ミサイルと比較して弾丸は低価格で、発射に必要な燃料も1発あたり3ガロンと低コスト。
その他:水中で生じる音の原因が、ほとんど気泡によるもの。 2005年11月、北アフリカ、ソマリア沖にて、海賊船によって襲撃を受けた米国豪華客船が、長距離音響装置(LRAD)で海賊を撃退するという事件あり。LRADは本来接近する船舶に対し、警告を発する音響機材として開発されたが、暴徒鎮圧洋の音響ノンリーサル武器として軍のみならず民間でも使用されている。
UAV(無人機):難しいのはロボットとしてのインテリジェンス(知能)。間違いなく敵味方を識別し、適切なウェポン選択をしてリリースできるか、その成果の確認をどうできるかなどの一連の戦闘・攻撃行動が問われる。・・・垂直離着陸機には小型機では脚装置が不要で、身軽なティルシッター型が最適と考えられている。
成層圏飛行船:高度10kmくらいまでが対流圏。その上から50kmくらいまでが成層圏。成層圏は雲の上になるため年中晴天の安定した環境で、風も高度20km程度ではかなり穏やか。1機で半径200km~800kmのエリアを見通しでカバーできる。人工衛星と比して低出力で高速大容量の通信ができ、数センチ程度の高分解能で監視可能。高度20kmでは浮力が地上の14分の1しかない。このため、スーパー繊維により機体の軽量化が必要。また、太陽電池と再生型燃料電池からなるシステムで動力源の軽量化も可能となってきた。将来的にはマイクロ波などによる地上からのエネルギー伝送も考えられている。高度20kmにあると地上からもそう簡単には攻撃できない。』
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それにしても日立金属さんの自己潤滑性工具鋼、SLD-MAGICのトライボロジー特性はインパクトがある。ここは戦時中、国産初のジェット戦闘機のエンジン、ネ-20を海軍航空技術廠が開発しようとして、かじり(凝着、焼付き)に苦しんでいた時にここの安来工場が新合金を開発して、なんとか実用化に成功したとのこと。この技術を復活させたのが今回の高性能工具鋼なのかもしれませんね。
投稿: パラダイムシフト | 2013年5月13日 (月) 00時50分
先日、その高性能工具鋼SLD-MAGIC(S-MAGIC)の自己潤滑性とかいう話を日本トライボロジー学会で聞いたが、モリブデンとかカーボン、それにDLCコーティングなどの怪しげな論説とも整合し、油中添加剤の極圧効果にも拡張できる話は面白かった。そのメカニズムをひらたくいえば世界初かつ世界最小の本格的ナノマシンであるボールベアリング状の分子性結晶(グラファイト層間化合物)が金属表面に自己組織化されて、フリクションが良くなるということらしい。
投稿: 塑性加工業 | 2013年7月 8日 (月) 18時58分
そういうことだったのか。この材料、ハイテン用のプレス金型に広がっていて、カジリはなぜ抑えられるか業界中の謎だった。このようなナノメカニズムが働いていたんですね。しかしながら、固体材料の頂点である工具鋼に自己潤滑性があるとはなんとも無敵な話ですね。
投稿: 最強金属マニア | 2013年7月16日 (火) 19時25分
科学技術は知らないところで発展しているんですね。
投稿: エンジン技術者 | 2013年7月21日 (日) 22時21分
そのメカニズムはCCSCモデル(炭素結晶の競合モデル)といって、すべりの良さばかりでなく、摩擦試験データのバラツキが信頼性工学で言うバスタブ曲線になることや、極圧添加剤の挙動、ギ酸による摩擦特性の劣化挙動など色々と説明ができそうなトライボロジー理論らしいですね。トライボロジー関連の機械の損傷の防止、しゅう動面圧の向上設計を通じた摩擦損失の低減、新規潤滑油の開発など様々な技術的展開が広がっていきそうですね。
投稿: 画期的大好き | 2015年6月24日 (水) 06時52分
日立金属が発表した炭素結晶の競合モデル(CCSCモデル)という境界潤滑理論は破壊的にイノベーションの一つと思われる。
なぜなら、いままでボールベアリングを人類はせっせと作っていたが、それがナノ結晶レベルの自己組織化能力により、等価の機能を有するGIC(グラファイト層間化合物)結晶を生成させる特殊鋼だからだ。
これは明日の機械産業の在り方を変えてしまうかもしれない革命と思う。この理論、ダイヤモンド理論ともいうがそれ以上のものだと思う。
投稿: 研究開発マネージメント研究者 | 2017年5月 7日 (日) 18時00分