日米同盟崩壊 もう米軍は日本を中国から守らない (飯柴智亮著 集英社)
元米陸軍大尉が書いたものです。日本を外から、しかも軍人の目からみています。強い危機感が感じられます。
『軍で将校が教えられることの一つは、常に複数の「コース・オブ・アクション」を想定すること。そのなかには必ず「Most Dangerous Course of Action(最も危険な事態の動き)」と「Most Likely Course of Action(最も可能性の高い事態の動き)」を含める。
米軍は極めて合理的な軍隊。もし日本からの撤退が米国の国益にとって最善の策だと判断すれば、ためらうことなく実行する。形勢不利と見れば、いったん撤退して態勢を立て直すことは冷静な判断として評価される。
米国のシンクタンク、ストラトフォーは「影のCIA」と呼ばれるほど影響力があるが、彼らの2100年予測には、「日米同盟は2025年にはなくなっている」と記されている。・・この予測は当然、米国政府中枢スタッフの頭にも、米軍首脳の頭にもインプットされる。・・・自分が所属していた米陸軍の高官たちの中にも、「日米同盟はもう終わりだな・・・」と感じている人がたくさんいた。
米国の中でも、保守派を中心に日米安保というのは日本が利益を得ているばかりで、米国にとっては割の合わない不公平な取り決めだという意見が強まっている。
20世紀の100年を25年ごとに区切って振り返ると、激変していることが分かる。2025年に日米同盟がなくなっていてもまったく不思議ではなく、むしろ存続している理由を探す方が難しい。
日米安保条約第10条には、日米同盟はどちらかが1年前に通告すれば、一方的に日米安保条約を破棄できることが定められている。
冷戦時代の日本は、米国にとってチームに貢献する筋肉質のイチロー(の様な存在)だった。しかし、冷戦が終結し、旧西側諸国はばらばらになって各国それぞれの国益を追求している。日本は、極東にあって自国の国益を追求しながら、米国との利害で共有できるところは共有して、できない部分をきちんと調整しなければいけない。それなのに、そうした努力は全くせずにただずるずると日米安保条約に寄りかかっていれば大丈夫だと思い込んでいる。
国家戦略を語るにあっては国際政治では、「パワー」という言葉を良く使うが、それを決める基本公式が「DIME」。「Diplomacy(外交)」「Influence(文化)」「Military(軍事)」「Economy(経済)」。国際政治の世界では、このDIMEのうち3つを掌握していれば世界のスーパーパワーでいることができるとされている。
Mのハードパワーが伴わなければ外交はできず、国家戦略を動かすこともできない。
国家戦略の下にくるのが軍事戦略。米国は世界を6個のシアターに分け、巨大な軍事力をそれぞれの統合軍に振り分けている。
「作戦」とは「軍団以上の規模の部隊が、同一の軍事目標に向けてひとりの指揮官の司令下で起こす軍事行動」。軍団は、2個師団以上の兵力を有する軍隊で、通常数万から10万人規模。これを指揮できるのは最低でも中将以上の将軍に限られる。例外は、特殊作戦(司令官は大佐)
「戦術」は、「作戦内における旅団レベル以下の軍事行動」 さらに規模に応じて旅団レベル、大隊レベル、兵士個人レベルまで様々なレベルの戦術がある。
米国がF-22を日本に売却しなかった理由は二つ。一つは、機体そのものをもっていても本来の能力が発揮できないこと。軍事衛星、AWACS、地上レーダー、コンピューター・ネットワークなど全ての高度な軍事システムとリンクしている点に強さの秘密があるが、それを日本は理解していないこと。陸自のアパッチが悪しき前例。アパッチを導入している他国は独自のTOE(編制)を有し、米軍の猿まねなどしていないが、日本だけはそうしている。もう一つの理由は日本には軍事機密を守るシステムが確立されていないこと。F-22が日本に引き渡された場合、すべての軍事機密や中国やロシア側に筒抜けになってしまう懸念がぬぐえない。
日本は安全保障面で米国一辺倒。米国から日米安保条約の破棄を通告されれば自衛隊のほとんどの兵器は動かなくなってしまう。
米国とのパートナーシップを維持しながら国の実情に即した国防を実践している例として、カナダを参考にするのが一案。米国と密接に結びついているが、必ずしも米国一辺倒ではない。
米軍の演習では、実在の司令官の名前と性格、経歴まで頭に叩き込んで限りなく現実に近い状態で演習を進める。また、米軍情報部では観光客を装ったアジア系の情報将校(アンダーカバー)数人を台湾や中国に派遣し、隠密裏に現地視察も行った。
(それにひきかえ日本では、実在とは異なる想定で行おうとしていることを受け)これでは100%意味がない。架空戦記ゲームと変わらない。
コンピューターとアナログの両方ができないと実戦では役に立たない。
自衛隊は、アメリカ人にはとうてい真似できないような質の高い動きを示しながら、安全管理は徹底していて、見ていて危ないと思ったことはない。これだけ戦術レベルで優秀な動きができるのだから、米軍と一緒にやるときであっても、卑屈にならずもっと堂々と自信をもって当たった方が良い。
実戦経験のなさという弱点が顕著に現れているのが、「鬼軍曹」の不在。これがいないと部隊全体が引き締まらない。・・様々な部隊で異なる経験をしているので、多様性があり、教練の奥深さになっている。彼らの広範な経験から新兵たちはどんなことが起きても対処できる方法を学んでいく。
米軍は一度採用すると、なかなか新しい装備には切り替えない。その理由は、一旦採用したものについては実戦で不具合があれば、次々と改良を重ねていくから。大きな部分だけでなく、実に細かいパーツにまで及ぶ。アップデートするのはハードウェアだけではなく、ソフトウェア、訓練にも及ぶ。日本は世界に通用する「カイゼン」という言葉を生んだ国なのに装備にしても訓練にしても進歩が遅い。
自分が担当しているときにトラブルが起きなければ出世できるという役人精神は軍隊では通用しない。自衛隊の幹部は、8割がサラリーマン的、残り2割が侍のようだとの感覚をもった。
米軍Iは軍法会議があり、これが抑止力となって軍機が保たれている。自衛隊は一人一人の高い道徳観にゆだねられている部分が大きい。しかし、軍事機密の漏洩に関しては非常に問題がある。たとえば、イージス艦機密の漏洩事件では米軍で起きたら確実に軍法会議で終身刑。このことはF22の不買にも影響しているはず。
日本は民生品では高い技術を誇っているが、軍事の分野になるとハイテク機器については後進国。
米軍の作戦区分等 SASO(Stability and Suport Operations 復興安定支援作戦)、Enforcement Operations(法規執行任務)、
軍事行動で考慮すべき METT-TC(Mission 任務、Enemy 敵、Terrain and Weather 地形と天候、Troops and Support available 自軍と支援、Time available 時間制限、Civilians on the Battlefield 戦場にいる一般市民)
米軍のコンピューター・ネットワーク 下からニパーネット(NIPRNEet)(部外秘だが機密ではない情報をやり取り、民間のインターネットに接続可)、シパーネット(SIPRNet)(機密以上の情報を扱うネットワーク、独立している)、JWICS(JOINT Worldwide Inteligence Communications System)(トップシークレットを扱うネットワーク、アクセスできる人も限られている)
英国はJOCS、カナダはTITAN、オーストラリアはDSN、ニュージーランドはSWANなどシパーネットに相当するシステムを持っており、米国とシェアしているが、日本にはこのようなシステムが整備されていない。
米国は中国のDIMEの面で、中国が嫌がることを次々とやりつつ、関係をよくする方向でも努力している。日本は米中の呉越同舟にのりあわせおろおろしている子犬のようである。
日本の首相にリーダーとして足りない資質は二つ。一つは陸海空自衛隊の最高指揮官としての自覚が足りないこと。もう一つは、平気で嘘をつくこと。
朝鮮半島有事でも、北朝鮮が単独であれば問題はない。なぜ断言できるかは、指揮所演習で繰り返しおこなったが、北朝鮮が可哀想なくらい一方的であった。しかし、中国軍が参戦してくると話ががらりと変わる。日本は非常に危険な状況になる。
イチローのような自衛隊になるために次を提言 ①空自・海自の戦力を今の2倍にする。単純に人数・兵器の数を2倍にするのではなく、新旧・質。練度まで含めた総合的な戦力。ただし、目安。
②日本には空母は不要。むしろ潜水艦を増やすべき、③陸自海兵隊の整備には必要性に疑問、むしろ機動力を向上させるべき、 ④戦車は縮小して存続する程度で可、⑤個人装備には向上の余地あり。武器輸出三原則を見直し、責任のある民主国家には武器を輸出できるようにすれば、コストも削減できる
イタリア憲法に倣い、①自衛隊を国防軍にする、②戦争はしないが、自国への侵略に対しては断固として戦う、③海外へは責任ある国際機関のもとに国際貢献のために出動する。を盛り込んだものに改正するべき
日本がとるべき道は、米国との同盟関係を維持しながら、少しずつ自立する力を蓄える、これしかない。 日米同盟の比率は、感覚的には自衛隊が5%、米軍が95%といったところ。
日本政治を研究する米国人教授の言葉「憲法9条ができた過程は仕方ないけれど、そのご日本は自分たちで自らの国を去勢してしまい現在に至っている。日本は民主主義国だけど、それは最低限の民主主義国だ」
(合同演習時に、米軍将兵をきれいな官舎に泊めてくれた事について)我々は軍隊であり、戦いを想定した演習に来ているのだから過酷な条件は当たり前。
2010年12月 統参本部議長マレン大将は、日米韓3国合同演習の必要性を強調。(筆者は)さらに台湾も入れたフルスペクトラムの演習が必要と認識。憲法9条を言い訳にして何もしないのは国益にかなうとは思えない。この呼びかけに答えないようではますます米国からの信頼を失う。』
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