野村ノート (野村克也著 小学館)
先日記録した「エースの品格」の前著(約3年前にかかれたもの)です。「エースの品格」の方が良く整理されている感がありますが、こちらの方にもやはり原点ともいうべき考えが熱意をこめて述べられていると感じました。
「一流と呼ばれる人間で親を大切にしないものはいなかった。親孝行とはすなわち感謝の心である。この心こそが人間が成長していく上でもっとも大切なものである、というのが私の持論。
監督としてやっていく上で、5原則に従って職務を遂行
①「人生」と「仕事」は常に連動しているということを自覚せよ。(仕事を通じて人間形成、人格形成をしていくということ)、②人生論が確立されていない限りいい仕事はできないということを肝に銘じておくこと。人間はなぜ生まれてくるのか。それは「生きるため」と「存在するため」である。すなわち価値観と存在感である。その人の価値や存在感は他人が決めるものだ。したがって他人の評価こそが正しいということになる。‘評価に始まって評価に終わる‘と言われる所以である。、③野球をやる上で重要なのは、「目」(目の付け所が大事)、「頭」(考えろ、工夫しろ)、「感性」(感じる力を養え。それには負けじ魂や貪欲な向上心、ハングリー精神がポイント)の3つである。、④技術的能力発揮には「コツ」(感覚を覚える)、「ツボ」(マークすること)、「注意点」(意識付けしておくこと)の3点が重要、⑤無形の力をつけよ。技量だけでは勝てない。
以上を実行するためには、、猛練習でもって基礎体力作りや技術力レベルアップに励み、気力が充実していることが前提。だから、プロフェッショナルは「当たり前のことを当たり前にやる」ということになる。
不確定要素の高いスポーツにあって常に安定した成績を残すためには、やはり原理原則に基づいた実践指導が何よりも大切。だからこそ監督には選手の意識を買える、教育という大きな仕事が求められる。
プロフェッショナルなのだから、野球の専門家になるべき。技術論だけではだめ。ルールも知っていなければいけない。
選手に優位感を持たせることも監督の仕事の一つ。一度選手に植えつけることができれば、それは長くチームの財産となり、その積み重ねが信頼関係を育むことになる。
戦いは「試合」だと強い方が勝つが、「勝負」だとギャンブル性ゆえに弱者でも勝てる要素がある。
技術でどうにもできないときは、心理戦で優位感がもてるようにデータチェックや癖の発見などで作戦を立てること
技術だけで対応しようとした選手を叱ることもあるが、勝負しにいって裏目となったときには絶対に叱らない。管理するものは、絶対に結果論で部下を叱ってはいけない。根拠もなく勝負して負けてくるような選手には、「そんなのは勝負とは言わない。ヤマ勘だろう」と叱ることもあるが、しっかりした根拠があれば何もいわない。相手があることだから、結果が出なくても仕方がない・・勝負=賭けに出ることのない戦い方では、それこそ戦力の差がそのまま結果となり、弱者はいつまでたっても勝つことはできない。
配球の最も大事な要素、それは意識付け。バッターに何かを意識付けする。
(イチローの)「かっこよく野球をやりたい」という意識は、立派な進歩の始まりであり、問題はそれに中身が伴っているかどうか。・・最初は格好が先行していたが、努力することで中身が備わってきて今のイチローに行き届いた。
チーム優先主義というと「譲る」「我慢する」ばかり前面に出されるが、「おれがエースなんだから最後まで投げる」「勝つためにはおれが投げ切る」と自己主張するのも立派なチームスピリットである。
組織の中、チームの中で生きていく以上、自己中心というのは致命傷となる。・・どの道をとったか、何を選んだかという小さな選択肢が、周囲に影響を与え、その人間の評価につながり、そして最終的にはその者の人生を運命付けていく。
仕事をする上で必要なこととして3つの能力、「問題分析能力」「人間関係能力」「未来創造能力」がある。・・チームというのは生き物である。日々変化していくチームの未来をどうやって作り上げていくか。そこを無視してしまうとチームはいつか崩壊することになる。
いい選手を9人集めるのではなく、9つの適材適所のあわせて選手を集め育成する。そのスタート時点が誤っていてはいいチームは作れない。
監督業というのは、こうやって人を作り、何かを気づかせ、そしてそれが組織に反映されるのを待つしかない。成長がなければ、やはり人間の根本の部分に欠点があるわけだからもう一度人間教育を繰り返す。結局この繰り返しでしかない。
(トレードの交渉のため)指定された赤坂の料亭に行くと、座敷に長嶋がいて驚いた。川上さんからは「彼はいずれ巨人の監督になるから、トレード交渉というのはどういうものか見せてやりたい。だから同席させてくれないかね。」といわれた。もちろん私は了承した。当時の巨人はそういった継承がしっかりできていた。それが巨人の伝統であり、だから他球団が入り込む余地がないほど強かった。
不思議なことに、ある球団で4番らしい活躍をしていた選手でも、巨人のような4番打者がずらりと並ぶチームに移籍して3番を打たされたり、5番を打たされたり、6番、7番に下がったりしていると、だんだんその程度の打者に変わってしまう。まことに不思議であるが、まさに「地位が人を作る」である。
指揮官、リーダーについて、常に以下を念頭においている。①リーダーいかんによって組織全体はどうにでも変わる。②リーダーはその職場の気流にならなくてはならない。(まさに自分が率いる人間を巻き込むことができるかどうか。ひとりひとりに仕事の意義を感じさせ、奮い立たせる。)③リーダーの職務とは「壊す、作る、守る」(信長〔旧価値社会の破壊〕・秀吉〔新価値社会の建設〕・家康〔既存の事業のローリングによる維持管理〕の3つの作業を組み合わせられるか。)リーダーは「目的意識、達成意識をみんなが持ち続ける」まとまりにチームが機能する軸をおかなければならない。」
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