日本海軍の戦略発想 (千早正隆著 プレジデント社)
今回も旧軍関連の本についてです。以前にも述べましたが、旧軍は日本の最先端組織でした。そこに存在した欠点は今日の日本の組織にも存在していることは間違いないでしょうし、それを克服することは現在においてもかなり難しいであろうことは想像に難くありません。しかし、・・・ということで、今後も旧軍関連の本についても読み続けます。
『この時点で日本海軍の当局者は、二つの極めて重大な誤りを犯した。・・・その第一はそのような輝かしい戦勝は、敵側が不意をつかれその備えが十分にできていなかったことに主として因るものであったことにあまり思いをいたさなかったこと。・・・さらに自己を過信、・・・敵を過小評価し、ひいては軽侮するようになった。その第二は、彼らが戦前から長く研究し、踏襲してきた海軍作戦のシナリオの基盤がそれまでの戦争の経過から見て完全に覆っていることに少しも思いをいたさなかったこと
四隻の空母全部を失って初めて空母兵力こそが海上作戦の主兵であり、海上兵力はいかに圧倒で優勢であっても扇の要のなくなったも同然であることを痛烈に思い知らされた。・・そこで初めて日本海軍は空母の急速建造及び航空兵力の増強策に乗り出した。・・・が、航空第一主義に全面的に転換するにはまだ到らなかった。
日本海軍の戦略、戦術は日本古来の兵学を踏襲し、・・秋山真之中将及び佐藤鉄太郎中将によって体系付けられたといえる。が、その戦略の概念は極めて狭義であった。それに反して戦術の面では、徹底的に先制と集中攻撃を尊び・・・。戦争がどんな様相で戦われるであろうかということに関する徹底的な研究とこれに対する対策を怠った・・・
今にして思えば責められるべき幾多の要素 徹底的な検討を欠いた研究に基づいた、術力過大視の弊風もその一つ
開戦時に日本海軍が所持していた液体燃料は558万リットル(日本全体の80%) 必要とする石油量の見込み 1年目280万リットル、2年目270万リットル、3年目250万リットル 実際 1年目485万リットル、2年目428万リットル (戦時の所要量=平時の所要量×2.5の仮定であったが、実際は大きくこれを上回った)
時の米海軍長官ノックスがいった。「日本は近代戦を理解しないか、あるいはまた近代戦に参加する資格がないかいずれかである。」
日本海軍は戦争の一場面に過ぎない戦闘を、戦争全般と混同し判断したものといわざるをえない
・・・徹底的に日本海軍の実力を低下せしめるによって力あったのは、実に米軍の作戦速度の速さであった。・・・敵連合軍が日本の戦力の低下を見透かして、その対日侵攻作戦を当初の計画よりも早めたため
日本海軍の伝統的ともいうべき悪癖に基づいて、一つの形式以上にでることができなかった。そして、そのいずれの場合においても結局は敵側に対抗策を講ぜられて、その効果を失うようになった。
戦場心理を考慮することなく、巧妙なアウトレンジ戦法のあまりに重点を置いた日本海軍の砲術戦は、実践においてはその効果を発揮しなかったばかりでなく、かえって害毒を流したといわざるを得ない。
・・・日本海軍の戦史で、追撃戦を最後まで徹底的にやった先例に乏しい・・・その原因は徹底性を欠く、日本の国民性にあると考えざるを得ない 』
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