2017年7月23日 (日)

ルポ 絶望の韓国 (牧野愛博著 文春新書)

朝日新聞ソウル支局長の著作で、私に言わせれば韓国人に甘めの記述だと思いましたが、それなりに参考になりました。

『・・・元議員の知人は語る。「韓国は圧縮成長した。欧州が百年、日本が五十年かけて築いた繁栄を我々は三十年で達成したと息巻いているが、その代わりに社会的な葛藤がたくさん生まれた。地縁や学閥があちこちある。だから、賄賂やコネ、圧力を使った社会不正がまかり通るのだよ」
・・・「韓国では両班文化がまだ息づいているのだよ」 韓国の人々の権力に対する執着を韓国の閣僚経験者の尋ねると、こんな答えが返ってきた。韓国の人々は食事をするときに、お茶碗を手に取らない。お茶碗を置いたまま、箸やスプーンを使って食べる。これも袖の長い韓服を着用した両班(朝鮮時代などでの支配階級)が、袖が汚れない食べ方をしていたことをまねたとされる。元閣僚は語る。「誰でも両班にあこがれる。人生に一度でいいから、両班になってみたいと思う。社会がまだ成熟していないから、発想が単純なのだよ。」
・・・韓国の大統領府や外交部で記者会見に臨むと気づくことがある。かんっくの記者団の質問に共通した特徴がある。質問が長いのだ。彼らは自分の主張をまず延々と語る。そして、最後に、「それであなたはどう考えるか」と聞く。だから記者会見の記録を見ると、圧倒的に質問の方が長かったりもする。
・・・議員になりたい人は後を絶たない。「人生の最後の花道、一度は自分もとあこがれる仕事が国会議員なのだよ」と、韓国政府の知人は語る。議員として活躍する人も多いが、権力のおぼれ、勘違いする連中も数多くいる。
・・・朴槿恵は、もともと歴史認識問題や慰安婦問題に強い関心があったわけではない。彼女にとっての最大の関心事項は、自身の政治権力をあまねく周囲に認めさせることにあった。
・・・慰安婦問題に限らず、日韓歴史認識問題では、韓国の保守勢力は常に進歩・革新勢力から政治攻撃されてきた。過去、歴史認識を巡って数ある日韓合意がなされてきたが、韓国内で唯一、依然批判されていない合意がある。1998年10月、小渕恵三首相と金大中大統領によって発表された共同宣言だ。
・・・「韓国人は、大統領を旧朝鮮王朝の王のような存在と考えている」(韓国政府元高官)という。元高官はその理由について「韓国は朝鮮王朝の後で日本統治を受け、さらに米国主導で大統領制を導入した歴史的な背景がある」と語る。韓国大統領府(青瓦台)の構造は、米国のホワイトハウスとずいぶん違う。ホワイトハウスは大統領の執務室と同じ建物の中に、大統領補佐官らの執務室があり、何かあればすぐに集合できるが、青瓦台の場合は秘書官たちの建物は別棟になっている。大統領府の勤務経験者の一人は「大統領に会いに行くためには、車に乗らないといけない。検問もあるから数分かかる」と語った。
・・・深刻に感じられるのは、韓国の外交官たちが異口同音に語る「国際社会における日本の地位が落ちている」という現状認識だ。口には出さないが、「日本は財政難や政局の混乱に加え、大震災まで起きて元気がない。本当に気の毒だ」という視線を日本に投げかけている。韓国「ジャパンスクールの落日」は、日韓の政治パイプに加えて、官界・外交パイプの先細りという現象を生み出している。
・・・「五年(大統領の任期)ごとに、政策が総入れ替えになる」という韓国政治の宿痾が、せっかくの数少ない朴槿恵政権の成果も押しつぶそうとしている。
・・・韓国の大企業は数の上では1%に満たないが、売り上げは6割以上を占めるとされる。就職難に直面する若者層がこうした社会構造に不満を貯める中で、オーナー一族による非常識な事件も後を絶たない。
・・・韓国では「同じ大学」「同じ学部」の先輩後輩の結びつきは、日本と比べものにならないほど強い。
・・・韓国には最も結束力の強いことで有名な三つの団体がある。「湖南(韓国南西部の全羅道地域を表す言葉)郷友会」「高大(高麗大)校友会」「海兵戦友会」だ。・・海兵隊OBには代々、「街中で後輩の隊員を見つけたら、必ず小遣いをやって元気づける」という不文律があるのだという。
・・・大統領との特殊な「人脈」があるというだけで、何の見識もない一般人が巨大な権力を振り回せたことが、韓国の人々の大きな怒りを買ったのだ。チェのような「コネ」を使うことは、韓国の人々にとっての「あこがれ」でもあるが、その貧弱な経歴と手に入れた権力大きさのあまりのギャップに、韓国の人々は嫉妬に似たような強い嫌悪感を抱いたのだ。
・・・精鋭部隊は、北朝鮮のなけなしの食料や装備を優先的に与えられるうえ、政治学習を徹底的に行うために忠誠心や士気も高い。兵役も10年と長い。韓国軍にも特殊部隊があるし、もちろん能力も優れているが、大半はわずか3年足らずで兵役を終える若い軍人だ。
・・・「核の共同管理」とは、米国が北大西洋条約機構(NATO)加盟国と行っているシステムだ。米はドイツ、イタリヤ、ベルギー、オランダの4か国に航空機搭載型の核爆弾を配備。4か国は警備などに協力しているとされ、核兵器使用について意見を言えるが、最終決定権は米国にある。
・・・韓国にとっての最大の外交課題は北朝鮮だ。韓国外交部を見ても、北朝鮮問題を扱う朝鮮半島平和交渉本部には同部のエリートと呼ばれる人材が集中して集められている。
・・・韓国は1965年の日韓国交正常化に伴い、日本から巨額の支援金を得た。北朝鮮との体制競争に勝たせるため、米国は韓国の安全保障の相当部分を負担するとともに、朴正熙政権の開発独裁路線を認めた。韓国人自身の努力が加わり、「漢江の奇跡」と呼ばれる急速な経済成長を達成した。ソウルを訪れる日本人の多くが、「ちょうど少し前の東京を見ているようだ」と語るように、経済や社会生活分野で、韓国はずっと日本の背中を追いかけてきたともいえる。
・・・韓国では近年、農村部が抱える「嫁不足」の問題から国際結婚が急増。2003年に約4万4千人だった外国人配偶者は、10年5月時点で約13万6千人に急増、このうち外国人妻は約12万人を占めていた。経済的な事情からベトナム出身者が多く、韓国人と結婚したベトナム人女性は当時、約3万2千人と全体の約四分の一を占めていた。
・・・韓国政府によれば、韓国の2013年の武器輸出額は約34億ドル(約4180億円)。10年前の12.8倍に達した。輸出先は米国や中東、東南アジアなど約80か国に上る。
・・・知る人ぞ知る話だが、豪州の仮想敵国はインドネシアだ。
・・・世界は今、米国でも欧州でも日本でも格差社会が広がりつつある。人々には不満やいら立ちが募っている。それをぶつける相手を探すとき、自分たちと関係のない集団がいればとても便利だ。周囲の共感が得られやすいからだ。それが、米国で黒人排斥運動に、欧州で移民排斥運動に、日本では嫌韓運動につながったと、私は思っている。・・今、韓国では日本の「失われた20年」よりも更に深刻な不況が迫りつつある。本書で書いたように、韓国の人々にも不満が溜まっている。・・釜山の少女像を取材したときに見たのは、「怒りのはけ口」を求めている人々の姿だった。

2017年7月22日 (土)

戦争にチャンスを与えよ (エドワード・ルトワック著 奥山真司訳 文春新書)

一見過激なタイトルですが、読んでみると納得させられる内容でした。

『日本は、世界の中でも独特な場所に位置している。世界の二つの大国と、奇妙な朝鮮半島の隣にあるからだ。・・日本にとってはほぼ利益のない朝鮮半島において、北朝鮮が、暴力的な独裁制でありながら、使用可能な核兵力まで獲得しつつある一方で、韓国は約5000万の人口規模で世界第11位の経済規模を誇りながら、小国としての務めさえ果たしていない。・・ベトナムは、日米にとって非公式だが強力な同盟国となりうるし、フィリピン、インドネシア、マレーシア連邦なども、潜在的な同盟国である。
・・・「戦争の目的は平和をもたらすことにある」ということだ。戦争は、人々にその過程で疲弊をもたらすために行われるのである。・・戦争が終わるのは、そのような資源や資産がつき、人材が枯渇し、国庫が空になった時なのだ。そこで初めて平和が訪れると、人々は、家や工場を立て直し、仕事を再開し、再び畑を耕す。
・・・なんと今日に至るまで、ボスニア・ヘルツェゴビナでは、いかなる「戦後復興」も行われていないのである。・・なぜか。「戦争が終わっていない」からだ。まだ「平和」ではなく、「戦争が凍結された状態」なのだ。「凍結されている」ということは、「まだ終わっていない」ということなのである。「邪悪な介入」のもう一つの形態は、難民支援だ。
・・・私は論文「戦争にチャンスを与えよ」を書いたのである。そこで主張したのは、「戦争には目的がある。その目的は平和をもたらすことだ。人間は人間であるがゆえに、平和をもたらすには、戦争による喪失や疲弊が必要になる」ということだ。外部の介入によってこの自然なプロセスを途中で止めてしまえば、平和は決して訪れなくなってしまうのである。・・外部の介入によって戦争を凍結すれば、かえって戦争が長引いてしまう。これが私の論文の主張であり、これは難民問題でも同様だ。・・介入してもよいのは、和平合意と難民移住などに関する責任をすべて引き受ける覚悟がある場合だけである。みずからの外交力によって和平合意を実現できないようなら、紛争に介入してはならない。
・・・もちろん、カダフィは、素晴らしいリーダーではなかった。それでも、無政府状態よりははるかにましだ。「介入のために戦争を開始すること」と「戦争を止めるために介入すること」は、同じ程度に避けるべきことなのである。
・・・戦略とは「生物」である。戦略は存在するものであり、それは戦争の結果を決定するものであるが、その働きは、普遍的で、どの時代のどの地域のどの文化にもあてはある。・・そして戦争には、紛争を何らかの形で終わらせることによって、平和をもたらす、という目的がある。
・・・国際的な軍事指揮では、参加国部隊の行動の質を維持するのが特に難しい(最低限のレベルのパフォーマンスにまで落ちる可能性がある)
・・・NGO活動の多くは、結果的に活動的な戦闘員を供給しているのである。・・NGOが彼らの支援のために介入することによって、敵側がけってき的な勝利を収めて戦争を終わらせる、というプロセスを構造的に妨害してしまうのである。・・このようなNGOは、「戦いの緩和」という彼らの表向きの目標などは実現できず、かえって戦争を長期化させてしまっているだけだ。・・今日では、あまりに多くの戦争が「終わることのない紛争」となってしまった。その理由は、外部からの介入によって、「決定的な勝利」と「戦争による疲弊」という二つの終戦要因が阻止されるからだ。
・・・ただ、これだけは答える。私が見たところ、安倍総理はまれに見る戦略家だ。
・・・「日本が尖閣についてどう考えているか」は、中国には全く関係がない・・問題になるのは、ただ「中国が尖閣をどう見ているのか」であり、「中国が尖閣で何をやってくるのか」だけである。・・中国の外交部(外務省に相当)は、私が知るほかのどの国の外務省とも異なる性質を持っている。外交部が集めた情報は、けっして 「中央」には到達しない。各国で集められた情報は、北京の外交部には届くが、そのボスである習近平には届いていないのだ。
・・・私は、戦略的な方向性として、日本の自衛隊を「自衛隊」のままにしておくべきだと考える。つまり、専守防衛の方向性で、このまま将来も進んでいくのが、基本的には最も正しいと思っている。ただし一つ問題がある。中国だ。・・今後、日本の自衛隊は、より迅速に作戦行動を行えるように体制を整えることが重要になってくる。そのために日本の自衛隊に必要なのは、「訓練」ではなくて「演習」なのである。・・「演習」で学ばなければならないのは、失敗した状態、つまり物質や人員が足りない状態の中でも任務を実行するメンタリティ(精神性)だ。・・残念ながら自衛隊の規模は、日本のような大きな島国を守るには小さすぎる。それらを解決するためには「改革」が必要である。
・・・「中国封じ込め同盟」への貢献という意味で、アメリカの日本への期待は高まるはずだ。
・・・北方領同に関していえば、私は決して楽観的ではない。プーチン氏は、「ロシア帝国」を修復するまでは領土拡大を続ける、と考えている・・それはもちろん、どれだけ経済制裁を科されても、クリミア半島を維持し続ける、ということも含んでいる。・・プーチン氏が自国民に発しているメッセージは、以下のようなものだ。「・・あなたがたは、世界最大の領土を持つ帝国の人間であり、これは誰に与えられたものではなく、戦争に勝つことによってロシア人自身が獲得したのである。前任者はロシアの帝国の多くを失ったが、私(プーチン)は絶対に領土を失うことはない。むしろ取り返すつもりである。だからその代わりにロシア人は耐えなければならない。帝国の人間として耐え忍んでほしい」
・・・世界一の人口を抱え、世界第二位のGDPを持つにもかかわらず、アフリカの小さいな独裁国家のように不安定なのが、中国の本質だ。彼らは、2000年代の16年間に、「平和的台頭」という協調路線から、「対外強硬路線」、「選択的攻撃」と、三度も対外政策を大きく変えている。・・こうした「不安定」な国を隣に抱えているのは、非常に骨の折れることだ。
・・・中国の第二の特徴は、社会は急速に変化しているのに対して、独裁制はそれほど変わっていない、という点にある。・・現在、北京政府は、イデオロギーの継続的な減退とともに、経済の急成長や国民の収入の上昇を望めない事態に直面している。これは習近平の仕事が日ごとに難しくなってきていることを意味している。・・ここに第三の問題が加わる。権力を最大限集中化させるために、習近平が胡錦涛の信奉者の粛清を決心したことだ。
・・・「核心的リーダー」とは、「決してリタイアしない人物」のことだ。・・毛沢東や鄧小平のような存在だ。政治的任務を終えた後でも、「引退」はせず、終身的リーダーとして生きる、ということである。
・・・さらに厄介な問題がある。中国は、隣国を完全に見誤る伝統を持っている点だ。2014年に起きたベトナム沖の海底油田をめぐる事件が、その典型である。・・中国外交には、組織的欠陥がある。・・政策を実質的に決定する部門が、国外の理解や自国が置かれている情勢についての認識を欠いてしまうのである。そのために、対外政策において、不安定さと無能さを露呈してしまうのだ。
日本がEEZ内での中国漁船の操業を許している、という状態自体が、中国に「あいまいさ」を伝えているからである。こうした「あいまいさ」こそ、日本側は避けるべきなのだ。・・「あいまいな態度の日本」と「隣国すら誤解する中国」というのは、最悪の組み合わせと言える。というのも、日本の「あいまいさ」が、中国の「誤解」の余地をさらに大きくしてしまうからだ。これこそが、現在の日中間に存在する決定的な問題なのである。・・日本は、武装した人員を常駐させるべきである。名目は、「環境保護」など何でも構わない。「海底保護調査団」でも、「サンゴ礁・漁業保護調査団」でもよい。しかし、必ず武装させておくことが重要である。こうして日本は、「あいまいさ」を排除できるからだ。
・・・クレムリン周辺の人々は「ノヴォロシア」という概念を今日に復活させようとしている、ということだった。・・ウクライナの一部を切り取って、「ノヴォロシア」という共和国として独立させ、ロシア連邦に組み込む、という考えだ。
・・・CIAは、アメリカの政府機関の中で最も仕事のできない機関だ。CIAの人員は、言語や文化を学ぶのに忙しく、インテリジェンスの肝心なところで失敗を繰り返してきた。米国民全員が知っていることだが、アメリカは、外交や軍事と比べて、インテリジェンスがはるかに不得意なのである。
・・・国際問題に関するロシアの対処法は、古典的なやり方にのっとっている。大国は、いきなり部隊を動かしたりはしない。まずその発する言葉に大きな意味を持たせるものである。この点、中国は異なる。・・中国のように、「尖閣だ、尖閣だ」と叫んでおきながら何もしないようなことは、ロシアは決してしない。ロシア人は、言葉に重みのないリーダーを軽蔑するからだ。
・・・フィリピン国内には、二つの要因がうごめいている。第一は、フィリピンがアメリカの植民地であったという歴史に起因する・・第二は、フィリピンの支配層やエリート層の多くが、人種的には中華系で、裕福である上に、中国とも深い関係を持っており、フィリピンという国にそれほど忠誠を誓っているわけではない、という点だ。・・要するに、フィリピンには、「政治的なまとまり」というものがない。そのため、ベトナムのようには行動できないのだ。
・・・フィリピンは、「反中同盟」からすでに脱落した、ということである。しかし、フィリピンの脱落は、「反中同盟」にとって必ずしもネガティブなことを意味しない。というのも、日本、インド、ベトナム、それにインドネシアやマレーシアの部分的な参加による「反中同盟」は、フィリピンを含めた「反中同盟」よりも、はるかに強力だからだ。
・・・人々は、平時には、脅威を深刻なものとして考えられないものだ。平時に平和に暮らしていれば、誰かの脅威に晒されていても、空は青いし、何かが起こっているようには思えない。・・平時には、誰も備えを必要と感じない。むしろ戦争に備えること自体が問題になる。・・そこから戦争がはじまるのだ。
・・・北朝鮮の軍事関連の技術者を侮ってはならない。彼らは、他国の技術の5倍以上の生産性を有している、と答えるからだ。たとえば、イランは、核開発に北朝鮮の5倍もの時間をかけながら、一発の核兵器に必要な核物質さえ作り出せていない。人工衛星の技術もない。要するに、北朝鮮の軍事開発力は、きわめて危険な域に達しており、真剣に対処する必要があるのだ。
・・・北朝鮮のミサイルは、侵入の警告があれば即座に発射されるシステム(LOW)になっているかもしれない、という点だ。このシステムでは、アメリカの航空機やミサイルが侵入してくれば、北朝鮮側の兵士が自動的に発射ボタンを押すことになる。LOWとは、レーダーからの警告に即座に反応することを意味する。
・・・人間というのは、平時にあると、その状態がいつまでも続くと勘違いをする。これは無理もないことだが、だからこそ、戦争が発生する。
・・・戦略の規律が教えるのは、「『まあ大丈夫だろう』という選択肢には頼るな」ということだ。なぜなら、それに頼ってしまうことで、平和が戦争を生み出してしまうからである。
・・・日本には「降伏」、「先制攻撃」、「抑止」、「防衛」という四つの選択肢がある。ところが、現実には、そのどれも選択していないのである。
・・・すべての軍事行動には、そこを超えると失敗する「限界点」がある。いかなる勝利も、過剰拡大によって敗北につながるのだ・・大国は、中規模国は、打倒できるが、小国は打倒できない。小国は、常に同盟国を持っているからだ。小国は、規模が小さいゆえに脅威を与えない。だからこそ、別の大国が手を差し伸べるのである。・・戦略のパラドキシカル・ロジックは、紛争が発生するところで、必ず発動する。そして優れた戦略家なら、そのパラドキシカル・ロジックを正面切って克服できるのだ。
例えば、あなたが100ドルの収入のうち5ドルを貯めて、それを投資に回す、というのは、「一般常識の世界」ではよくあることあ。これはこれで、極めて正しい選択となる。ところが、「戦略の世界」、要するに大規模戦争のような「戦略の世界」ではいくら「戦術レベル」で大成功を収めたり、戦闘で目覚ましい勝利を収めたり、作戦に成功して「戦域レベル」で相手国領土を占領できたとしても、「大戦略」のレベルですべてが覆ることがあるのだ。最終的な結果は、最上位の「大戦略」のレベルで決まるからである。・・「戦略の世界では「成果を積み重ねることができない」。これが、戦略の第一のポイントだ。戦争に直面して戦略を考えるときに、最初にやるべきは、「常識を窓から投げ捨てる」ことなのである。・・「戦略の世界では矛盾や逆説だけが効果を発揮する」ということである。理解が容易な「線的なロジック」は、常に失敗するからだ。・・「戦略の世界」では、敵が存在する。この敵が、あなたを待ち換えているのだ。すると、「直線で最短距離を行く」のは、最悪の選択となる。う回路だったり、曲がりくねって運の方が良いのだ。・・「戦略の世界」では、・・常に奇襲が狙われるのだ。奇襲を受けた側は、まったく準備ができていない状態で寝首をかかれることになる。
・・・「戦略の世界」では、勝利が敗北につながるように、敗北も勝利につながる。・・「戦略の世界」では、すべてが常に移り変わるのである。
・・・「戦略」において、「常識」は敵であり、「通常の人間的な感覚」は敵であり、唯一の味方は「紛争の冷徹なロジック」なのである。そして、「紛争の冷徹なロジック」が最も重要になってくるのは、主に外交のレベルにおいてだ。
・・・実際にイギリス人は、アメリカ人のひどい仕打ちを繰り返し受けた。しかしイギリスは、それに黙って耐えたのである。これが「忍耐力」だ。・・フランスは、100年以上争った相手だ。そして当時も、アフリカ、インドシナ半島、マダガスカルなど、およそ17件の植民地・領土係争案件を抱えていた。ところが、イギリスrは、交渉ですべてを素早く解決したのである。しかもイギリスは、すべての案件で譲歩した。フランスの完全勝利だ。これによって初めて、大英帝国とフランス帝国の協力関係が構築されたのである。
・・・なぜイギリスは、最終的に勝利できたのだろうか。それは、彼らが「戦略」を冷酷な視点でとらえることができたからである。要するに同盟関係は、自国の軍事力より重要なのだ。
・・・しかし、「戦略」の観点で言えば、外務省が権力を保持していることは、極めて重要あ。そうでないと、「戦略」のレベルで、すべてが覆ってしまうからである。
・・・「戦略の世界」では、「規律」が物を言う。ここで言う「規律」とは、「戦略のロジックを出し抜くことはできない」という認識能力のことだ。・・イギリスは、強力な「規律」を持ち、「戦略」にそれが不可欠であることを知っていた。「大戦略」のためには、特に極めて不快なことも受け容れる必要があることを知っていたのである。
・・・なぜイギリスのエリートたちは、こうした政策をとりえたのだろうか。それは、英国の貴族の土地の管理を通して、金と権力をよく理解していたからだ。・・ラグビーやウォールゲームといったスポーツを通じて、貴族は暴力というものを学ぶ。
・・・「ルトワックさん、お宅の息子さんは、まだ英語がうまくしゃべれないようですし、どこまで授業についてこれるかわかりませんが、それでも彼は大丈夫です。彼は自分の世話を自分でできるからです」・・ミラノの学校では退学処分になり、イギリスの寄宿学校ではむしろ評価されたことだ。告げ口をせず、独力で問題を解決しようとしたからだ。この文化がイギリスをイギリスたらしめている。彼らは、「暴力」「戦争」「平和」、そして「同盟」が何たるかを理解しているのだ。・・暴力のポジティブな側面を理解し、暴力の存在から目を背けない。これが、イギリスの強みなのだ。
・・・「戦略のパラドックス」だ。なぜこうなるかと言えば、戦略においては、常に「他者」が存在するからだ。・・奇襲の目的は、一時的に敵の反応を奪うことにある。・・それが有効なのは、敵の反応を奪うことで、「パラドキシカル・ロジック」の発動を抑えられるからだ。
・・・いかに戦術的勝利を重ねようとも、その勝利を完全に相殺してしまう、より高次の戦略が存在する。それが「同盟」だ。私の見るところ、戦国日本で、このことを最も理解していたのは徳川家康だった。そもそも、国の運命を左右するような大戦略レベルにおいて重要なのは、まず人口と経済力、そして国民の団結力である。・・適切な同盟相手を選び、戦術レベルでの敗北に耐え続ければ、100回戦闘に敗れても、戦争に勝つことができる。
・・・信長の真の卓越性は、このハイレベルの「規律」を必要とする作戦を計画し、実行したことなのだ。
・・・「作戦」よりも「同盟」の方が、戦略としては上位に位置する。ここでも参考となるのは、徳川家康のケースだ。彼のような人物でさえ、城を明け渡したり、戦闘で負けたり、裏切り者がでたり、と非英雄的なことをも耐え忍ぶ必要があった。ところが、その「規律」こそ、戦略に必要なのだ。
・・・現状以上のアメリカを望めないなら、現実のアメリカと付き合うしかない、ということだ。この「規律」こそ、大戦略で必要となるのである。・・もう一つ忘れてならないのは、「同盟」という戦略は、しばしば不快で苦難を伴うものでもある、ということだ。
・・・当時のヨーロッパの人々の思想にとって、根本的な位置を占めていた書物がある。「オヂュッセイア」と「イーリアス」の二冊だ。・・今日のひょーろっぱでは、クレフェルトのいう「生命の法則」が拒否されている。「生命の法則」とは、端的にいえば「男は戦いを好み、女は戦士を好む」というものだ。もちろん、この法則をあざ笑う人もいるだろう。ところが、この法則が拒否されている国で、少子化が起きているのだ。戦いを嫌う国では、子供があまり生まれていないのである。
・・・イスラム教を「アクシデント的に生まれた宗教」と尚氏のには理由がある。・・要するに、その当時には強力な敵となる帝国が周囲にいなかたために、イスラム教は急速に広まったのである。
・・・ヨーロッパが成功していたのは、ヨーロッパが戦場であった時代だ。「戦争のないヨーロッパ」は、「ガソリンの入っていない車」のようなものなのかもしれない。いずれにせよ、ヨーロッパのダイナミズムが戦争によってもたらされてきたことは明白だ。・・ヨーロッパ人は、「イーリアス」をもはや読んでいない。ところが、アメリカ人はまだ読んでいる。そして中国人たちも読み始めた。ここ五年間で、五つの版が出版されているほどだ。
・・・ロシアもヨーロッパの国の一つであるが、ここで、この国の三つの特徴を指摘しておきたい。第一は、「戦略は上手だが、それ以外はすべて下手だ」という点だ。・・ところが、彼らは、経済がまるで分っていない。これが第二の特徴だ。・・「大きな規模(スケール」で考えることができる」ということが、ロシアの第三の特徴だ。・・空間だけではなく時間的にも大きなスケールで考えることができる。空間的にも、時間的にも大きな視野を持っているのだ。西ヨーロッパの人々には残念ながら、そのような能力は備わっていない。
・・・ヨーロッパの活力は、常にその多元性から生じていた。フランス、ドイツ、イタリア、ポルトガルといった、それぞれ独自な国家同士が鎬を削っていたからこそ、ヨーロッパは活力に溢れていたのである。
・・・結論を射よう。ヨーロッパの将来は、財政要因や経済要因で決定されるものではない。それを決定するのは文化だ。ところが、ヨーロッパの人々は、もはや「イーリアス」を読んでいないのである。
・・・政治の混乱状態が続くと、たとえば、元大阪市長の橋下徹やドナルド・トランプのような現象が起こってくる。このような人物が登場してくる背景として、行政府と議会が相いれない状態にある、ということが言える。そして、国内政治の混乱故にこそ、アメリカの対外政策もマヒするのである。
・・・家康は、「戦略」にとって重要なことをすべて体現していた。それは、武田信玄の「風林火山」という言葉で示されるものとは、すべて正反対のものである。たとえば、林のように静かに動かしてはならない。外交によって「同盟」を築くためには、すべての人々と話をする必要があるからだ。「同盟」を形成するには常に語る必要があるし、時間がかかるのである。
・・・戦争は可能な限り避けよ。ただし、いかなる時にも戦争が始められるように行動せよ。・・戦争準備の最大の目的は、戦争開始を余儀なくされる確率を減らすことにある。・・敵の情報を心理面も含めて収集せよ。また、敵の行動を継続的に監視せよ。・・攻撃・防御両面で軍事活動を活発に行え。ただし戦闘、特に大規模な戦闘は、よほど有利な状況でない限り避けよ。・・武力行使を最小限に留めることは、説得に応じる可能性のある者を説得する助けになり、説得に応じない者を弱体化させる助けになる。・・消耗戦や他国の占領ではなく、機動(詭動)戦を実施せよ。電撃戦や奇襲で敵をかき乱し、素早く撤退せよ。目的は、敵を壊滅させることではない、なぜなら、彼らは、のちに我々の味方になるかもしれないからだ。・・同盟国を得て、勢力バランスをシフトさせ、戦争を成功裏に集結させられるように努めよ。・・もっとも有用な同盟国は、敵に最も近い国である。彼らは、その敵との戦い方を最も熟知しているからだ。・・政権転覆は、勝利への最も安上がりな方法だ。・・戦争が不可避となった場合には、敵の弱点を衝く手法と戦術を適用せよ。
・・・相手のメンタリティを理解できて初めてその行動が予測できる・・すべての敵は、潜在的な友である。現在の友も、潜在的な敵なのだ。・・正面からぶつかり合うような戦いは避けるべきなのである。なるべく詭動を使うべきであり、迅速な攻撃と撤退を繰り返すのだ。ここでの目的は、「敵の封じ込め」であり、「敵の破壊」ではない。
・・・戦争の目的の一つは、戦争が終わった時点で自らの立場を優位に置くことにある。だからこそ、外交が重要となるのであり、これは戦時のおいても変わらない。・・「常に狙うべきは『調略』である」ということだ。
・・・相手の弱みに徹底的につけこみ、敵が弱体化するまで忍耐強く待つべきである。
・・・「勝利に真に必要なのは、戦争での勝利ではなく、外交と調略である」という戦略的教訓
・・・「構内の政治体制が整うまで大統領の権限は大きく制限される」
・・・もし私が大統領顧問だったら、彼に何を提言するだろうか。その一つは、「プーチンを侮辱するのを止めて交渉する」ということだ。・・そのためには、まずNATOを「統一した勢力」として扱うのを止める必要がある。NATO加盟国の足並みをそろえて統一政策を実施するのは、無理があるからだ。
・・・「ウクライナの国土統一」は「アメリカの国益」ではない。ところが、「アメリカに協力的なプーチン」は、「アメリカの国益」である。私だったら、まずプーチンと交渉する。そして中国問題に集中するようにプーチンに持ち掛けるのだ。
・・・日本の立場は極めて特殊である。・・世界には200近くの国が存在するが、そのなかで、日本は大国以外でトップの位置を占めている。それゆえ、日本は、他の大国同士のバランスを常に気にせざるを得ない立場に置かれている。
・・・中国という国は、大国であるにもかかわらず、恒常化した不確実性のなかで運営されている。国内体制が、政治的、経済的に極めて不安定なのである。
・・・県局がホワイトハウスから連邦議会に移る、ということであり、行政の力が弱体化する、ということだ。習近平はいつでも失脚する可能性があり、アメリカ大統領の権力も弱まる。この二つの要因から、日本は、極めて奇妙な状況に置かれることになる。唯一安定した大国がロシアとなるからだ。
・・・個人的な見解だが、日本は、長年にわたって誤った国連対策を取り続けている。・・日本は、常任理事国入りの戦略として、「誰もよくしないプラン」を追求してきたのである。・・「6席もいりません。ブラジルやドイツはかんけいありません。われわれが欲しているのはたった1席です。これをインドと共同で得ることです。2,3年ごとに交代で日本とインドで席を分け合うのです。』こうなれば、インドはロシアから強い支持を得るだろう。日本もアメリカから強い支持を受けるはずだ。』

2017年6月 6日 (火)

取調室の韓国人-女 司法通訳の現場 (中山あきら著 Amazon)

韓国人の特性、不法滞在者などの事情などについて知ることができました。

『・・・韓国社会では、仲間や同僚をかばう為の偽証は、罪ではないという感覚がある。だから韓国では偽証罪が非常に多い。
・・・韓国社会は金と権力のある者が、持たざる者を見下し、まるで昔の貴族のように幅を利かせて生きているところなのである。
・・・彼女たちが日本に来るのは、一言で言えば、金のためである。その方法としては、水商売が最も効率的な手段と考えられている。・・そういう水商売なら韓国でも当然存在する。しかし、韓国では、ホステスなどの水商売はかなり大変な仕事のようである。酔客からは飲酒や身体接触を強要されたり、店からは売上げやノルマをうるさく言われる。社会的な地位も最低で、他人にホステスをやっていることがわかれば、後ろ指を指されることになる。
・・・多くの韓国人にとって漢字は、いまだに英単語以上に難解なものという認識があるように見える。
・・・金と力のある者が、持たざる者(不法滞在のホステスたち)の上にのさばるのは、日本の中の韓国人社会においても本国(韓国)と同様である。
・・・韓国の男性は整髪料を使わないので、髪がまっすぐ垂れた状態で、小学生のような髪型だった。また、えらが張って四角い顔立ちが多く、目も7~8割が一重瞼である。女性もやはり一重瞼が多く、化粧もほとんどしないか、派手目にするかのどちらかだった。特に印象に残っているのは、化粧した女性の真っ赤な口紅である。・・女性の場合、しゃがみ込むときに日本人なら内股になるが、韓国人は外股になることが多い。韓国の女性は、床に座るときにあぐらをかいて座ることが多いためだろうか。
・・・日本人配偶者、通称日配(ニッパイ)と呼ばれているこの滞在資格は、先にも書いたとおり、性風俗の仕事をしてもかまわないのだ。・・韓国クラブのガサ入れの時は、お客は何のおとがめもなく、そうそうに解放され、おまけに飲み代もタダになるという特典⁉もついていた。ところが、性風俗店のお客の場合、マッサージ嬢からどのようなサービスを受けたかを克明に証明してもらわないといけない為、簡単に解放されないどころか、鑑識からは裸の写真を撮られ、名前や住所も記録される。
・・・社会が何か一つの方向に動き始めると、口をはさんだり、自分の考えを言えなくなるのは韓国社会の大きな特徴だ。
・・・韓国デリヘルでは、未婚の若い女性を確保することは事実上困難といってよい。前述のように、風俗営業に従事できる資格というと、日本人の配偶者、永住者など、婚姻によって生じる資格など、どちらかといえば資格を得るまでに長時間かかる場合がほとんどである。合法的に営業しようとすれば、どうしても熟女と言われる既婚女性たち(30代~40代)が占める割合が高くならざるを得ない。・・逆に言えば、若い未婚の韓国人女性(在日を除く)が働いている店は、不法就労をさせている可能性が高いと考えられる。
・・・被疑者である彼女ら(彼ら)の特徴しては、罪の意識が薄いということ、日本で働くことを望んでいるという点がほぼ共通している。また、日本に住み続けることも強く願っているところがある。祖国で様々な偏見や差別に耐えながら暮らしていくことの窮屈さを思えば、多少の苦労や気遣いがあったとしても、日本にいる方がはるかにましなのだろうか。・・韓国人は非常に見栄っ張りで体面を気にする民族である。つまり、日本人が考えている以上にプライドが高いのである。・・韓国社会での経済的な格差や、今も残る前近代的な差別意識や偏見がなくならない限り、日本への不法な出稼ぎや残留行為はなくならないであろう。』

2017年6月 4日 (日)

肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい (西山耕一郎著 飛鳥新社)

健康について考えるうえで、これまで気づかなった視点からの指摘が多く書かれており、ぜひ実践していきたいと思いました。

『・・・じつは、筋肉よりも血管よりも、「決して衰えさせてしまってはいけない機能」があるのです。それは、食べ物を飲み込む力、すなわち嚥下機能です。
・・・寿命が短かった昔の人は、たいてい飲み込み力が低下する前に死んでしまっていたのです。だから昔は「嚥下機能維持の大切さ」なんて、ほとんど問題になることはなかった。ところが、近年、80代、90代まで生きる人が多くなって、飲み込み力を低下させる人が増え、誤嚥にによって誤嚥性肺炎を起こす人が増えてきたのです。
・・・のどの機能を低下させないためには、「のど仏を上下させる筋肉」を衰えさせないことがカギ、すなわち、のどの筋力をキープして「のど仏をスムーズに上下させる機能」「”フタ”の開け閉めをスムーズに行う機能」をいかにキープしていくかが、私たちの嚥下機能を守る重要なカギとなるわけです。
・・・食べ物や飲み物を嚥下する際は、普段からなるべく「意識をするクセ」をつける方が良いでしょう。つまり、ごっくんと飲み込む前に、「さあ、飲み込もう」「ごっくんするぞ」といったことを頭に思い浮かべるようにする。
・・・飲み込んだ後は、息を吐きだす方がいいのです。嚥下直後に息を吸ってしまうと、その拍子に食べ物や飲み物を肺に吸い込んでしまいやすいのですが、息を吐いていればそうした心配はありません。
・・・「普段からしっかり声を出す習慣」をつけるために、とくに私がお勧めしているのが、「カラオケ」「おしゃべる」「笑い」の三つです。
・・・食事中の会話は、なるべく「食べるときは食べることに集中」「話すときは話すことに集中」して、誤嚥をしないように注意しましょう。
・・・飲み込み力は、全身の体力と相関しています。すなわち、体力が落ちてくると、飲み込み力もてきめんに落ちてしまう
・・・そもそもトレーニングというものは、ハードルが低めのメニューを長く続けていくのが、もっともいい結果につながりやすいのです。
・・・首周りの筋肉が固まっていると、のど仏をもち上げる筋肉も動きが悪くなります。ですから、のど仏の動きをよくするためにも、首周りの筋肉もしっかりほぐしましょう。
・・・カラオケの「飲み込み力トレーニング効果」を十二分に引き出していくには、歌い方や選挙区にちょっとしたコツがあるのです。そのコツとは「高い声を出してうたうこと」。・・のど仏は高い声を出すと上がって、低い声を出すと下がります。のど仏の筋肉、咽頭挙上筋群を鍛えるには、この上下運動をしっかり行っていくことがポイント。ですから、カラオケの際、できるだけ高い声で歌ったり、キーの高い曲を選曲したりして、のど仏をしっかり挙げ、盛んに上下させるようにしていくといいわけです。
・・・「高い声」と「低い声」を交互に繰り返しだし続けていれば、のど仏はそのたびごとに上がったり、下がったりを繰り返し、それによってのどの筋肉(咽頭挙上筋群)が鍛えられることになります。
・・・一口一口を楽しむようなつもりで口に運ぶ食べ物をよく噛み、じっくりと味わって食べるようにするといいでしょう。
・・・誤嚥やムセを防ぐという観点で言うと、最初に液体のメニューを口にするのはよくありません。・・液体はのどを通過する速度が速いため、間違った入り口に入ってしまいやすいんですね。意外かもしれませんが、液体は最も誤嚥しやすい食形態なのです。・・①柔らかい(硬度)、②まとまりやすい(凝集性)、③べたべたしない(付着性)この条件にピッタリなのが「中華料理」です。
・・・のどの奥にある声帯の直径は、成人でおよそ2センチで、だいたい親指の太さくらいです。
・・・肺炎をさけたければ、なるべくカレースプーン1杯よりも少ない「一口量」で食事をするように心がけるといいでしょう。
・・・「飲み込みやすい姿勢」の基本は、「軽くお辞儀をする」ような姿勢です。・・誤飲を防ぐ有名な方法には「うなづき嚥下」と呼ばれる飲み込み方もあります。やり方は簡単で、飲み込む瞬間だけ、下を向いてごっくんするのです。・・椅子に座って食べる場合は、背もたれのある椅子に深く腰掛け、背中を伸ばし、頭をやや前に倒して食べるのが理想です。
・・・もし誰かがムセたときは、まずは上半身を前方へ水平に倒すこと。そして、気管を水平にして吐き出しやすい状態で咳をさせるのが正解です。
・・・痰は、呼吸器にとって有害な物質を体外に排出する役割を果たしています。・・痰は身体の調子が悪い時だけに出るのではなく、調子のいい時も出ているし、健康な人にも出ています。成人の正常量は一日に100ml程度。もっともこれくらいの量であれば、ほとんどは無意識のうちに飲み下してしまいます。・・痰が多い状態は、気管や肺が弱っているというシグナルのようなものなのです。
・・・逆流性食道炎による誤嚥は、夜、寝ているときに起きるケースが少なくありません。普通に仰向けに寝ているうちに、酸っぱいものが込み上げてきて、その内容物が気管へ入ってしまうのです。・・逆流性食道炎を起こす原因には、「肉などの脂肪分の多い食事」「暴飲暴食」「不規則な生活」「精神的ストレス」などが挙げられています。
・・・男性の方が女性よりも下がり具合が大きいのです。・・「のどの機能は男性のほうが衰えやすい」「女性は比較的衰えにくい」と言ってしまって差し支えないでしょう。
・・・「マスクをして眠る」という行為は、のどの健康を守るうえで、たいへん理にかなっていることになります。
・・・少なくとも医療関係者には、のどが痛くなった時にのど飴を舐める人はほとんどいません。
・・・うがいには、口やのどの乾燥を防いだり、のどに付いた細菌やウィルスを洗い流したりする働きがあります。ただし、うがい薬は必要なし。なぜなら、うがい薬は、のどの粘膜にとっては少々刺激が強すぎるのです。
・・・(「のどの狭さ」に起因するいびきは、)原因としては、肥満でのどの脂肪が多い、加齢でのどの筋肉が落ちる、などが挙げられます。
・・・2011年度、誤嚥による窒息事故の死亡者数(4816人)は、交通事故による死者数(4611人)より多くなってしまいました。
手術後の患者さんはどうしても体力や免疫力が落ちています。このため、自分の唾液を誤嚥し、そこから肺炎を起こしてなくなる方がおられたのです。』

2017年5月26日 (金)

新聞記事から (【正論】安全保障避ける学術会議の錯誤 東京大学客員教授・米本昌平) (産経新聞 29.5.26朝刊)

日本の学者さんたちには是非読んでほしい内容でした。

≪冷戦の過酷さとは無縁だった国≫

 3月24日に日本学術会議は「軍事的安全保障研究に関する声明」をまとめ、軍事目的での科学研究を行わないという半世紀前の方針を再確認した。その直接の動機は、一昨年から防衛装備庁が「安全保障技術研究推進制度」を発足させたため、これに対する態度表明を迫られたからである。

 どんな国であれ大学が防衛省関係から研究費助成を受ければ、軍事機密や達成目標などで条件をのまなければならず、大学側は当然これに対する原則を明確にする必要が出てくる。だが、声明や学術会議報告「軍事的安全保障研究について」を読んでみると、日本のアカデミズムは安全保障の議論をするのに恐ろしく逃げ腰である。

 その理由の一つに、日本が20世紀後半の世界を決定づけた冷戦の過酷さを体感しないまま21世紀に抜け出た、唯一の先進国であることがある。冷戦とは米ソ両陣営が最悪時には7万発の核弾頭を備え、国内総生産(GDP)の5~10%を国防費に割いて核戦争の恐怖に耐えた時代であった。

 この未曽有の恐怖の時代を通して日本は「冷戦不感症」国家であったため、科学技術と軍事の関係を冷静かつ客観的には語りえない欠陥をもつようになった。この点について軍民両用(デュアルユース)技術を軸に論じておきたい。

 ≪表層的な日本の軍民併用技術論≫

 最も基本的なことは、米国の科学技術は1940年を境に一変してしまったことである。第二次大戦以前の米国では、大学は東部の法文系が主流だった。ところが40年に国家防衛研究委員会が置かれ、戦争中にこの委員会が通信技術、レーダー、航空機、核兵器などの戦時研究を組織し、理工系大学がその一部を受託して力を蓄えた。戦後間もなく冷戦が始まったため、米国は41年の真珠湾攻撃から91年のソ連崩壊まで50年戦争を戦ったことになる。

 そんな中、57年10月にソ連が人類初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げた。米国は衝撃を受け、高度な科学技術研究を維持することが安全保障に直結すると確信し、翌年に国防高等研究計画局や航空宇宙局を新設する一方、理工系大学の大幅な拡張を促した。

 国防総省からの大規模な研究委託によって、マサチューセッツ工科大学(MIT)やスタンフォード大学などは急速に力をつけ、「研究大学」という特別の地位を獲得した。60年代末に大学紛争が起こると、軍からの委託研究は批判にさらされ、キャンパスの外に移されたが、これがベンチャー企業の先行形態となった。結局、冷戦の最大の受益者の一つは米国の理工系大学であった。

 冷戦後、米国の科学史の研究者は精力的に冷戦研究を行い、この時代の米国の科学技術は、核兵器の開発・小型化・配備体制の開発を最大のミッションとする「核兵器研究複合体」を形成していたと自己診断を下した。日本の議論は、この米国における科学技術史の研究成果を咀嚼(そしゃく)していない。

 90年代の米国は、科学技術を軍事から民生へ転換する「軍民転換」政策を採用した。この時、冷戦時代に開発されたコンピューター技術、インターネット、衛星利用測位システム(GPS)などが民間に開放され、巨大な情報産業が誕生した。この政策を正当化したのが「軍民併用技術」という概念であった。これと比べ、日本の軍民併用技術論は何と表層的でひ弱なものなのであろう。

 ≪米科学技術史の成果を踏まえよ≫

 かつて核戦争の危機は2度あったが、2度とも日本は重度の「冷戦不感症」を呈した。62年のキューバ危機に際し、ケネディ大統領は事態を説明するためフランス、西ドイツ、カナダに特使を派遣したが、池田勇人首相には親書で済ませた。核戦争が起こるとすれば大西洋を挟んだ撃ち合いになると考えられたからだ。この時、日本は親書の意味が読み取れないまま経済政策に邁進(まいしん)したのである。

 83年欧州のミサイル危機の時には、相互確証破壊を前提とする戦略核ミサイル体制は両陣営で完成していたから、核戦争になれば日本は全滅してしまうはずだった。だがこの時、日本で議論されたのは欧州の反核運動であった。

 冷戦時代、日本が核戦争の脅威を認知しようとしなかった理由はほぼ3つに集約される。第1に日本における核兵器の議論はヒロシマ・ナガサキで凍結されてしまい、その後に本格化する核兵器の大量配備の現実を視野に入れようとしなかったこと。第2に核戦争になれば全てが破壊されてしまうという虚無感。第3に東アジアには東西対決の緩衝地帯として中国共産党政権が存在し、日本がソ連との直接的な軍事対決にさらされることが少なかったことである。

 大学の研究と軍事研究との間に線引きが必要になった事態をもって右翼化と言ったり、戦前の日本と重ねる論法は、冷戦期に日本社会が孕(はら)んだ時代認識の欠陥の残滓(ざんし)でしかない。いやしくも日本学術会議である以上、最低限、米国の科学技術史の研究成果を踏まえた論を展開すべきだったのである。』

2017年5月 5日 (金)

勝ちきる頭脳 (井山裕太著 幻冬舎)

私も下手ですが囲碁を趣味にしています。七冠保有の井山棋士の本著は、囲碁に限らず間違いなく人生に通ずるものを伝えてくれる内容でした。その考え方は、仏教と共通のものを含んでいると思います。弱冠20代でこの境地に達しているとは、本当に脱帽です。

『・・・「打ちたい手を打つ」という行為は、僕が自分に課している信念で、これを棋士人生の中でつらぬいてきたからこそ、今の僕があるのです。もし無難な手を優先したり、リスクを恐れて回避してばかりいたら、七冠はおろか、一つのタイトルも取れていなかったに違いありません。
・・・囲碁というゲームは、二〇〇手を超えて終盤を迎えた場面でも、たった一手のミスで優勢をフイにしてしまうことがあります。・・百問百答を繰り返した結果、「あとで後悔するような手だけは打たない。常に自分が納得できる手だけを打つ」という、自分に対する決め事のを作ったのでした。・・一手一手、目の前にある局面で最善を尽くすということです。・・着手をする際、「この後どんなことになっても、それを受け入れる」という覚悟を持つようにしました。これが「納得した手を打つ」ということ
・・・トップを争っている人たちは例外なく、そうした「形勢が悪い時の踏み込み」が抜群に鋭いわけです
・・・自分の打ちたい手、最善と思う手を選択することを貫いているうちに、見えてきたものがありました。それは「リスクがあっても、最善と思う手を選択している方が、勝ち切れることが多い、という事実です。
・・・やるのは本人ですが、その本人をやる気にさせたり、子供の特性に合わせて気持ち良く行動できる環境を用意することが、周囲の大人にとっては何より大事なことなのだと思います。
・・・囲碁の目的は「最終的に勝つこと」なので、自分が余裕をもって優勢な場合「正解」は複数あるということです。・・最も大きな差で勝てる手段のことを言い、勝利という最終結果は同じであっても、僅差で勝つよりは大差で勝つ方が「最善」というわけです。「正解」は複数存在しますが、「最善」は一つしかありません。
・・・そこでものを言うのが、譲歩であれ決行であれ、自分の選択しようとしている道が「本当に正しいのかどうか」の裏付けをとるための「読み」です。読みを入れてみて間違いないとなったら、それを実行する---囲碁というのは結局、この繰り返しをしていくよりほかないのではないでしょうか。
・・・大きな勝負であればあるほど、どうしても「安全な手を選びたい」という気持ちがわきがちなのですが、じつは勝負においてこの心理こそが最も危険である---このことを僕は過去の敗戦で学んできました。いつも平常心を保ち、自然体で碁盤に臨んでいれば、そこの勝負の大小という要素が入ってくる余地はありません。
・・・勝負の先行きに関しては楽観的に見て、現局面は悲観的に捉えるといったところでしょうか。
・・・「ヤマ勘」が明らかな当てずっぽうで根拠がない選択であるのに対し、「直観」には確実に根拠がある・・その根拠とは何か?人によって微妙に回答が変わるかもしれませんが、僕は「経験と流れ」だと答えます。
・・・日々の勉強で棋譜ならべがありますが、僕はこの時、ただ漠然と手順を追って並べるのではなく、割と意識的に「普通では気が付かないような別の選択肢はないか?」と探すことにしています。この訓練が、人が廃案とするような手を「直感」の班内に残しているのではないでしょうか。・・「直観」だけでは不利な形成を打開できないので、もうひと絞りして「ひらめき」にたどり着く---こうした思考順序だと思います。
・・・「読み」とは「先を見通す力」なのですが、この能力には当然ながら差があります。・・中国や韓国では、強い棋士を養成するために若いうちから、というより若い時だからこそ、読みの力を徹底的に鍛え上げます。読める局面、つまり正解が存在する局面で正解を出せることこそが、勝てる棋士を養成するにあたっての最重要課題だとみているからです。・・囲碁では「直観」が占める部分も大きいのですが、この分野はなかなか伸ばすことが困難でもあります。対して「読み」は鍛えれば鍛えるほど伸びる傾向が強いので、中国や韓国は、そうした鍛えられる部分を徹底した伸ばしていこうという方針なのです。・・「読み」に限って言えば、プロならそれほど大差はありません。皆、ある程度のところまでは等しく読むことができるのです。ただしそれには「時間がたっぷりあれば」という条件が付きます。・・囲碁において最も重要なのは、その「読み」によって導き出した無数の出来上がり図を、どう判断するかなのです。プロの間でも差が出るののは、この「判断」の部分であると言っていいでしょう。
・・・「序盤における直観は好みである」とも言えます。それに対し、石が混みあってくる中盤以降では、石の生死や地の計算といった要素が入ってくるので、はっきりとした正解手が存在する局面が増えてきます。
・・・でも人間ですから、ミスをするのは仕方がありません。ミスは出るものだとして構えておく必要があり、そのうえでどう対処するかが、勝負において非常に重要なテーマになってくるのです。・・目の前の局面を「どういう状況であっても、なるべく同じ心理状態で見る」ことが大切でしょう。ミスをした、しないは関係なく、今この局面での最善手は何かということだけに意識を向けるのです。・・ミスをしたことは分かっていても、何とかその手に意味を持たせたい、完全に見捨てたくはないという心理で「顔を立てたい」と思ってしまうのです。しかしこれは、傷口をさらに広げる結果となる可能性が大と言わざるを得ません。ミスと言っても大した損ではなかったのに、そのわずかな損を惜しんだあまり、一局の碁を失ってしまった---これはともよくあるケース
・・・棋士背後を勝負事としてだけではなく、作品として捉えている部分があります。人に見られて恥ずかしくない棋譜を残したいということです。
・・・棋譜はやっぱり、人を映す芸術作品なのです。自分らしい手や自分にしか打てない手を打つことが、今の僕の大きなモチベーションになっています。
・・・心技体とよく言いますが、まさにこれは三位一体---どんなに高い技術を身につけて心境が澄んでいようとも、身体が弱っていてはすべてが台無しになってしまうのです。
・・・棋士ならば誰もが、自分の打った碁を並べ直し、反省を行っているはずです。この復習なくして、成長はありません。・・中国や韓国の棋士が共同研究で生まれた結論を多用し、10代から早々に活躍する反面、30歳を超えると皆揃って衰退していくのは、この「情報に頼りきり」という一面があるからではないでしょうか。
・・・自分の対局手順を覚えていないということは「着手に必然性がなく、軽い気持ちで打っていた」ことになる
・・・囲碁で必要なのは、学業的な能力ではないのです。求められているのは、ある局面を見て「あ、以前に似た局面があったな」とか「こういう形の時は、ここが急所であることが多い」などと察知する能力---応用力とか適応力であり、刺激的な表現をすれば「嗅覚」と言ってもいいかもしれません。
・・・定石とはあくまでもマニュアルであり、それ以上でも以下でもありません。使い方次第で、薬にも毒にもなってしまうからです。・・「部分的な打ち方のマニュアル」に過ぎないのです。・・「定石通りの手を打つ」ことよりも「その定石が全局にマッチしているかどうか」という判断のほうが重要となってくるのです。・・簡単な定石でいいので、その一手ごとの意味を考えるようにしてみてください。
・・・負けた事実はもう消すことができないので、同じ失敗をしないよう、自分がさらに成長するしかありません。今より少しでも上に行きたい---この探求心があれば、いつまでも挫折しているわけにはいかないのです。
・・・今の中国・韓国の若い棋士の実戦量たるや、それは凄まじいものです。尋常ではない実戦の数をこなし、そのなかから自分で何かを得たり覚えたりして、強くなっていくスタイルなのです。
・・・90年代前半までは「日本のナンバーワン=世界のナンバーワン」で間違いありませんでした。しかし90年代後半にその座がやや怪しくなってきて、2000年代になるとついに韓国がナンバーワンに。そして10年代になる頃から中国も肉薄してきて、現在は「中国と韓国の2強」という情勢です。日本は残念ながら3番手と言わざるを得ません。・・日本には聖徳太子の時代に、仏教とともに伝来したことは確かなようです。その日本の囲碁が飛躍的な進歩を遂げたのが江戸時代でした。徳川幕府が囲碁(と将棋)を保護し、家元を作ったことで、技術的な研究が大いに進んだのです。・・日本碁界全体が油断したという一面はあるのでしょう。しかし、それ以上に「駐豪と韓国が国を挙げて強い棋士を育成し、日本に追いつき追い越した」と見るべきでしょう。・・僕が対戦していて特に感じるのは、読みであったり計算であったりと言った「答えの出る分野」での正確さが際立っているという点です。
・・・江戸時代に家元が作られてからたゆまぬ精進を続けてきた日本の囲碁は、そんなにヤワなものではないという思いもあります。日本の囲碁には独自の良さがあり、それを前面に押し出し精進していけば、再び中韓を抜き返すことも不可能ではないと考えているのです。では、その「日本の囲碁の良さ」とは何か?それはやっぱり「碁は自分一人の力で精進していくもの」という日本の伝統的な考え方ではないでしょうか。・・中国・韓国棋士の最大の強みは、安定した中盤から終盤の力です。この力は卓越した読みと計算の納涼によって支えられており、脳が素早く働く若さが原動力です。瞬発力と言ってもいいでしょう。だからこそスポーツ選手と同様、瞬発力に陰りが見え始めてくる30台になると、衰えてきてしまうのです。・・日本の棋士はこのように活躍の期間が長いのかと言えば、これは若いころに「自分で自分の碁を創り上げてきた」からでしょう。
・・・朴さんに限らず世界の超一流は、相手がひとたび守りに入ったら、徹底してそこに付け込んできて、最後には逆転を果たしてしまいます。
・・・僕が、若手のどこを見ているのかというと、公式戦でも練習碁でも、実際に対局していて「大事なところに石が来るかどうか」です。僕が「ここに打たれたら嫌だな」と思っていた所に打ってくるかどうかということですが、今は粗削りで結果が伴っていなくても「急所、急所!」に石がくる子は、やがて必ず頭角を現してきます。
・・・最後には結局「自分は囲碁というゲームを通して、井山雄太という人間を表現しているのだ」という考えに行き着くのです。・・羽生さんの真の偉大さは、七冠達成自体にあるのではなく、その後二〇年以上にわたって、今なおトップの座にあり続けているという事実にあると思っています。』

2017年5月 3日 (水)

101年目の高校野球 「いまどき世代」の力を引き出す監督たち (大利実著 インプレス)

若者を指導していくためのヒントを得ようと読んでみましたが、たくさん収穫できました。

『・・・日誌をつけ、本と新聞を読むことも義務付けていました。ただ、春先はいいですけど、1年間継続してとなるとなかなか難しい。
・・・掃除したり、物をそろえたりすることは、心のすさみ除去につながります。
・・・面白いもので、字が書けない選手というのは、本をあまり読まない選手です。読書が好きな選手は書けます。なので、ファイターズでは読書を取り入れているんです。寮生は毎朝一日10分、読書の時間があります。本を読む習慣をつけてほしいので、同じ場所に集まって読んでいます。・・新人には本を読む習慣をつけてほしいので、はじめの一か月は同じ場所に集まって読む。そこからは、部屋で読んでもいいとしています。
・・・(読書感想文のようなレポート)それはありません。ただ、半年に一回大きな面談があります。野球の面では遠藤良平GM補佐が、教育面では私が担当し、半期の振り返りを行っています。そのときにどんな本を読んできたのかを必ず聞くので、読んでいない選手は答えられないことになります。
・・・大谷はプレーヤーとして一流ですが、考え方も一流です。自分でやると決めたことを、必ず実行できる。どんなに忙しかったとしても、やることをしっかりとやる。タイムマネジメントのうまさを感じます。まわりが何をしていようとも、流されることはありません。
・・・ファイターズでは、「何のために」を重視しています。・・何のためにその目標を立てたのか。
・・・人としての本質的なものは変わっていないと思います。・・ただ、環境が変わっているのは事実。簡単に言えば、環境の変化によって、ハングリーな子供たちが減ってきている。・・恵まれていることや、環境を与えられていることに、いかに気づけるかです。そこに気づくことができないと、ワンランク上には行けないように感じます。---身に付けるためにはどんな取り組みをしていますか。 それは、常日頃から言い続けるしかないと思っています。
・・・個を生かして、その個をまとめるのが上に立つ人の役割だと思います。
・・・結局、自分を高めていくのは誰かと言えば、指導者ではなく、最後は自分自身です。つまりは、自分自身に対していかに厳しくできるか。そういう選手になってほしいですね。・・選手が自分で考えて、自分でやり遂げることの方が大変ですから、自分自身をしっかりと見つめる。この環境を作るのが、指導者の仕事だと思います。
・・・拓大の選手は仲がいい。それは悪いことではないんですけど、グランドでもっと厳しいことを言い合ってほしい。ダメなことはダメと言えなければ、勝てません。
・・・いまどき世代という意味では、大人の言うことを聞こうとしない生徒が増えているように感じます。話を聞いているようで聞いていない。ハイハイと言ってその場をやり過ごそうとしている。
・・・生活がだらしなくなったり、おろそかになったりすると、どこか自信をもってプレーができない自分がいました。正しい生活を送ることによって気持ちの部分で強くなれる。・・森監督に、「いまどき世代に一番伝えたいことは何ですか」と尋ねると、「自己責任」と「仲間意識」というキーワードが挙がった。
・・・森監督の考えでは、上に立つ人間には三つの責任があるという。①自分を高める力 ②部下を育てる力 ③全体を向上させる力
・・・「何かを言われたときにすぐに反応を返せない生徒が多い。これまで修羅場をくぐってきていないせいか、フリーズしてしまう。「間違ってもいいから反応を示せ!」と言っても、立ち止まってしまう。時間が過ぎることによって、自然に解決することを待っている生徒が多くいるのです。・・修羅場の時にこそ、求められるのは自己表現。時間による解決は根本の解決にはつながっていない。
・・・「ぼくはバッティングピッチャーもやりますよ。なぜ一緒にやるのかと言えば、あの子たちが大人になったときに『一番に動く大人になれよ』と伝えたいからです。口であれやこれやと支持するのではなく、大人が先に動いて背中で示していく。うまい下手ではなくて、姿勢で見せる。
・・・「高松商には古くから続く伝統があります。伝統を守ることも大事ですが、人として間違ていることはやめなければいけない。・・厳しい上限関係がなくても、人間はしっかりと成長していく。今の時代は、もっと別の方法で心を育てることを考えなければいけないと思います。
・・・「いまどきの子たちは自分が一番。自分中心に物事を考えがちです。これは親も一緒。だから、自分自身を客観的にみられるようなシチュエーションを作ったり、声掛けしたりするようにしています」
・・・「いまどき世代のいいところを挙げるとしたら、周りにあまり影響されずに、自分のパフォーマンスを発揮できるところです。大舞台になっても動じない。
・・・今は違う。情報があふれています。先生がすべて正しい。先生がなんでもわかっている。「俺の言うことを聞け!」という時代はとっくに過ぎ去ったと思っています。いま、必要な指導者は昔のようなカリスマ指導者ではなく、スーパーサラリーマン。人事もやるし、総務もやるし、なんでもできるサラリーマンです。・・選択することになれている。これは指導者としてはやりやすい。
・・・チームにひずみが生まれるのは、うまいやつがいい加減なことをした時です。エースと4番が練習をしない。そうなると、周りの選手は「お前らだけでやれよ」となるわけです。ひずみを生まないためには、レギュラーはほかの選手よりはるかに練習をしなければいけない。
・・・今、僕が気に入っている言葉が「じつに面白い!」ガリレオですね。何か自分に問題が降りかかったときに、「じつに面白い!」と言っている。そう思えば悩まないし、その壁が大きければ大きいほど、面白さが倍増します。・・学校もいろいろ大変で、育英劇場があるんですよ。それを面白いと思わないとやっていけません。
・・・「大事なことは、どんな状況でも最善を尽くすること。それができたら、人生は生きていける。特に、苦しい時にどれだけ最善を尽くせるか。いまどきの子は、うまくいかなかったときや失敗したときに表情や態度に出ることが多い。それは自分中心に物事を考えているから。
・・・「人生は一度きり。妥協して、適当に生きている人間と、目標に本気で向かって苦しんでしんどい経験をしてきた人間とでは、違う人生になる。生きている土俵が違う。人間は何のために生きているかと言えば、自分自身を高めるために生きていると思っています。
・・・「人にやさしくしなさい」とよく言っています。それができるようになるには、自分に厳しく生きなければいけない。人のためにと思っていれば、最終的には自分を律することにもつながると思うのです」
・・・「監督を胴上げしたいと思わせたらダメだなと思っています。監督は、選手同士のきずなを強くするためにいるのであって、真ん中にいてはいけないのです。選手の周りにいて、見守っているのが理想だと感じています」
・・・日本の指導論を考えると、手取り足取り教えたり、大声で指示を出していないと教えていないと思われやすい。でも、それは違う。監督は監督としての仕事があると思うのです。
・・・「そんな態度じゃダメだろう!」と怒るのではなく、「お前はふてくされていないと思っていても、周りからはそういうふうに見えるよ。そうやって怒られたことないか?そこを直していかないと、また高校と同じように見られるんじゃないの?」というような言い方をするようにしています。
・・・「叩かれて強くなる」という時代はもう終わりました。叩かれても強くはならない。では、何で木々示唆を植え付けるかと言えば、今は無視だと思うのです。人を育てる言葉で「非難・称賛・無視」がありますが、まったくその通りだと思います。無視されることが、何より辛く、冷たい。
・・・キャプテンがどれだけチームのために動いているか。それがわかれば、チームの力も見えてきます。
・・・10あるうちの10まで追い込めたのが昔のやり方。それによって、能力が高くない選手も力をつけることができ、いわゆる「中間層」が厚い時代でした。しかし、今は中間層が少ない。一部のトップアスリートは世界でも活躍していますが、鍛でることで育ってきた中間層の人数が減っているように感じます。
・・・自らやらない選手に対しては、何か精神的な痛みが必要になることもあるでしょう。過去には試合に使わなかったり、寮を出したりしたこともありました。
・・・勝負どころでは、我慢できる人間のほうが強い。そして、この我慢は若い時にしか身につかないと思うです。
・・・「使わない筋肉は滅びていく」の言葉のとおり、精神的な面も使わなければ退化していきます。つまりは、我慢しようとする機会がなければ我慢する力は弱くなっていく。
・・・食の好き嫌いがない選手は、人の好き嫌いもなく、いろいろな人間と付き合うことができる。でも好き嫌いがあると、人との付き合いも選ぶようになるのです。
・・・何かの本に「いい本とは何か?」を書いた文が載っていた。「読み始める前と読み終えた後で、目の前の景色や世界が変わっていること」と書いてあったと記憶している。』

2017年4月21日 (金)

最貧困女子 (鈴木大介 幻冬舎新書)

自分の知らない世界について、かなり知ることができました。悲しいものでしたが、事実を知っておかなければならないと思いました。

『・・・僕なりの考察では、人は低所得に加えて「三つの無縁」「三つの障害」から貧困に陥ると考えている。三つの無縁とは、「家族の無縁・地域の無縁・制度の無縁」だ。・・三つの障害については、「精神障害・発達障害・知的障害」と考える。・・これらの障害は「三つの無縁」の原因ともなっている。
・・・頑張ると言っていた翌日に頑張れなくなるのが貧困だ。
・・・「地元を捨てたら負け」「上京したら負け」という感覚もある。永崎さんが強調するのは、上京による「婚期逃し」のリスクだ。・・せっかく上京しても、余計貧乏になったみたいな子も多いし、特に女の場合、上京したら100%婚期逃しますよね。
・・・永崎さんのような層が拡大すればするほど、同じ所得層にあるにもかかわらず貧困状態にある小島さんのようなじょせは、無理解と批判のターゲットになってしまうのだ。「同じ月収10万円で、きちんとやれている人がいるのに、やれない人間には努力や工夫が足りないのではないか」・・年越し派遣村などを率いた湯浅誠さんが「貧困と貧乏は違う」と発言していたことがある。貧乏とは、単に低所得であること。低所得であっても、家族や地域との関係性が良好で、助け合いつつワイワイとやっていれば、決して不幸せではない。一方で貧困とは、低所得は当然のこととして、家族・地域・友人などあらゆる人間関係を失い、もう一歩も踏み出せないほど精神的に困窮している状態。貧乏で幸せな人間はいても、貧困で幸せな人はいない。貧乏と貧困は別物である。そんな言葉だったと思う。
・・・彼女らは女性の集団が苦手で、実際、女性集団から排除されがちなパーソナリティだたのだ。当然女友達も少なく、子供の頃から地域や学校生活の中で孤立してきたエピソードをもつ者が多かった。第4の共通点は、非常に強い恋愛依存体質だ。
・・・「出会い系のシングルマザーたち」の中で、僕は彼女らの陥っている状態を「隠れ破綻」と表現した。彼女らはすでに経済的にも精神的にも破綻してしまっているのだが、わずかばかりの金を出会い系サイトを介した売春で稼ぐことで、必死のその破たんを隠している状態にあった。・・結果的に彼女たちは自らの手で自らの窮状や苦しみを覆い隠し、不可視にしてしまっていたのだ。
・・・「夕食を作る美味しそうな匂いのする住宅街を一人ぼっちで歩いて、寂しくてつらかった」こんな昭和の漫画や映画みたいなエピソードは、ぼくの取材してきた虐待歴のある少年少女らに共通するいわゆる「あるある」体験だ。
・・・「大人」は頼れない。「大人」は何もしてくれない。この感情が実は、その後の人生をも左右するものになってしまう。
・・・彼女らが共有するのは、貧しさよりも「寂しさ」ということだった。ひとり親世帯がこれほどまでに増え、共稼ぎ世帯が当たり前となった昨今では、「家に帰ったも誰もいないし、食事の用意ができていない」という状況は、もはや一般的なものとなってきた。子供たちにとって、寂しさはもう当たり前のものだ。
・・・少女本人はどんな学童保育だったらよかったのかを聞くと、回答は明快だった。「小学校終わるじゃん?そうしたら放課後に友達と遊んで、それで夕方が夜になって腹が減ったら学童に行って食事して、ゲームしたりテレビ見たりして、その後にでも親が迎えに来てくれればよかったと思う。あと親が切れてる(虐待する)とき、夜遅くとかでも行ったら入れてくれて、泊めてくれるんだったら最高だった。実際(小学)3年の時とか、親に家から追い出されて、学童行ったのね。閉まってるでしょ?開いていたら良かったって、いまでも思う。」
・・・彼女たちもまた貧困状態から脱出できているとは言えない。それどころか、一度は抜けたはずの売春ワークに再び舞い戻ってきてしまう事例があまりにも多いのだ。その理由が、彼女らの異様に高い「恋愛自爆率」だ。彼女らは恋愛に救いを求め、恋愛でつまずき、恋愛でひとたび抜け出した貧困の中に舞い戻る。
・・・いわゆる「試し行動」。少女からすれば、初めて我がままを言える相手に出会えたので、我がままを爆発させたい!という感情もあるが、それ以上に裏切られ続けてきた人生の中で「この人は本当に自分を救える人なのか、偽善じゃないのか、どこまで私のわがままに耐えられるのか」という気持ちもある。・・語りつくされた感のある「試し行動」だが、彼女たちのそれは猛烈に安っぽく、衝動的で、面倒くさい。・・理解者を加害者に変えるほど、彼女らの抱えた痛みは大きく、長引く。
・・・これも書くことは躊躇われるが、僕が取材してきた子供時代に虐待や育児放棄などを経験してきたセックスワーカーのもつ傾向のひとつに「二股恋愛」「浮気恋愛」があった。もちろんすべてがそうではないし、愛した男一筋一直線な取材対象者もいたが、一般と比較してその傾向は顕著だったように思う。』

2017年4月15日 (土)

米中戦争 そのとき日本は (渡部悦和著 講談社現代新書)

たいへん参考になるところの多い書でした。

『・・・「トゥキュディデスの罠」・・これは古代ギリシャの歴史家トゥキュディデスが唱えた、「新たな覇権国の台頭と、対する既存の覇権国の懸念や対抗心が戦争を不可避にする」という仮説である。

・・・「距離の過酷さ(The Tyranny of Distance)」とは、「作戦地域までの距離」が作戦にいかに大きな影響を与えるかを表現した言葉で、もともとは「オーストラリアの歴史や独自性は、欧州からの地理的遠さと密接な関係がある」という、ジェフリー・ブレイニーの著書”The Tyranny of Distance)で使われた言葉だ。
・・・多くの専門家は「脅威=能力×意思」という公式で表現する。この場合の意思とは「他国を侵略する意思」だ。だが、私はこの公式は不正確だと思う。より正確には、「脅威=能力×意思+距離」、つまり、対象国の間の距離を変数として挿入すべきだと考えるからだ。
・・・現在はエア・シー・バトルの名称がJAM-GC(国際公共財への接近及び機動のための統合構想)に変更され、引き続き統合参謀本部第7部で検討されている。
・・・アジア太平洋正面におけるミサイル分野では中国軍が優位にある。中国軍はミサイル及び航空機によるアウト・レンジ戦法(敵の射程外から火力を発揮しこれを撃破する戦法)を採用し、米軍ほかの兵器の射程外から火力を発揮しようとしているのだ。中国軍は現段階においては、戦力に勝る米軍と本格的な戦争をしようとは考えていない。しかし、中国は現時点において米国以外の国(日本など)に対する短期限定作戦を想定しているし、近い将来において米軍と戦力が拮抗すれば、米軍に対する短期限定作戦も想定する---これが私の見解である。
・・・軍隊の作戦領域(ドメイン)が拡大している。従来は陸、海、空の三つのドメインが基本であったが、技術の進歩によって「宇宙」「サイバー空間」という新しい二つのドメインが加わった。米軍は、これら5つのドメインンのうち、「複数にまたがる=クロス・ドメイン作戦」(CDO)の相乗効果を重視している。・・米軍は各ドメインの作戦を統合することでの相乗効果を強調している。陸上戦力は、もはや陸での作戦のみを考えていては失格で、海・空・宇宙・サイバー空間での作戦をいかに活用し、相乗効果を発揮するかを考えなければならない。海・空の戦力も同様である。・・クロス・ドメイン作戦に次いで重要な作戦が「ハイブリッド戦」である。・・本書では正規軍と非正規軍(民兵、反政府グループなど)の混用、物理的破壊手段(軍事力)と非物理的破壊手段(謀略、情報操作などを活用した情報戦)の混用など、ハイブリッドな手段を活用した作戦をハイブリッド戦と定義する。
・・・いまやウクライナは、ロシアにとって最先端の技術や新たな戦い方を試すための実験場と化している。そこではサイバー戦、電子戦、情報戦、正規戦や非正規戦がミックスされたハイブリッド戦が続けられている。
・・・「超限戦」は、中国人民解放軍の喬良・王湘穂という二人の大佐が1999年に発表した概念・・文字通り、「限界を超えた戦争」であり、あらゆる制約や境界(作戦空間、軍事と非軍事、正規と非正規、国際法、倫理など)を超越し、あらゆる手段を駆使する、まさに「制約のない戦争」である。・・倫理や法の支配さえも無視するきわめて厄介な戦争観である。
・・・キル・チェインとは、ほぼリアルタイムで目標を発見、捕捉、追跡、ターゲティング(目標指示)、交戦(射撃)、射撃の効果を判定する---という一連のプロセスを指す。
・・・中国軍は、改めて米軍との実力の差を認識し、その差を埋めるべく翌年から大幅な国防費の増大に乗り出したのである。そのため、1996年から2015年の間に、中国の国防費は620%の大幅な上昇を遂げた。軍事力の整備に際し重視したが、「情報化」と「非接触戦争」だ。
・・・中国の潜水艦は、米軍が保有する音響監視システム(SOSUS)などの、広域にわたる潜水艦探知網によってその位置を常に監視されているが、逆に中国海軍はSOSUSのような水中センサーをごく一部しか整備していない。
・・・米国防省の年次報告書は、「中国の『後発制人』は建前に過ぎず、中国は朝鮮戦争において先制攻撃を行ったし、インド・ソ連・ベトナムとの国境紛争においても先制攻撃を行ってきた」と指摘している。
・・・「中国の軍事戦略」は、重大な4つの領域として海、宇宙、サイバー空間、核戦力を列挙している。
・・・戦略サイバー戦は、政府及び非政府システムなど、軍事的なシステムではない戦略的なシステムを攻撃することで、敵政府の戦闘を継続する意思や能力に影響を与えようとするものである。・・有事においてサイバー戦と電子戦は密接不可分な関係にあり、戦時においてはサイバー・電子戦として一体的に実施される。中国軍の電子戦能力は米軍に比較して劣っているが、サイバー・電子戦の重要性を認識している。
・・・SC-19以外では、高高度の衛星、例えば米国の全地球測位システム(GPS)を破壊する能力をもつDN-2を保有し、米国のみならず我が国にとっても脅威となっている。
・・・高周波兵器を開発中であり、5~10年後には実戦配備が可能となると予測する。高周波兵器とは文字通り高周波によって人工衛星の電子部品をオーバーヒート、またはショートさせることで損壊・破壊する兵器である。
・・・WU-14は、弾道ミサイルの弾頭(通常弾頭のみならず核弾頭も搭載可能)として発射されたのち、準宇宙をマッハ10で滑空し、目標に近づくと相手のミサイル防衛手段が対処できない。特異な軌道をして目標に到達し、これを破壊する能力を持つ。・・WU-14が使える兵器として配備されれば、日本と米国が採用するSM-3ミサイルや、PAC2/3ミサイルを駆使したBMD(弾道ミサイル防衛)では対処できず、その能力をさらに向上させる必要がある。
・・・実際の前方展開戦略においては、米国は同盟国や友好国とのネットワークを築くことで戦力投射能力の不利を補っている。とくに同盟国である日本、オーストラリア、韓国、フィリピン、タイの存在は大きい。
・・・米国の重要な目標は、中国の迅速な勝利を拒否することである。
・・・その論文な中で彼は、第一列島線を構成する国々(日本、台湾、フィリピン、インドネシア)とベトナム、シンガポールなどの国々の自国防衛を連接することで成立する「列島防衛」を提言しており・・・
・・・トーマス氏によれば、日米は戦争勃発の前後、役割を分担することになる。日本が担うのはPOSOW(準軍事組織による、戦争には至らない作戦)や「忍び寄る侵略」なる、日本的に言えば「グレーゾーン事態」に対処しつつ、南西諸島における対中国A2/ADを実施することである。・・日米が共同で行わなければならないこともある。「基地など重要施設の強靭性強化」と「ネットワーク戦」の実施だ。
・・・中国軍に対する作戦目標をどこに設定するかは、何をもって戦争終結とするかを決めることにもつながるため、極めて重要となる。この点に関してトーマス氏は、「撃破すべき第一の目標は中国海軍(つまり中国海軍の主要艦艇)」で、「第二が空軍(の航空機)」と断言していた。中国の海軍力に打撃を与えれば、中国本土への打撃を行う必要性が低下し、戦争のエスカレーションの抑制につながるからだという。
・・・CSBAの予測では、高出力レーザー兵器は5年以内、高出力マイクロ波兵器は5~10年で実戦配備可能であるという。電磁レールガンも10年以内で実戦配備可能になると思われる。
・・・ASBの成功を、技術面・兵器面でサポートする戦略に「相殺戦略(Offset Strategy)がある。これは「自陣営が優位な技術分野をさらに質的に発展させることで、ライバル国(中国やロシアなど)の量的優位性を相殺(オフセット)しようとする戦略」であり、要は相手の量に対して質で勝負しようというものである。・・「国防イノベーション構想(DII)」と密接な関係がある。・・米国が長期にわたって維持すべき五つの技術的優越分野として、「無人機作戦」「長距離航空作戦」「ステルス航空作戦」「水中作戦」「複合システム・エンジニアリングと統合」が想定されている。
・・・レールガン全体の開発は、今後10年以内には完成し、実戦配備されたことになると予想されている。・・第一段階の目標である32メガ・ジュールの砲口エネルギーを達成したという。このエネルギーだと弾体の射程は160㎞となる。第2段階では、1分間に10発の発射速度を達成し、発射に伴い発生する熱を管理する技術の開発を目指すという。・・レールガンと、指向性エネルギー兵器である固体レーダー(SSL:Solid State Laser)兵器である旨、説明してくれた。実戦配備の時期はSSLとHPMが5年以内、レールガンが5年から10年とCSBAでは見積もっている。・・一発当たりのコストの比較では、レールガンが3万5000ドル(ミサイルのコストの20~60分の1)、化学レーザーが1000ドル、SSLとHPMにいたってはわずか10ドルである。
・・・中国の特殊作戦部隊が空(空挺作戦、ヘリボーン作戦)や海から侵入し、破壊活動や重要目標の奪取に従事しつつ、ミサイルや航空機の火力発揮を容易にするためのセンサーの役割を果たすことになろう。この人間センサーの活用は、米軍もイラク戦争などで多用した基本的戦術である。
・・・我が国における宇宙とサイバードメインでの作戦能力の向上が急務である。
・・・中国は常套作戦としてのPOSOWを遂行し、米国の決定的な介入を避けながら、目的を達成しようと考える。準軍事組織による作戦の特徴は、①軍事組織である中国軍の直接攻撃はないが、中国軍は準軍事組織の背後に存在し、いつでも加勢できる状態にある。②非軍事組織または準軍事組織が作戦を実行する。
・・・中国は、あらかじめ潜入させている工作員などを活用し、紛争開始前後に沖縄をはじめとして日本のいたるところで破壊活動を実施、日本は混とんとした状況にある。
・・・機雷は大量生鮮が比較的簡単で、高価な艦艇よりはるかに安価である。対潜戦と同じく、中国海軍は対機雷戦にも弱く、この弱点を衝くべきである。
・・・戦争を抑止するためには日本が強い存在であることが大前提となる。戦争の抑止は力の均衡が必須の条件である。
・・・習近平主席の軍改革の目的は「戦って勝つ」軍隊の創設だった。戦う相手は日本であり、勝つ相手も日本である。戦って勝つためには手段を選ばない超限戦を実行する。超限戦では国際法も民主主義国家も論理も無視する。こういう手ごわい相手が中国であることをまず認識すべきである。
・・・この専守防衛というキャッチフレーズのために、国際的なスタンダードの安全保障論議がいかに阻害されてたことか。集団的自衛権の議論、他国に脅威を与えない自衛力という議論、長距離攻撃能力(策源地攻撃能力)に関する議論、宇宙の軍事利用に関する議論など、枚挙にいとまがない。例えば、「他国に脅威を与えない自衛力」にこだわれば抑止戦略は成立しない。
・・・国防省の事業からスピンオフした技術が米国の強さを支えている。例えば、インターネット、航空宇宙技術、人工知能(AI)、自動運転車、無人機システムなど枚挙にいとまがない。国防産業が米国経済の主柱であり成長産業である。・・最近の技術は軍民共用のデュアル技術が多くなり、単純に軍事アレルギーを引きずっていては世界の技術の発展から取り残されてしまう。
・・・グローバルに展開する武器を連接し、リアルタイム情報に基づいて迅速かつ効率的に火力打撃を実施するためには、強靭なC4ISRが不可欠である。
・・・・「米中戦争は、両国の経済を傷つけるが、中国経済が被る損害は破滅的で長く続き、その損害は、1年間続く戦争の場合、GDPの25%から35%の減少になる。一方、米国のGDPは5%から10%の減少になる。長期かつ厳しい戦争は、中国経済を弱体化し、苦労して手にいれた経済発展を停止させ、広範囲な苦難と混乱を引き起こす」』

2017年4月 5日 (水)

ブッダが教えた本当のやさしさ (アルボムッレ・スマナサーラ長老著 日本テーラワーダ仏教協会)

これまでにもこの著者の本は読んできましたが、少し違う視点からの記述もありました。

『・・・やさしいか、やさしくないかは、「相手が私の好む態度をとったかどうか」で、決まるのです。
・・・結局、世間のやさしさは、エゴなのです。自分に都合がよければやさしくて、都合が悪ければやさしくない、そういうことです。それだけのことなのに、私たちは、「やさしいから、良い」「やさしくないから、悪い」と信じて疑ったことがありません。
・・・生命は外から命を注いでもらわないと、死んでしまうのです。・・人間には、いろんな「刺激」が必要なのです。眼から耳から鼻から舌から身体から入ってくる刺激が必要なのです。その刺激は、他の生命からもらわないとうまくいきません。・・やさしさは、私たちの命を支えるために必要な刺激なのです。「自分に心地よい刺激を与えてくれる人」は、とてもやさしい。・・「やさしさ」という刺激は、私たちの「命」なのです。
・・・「生命は成り立っている」のです。無数の生命の協力によって、今ここにいる自分という生命が成り立っているのです。他の生命もまた、他の生命によって成り立っているのです。自分は、独立して存在しているのではありません。生命のネットワークのなかの一項目です。一つの中継点です。生命のネットワークの一員である一個の生命は、他の生命と正しい関係を維持しなければなりません。そこで成り立つ相互的な関係が「正しいやさしさ」であり、「生命の法則」でもあるのです。
・・・「やさしくいる」ということは、そんなに難しいことではないのです。我を張らず、余計なことを考えないで、自然の流れに沿って生きていれば、その人はやさしいのです。・・それぞれが自分の仕事をすればよい、それだけの話なのです。そこに「欲しい」という欲が割り込むと、ネットワークがダメージを受けます。・・本当のやさしさは、エゴの無い「生命」という次元なので、必要以上を求めません。「欲しい」というところまではいかないのです。
・・・因果法則をわきまえた立場で言うべきは、「威張るものではないよ」「エゴ、自我を捨てなさい」ということです。これは生命のネットワークの成り立ちを正しく理解した言葉です。
・・・固定的に「これはこの人がすべき仕事だ」ということは、ありません。どうやって能率、効率をよくするのかを考えて、そのときに上手にできる人がさっと動くだけでよいのです。それはいつでも、ものすごく自然に出てきます。・・仏教が言いたいのは、「生命の法則を理解して、自然に生きなさい。よけいなことを考えるなよ」ということです。これだけで人間が救われる道を示しているのです。・・「仕事はあるけど、疲れたから休んじゃえ」というならエゴです。「疲れて上手に仕事ができなくて、このまま続けても迷惑がかかるから休もう」というなら、自分中心でないから自然です。
・・・「やさしさ」というのは、ごく自然に生きることです。自己中心にものを考えないことです。「自我がない」ということが、「やさしい」ということなのです。・・私たちも時と場合に応じて、母親になったり、父親になったり、子供になったり、社員になったり、お詫び係になったりと、いろいろな仮の役割を果たさなければなりません。そのときは正しくその役割を果たせばよいのです。・・エゴを捨てて、ネットワークで自然に出てくる義務を果たすなら、ネットワークはあなたに必要なものをぜんぶ用意してくれます。満たされた生きていられます。
・・・生命のネットワークでは、生命を殺してはいけない。いじめてはいけない、侮辱してはいけないのです。自分を含めたあらゆる生命がネットワークの部品なのだから、当然のことです。
・・・こちらのエゴがないと、エゴでなぐられてもなんともないのです。・・ただ、エゴのない人に対しているときはエゴが発病しないので、安らぎを感じて穏やかに気持ちよく接するのです。・・エゴのない人に対しては、世界の態度が好意的だということです。・・テロリストには、「君が私を侮辱しても、私は君を侮辱しませんよ」というのが正しいやり方なのです。
・・・すべての生命に友情を広げることが、正しいやさしさの第一段階なのです。・・「一切生命が友情を期待するのは当たり前だ」と思うようになったら、メッターの心は間性です。やさしさの第一段階は完成です。・・友情の次に見えてくるのが、「抜苦(悲)カルナー」なのです。
・・・「困ったな」という人がいたら、助けてあげるのは当たり前です。それはネットワークの仕事です。カルナーが身につくと、生命のことをより深く理解できるようになります。
・・・ムディター(喜)は、幸福な人々を見て「ああ、とてもよかった」と思う気持ちです。他人の喜びを自分の喜びのように持ってくるのです。すごく心が広くなっていて、無数にいる他人の成功を我がことのように喜べるのです。
・・・一切の生命を平等な気持ちで見て、「不幸な生命もいて、幸福な生命もいて、不幸でも幸福でもない生命もいて、それぞれが自分の生き方で頑張っているのだ」と、平等な心をつくるのです。その心が「捨 ウペッカー」です。・・「愛」というのは使ってはいけない単語です。そうではなくて慈(メッター)・悲(カルナー)・喜(ムディター)・捨(ウペッカー)という四つの感情が正しいのです。この感情が、生命に対する基本的な法則の実践になります。これが本来のやさしさ、自然に素直に生きるために育てるべきやさしさなのです。』

«人の心を一瞬でつかむ方法 (ジョン・ネフィンジャー、マシュー・コフート著 あさ出版)